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29 落胆幼女と老婆お茶会












「あなた! 弟子の修行、どうやってクリアしたのよ!」


「えっ? 何の話...」


「何の話って...【見習い魔女】の課題に決まってるでしょ?」


「いやいや、今のところ何も説明してないからね。分からないのも当然だよエシリア...」



精霊さんと話しながらお裁縫をしていたら、夕方ごろにいきなり現れた赤いゴスロリ幼女の[炎熱魔術師]エシリアさんに引っ張られて南の森まで来た。なにやら【見習い魔女】に関係あるみたいだけど...課題?



「エシリアさんって【見習い魔女】なんですか?」


「魔女の弟子よ!」


「エシリアちゃんは、まだ魔女の見習いの見習いと言ったところだね」


「なるほど?」


「【見習い魔女】になるための試験で躓いているのよ。まさかあんなに長い試験だとはね...

でも、あなたすでに【魔女】なのよね。...ってことは、なにか抜け道があったってことでしょ?」


「抜け道?」



なんだろうそれ? 抜け道どころか「【見習い魔女】になるための試験」すら初耳だ...見習いの見習いっていうのもよく分からないし。

【見習い魔女】なんて、クリスと初めて会った日にいつのまにか貰ってたしなぁ...



「ちなみに、どんな課題を貰ったんですか?」


「えっ? 【見習い魔女】の試験ってみんな共通じゃないの?」


「確認です。一応ね」


「...一次スキルの<魔女魔術>をLv30にすることよ」


「そうなんですか」



<魔女魔術>...? そういえば少し前に私が<魔力操作>を貰った時、魔女の持ついくつかのスキルの中にそんなのがあった気がする。

ていうか、そんな課題聞いたことないんだけど...



「私の課題とは違うみたいですね...力にはなれそうにないです」


「そう、だったのね...てっきり素早くスキルを上げる裏技があるのかと思ってたわ...」


「他に力になれることがあればいいんですが...」



目に見えて落胆するエシリアさん。悪いことしちゃったかな...

見習い魔女になるための試験が共通で、その内容が<魔女魔術>をLv30まで上げる事? 一次スキルをLv30って、結構ハードル高いよね...そりゃ裏道があるって考えてもおかしくないね。


にしても、私そんなことした記憶ないけど。結局<魔女魔術>もくれなかったし。

そういえば「<魔力操作>のスキルスクロール」もなんだかおかしかった。もしかしてクリス、まだ何か隠し事してる...?



「...ところで、どこに向かってるんですか?」


「あら、言ってなかったかしら?」


「一言も言ってないね、エシリアちゃん」


「試験の抜け道を聞くのも目的の一つだったのだけどね、実は私の師匠にひとつ命令を受けているのよ」


「命令?」


「『新しい魔女を連れてきてくれ』ってね」



どうやら私は、彼女らの師匠の下に連れていかれるようです。




















「着いたわ!」



南の森の奥地からやや西に逸れた場所。木々の生い茂ったその場所には、まるで周りの風景に溶け込んだかのような小屋がひとつ建っていた。エシリアさん、これ良く見つけたね...

エシリアさんが我が物顔で小屋に近づくと、こんこんノックする。



「師匠ー! エシリアが来たわよー!!」



小屋の奥からごそごそと物音が聞こえる。

しばらく待っていると、ギギっとドアが開いた。中から出てきたのは、今にも倒れそうなお婆ちゃん。



「あぁすまんすまん、待たせたねぇ。して、彼女が例の娘かな?」


「そうよ師匠! 魔女を連れてきたわ!」


「へぇ...初めまして、私は[惹火(じゃっか)の古き魔女]フィア。名前の通り、火を扱う魔女だよ」


「[鏡の魔女]マリカードです、初めまして」


「<鏡>ねぇ...悠久の婆さんから話は聞いているけど...ひっひひ、あの(ババア)も面白い育て方をしているねぇ...

やはり、実際に見てみない事には分からないものだねぇ」



出てきたのは老婆、[惹火の古き魔女]フィア。曲がりきった腰で杖を使い、なんとか歩いているお婆ちゃん。髪は真っ白で、クリスよりも年を取っているように見える。婆呼ばわりされてるけど。



「お願いを聞いてくれてありがとうね、エシリア。今からマリカードちゃんと話をするから、また後で来ておくれ。お礼をするからね」


「分かったわ師匠!」


「家におはいり、マリカードちゃん。丁度いい茶葉を手に入れてねぇ」



エシリアに引っ張られた次は、古き魔女の老婆に引っ張られて小屋の中に連れ込まれる。

中に入ると薬草とお茶が混ざったようないい匂いがした。



「そっちに座るといいよ」


「失礼します」


「...クリスティは元気にしているかい?」


「まだ出会ってから日が浅いですけど、かなり元気ですね。下手したら冒険者より元気にしてます」



この前は杖の話を聞いてすぐに隣町まで箒で飛んで行ったくらいだし、それだけアクティブなら元気と言って差し障りないだろう。

フィアがお茶を入れながら笑う。



「ひひひ、質問するだけ無駄だったよ。あの婆に元気がないところを、ここ数百年は見ていないからねぇ」


「...そうですか」


「あの婆、自分が罰食らってても元気してるくらいだ。逆にどうしたら元気じゃなくなるのか、こっちの方が興味あるねぇ」



魔女、とんでもなく長生きらしい。ここ数百年ずっと元気って、クリスすごいタフなんだなぁ...

