20 エリアボスと二つ目の街
「黒猫どけぇ!! <双撃>!」
「どくのはお前にゃ!! <走剣>!」
「ちょ、ずりーぞ!!」
「グギャッ!!」
エリアボスらしき大きな影を見つけた瞬間、一瞬で駆けだすイザムとクロエ。二人とも同じくらいの速さで競り合いながらも、クロエは<走剣>でさらに速度を上げ、イザムを振り切り初撃をかっさらう。クロエはしたり顔だ。
カナデの服作りから一日明け、昨日約束した東の平原エリアボス攻略にいつもの4人とイザム、カナデを含めた6人で出かけている。
カナデの新衣装をみたイザムが「お前もやればできるじゃねーか!」と言って、カナデに鉄の音叉で殴られたりしていた。
「それにしても、やたら黒いんだね」
「ていうか、エリアボスにしては街から近場過ぎません? もっと奥だと思ってたんですけど」
「確かに...」
「東のエリアボスってどいつなんだっけか?」
「これさっきも話したよグレン。東の平原エリアボスは「ゴブリンジェネラル」だね」
「あぁ、そうだったっけか? ていうか、もう終わりそうなんだが」
「話してる暇なかったですね...」
クロエとイザム以外の4人で喋っていたら、やたら黒いジェネラルさんが溶けるように消えていた。
溶ける間際、その赤くぎらついた眼をこちらに向けた気がした。気のせいだろうか?
...元の強さを知らないからアレだけど、ボスさん弱体化しすぎなのでは?
「お? もう終わりかよ、このデカ黒ゴブリン。手応えねぇなぁ」
「にゃ...どうやらあちし、強くなりすぎてしまったみたいにゃ...」
2人が意気消沈しながら帰ってくる。もっと強敵と戦えると思っていたら、思わぬ肩透かしを食らったといったところか。ドロップアイテムも無かったみたいだし。
何はともあれ、これで2つ目の街に行ける条件が整った! いったいどんな街なんだろうか。わくわく。
「ほら、元気出して! 2つ目の街に行くよ!」
「なにがあるんでしょうね?」
「俺的には、そろそろ鉄製の大盾が欲しいところだぜ」
「新しい素材には期待できそうだね」
※
「...なぁ、見間違いじゃないよな?黒猫」
「...あちしにも見えるにゃよ、双剣」
2つ目の街に繋がる東の平原奥地を道なりに進んでいると、遠くにぼんやりと、巨体が見えてきた。
近づいてみると、その3m近い巨体は深い緑色。手には大盾と長剣だろうか? まさしく「ボス」にふさわしい魔物が佇んでいた。
<鑑定>すると、名前は「ゴブリンジェネラル:東の平原奥地」。間違いなさそうだ。
「さっきボス倒さなかったっけか?」
「ボスじゃなかったみたいだね。大きさも全然違うし...」
「普通のゴブリンのエリート系の魔物だったんじゃないですか?」
「そういえばストーリークエスト開催中だったね。「影より出でる」...黒い魔物か...」
「おい、もう行っていいか?」
「にゃ、右に同じく」
「そうだね、これは後で考えるとして、今は目の前の敵を倒そうか。カナデさん、頼める?」
「任せてください! <調律>!ほーい!」
音叉からポーンと音が鳴り響き、全員の全ステータスが少し上がる。さぁ、ボス狩りだ。
「「リベンジマッチだ(にゃ)!!」」
「いってらっしゃい」
「何言ってんのマリ、皆で行くんだよ!」
イザムとクロエが我先にとジェネラルに突っ込み、ショーイチが私に突っ込む。良いチームワークだ。
待ち構えていたジェネラルが咆哮を上げると、どこからともなく手下のゴブリンが集まってくる。大盾を持つゴブリンガードナー、ローブを着て杖を持つゴブリンウィザード、他にもバスターにアサシンにアーチャー。魔物討伐戦の時に戦ったナイトの取り巻きと同じ構成のようだ。今回は追加でゴブリンヒーラーもついてきたけど。
敵はいっちょまえに陣形を組んでいる。まず狙うべきはヒーラー。後ろに陣取るアイツを殺るには、前衛のガードナーとバスターを崩すしかない。
「<水矢>、<水銀>、<複製>」
水銀の矢を数発撃ちこむ。狙いはバスターと、わざと外した2本。
バスターを狙う矢に対応したガードナーは、案の定その大盾で防ぎにかかる。それ、罠なんだ!
