25 ダンジョンアタック?
少しだけ長めです。
「賑わってるなぁ。まるでフリマじゃねーか」
「やっぱり皆、ダンジョンには惹かれるものがあるんだろうね」
「あちしらもその一部にゃけどね」
「そういえば、ダンジョンについてなにか面白い情報とかない?」
「昨日、僕ずっとダンジョン攻略掲示板見てたんだけど、他のゲームのダンジョンとあまり変わらないみたいだね。
ただ、出てくるのは「影の魔物」が多いらしいよ」
「経験値を得るためのダンジョン、ってところか?」
3月4日、ダンジョンアタック当日だ。私たちの目の前にはそこそこ賑わっているダンジョン前にできた広場と、そこにいる人々を見下ろすかのように聳え立つ、まるでチェスのルークのような建物。「塔」と聞いていたけど、建物自体はそこまで高くない。
「あの塔を登っていくと思うでしょ? ダンジョンって下に続いてるらしいよ」
「じゃあなんであんな塔建てたんだよ...」
「ダンジョンの目印か何かじゃない?」
「確かに、あんなデカい建物が森の中にあったら、間違いなく目に付きはするだろうな」
「そうだね。とりあえず、ダンジョンの情報を共有しておこうか」
「りょーかいにゃ」
「基本は大事だからな」
ショーイチが集めたダンジョンの情報を私達3人に語る。まとめると
・全30階層で、10層ごとにボス部屋がある。レベル20の6人で20層を突破したらしい。
・ボス部屋後の部屋にポータル機能があり、入り口に帰れる。次回そこから始められる。
・影の魔物が多いが、影じゃない魔物はちゃんとドロップアイテムを残す。
・たまにポップする宝箱は取ったもの勝ち。
・罠や状態異常もあるため、対策必須。<斥候>がいい感じ。
・ボス部屋のみPT個別のインスタンス化する。
ということらしい。状態異常対策に、プレイヤーたちがこぞって異常回復薬を買い集めているようだ。
商業ギルドはあらかじめ量産していたようで、かなりの儲けが出ているとか...抜け目ないね。
「早速行くにゃ!ダンジョンがあちしらを呼んでいる!」
「あぁ、滾ってきたなぁ! どんな魔物がいるのか、楽しみだ!」
「行こうか!」
広場の真ん中を歩き、ダンジョンの門へ向かう。途中「魔女っ子だ...!」とか「黒猫ちゃん今日も可愛い」とか聞こえたけど、有名税と割り切ろう。
さぁ、ダンジョン攻略の開始だ!
※
「なぁ、ダンジョンって下に続いてるんだよな?」
「そう聞いたけど...」
「上に行く階段にゃね」
「そうだね...」
「初心者用ダンジョン」の門をくぐると、そこはまるで洞窟のような迷路だった。罠や宝箱もちらほらあったけど、まだ第1階層だからなのか罠は分かりやすくダメージも低かったし、宝箱の中身も「薬草」程度のしょっぱいものだった。
魔物も弱く、ダンジョンのチュートリアルという感じだったのだろう。
そんな階層を片手間で踏破し、階段のある部屋まで来た。部屋に入り目の前に見えたのは、私たちが予想していた方向への階段ではなかった。
「...なぁ、気のせいじゃないよな?」
「...気のせいじゃないね」
「インスタンス化されたにゃ」
「うん」
「階段の部屋でインスタンス化...? そんな報告はなかったはずだけど...」
「イベント始まったか?」
「なら、今ダンジョン内にいるプレイヤー全員に起きてるんじゃにゃいかにゃ?」
「そう、かもしれないね...とりあえず進んでみようか」
少しだけ長く、ゆったりとした螺旋を描いて上へ続くその階段を上っていくと、洞窟の中のようだった風景は、段々と人工物らしくなっていく。
しかしそれは外からみた無骨な砦のような造りではなく、まるで誰かが住んでいた城のように見えた。
窓はなく、等間隔に置かれた松明がちらちらと照らしている。
「それにしても長い階段だなぁオイ」
「にゃー...敵と戦う前に疲労で死んじゃうにゃ...」
「そんなこと言ってないで、ほら。アレ出口じゃないかい?」
200段近く階段を上った頃にグレンがぼやく。外から見たダンジョンの建物的に、そろそろ最上階に近いんじゃないかな...?
そんな中ショーイチが前を指さすと、前に見えてきたのは大きな金属製の扉。
精緻な装飾が施されたその大扉は、前に立つ者を圧倒させるだけの威圧感があった。なんというか...
