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19 裁縫とおしゃべり

総合評価5,000ptありがとうございます!


また、誤字報告本当に助かっております。

昨日から今日にかけて沢山見つけてくださっている赤ペン先生さん、この場を借りて感謝します!






「やぁ、こんばんは」


「こんばんは、ショーイチ。2人は?」


「今日は来れそうにないみたい。さっき連絡があったよ」


「そっか」


「そんなわけで僕ら2人だけだし、服売るんでしょ? 手伝うよ。<裁縫>は手伝えないけどね」


「いいの?」


「ふふ、暇だからね」



フリマの一角。私のスペースでついに上位スキルとなった<裁縫>をチクチクやっていると、ふいにショーイチが現れた。

私の隣の椅子に座り、楽しそうに置いてあった売り物の服を机に丁寧に並べていく。

最後に端っこに何かアクセサリーを置く。彼も<細工>を取っていたし、作った小物でも売りたいのだろうか。寛容な私は許してやることにする。



「お? おう嬢ちゃん!久しぶりだなぁ!」



隣のスペースの[木工師]、義太夫さんが帰ってきたようだ。

いつも通り荒っぽい言葉遣いに、さわやかエルフのいでたちだ。

腕には太く堅そうな木を抱えている。インベントリに入りきらなかった分を力任せに持ってきたのだろう。



「ご無沙汰してました。進捗どうですか?」


「ばっちりよ! おかげさまで見習い卒業したぜ! この前はあんがとな!」


「いえいえ、僕たちも良いレベル上げになりました」



[鏡の魔女]に転職した次の日、私がクリスのところに事情を聴きに行った日のことだろうね。ショーイチたちは彼ら生産組のレベル上げを手伝っていた。



「ところでよ、さっきまで赤いフリフリが嬢ちゃん探してここまで来てたぜ」


「赤いフリフリ...? エシリアさんかな? 何の用だろう...」



赤いフリフリと言われて思いつくのは、真っ赤なゴスロリ幼女。[炎熱魔術師]のエシリアさんくらいだ。

私を探してた? 何か用があったのかな?



「そらおめぇ、服買いに来たんじゃねぇか? ま、入れ違っちまったのは仕方ねぇ。また来るだろ」


「そうですかね? まぁ、それならそれでいいんですが」



赤いフリフリの事はひとまず置いておいて、<裁縫>で服を作りまくる。「柔らかな鎧下」や「白の長袖シャツ」なんていうありふれた商品が売れ筋のようで、ちょくちょく売りに来るたび真っ先になくなる。

今回はちょっと多めに素材を用意したし、キャンペーンも終わったからしばらく<裁縫>ができるはずだ。

新しいイベント始まったけどね。



「お、魔女っ子の店開いてるじゃん! ラッキー! インナーあるかい?」


「「柔らかなインナー」なら1着500セルだよ」


「鎧下ありますか? 予備含めて2着欲しいんですけど」


「ございますよ、お嬢さん。2着で1400セルですね」



ショーイチがいい感じに接客している。私がやるとどうしても事務的になってしまって、相手が黙ってしまうのだ。彼のこういったやり口は本当に上手い。

男と女で明確に対応分けてるのはいただけないけど、大方何かのVRギャルゲーで学んだのだろう。彼はそういうやつだ。



「白いシャツを売ってくれ! 魔物に破られちまってよぉ...」


「東奥地ですか?」


「おう!東の奥の方に行ったんだが、レベル上げ中にやたら視線感じてなぁ。モテ期来たか?とか思って気が散っちまった」


「お前がモテ期とか世も末だわ。俺も視線感じてたし、多分あれはお前じゃなく俺への視線だったんだよ」


「僕から見たら、お二人ともモテそうですがね」


「おいおい、イケメンが言うと嫌味だぞ?」


「魔女っ子と知り合いってだけで妬ましいからな!!」



ことゲーム内においては、彼のコミュ力はすさまじい。ただ物を売るだけなのに、なんでそこまで話広がるの...?

逆に現実でもゲームの話ばっかりするから、普通の女の子が寄り付かないんだけどね。


...ふと、視線を感じた気がした。そちらに目をやるも、誰もいない?



