34 似た者同士
次回投稿 2019/08/07 20時
突っ込んできた風の馬の鼻先を<杖術>の<杖撃>で横から叩き、進行方向をずらす。すかさず横に避けつつ覚えた<光魔道>の<光剣>で追撃。切りつけた<光剣>は消えてなくなる前に<操光>で再利用し、私の真横で待機させておく。また近づいてきた時に、もう一度<光剣>を唱えるよりは燃費がいいからね。
切りつけられながら通り過ぎて行った風の馬はそのまま距離を取って私の方に向き直すと、ヒヒンとひとつ嘶いて遠くから風の球を連射してくる。狙いは定まっていないけど、まるでサブマシンガン並みの乱射で避ける隙が見つけられない。
敏捷の高い猫獣人のクロエなら余裕をもってすべて避けられるだろうし、防御に優れた熊獣人のグレンは大盾を構えて味方もろとも守り切るだろう。器用に何でもこなす森人のショーイチなら...まぁ、なんとかするだろう。そもそも風の馬の眼を弓で射抜いて攻撃させてすらいないかもしれない。
「<鏡霧>」
残念ながら私は魔法系ステータスに関しては突出して高いけど、他はそこまで高くない。でも私には、対魔法に特化したといってもいい<鏡魔術>がある。唱えた<鏡霧>は、鏡の破片を周囲に散らすことで、一定時間魔法攻撃を乱反射させて霧散させる。
敵の攻撃が一発だけなら<反射>で跳ね返して反撃できるんだけど、こうも大量に撃ち込んでこられたらそれも難しいからね。ここは防御に徹しよう。
風の馬は私の隣で浮遊する<光剣>に警戒して近づいてこなくなった。そりゃあピッカピカに光る剣が近くに浮いてたら私でも近づかないよ。怖いし。
だから私も、得意な<水魔術>で遠距離からとどめを刺す。
「<水槍>」
風の馬の攻撃が終わった瞬間に<鏡霧>を消し、水魔術Lv25で覚えた<水槍>を攻撃後の隙を狙って撃ち込む。水で出来た太い槍は、突き刺さるというより、勢いよくぶつかって押し流すように着弾する。気持ちひしゃげてるように見えた風の馬はHPを全損し、ドロップアイテムを残して消えていった。
結局使わなかった取り置き<光剣>は消しておく。
風の馬ドロップアイテムの「鬣」や「皮」は、服の生地や革細工を作る人にそこそこの値段で売れる。レンヴァイツのギルドでも取り扱っているし、ここでレベル上げし始めてからは何度も金策にお世話になっている。と言っても、お金も貯まりに貯まってるんだけど。
私の<服飾>じゃ革製品は上手く作れないし、たてがみも素材のままじゃ使えないからね。
「精霊さん、この辺に魔物はいる?」
『いないよ!』
ソロでのレベル上げ時の頼もしい話し相手、その辺を飛んでる精霊さんに<精霊語>で話しかけると、すぐさま答えが返ってくる。一人で寂しいレベル上げも、彼らがいるなら百人力だ。
...ずっとソロ勢のローさんとか寂しくないのかな?
彼ら精霊さんは、語り掛けると色んなことを教えてくれる。この前なんて「あっちの街の地下が危ない」なんて、レンヴァイツの方を指さして教えてくれたし。明らかに私ひとりじゃ持て余しそうだったから、適当に掲示板に流しておいたけどね。
そんな中思いついたのが、「敵の位置聞いたら教えてくれないかな?」というものだ。名付けて精霊索敵。
敵の位置を知る<察知>スキルも一応あるけど、精霊さんは私の<察知>よりも範囲が広くて正確だったからね。ちょっとズルいけど、出来ちゃうなら仕方ない。
倒せそうな魔物は見つけ次第水と光の魔法で倒していく。<鏡魔術>はもうレベルが最大だから、出来るだけ使わない方針だ。
その後も精霊さんと駄弁りながら敵を探して歩き回っていると、精霊さんが『人がいる』と伝えてきた。珍しい...っていうか、このエリアで初めてプレイヤーを見るかもしれない。
精霊さんに方向を聞きながら、こっそり近づいていく。別にやましい事なんて何もないんだけどね。
遠目に見たそれは、美しい剣術だった。美しい剣術だったんだけど...
「...初期装備?」
このエリアにいるにしては、あまりにもおかしな出で立ちだった。
「服ぐらい変えたらいいのに」
◇◆◇
性懲りもなく突っ込んでくる土魔法を使うサイを、ついさっきフリマで買ってきた長剣でいなす。すれ違いざまに右後ろ脚の膝裏を切りつけ、突き刺しておく。どれだけ硬い表皮を持っていても、関節部分は柔らかいのは常識だからな。
「...む?」
遠くに人の気配...? こんなところに珍しい。
「レンヴァイツ南の平原」は、控えめに言って人気がない。
そりゃ魔法ばしばし撃ってくる機動力高い魔物が沢山いるわ、平原なのに所により足元が荒れてて戦いづらかったりと、今までのエリアとはちょっと趣向が違うしな。
こちらを伺っているようだが...何もしないのなら構わないかな。見られて減るモンでもない。
土魔法を撃たれないように中距離を保ちつつ、動きの悪くなった右脚側の死角を意識しつつ潜り込む。
手元にインベントリから新しい長剣を引っ張り出し、切りつけ突き刺した右の後ろ脚を更に重点的に攻撃する。
これまでも結構な回数こいつを狩ってきたから分かる。こいつは後ろが見えない。
「ほら、もう一本」
更にもう一本、次は左の後ろ脚の膝裏に突き刺す。怒りの混じった悲鳴を上げる。
鎧のような重厚で堅い表皮に、砲弾のような土魔法。まるで重戦車のような魔物だが、見た目通り動きが鈍いし、何よりその堅い表皮のせいで首がそんなに動かない。脚が使えなくなれば、後ろを振り向くことが一切できないサンドバックが出来上がる。
どんなモンスターでも必ず長所と短所がある。見極めれば攻略は成ったも同然だ。ダンジョン最奥のボスですら、同じようなものだったしな。
更にもう一本、今度はこれまでずっと愛用してきた両刃の西洋剣を取り出す。
切れ味に特化したせいで、耐久力が恐ろしく低い...少しでも甘く斬ってしまったら折れて使い物にならなくなる、俺好みの文字通り"諸刃の剣"だ。
まぁ、動けなくなった相手に対して使うなら万が一もないんだが。
両足に剣が突き刺さり、身動きの取れなくなったサイを一刀のもとに切り伏せる。
「ふぅ...さて、あちらさんは...」
どうやら観客さんも出てきたみたいだ。そんなに面白い戦いはしてなかったが、律義に最後まで見ていたようだ。
っていうか...
「なんだありゃ...ワンピース?」
こちらに近づいてくる人影は、なにやらひらひらとした服を着ているように見える。
白いローブかと思ったが、流石にこの距離でも見間違えない。アレは女物のワンピースだ。
このエリアにいるにしては、あまりにもおかしな出で立ちだった。
「どこだと思ってんだ...着替えて来いよ...」
おしゃれに気を使う女の子と、服に頓着しない男の子。
気遣い具合に大差あれど、抱く印象は互いに同じ。