「ヤバそうだね」
「これ、ボス部屋じゃないかにゃ...?」
「俺ら、大してダンジョン探索してないんだが...」
「最近覚えたスキルを試してみたかったにゃ...」
「ちょっと怖いね...一応準備してから入ろうか。警戒して損はないよ」
「分かった」
私達は各々準備したアイテムを分配して、戦いに備える。
ボスと決まったわけじゃないが、皆それぞれ嫌な予感を感じているようだ。
「...よし、行くか」
「にゃ」
グレンが大扉を押す。ずごごと低音を響かせながら、荘厳な大扉はゆっくりと開いていく。
扉を開いた先には、一分の光もない暗闇。警戒しながら、大盾を構えたグレンを先頭に進んでゆく。
『ようやく来たか...』
重く響く、湿った声。部屋の奥から聞こえたその声は、まるで暗闇そのものが語りかけてきたかのように聞こえた。
完全にボス部屋だ。
『懐かしい魔力を感じたと思い、わざわざここまで赴いてやったが...ククク、よもやただの空似だったとはな』
「誰だ!」
『我の事か? フム...』
部屋の中の闇が揺らめく。すると、部屋の方々で炎がともる。まるで悪魔の像のようなものが持っている松明に火が灯ったようだ。ここでようやく、この部屋が「謁見の間」のようなものだと気づく。
謁見の間の玉座のようなところで闇が渦巻き、暗闇が人の形を作り出す。
その手には大きな黒い剣。光を奪うような黒銀の鎧を着た、黒い風を纏う悪魔。
『我は、混沌の風の儕。古き悪魔の一柱だ』
「ぐ...ッ」
暗闇が名乗ると、私たちを重圧が襲う。一番前で大盾を構えるグレンが辛そうだ。
ふと、悪魔の赤い眼が私を射抜く。何故だろう...足が...
「...ッ」
『ああ...ようやくこの手で引導を渡せると思っていたが―――』
「!? マリッ!!」
『―――まがい物であれば用はない。疾く失せよ、<黒風刃>』
襲ってくる黒い風の刃が、私の目の前に迫り来る。<反射>? 間に合わない。
その魔法が私に当たる直前、先んじて動いていたショーイチが私を突き飛ばす。
「ぐあっ!」
「ショーイチッ!」
間一髪私を突き飛ばしたショーイチの方を見ると、すでに光となっていた。
クロエはグレンが守りきったようだ。
「な...」
『<黒風刃>』
「呆けんなマリッ! <庇護>ォ!」
「<添火>! <走剣>にゃ!」
「ッ...<水刃>!」
間髪入れずに放たれた悪魔の攻撃に、倒れたままの私をグレンが庇うように大盾を構える。
その間に、敵の攻撃を読んだクロエが素早く回り込んで斬りかかる。
私は気をそらすように、素早い魔法を撃ちだしておく。
『ふむ、1人しかやれなかったか』
「<隠剣>」
『...そう斬りかかってくるのも分かっているぞ、黒猫娘。<断撃>』
「にゃ!? <速撃>!<連剣>ッ!」
「<水矢>、<光球>!」
後ろから斬りかかったクロエに、悪魔はクロエを見ようともせずに剣を振る。
無造作に振られたはずのその剣は、クロエの短剣をしっかりと打ち据えていた。
弾き飛ばされ焦ったクロエは連撃系の技に切り替える。それでも悪魔は全てわかっているかのように避け、弾く。
隙をついて使った私の魔法ですら当たらない。
攻撃を一通りするとクロエは離脱し、私たちの方へ戻ってくる。
「なんで当たらにゃいにゃ...!」
「あいつ、やべぇぞ」
『当たるわけがなかろう。 ずっと貴様らを見ていたのだからな』
「...どういうこと?」
『我は貴様らを見ていたぞ。使うスキル、行動、癖まですべて把握済みだ』
「データキャラかよ...」
ストーリークエスト「影より出でる」。影そのもののように見えたこの悪魔は、ずっとプレイヤーを見ていたようだ。
時折感じていた視線。すべて見られていたとしたら、私たちの手の内は全て暴かれている...?
「やべぇな...せめてショーイチがいれば...」
「うん...」
「違うにゃ。あちしらの中で一番の戦力はマリにゃ。あれは最高の判断だったにゃ」
「くっそ...じゃあどうすりゃ...」
「データキャラを相手にするにゃら、手は一つにゃ」
「どういうこと?」
「とにかく物量で押し切るにゃ。昔マンガで読んだにゃ」
「...なるほど」
態勢を立て直しながら、作戦ともいえない作戦を立てる。
ショーイチならこういう時どんな作戦を立てるのだろうか...
