表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/75

28 老婆と幼女














悪魔との激戦を乗り越えて早寝早起き。3月5日、金曜日の昼前だ。

フリマで魔女っ子新衣装を作ろうと思ったのだけど、<鏡魔術>がLv最大になったのに上位スキルが出てないのが気になったのでクリスに聞きに来た。ついでにダンジョンクリアしたら何か教えてくれるって言ってたし。



「そりゃ...アンタ自身のレベルが足りてないよ」


「なるほど...」


「1次スキルの解放条件は知っているかい?」


「対応する初期スキルのレベル最大と、PLv15でした」


「2次スキルもそれと同じさね。具体的には、PLv45は欲しいところさ」


「結構高いですね...」


「そんなことないよ? 普通の人間が順当に育ったのなら、1次スキルが最大になるのはだいたいその辺さ」



私のPLvは現在27、実に20近く足りていない。

しばらくは他の魔術の育成かな...?



「まぁ、例外的な取得方法もあるにはあるけどね...」


「そんなのあるんですか?」


「そりゃ、アンタもそうやって<鏡魔術>を手に入れたんだろう?」


「...そういえばそうでしたね」


「そう言えばアンタ、悪魔を倒したね?」


「はい」


「こんなひよっこが、良く倒せたもんさね...」



悪魔との戦いをクリスに話す。黒い風の魔法に苦戦させられたこと。手に持っていた暗い大剣で、まるでこちらの動きが分かっていたかのように行動してきたこと。そして土壇場で<鏡魔術>のレベルを上げてなんとか倒し切ったこと。



「ふむ...悪魔の<邪術>にしては弱いね...もしかして元々弱っていたのかねぇ?」


「あの、<邪術>ってなんです?」


「あたしたち人間は『魔法』を使うだろう? それと同じように悪魔は黒い魔法、<邪術>を使えるのさ」


「そうなんですか」


「<邪術>になると、魔法の頭に「黒」とつくんだよ。それも踏まえて考えるとね、アンタが戦った悪魔は人間でいう「魔術」レベルまでしか使ってきていない。

悪魔にしては弱い...ダンジョンの主レベルとは、到底思えないんだけどねぇ...」


「だから、何か問題があって「弱っていた」という事ですか...」


「あり得る話さね」


「...ラッキーだったんですかね、私」


「悪魔を倒したことに変わりはないさね。それにしても...

鏡のがそのネックレスをアンタに渡した理由が、ようやっと分かった気がするよ...」


「というと?」


「...案外、精霊は気まぐれなだけじゃないのかもしれないねぇ...」


「?」


「ま、こっちの話さね。じゃ、今回の褒美さね」



クリスはまたもや紙切れを放り投げてくる。<鑑定>結果、「<紋章術(生産)>のスクロール」。今回は(?)が付いていない。代わりに(生産)が付いてるけど。

<紋章術>は、クリスが私に<錬成>を教えてくれた時に見せてくれた「魔法陣を構成する」スキルだ。あの時は確か...「高位の裁縫師ならば避けては通れない道」とか言っていたような...



「アンタ、服が壊れたんだろう? なら、次作る服でそのスキルを試してみな」


「いいんですか?」


「それは「魔女の秘術」ではないからね。ただのあたしからのプレゼントさ」


「では遠慮なく...ありがとうございます」



スクロールの文字を指でなぞると、無事にスキルが解放された。消費SPは3。迷わず有効化しておく。



「アンタなら使い方も何となく理解できているんだろうが、一応念のため。

それを使うなら、触媒は魔銀。悪魔を倒したのなら、手に入れているんだろう?」


「はい」


「そいつを<錬金>で糸にして、陣を描くように編み込むのさ。

最後は渡した<紋章術>を使って、描いた陣を操作して意味のある文字列に変換する」


「欲しい能力をパッシブで付与できるという事ですか」


「そういうことさね。[裁縫師]ならば、必須の技能さね」

















薬屋「ポアロ」を出て、レンヴァイツまで歩く。相変わらずポータル機能なんてないので、ひたすら歩く。

レンヴァイツに着いたら新しく見つけた仕立て屋で布を買い漁ると、その他の新素材もある程度買い込んでおく。この前クロエと荒稼ぎしたときに迷惑かけちゃったからね、お裾分け用だ。


20分もかからないうちにレンヴァイツでの買い物を終え、アイネールのフリマを目指す。初心者装備で心もとないから戦闘は基本避ける。

たまにはお散歩もいいものだなぁと街をつなぐ道を歩いていると、とあるログが流れた。


『<精霊術>がLv10になりました。<精霊語(トークスピリット)>が解放されました』


<精霊術>のレベルが上がったようだ。覚えた魔法は<精霊語(トークスピリット)>、精霊と話せるようになるパッシブスキルのようだ。

丁度目の前を風の精霊が飛んでいるし、試してみよう。



「こんにちは、風の精霊さん。お散歩ですか?」


『お? ぼくに話しかけてるの?』


「もちろん」


『おー! ぼく人間にはなしかけられたのはじめて!』


「私も精霊に話しかけたのは初め...4度目ですかね」



ミラの事を忘れてた。あの人も一応精霊だったよね。

そういえばミラとは今までも話せてたけど、彼は特別だったのかな?



