26 水と光と精霊と鏡
本編だいぶ短いです。
最後にちょっとした「影より出でる」の本筋が書かれていますので、もし見たくない方はご注意ください。
「――――――<万華鏡>...ッ!!」
マリの周りに、ふよふよと浮く鏡が出現する。
それは2、4、8枚と増えていき、30枚の鏡となって、マリの周りをぐるぐると回る。
ぐるぐるまわる鏡は悪魔の<黒暴嵐>を逸らし、瓦礫を弾き返すと、一斉にマリの背後に放射状に整列する。
それはまるで、鏡で出来た蝶の羽。
青、黄、淡い緑、そして銀。鏡の羽は、その一枚一枚に色とりどりの魔法陣を映しだし、光り輝く。
それぞれの色を写し、複雑に絡み合うその姿は、まるで美しく煌めく<万華鏡>。
「なんだ......その力...ッ、その瞳はッ! やはり貴様はッ!!」
悪魔が見たのは、虹を映した銀色の瞳。破れ、吹き飛んだ魔女帽子から解き放たれた、風でなびく髪と同じ色。
何故だろう、胸の中心から力が湧き上がってくる。
鏡がより強く、輝いた気がした。
「さようなら」
「や...やめッ!!」
<万華鏡>は、色とりどりの魔法を一斉に打ち出す。初めて使った<水魔道>、ミラからもらった<鏡魔術>、他に<水魔術>、<光魔道>、<精霊術>。マリの持つ力が乱反射し、一つの奔流となって降り注ぐ。
「<黒風砦>ッ! グヌ...ッ ガアアアアアアッ!!」
なんとか身を守ろうと咄嗟に作り出した黒い風の守りも、圧倒的な魔法の奔流に吹き飛ばされる。
悪魔の身を包んでいた鎧は砕け、共に在った黒い大剣が吹き飛ばされる。
死に戻った仲間が残してくれた情報と、託してくれたたった一つのチャンス。そして最後に応えてくれた<鏡魔術>。
それらがすべて、悪魔に突き刺さる。
「ぐ...ッ! くはっ...」
<万華鏡>がその魔法を撃ちだし終えると、そこにはぼろぼろになった悪魔が倒れ伏せていた。身に纏っていた鎧は既に意味を成しておらず、持っていた大剣は吹き飛ばされどこかに行ってしまったようだ。
大量に傷を負い、息も絶え絶え。それでもまだ生にしがみつき、眼には闘志が宿って...と思ったけど、私にはそれが後悔と深い悲しみに満ちているように見えた。
「...ッ」
まるで「止めを刺せ」と訴えかけるような視線に射抜かれ、私は杖を握りしめた。その時。
首から下げていた銀色のネックレスが倒れた悪魔に惹きつけられるように鈍く輝き、そのペンダントトップから黒い炎が放たれた。
黒く燃え消えていく悪魔の身体が生を終えるまで、そう時間はかからなかった。役目を終えた<鏡>は消え、その場に残ったのは銀色に光るドロップアイテム。
<SR> 魔銀
魔力を宿した銀。高値で売れる。
武器や防具に使うと、魔攻や魔防を上げる効果が見込める。
あれだけ強く、仲間を全員死に戻らせた強敵の悪魔は、死んで換金アイテムになった。
...持ち帰って、後で皆で分けよう。
「ふぅ...何とか勝てた...よかった...」
床にへたり込み、安堵する。水魔術で濡れた床に映った自分は、濡れネズミのようにズタボロだ。
周りを見渡せば、戦闘前は暗いながらも綺麗に整えられた玉座の間だった名残はほとんど残っておらず、悪魔使った風の魔法であちこち深い溝が作られ、壁にはところどころ穴が開き柔らかな日差しが差し込んでいる。
...それにしても。
「止めを刺してくれて、ありがとね」
私は銀のネックレスをチョンと触ると、ダンジョンを出るために出口へ向かう。
私の問いに答えるように、銀のネックレスがきらりと光った気がした。
『悪魔を討伐したため、称号【悪魔を屠りしもの】を獲得しました。』
※
「マリッ!! 良い討伐だったにゃ!!」
「やったか、マリ! 最後に守り通せてよかったぜ」
「ごめんよ...僕としたことが、すぐに死に戻ってしまうなんて...」
「ただいま」
ダンジョンを出ると、クロエ、グレン、ショーイチが出迎えてくれた。
どうやら、彼らはギリギリまで私の戦いを見ていてくれたようだ。
PTを組んだプレイヤーがデスすると、リスポーンを選択するまで残ったPTメンバーの近くから見守ることが出来るようだ。もちろん生きているプレイヤーと会話は出来ないけど、死んだプレイヤー同士なら喋ることが出来るらしい。
「いや、まさか倒しちまうとはなぁ。俺ら次に挑むときのために作戦たててたんだが」
「無駄になって良かったにゃ!」
「...まさか「徹夜でスキル上げする」に落ち着くとは思わなかったよ」
「え? 良いじゃねーか、たまにはよ! なぁ、マリもそう思うだろ?」
「いやそれはキッツい...」
「え...そ、そうか...」
「ならもう夜遅いし、今日は解散しとこうか? いろんなお話はまた明日にでもフリマでやればいいと思うんだよ」
「解散にゃ?」
「僕は一撃でやられたからそうでもないけど、君らはだいぶ消耗したでしょ?