他の魔女もそれくらい長生きなのかな? 私と同年代の魔女とかもいたらいいんだけど。



「それにしても、あの婆もまた面白いもんを見つけたもんだねぇ...

それに、また奔放な育て方をしてやがる」


「奔放な育て方?」


「まさか、<魔女魔術>を教えずに魔女に仕立て上げちまうとは...確かに、<魔女魔術>なんざ古いしきたりだとは思っちゃいたけども。

それを独断で認めさせるなんて、権力とは怖いものだね...」


「そんなに大変なことなんですか?」


「【魔女】へ至る方法を知っているかい?」



クリスと出会ったその日に【魔女見習い】を手に入れて、その数日後には転職と共に【魔女】になった。

けれどエシリアは「魔女見習いになるための試験」で躓いているらしい。情報に齟齬があるね...

クリスの隠し事に近づけるかもしれないし、ここは是非聞いておきたい。



「知らないです、一つも」


「長くなりそうだ。お茶でも飲みながら語るとしようかね...

まずはね、【魔女】になるには、他の魔女と出会って弟子にしてもらう事から始まるのさ。そして...」



薬草の風味が混ざった美味しいお茶を飲みながら、フィアに【魔女】に至る方法を掻い摘んで教えてもらう。曰く


①魔女と出会い、称号【魔女の弟子】を取得。

②魔女から<魔女魔術>を教えてもらい、SPを10使って有効化。レベルを最大にすることで初めて【魔女見習い】の称号を獲得。

③職業 [~~の魔女見習い] として活躍し、【魔女】に至るスキルを集めて【古き魔女】以上の称号を持つ[魔女]に認められることで初めて見習い卒業。【魔女見習い】から【魔女】に昇格。

④その後[魔女] → [大魔女] → [古き魔女]と職業の位が上がっていく。各昇格の際には上位の魔女から試験を受ける必要がある。


らしい。一つも知らなかったし、一つも当てはまってない...



「<魔女魔術>を教えないで【魔女】へ至らせる...そんな独断が許されるのは...」


「魔女のトップ、あの婆くらいなものだねぇ。ひひひ」



なんで独断で私を【魔女】に仕立て上げたのだろう...?



「あの婆の考えを見抜けるもんなら、今頃私が[悠久の魔女]になってるだろうねぇ...

それにしても面白い育て方をしているよ。自由にさせつつも、必要なスキルはしっかり持たせている...

無駄のない育て方に、余ったリソースを別に充てているんだねぇ...」


「?」


「私がエシリアに連れてこさせた理由なんだけどね、実際にこの目で見てみたかったのさ。【鏡】の名を冠する新しい魔女をねぇ」


「はい...?」


「あの婆の真意を見抜ければ、とは思っていたんだけどね。思っていたよりも面白いことになりそうだよ...魔女、精霊、そして悪魔...ひひひ、これは死ぬまで退屈しなさそうだよ」


「えっと」



よく分からないけど、人生の楽しみが増えたらしい。よく分からないけれど、良かった。

魔女、精霊、そして悪魔...なんでフィアは、私が悪魔を倒したことを知っているんだろう? クリスにしか話していないはずなのに...

クリスがフィアに話したのか、それとも...称号を見られたかな。



「そうだねぇ、折角面白いものを見せてくれたんだ。お礼をしなきゃねぇ」


「えっ?」


「[魔女]のスキル、その中でも特にトリッキーで使いづらい奴だけどねぇ。ひひひ」


「いいんですか?」


「クリスティが好きにやってるなら、私が少し手を出しても構わないだろう?

それに【鏡】の名を持つのなら、私達よりも上手く扱えるかもしれない」



フィアが紙を一枚取り出すと、一切の動作をせずとも火の粉が舞い、じゅうじゅうと紙に文字が焼き付く。流石は[惹火の古き魔女]だ。

<鑑定>結果、「<魔述>のスキルスクロール」。<魔述>?



「<魔述>はね、自身の持つ魔法系スキルの属性を劣化コピーするスキルだよ」


「属性?」


「自分自身で有効化した魔法系スキルや武術系スキルを<鑑定>すると、【魔法】【水】【斬撃】なんていう表示がないかい?」


「あります。最近見えるようになりました」


「それを「属性」といってね。スキルを構成する重要な要素の一つなのさ。

<魔述>はね、魔法系スキルに刻まれた属性を一つだけ劣化コピーしてスクロールに写すスキルだよ。それを使えば、劣化版の力を渡すことが出来る。代償もあるけどね」



スクロールに触れ、SPを10消費して<魔述>を有効化する。SPが心もとなくなってきたね...










「さっきも言ったけど、きっと【鏡】なら上手く使いこなせるんじゃないかねぇ...今後の活躍を期待しているよ」


「ありがとうございました。また来ます」


「ひひひ、期待せずに待ってるよ」



その後も他愛ない話をして、小屋を出る。夜はクロエ、ショーイチ、グレンの服を相談しながら作る予定だ。

現在時刻は19時。ご飯とお風呂間に合うかな?













◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇



▼生産系スキル

 ▽魔述(まじゅつ)【レア】

  自身の持つ魔法系スキルの持つ属性をスクロールに劣化コピーし、「コピースクロール」を生み出すスキル。

  例:【水】→「【水】のコピースクロール」





2019/09/25 18:40頃

全体的に表現を加筆修正。

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