「<反射>」
「「グゲッ!」」
「ナイスだ銀色ォ! <双転>ッ!」
「<走剣>、<投撃>にゃ!」
わざと外した水銀の矢を<反射>で方向転換。死角からばっちりとバスター、ガードナーの膝裏を打ち抜く。
態勢を崩した二匹の合間をイザムとクロエは通り抜け、すかさずイザムは2本の剣で自分の周りを切り刻む回転斬り、<双転>を後ろからお見舞いする。
一緒に通り抜けたクロエは<走剣>でスピードを上げながら、イザムを狙って放たれた矢を短剣で切り落とす。そのままの流れで手に持っていた短剣を<投撃>で投擲。詠唱していた無防備なヒーラーの喉元に突き刺さる。
「グギャーッ!」
「バレバレだボケェ!」
「<杖撃>!いっちょあがりです!」
姿を隠していた敵のアサシンは、私とカナデを狙ってきていたようだ。
ばっちり予測していたグレンが大盾でスキルも使わず完封し、カナデが音叉でぶん殴っている。
ちなみに、ショーイチはいつのまにかウィザードに10本くらい矢を刺して倒してた。
「おいおい、一瞬で残りてめぇ一匹だぞ?」
「やる気あるのかにゃー?」
「グッ!グゲッ!」
「いっちょ前に怒りはするんだなァクソ雑魚! その力、俺様に見せてみやがれ!」
「にゃっははあ!! あちしの速さについてこれるかにゃ!?」
悪役っぽいセリフを吐きながら、まるで強キャラのような雰囲気で対峙するイザムとクロエ。仲間を殺され、馬鹿にされたジェネラルは、静かにその巨体を怒りで満たす...
あれ、本当に悪役なのでは?
それからジェネラルは長く持たなかった。こちら6人に対し、あちらは1匹。多勢に無勢だ。
きっとこのボス戦は、ジェネラルと戦いながら堅い前衛を何とか突破してヒーラーを処理して...みたいな手順が必要だったのだろう。初動で突破してしまったけれど。
ちなみに、あの魔物討伐戦で戦った中ボスの「ゴブリンナイト」より弱かった。非常に。
もしかしたら、私一人でもなんとかなる...かも?
「あー、楽しかった。やっぱそこそこの敵と戦うのが一番燃えるぜ」
「分かるにゃ。敵が弱いと作業感が出て辛くなる時があるにゃ」
「<癒音>、二人ともお疲れ様です」
「これで正真正銘ボスは倒したよね?」
「もう一匹出てきても俺は構わんぞ。そんな動いてねぇからな」
「私は早く2つ目の街に行きたいかな」
「そうにゃね!早くいくにゃ!」
「道なりでいいんだっけ?」
「あっちですね!」
「じゃ、行きまし...ん?」
「マリ、どうかした?」
「一瞬視線を感じた気がしたんだけど、気のせいだったかな?」
「確かに、今一瞬感じたな」
「...あちしもにゃ」
「そりゃ、今話題のプレイヤーが揃ってるしな。有名税だろ」
「そっか。じゃ、早めに街に行っちゃおうか」
視線を感じるのはイベント関連かな? もしストーキングされてるなら、グレンとクロエも視線を感じるはずがないだろうし...
もしかして昨日<精霊術>を有効化した影響かな? あれからクリスが言っていた「精霊は至る所にいる」というのがよく分かったよ。そこら中でふよふよしてるのがばっちり見えてるし。
東の平原奥地をさらに道なりに進む。道中出てくるのはやはりゴブリン。
片手間で処理できるレベルということは...平原奥地よりレベルが低いのかな?
そこそこ進むと遠くに壁が見えてきた。二つ目の街「レンヴァイツ」だ。
門をくぐり街に入ると、最初の街「アイネール」よりも小さいとはいえ活気にあふれていた。
大通りには色々な店が並んでいる。見た感じ、武器屋が多いのかな?
冒険者ギルドもアイネールより大きい。この街は冒険家業が盛んなのだろうか。
「ここからどうするよ? いったん解散しとくか?」
「そうだね。各々行きたい場所が違うだろうし、解散しておこうか」
「賛成」
パーティーは解散になった。行きたいところに行こうかな?
とりあえず、布と...錬成素材と...そろそろ杖持ちたいんだよな...
「マリさん、どこ行くんですか?」
「ん? 特に決めてないけど...」
「じゃあ一緒に行きましょう!ね!」
「分かった」
カナデと共に街を見て回る。武器屋ではカナデに魔法使い用の杖をあーでもないこーでもない言われながら選んでもらった。彼女的には、やはり「魔女っぽさ」が重要なようだ。
「これしかないですね。えぇ、これにしましょうマリさん」
「う、うん。分かったよ」
圧倒的熱量に押されて、魔女っぽい見た目の杖を買った。性能はともかくとして、<鑑定>した結果が...