「ん? ちょっと用事できた。すぐ戻るよ」


「うん、分かった」



ショーイチはすっと立ち上がるとどこかへ走っていった。少し遠くにスペースのある他の生産プレイヤーと話しているようだ。流石の交友関係だ。

そんなことを考えていたら、今日会う予定の人物がこっちに向かって走って来るのが見えた。



「マリさーん!来ましたよ!」


「カナデさん。早かったですね」


「そりゃ早く来たくもなりますよ!!」



<波長魔術>を持つ[音楽師]、カナデさんだ。予定より30分は早い到着だけど、何が彼女をそこまで駆り立てているのだろうか?



「だって、竹光がめっちゃ肌触りのいい服着てたんだもん!しかも内緒で!!」


「彼が着てたのって、私の作った服でしたっけ? 照れますね」


「この「初心者」の装備、肌触り最悪だー!ってずっと思ってたんだよ...」



このゲームは服の着心地までしっかり再現されている。普通のゲームなら良い鎧だけ買えば事足りるが、このゲームだと着心地悪すぎてストレスがマッハだ。鎧の継ぎの部分が肉を挟んで死ぬほど痛いとかしょっちゅうあるらしい。

とはいえ、最初の街で買える市販のシャツは肌触りが悪い。ここで<服飾>プレイヤーの出番となるわけだ。

良い感じに隙間産業に入り込めたかな?



「それじゃ、早速詰めていきますか?」


「マリさん、やっちゃう?」


「やりましょう」



今日の予定は「カナデさんの服を作る」。ついでに、<裁縫>へと進化したスキルの限界も図っておきたいところだ。

と、ここでショーイチが帰ってきた。



「ただいま。おや、カナデさんいらっしゃい」


「昨日ぶりですー!」


「それでショーイチ、なにかあったの?」


「いや、特に何もなかったみたい」


「そっか」



ショーイチに店を任せ、店の裏でカナデさんと衣装の見た目を詰めていく。

可愛らしく整った顔立ちに、明るい茶色のふわっとしたロングヘア。胸も大きめ。これは気合が入りますね。



「やっぱり[音楽師]を前面に押し出したデザインで...音楽に関連した衣装...指揮者っぽい感じとか?」


「そういうのいいですね! マリさんの魔女っ子風も[鏡の魔女]感があって可愛いなぁって思ってたんですよ! 音楽だったら、音符とか五線譜の刺繍とかいれたりして」


「いいね! 指揮者のタキシードの裾を伸ばして魔法使いローブ風にして、帽子はスパニッシュハットにしよう。色は何がいいかな?」


「白がいいです! マリさんと対になる感じでエモい! ハットとタキシードローブに入れる刺繍は青色がいいんですけど、青の素材って...」


「大丈夫。ちょっと高いけど、街の呉服屋でこの前買った光る奴がまだ使い道なくて残ってる。タキシードの中はやっぱりスカート?」


「スカート!アウターが白だし、色は暗めが――」


「黒青のチェック生地を確保してあるから――」


「じゃあ僕が金属系の加工を――」


「金属やってくれるなら、服のパーツも――」



いつの間にやらフリマのお隣さん、[鍛冶師]にクラスチェンジした赤毛のポニテ僕っ娘のカーネルが話に混ざり、当初の予定よりも豪勢なカナデの服が設計されていく。



「女三人寄れば(かしま)しいとはいうが、なんていうか...ショーイチよぉ」


「音量的にはうるさくないのに、なんでしょう...凄みがあるというか」


「男の俺らには分からねぇ世界だよな...

そういやおめぇ矢の細工の調子はどうでぇ? 今なら手隙だ、あいつらみてぇに相談しながら二人で作れるぜ」


「矢ですか、いいですね、沢山作りましょう」



大まかな衣装の設計が終わった。あとは作るだけだ。

<服飾>の初期、私の魔女服を作った頃に比べて、格段に製作スピードが上がっている。晩御飯を挟んだとしても、今日中には作り切れるかな?



「そういえばカーネルさん、こんなの拾ったんですけど使えます?」


「お?おお?おおお?」



インベントリの中から取り出すのは、ゴブリンナイトの取り巻きが持っていた「大きな鉄のこん棒」。

まだプレイヤーは鉄を見つけてはいなかったはずだ。



「これは、鉄だね!? よし、僕に任せたまえよ!!」


「ついでにそれでカナデの大音叉も作ってほしい」


「えっ? いいんですか?」


「対価は貰うから」


「対価...?」



私はそっとショーイチを指さす。具体的にはショーイチの座る椅子だ。

ショーイチは苦笑いをしながら困った顔をしている。



「おいおい、俺らのアイドルが2人もいるぞおい」


「やばくね? あの二人って固有持ちだろ?」


「鏡の魔女、近くで見ると可愛すぎてハゲそう」


「お前もうハゲてんじゃん」


「おねぇさま...」



さすがのショーイチも、これだけは捌けなかったようだ。

このまま二人で何事もなくログアウトするのもいいけど、私は過去から学んでいるのだ...!