『ぼくは生まれてからずっとおさんぽしてるよ! それがぼくのお仕事だからね』


「そうなんですか?」


『そうだよ! ちつじょ?がたもたれる?...よくわかんないけどそうなんだってお爺ちゃんがいってた』


「へぇ」



精霊とおしゃべりしながらアイネールのフリマまで歩く。途中で私達の会話に気づいた他の精霊もどんどん集まってきて、その舌足らずな喋り方も相まって、まるで幼稚園だった。



『あっちの方にみずうみがあるんだけど、あそこはおっきな魔物がいるからいっちゃだめだよ!』


「分かった。強くなったら行くね」


『おひさまが出る方にずーっと行ったら、もりの中にピカピカ光る剣があったよ』


「ピカピカ光る剣? 今度行ってみようかな...」


『...あっちの街の地下...きけん』


「へぇ...地下なんてあったんだ」



フリマについて、精霊と話しながら作業を始める。今回はみんなの服も一緒に作る。悪魔からドロップした魔銀、レンヴァイツで買った宝石や金属をこれでもかと使おう。なんなら[鍛冶師]のカーネルや桜色[細工師]のミーナにも手伝ってもらおう...


どんな服を作ろうかな...?












◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇











「あの人いったいどこ行ったのよ! もう一週間近く見てないわ!」


「まぁまぁ、エシリアちゃん落ち着いて...」



いつものように大盾を持ったおじさんくさいエドに窘められながら、アタシはフリマへ向かう。鏡の魔女を確保するためだ。

魔物討伐戦が終わり、ランキングを見てから絶対に話さなきゃいけないと思ってずっと探し回っているけど、一向に見つからない。フリマに通っても見つからず、レンヴァイツまで出向いても見つからず、またフリマを見に来ても見つからなかった。



「んもー! あの子いったいどこほっつき歩いてるのよ! 前から思ってたけど、自由奔放すぎるわ!」


「どこに行こうがプレイヤーの自由だからね...」


「そんなこと言ってもね! 彼女に色々聞かないと先に進めないのよ!

はぁ、まさかあの人()[魔女]だったなんて...」


「ランキング見たときはびっくりしてたよね、エシリアちゃん」


「失敗したわ...やっぱり討伐戦終わった直後に話しかけておくべきだったのよ...」


「過去のことだよエシリアちゃん。あの時ちょっと取り乱してたし、仕方なかったよ。

それにもしかすると、今日はちゃんとフリマにいるかもしれないじゃないか」


「...それもそうね。まずは確認しないと始まらないわ」



アタシは燃えるように真っ赤な髪を揺らしながら、何度も通った道を歩いてフリマへ向かう。道行くプレイヤーと目が合うと、何故か逸らされる。きっとアタシの美貌に恐れおののいているのね!



「あの人はこの前、東の平原奥地で魔物と一緒にエシリアちゃんが燃やした人だね」


「...そうだったかしら? 覚えてないわね」


「そっか...」



ここ最近毎日見て回っているフリマも、もう慣れたものね。もう夕方だけど、今日はどうかしら?

賑わう人混みをかき分け、お目当ての区画へ突き進む。角を曲がり、見えてきたのは...



「...いたわ。やっと見つけたわ!!」


「長かったね...」



いた!! アタシが1週間探し続けた[鏡の魔女]マリカード!!

新作の魔女ローブを着て、お裁縫に勤しんでいるみたいね。



「ふふ、そうなの? 川ってあそこの事かしら...」


「マリカード! 今までどこほっつき歩いていたのよ!」


「...泳げた方がいいの? あぁ、確か<水泳>スキルを売ってたような...」


「ちょっとアタシと一緒に来てもらうわよ!!」


「え? 浅瀬で泳いでいればすぐ解放できるの? <水泳>のスクロール、罠じゃん...」


「アタシの話を聞けえええええええええ!!!!!」



え、なにこの子。虚空と話してるんですけど。

魔女ってこういう不思議ちゃんしかいないのかしら...?



「ん? あら、エシリアさんこんばんは。精霊さんかと思いました」


「せ、精霊...? あなた、どこかおかしいのではなくて...?」


「久しぶりに会ったのに、その言い草はどうかと思うよエシリアちゃん。ごきげんようお嬢さん...こうして話すのは久しぶりだね」


「エドさんもこんばんは。お疲れ様です」



まぁいいわ。これで[鏡の魔女]は確保できた。条件はクリアしたも同然ね!

これで聞きたいことが聞けるわ!



「早速アタシと一緒に来てもらうわよ!!」


「え? いきなりどうしたんです?」


「どうやって課題クリアしたか教えなさいよ! どうせ裏技でもあったんでしょ!?」


「? ??」


「いいから! 行くわよ!!」



アタシは魔女の手を引っ張って街を出る。道中奇異な目で見られたけど、そんなの今となっては関係ないわね!

[魔女]の課題、どうやってクリアしたのかこの目でしっかり見定めてやるんだから!!












2019/08/08 21時

2次スキル解放レベルを40→45に変更

<紋章術> → <紋章術(生産)> に変更

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