<R> 悠久の魔女の杖:レプリカ
至る所に隠れ住む魔女達のトップに立つ、悠久の魔女の持つ杖のレプリカ。
杖としての性能を削ってでも本物に似せる努力が垣間見える。
すごい情報量なんですけど。クリス...魔女じゃないとか最初言ってたけど、あなた魔女のトップじゃん...なんで最初の街にいたの...
その後は布を買ったり、素材屋を見て回ったりした。素材屋では最初の街では見かけなかった素材を一通り買ったので、試供品みたいな感じでフリマの人たちに渡そうと思う。
そして最後に...
「マリさん、これって...」
「うん...」
冒険者ギルドの隣に建つ雑貨屋。その品ぞろえを見て驚いた。なぜなら、スキルを解放するスクロールが売っていたからだ。
<R> <聞き耳>のスキルスクロール
使用すると1次スキル<聞き耳>を解放できるスクロール。一度使用するとなくなる。
<HR> <錬成>のスキルスクロール
使用すると初期スキル<錬成>を解放できるスクロール。一度使用するとなくなる。
<R> <乗馬>のスキルスクロール
使用すると1次スキル<乗馬>を解放できるスクロール。一度使用するとなくなる。
<HR> <光魔道>のスキルスクロール
使用すると初期スキル<光魔道>を解放できるスクロール。一度使用するとなくなる。
<HR> <闇魔道>のスキルスクロール
使用すると初期スキル<闇魔道>を解放できるスクロール。一度使用するとなくなる。
全部めっちゃくちゃ高いけど、これ欲しいなぁ...特に<光魔道>。
<錬成>を売っているからか、棚の端っこに「<錬成>用抽出陣」と「<錬成>用分離陣」がこっそり積まれている。抽出がポーション、分離が塩作りの時に使ったものかな。
あの隠し売り感、気づかない人が多そうだ。
「マリさん...今いくらありますか...?」
「カナデ?」
「お金貸してもらっても...?」
「カナデ...貸し借りはよくないよ...」
カナデが残念な子になってきている...残念ながら、私の残金だと...一つしか買えない。
買えたとしても、買い与えたりはしないと思うけどね。
「おじさん。このスクロール一つと、その<錬成>用の分離と抽出の陣をいただけますか?」
「あいよ。スキルスクロールが一枚15万セル、板が2枚で3000セルだぜ」
「はい」
「おう、丁度......ほれ、使い方は知ってっか?」
「問題なく」
「えっ、何で知ってるんです?」
「使ったことがあってね」
雑貨屋のおじさんから陣2枚とスクロールを受け取ると、手に持って念じる。『使う使う使用する使用する使う使う...』
.................あれ?
「おじさんごめんなさい。スクロールの使い方、やっぱり教えてもらってもいいですか?」
「おん? 知ってたんじゃねーの?」
「やっぱ知らないんじゃないですか、マリさん!」
「勘違いだったみたいで」
「そうかい...使い方つってもなァ...その紙に描かれた文字に触れるだけだな」
「? ...そうでしたか、ありがとうございます」
言われたとおりに文字に指を触れると
『<光魔道>のスキルスクロールの使用により、<光魔道>を解放しました。』
出来た。使用されたスクロールは空気に溶けるように消えていく。
無事に解放できたので、すぐに有効化。初期スキルなのでSP消費は1。お手軽だね。
クリスめ......また私の事、おちょくりやがったな...
◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇
▼武術系スキル
▽双剣術
<双転> Lv10
手に持つ2本の双剣で周囲を切り刻む回転斬り。
▽投擲術
<構投> Lv1
手に持つ武器や物を投げる構え。
※登場していないけど、今後出るか分からないからついでに
<投撃> Lv5
高威力の投擲攻撃。
▽杖術(初期スキル)
<杖撃> Lv1
杖による高威力の打撃攻撃。
▼魔法系スキル
▽精霊術
精霊に触れ、精霊の力を借りる魔法体系。
精霊術自体には発動できる魔法はなく、すべてパッシブ効果を得られる。
発動できる魔法は精霊に触れることで獲得でき、精霊によって種類や効果が違う。
Lv1 <精霊視> 精霊を視る目を得る。
Lv10 ??
Lv20 ??
Lv30 ??
▽光魔道
Lv1 <光球> 光の球を前方に射出する。
Lv5 ??
Lv10 ??
Lv15 ??