装備もボロボロだし、今からレベル上げはちょっと辛そうだね...」
「確かに、俺も<犠牲>のせいでペナルティがやべぇな...なんだこれ、HP最大値半分になってるんだが」
「またエグいスキル取ったね」
「討伐戦のチケットが余ってたからな! 悪魔戦の時にパパっと使ったんだわ」
「...にゃ、今気づいたけど、マリがエロエロにゃ」
「やめてよ...」
魔女っ子装備は破れ、解れ、ぼろ布を纏っているような状態だ。
ストクエ最終日の明日は生産でつぶれることが確定したかな?
とりあえず、持っていた初心者用装備に着替えておく。
「じゃ、今日は解散!」
「おやすみにゃ!」
「おやすみー」
「また明日な!」
3人がログアウトしていく。私もログアウトしてさっさと寝ようかな...今日は疲れたし。
あれ、そういえば...あの悪魔の持ってた黒い大剣どこ行ったんだろう? 拾って持って帰ろうと思ったんだけどなぁ。
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<マリカード> ヒューマン ♀ Lv27
職業:鏡の魔女
▼装備
<N> 旅人のローブ
<R> 見習い魔女の帽子:破損
<N> 旅人のシャツ
<N> 旅人のズボン
<N> 履き潰れた靴
<-->古い心の首飾り
▽有効スキル
▽魔法系スキル
<鏡魔術> 水魔術 Lv18 精霊術 Lv9 光魔道 Lv7
▽複合魔法
<水鏡魔法>
▽生産系スキル
解体 Lv24 <錬成> 裁縫 Lv8 錬金 Lv7 採取 Lv4
▽便利系スキル
<夜目> 察知 Lv9 鑑定 Lv16 ミニマップ表示 Lv9 暗視 Lv2
▽パッシブスキル
<物攻微上昇> 魔攻上昇 Lv11 物防上昇 Lv11 魔防上昇 Lv11 器用上昇 Lv10
敏捷上昇 Lv10 魔力操作 Lv9 物攻上昇 Lv5
▽称号
【合鏡の邂逅】
【Dランク冒険者】
【悠久の魔女の弟子】
【魔女】
【悪魔を屠りしもの】
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◇◆◇ 上位スキルになったもの ◇◆◇
<錬成> → <錬金>
使用可能な素材、レシピが増え、製作物の品質が良くなる。
<夜目> → <暗視>
より暗い場所でも見通せる。
<物攻微上昇> → <物攻上昇>
物理攻撃力が少しだけ上昇する。
◇◆◇ 今回から非表示になったスキル ◇◆◇
<服飾>
※レベル最大&上位のスキルを持っているとき、そのスキルは非表示になります。
◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇
▼魔法系スキル
▽鏡魔術【固有】
<万華鏡>
周囲にいくつもの鏡を発生させ、それら全てから「自身の持つ魔法」を一斉に撃ちだす必殺技。
自身の残りMPを全消費し、その後一定時間MP回復不可状態になる。
◇◆◇ ストーリークエスト「影より出でる」 ◇◆◇
古き悪魔の一柱である「混沌の風の儕」は、ある日最初の街<アイネール>付近に懐かしい宿敵の魔力を感じ、自らの魔力から生み出した眷属を放ってその場所を覗き見るようになった。
色々な人、魔物、場所を覗き見た結果、とある女性プレイヤーに目を付けた。
宿敵の魔力をそのプレイヤーに感じた悪魔は、居城である「ダンジョン」をアイネールの西の林に移動させる。実際に会ってみたくなったのだ。
自分のお目当てのプレイヤー以外は地下へ続くダンジョンに流し、お目当てのプレイヤーのみをダンジョン上層の居城へ招待した。
今度こそ、宿敵に勝利するために。今度こそ、死に損なった自分に引導を渡すために。
経験値の美味しい影の魔物は、悪魔の生み出した眷属。
ダンジョン発生前の視線は、悪魔の覗き見。