『話し合いは終わったか? <黒風矢>、<連絶>』
悪魔から黒い風の矢が飛んでくる。同時に悪魔が地面をけり、急速に接近する。
「<反射>、<鏡片>!」
『む? やはり、その力...』
「<庇護>、<盾圧>! おらァ!」
「<構剣>、<走剣>!<連剣>!」
『ぐぬぅ...!』
風の矢を<反射>で反射し、鏡の破片で追撃する。悪魔は風の矢を難なく避け、大剣を振り回して鏡の破片を撃ち落とす。しかしすかさず入り込んだグレンが大剣の動きを妨害し、クロエが素早く斬りつける。
その後はクロエの作戦通り、物量で攻める。クロエが<構避>を使い、細かい斬撃。グレンも大盾を構えながら土魔法で援護射撃し、私も<鏡片>で範囲攻撃を行う。
避け、弾く限界を超えた物量は、少しづつ悪魔を削る。しかし、大きなダメージも入らない。
隙を見てMPポーションを飲みながら回復魔法で支援する。ジリ貧だ...
※
しばらくの間お互いに有効打を与えられず、消耗戦になっていく。常に最前線で集中し続けているクロエのスタミナがきれそうだ。
どうすれば、どうしたらいいんだろう。
「はっ、はっ、<剣撃>!」
『<断撃>』
「にゃあッ!?」
「クロエ!!」
甘く入ったクロエの<剣撃>に、悪魔が<断撃>を合わせて弾き飛ばす。空中で身体ががら空きだ。おもわずグレンが叫ぶ。
『今、楽にしてやろう。<黒風槍>』
「ッ! <魔逸>!」
『何ッ!? ぐあッ!』
「効いた!?」
空中に放り出されたクロエめがけて、とどめを刺そうと放った黒い風の槍。防御もままならない土壇場で、最近覚えた魔法をはじき返す<小盾術>、<魔逸>を使ってそのまま風の槍を返す。
悪魔は何故か避けようともせず、その魔法が突き刺さる。
なんで悪魔は避けなかった? 反射系は普通に効く? いや、さっきは避けていた。ならば...
「もしかして...使ったことのないスキルなら、避けられない...?」
視線を感じ始めたのはストクエ開始からだった。ということは、その間使っていない魔法なら...!!
私がまだ使っていない魔法は、<鏡魔術>Lv25、風以外の精霊術、そして使えなかった光のアレ。周りには風の精霊しかいないし、鏡の魔法は防御系...この手札だけじゃ詰めるにはまだ足りないかな...
急いで<鏡魔術>のレベルを確認する。Lv28。あと少しで上がりそうだから、実質Lv29だ。
「1時間経験値増加チケット」を使用する。これであと一つ覚えられれば...
『貴様ら...! 生きては返さんッ!』
「クロエ!下がって!」
「にゃ? わかったにゃ!」
「<鏡値>! グレン守ってて!」
「おうよ!」
私はクロエのステータスをコピーし、息切れしたクロエと入れ替わるように前に出る。
途中すれ違いざまにクロエの短剣を受け取り、スピードに乗る。
『知っているぞ! 職業をコピーする能力で――』
「<瞬光>!」
『ぐあぁ!目がァ!』
「クロエ! <鏡片>、<鏡片>!」
「待ってたにゃ! <連剣>!」
『ぐッ、何が起きているッ!』
私がコピーしたのは職業ではなく、敏捷。魔法職を捨てて魔法が使えなくなったと思わせるためのただのブラフ。
本命はまだ使っていなかった魔法、<瞬光>。今までは味方も巻き込みかねないと思って使えなかった目くらましの<光魔道>だ。
グレンは私の意図を汲んでくれたようで、クロエと共に大盾で隠れていた。そのままクロエは<瞬光>をやり過ごすと、勝機を見出しグレンの斧を手に戦場へ舞い戻り、<連剣>で連撃を加える。
斧は剣系で、<連剣>は初期スキル<剣術>。短剣じゃなくても使える。
押し切れるか!?
『なめるなァ! <黒風纏>!』
「なっ...」
「にゃあぁ!!」
突如として黒い風を纏う悪魔。目は既に見えるようになったようだ。
近くにいた私とクロエは吹き飛ばされ、地面を転がり大きなダメージを負う。
回復しないと...!
「くっ...<霧癒>!」
『<黒突風>!』
「<庇護>!! ぬぐっ!」
倒れた私を庇って、グレンが横から割り込む。
悪魔の黒い突風を防ぐグレン。しかし、真逆の位置に吹き飛ばされたクロエには直撃。アバターが光となって散っていく。
「クロエっ!」
『残るはお前らだ! 死ね!<黒風刃>!』
「<弐壁>! 下がれマリッ!」
「ッ...<鏡霧>!<反射>!<反射>ッ!」
<鏡魔術>はLv29。まだ足りない! MPポーションをがぶ飲みしながら、グレンの張った防御スキルの中からがむしゃらに<鏡魔術>を使い続ける。
<鏡魔術>Lv25、<鏡霧>。鏡の破片を漂わせ、攻撃魔法を散らせてやり過ごす。
本来の使い方とは少し違うけど、今はこれで精いっぱいだ。出来る限り<反射>も使って、悪魔の魔法を返して牽制する。
ダメだ、グレンの作り出した盾が割れそうだ...!
「限界かっ...ぐはッ!」
「<反射>!」
『さぁ、貴様を守る盾はなくなったぞ?』
「<鏡片>!<鏡片>!...<鏡片>ッ!」
『くははっ、やけくそになったか小娘ェ! 我には届かん <黒風砦>!』
グレンは防御壁を砕かれ、暴風に吹き飛ばされてしまう。後ろでガシャンと鎧が落ちる音が聞こえた。
盾を貫き、さらに押し寄せる悪魔の魔法を、<反射>を斜めに設置してなんとかやり過ごす。
ついに悪魔と1対1。私は<鏡片>を使い続ける。HPもMPも半分くらいだ。
鏡の破片が悪魔に迫るも、悪魔の纏っていた黒い風は私と悪魔を隔てる分厚い風の壁に変貌する。
放たれた鏡はその役目を全うできずに地に落ちる。だけど
『<鏡魔術>のレベルが上がりました。29→30』
来た! 待ち望んでいたメッセージが流れ、すぐに覚えた魔法を確認する。これなら...!
『これで仕舞いだ! <黒暴嵐>!!』
悪魔の眼が赤くぎらつく。
魔法が発動すると、これまでとは比べ物にならない暴風が巻き起こる。
整えられていた「謁見の間」を抉り、砕き、瓦礫と共に迫り来る。
まだ距離があるのに、HPゲージがどんどん削れていく。
「させねぇッ!! <犠牲>ッ!!」
後ろからグレンがスキルを叫びながら光となって消えていく。
じきに吹き飛ばされ、砕け散ろうとしていた私の身体をオレンジ色のベールが包み込み、がりがりと削れていた私のHPゲージが間一髪残る。
勝利のピースはすべて整った。
グレンが自分の身を<犠牲>にしながら何とか繋いでくれた、最後のチャンス。
私は力を込めて、その魔法を発動する――――
――――――<万華鏡>...ッ!!」
◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇
▼武術系スキル
▽大盾術
<弐壁> Lv10
二枚の大きな盾を横に展開する。
範囲防御が可能だが、展開された盾の耐久値がなくなると壊れる。
▽小盾術
<魔逸> Lv5
敵の魔法攻撃を弾く。
▼魔法系スキル
▽光魔道
<瞬光> Lv5
強い光を全方位に発生させ、敵の眼をくらます。攻撃力はない。
▽水魔術
<霧癒> Lv10
霧を発生させ、触れた味方のHPを回復させる。範囲回復。
▽鏡魔術【固有】
<鏡霧> Lv25
鏡の破片を周囲に漂わせ、自身の魔法を乱反射させて追尾効果を与える。
敵の魔法を散らせて被ダメージを抑える使い方もできる。
<万華鏡> Lv30
???
▼邪法系スキル
▽風邪道
<黒風刃>
▽風邪術
<黒風矢>
<黒風槍>
<黒風砦>
<黒暴嵐>
※悪魔の使う「邪法」は、通常の魔法の頭に<黒>が付きます。読み方に変化はありません。
例:<風矢> → <黒風矢>
▼戦術系スキル
<犠牲>
自身の全HPと引き換えに、味方一人に一定時間の守護を与える。
このスキルで自身がデスペナルティを受けた時、そのデスペナルティを2倍にする。
風邪術...読みづらいですね...
追記:2019/4/19 6:30
悪魔の魔法の「邪法」。表記変えるかもしれないです。
やっぱり「風邪術」は風邪がちらついて違和感がすごい...
追記:2019/4/21 23:00
インスタンス化:自分たちのPTしかいない個別フィールドになる事。
「インスタンスダンジョン」で調べると何となくイメージが湧きやすいと思います。