適度にガス抜きさせないと、大変なことになると...!



「カナデ。スケープゴートよろしく」



グッドラック。














「インナー3着で1500セルです」


「ありがとう...ございました...!!」



彼女をレジに置き、ショーイチに品出しと説明を任せたまま、私は裏方でチクチク。途中で優雅に晩御飯も食べちゃった。

おかげさまで、カナデの服が完成した。名付けるとするならば、「魔法使いのセクシー女指揮者」といったところだろうか? ついつい気合が入ってしまったね、てへへ。



<HR> 白青のスパニッシュハット 製作者:マリカード

 美しい白布をふんだんに使ったスパニッシュハット。簡単にずり落ちないように工夫されている。

 青色にちらちらと光る糸で丁寧に刺繍が施してあり、その輝きは世界に一つ。

 鉄の部品で補強されており、耐久性に優れている。


<HR> 白青のタキシードローブ 製作者:マリカード

 美しい白布をふんだんに使った裾の長いタキシード。

 大きめの鉄製のボタンが付いており、裾部分には美しい青の刺繍が施されている。

 耐久性が高く、物理防御にほんの少し恩恵がある。


<HR> 肌触りのいい白いブラウス 製作者:マリカード

 吸湿性の高い布を使っており、肌触りがいいブラウス。

 丁寧に作られたそれは、見るものにフォーマルな印象を与える。


<HR> 黒青チェックのぺプラムスカート 製作者:マリカード

 黒青チェック模様の生地を丁寧に縫い合わせたスカート。

 万が一めくれても中身が見えないように細工されている。


<R> 鉄の大音叉

 鉄で作られた大音叉。音を扱う魔法の触媒に使える。

 殴るといい音が鳴る。



<裁縫>になったことで、いまのところ<HR>まで作れるようだ。かなり気合入れたから、これが限界と言って間違いないだろう。

ちなみに片手間で作ると<HN>とかそこらだろう。


カナデとショーイチもついさっきようやく売り切れたようで、カナデは灰になっている。

カナデとカーネルを呼び込み、早速着替えてもらう。



「うむ...うむ...」


「すごい、サイズぴったりです...」


「これはいいものだね...僕も欲しいくらいだ...」



身に着けてもらったところ、思っていた通りぴったりサイズだった。

真っ白な装備はカナデの明るい茶髪を強調させ、ところどころに施された青い五線譜や音楽の記号は、彼女が何者なのかを如実に表している。

ローブのおなかから下にはボタンを付けていないので、前からはチェックのスカートと黒いタイツが目に入る。スカートの中は見えない特別仕様だ。

それよりなによりも語るべきは、扇情的に強調されたその大きな胸だろう。

下から持ち上げるように、それでもおかしくならないように布を縫い合わせ、相手の眼を釘付けにすること間違いないだろう。


くくく、このまま私の代わりに、スケープゴートとして他の人の目を引いてくれ...!!



「これは、とてもいいものですね! 本当にありがとうございます! マリさん、カーネルさん!」


「カナデに喜んでいただけて何より」


「そうだね。僕も鉄を扱ういい経験を...マリ? なんだか悪い顔をしているね?」


「? なんの事でしょう?」



『ロー率いるPT[獣人の衆い]が東の平原エリアボスを討伐しました。以降、東の平原エリアボスは弱体化されます』



「ローさんのところか。思ってたより早いね」


「そっか、ローさん達、エリアボス倒せるレベルまで育ってたんですね...」


「どうする? 明日辺り、僕らもアタックしてみるかい?」


「弱体化されたみたいだし、雰囲気つかむにはちょうどいい相手かもね」


「マリさん、ショーイチさん! 一緒に行きませんか!? こっち竹光がしばらく出来ないらしくて、イザムと2人なんですよ」


「こっち4人だし、丁度いいんじゃないかな?」


「じゃ、明日行こうか」


「オーケー、皆に確認取ってみるよ。カナデさんもイザムくんに確認しといてね」


「分かりました!」


「私、明日は多分昼からやってるから、いつでも連絡して」


「りょーかいです!」



ということで、カナデ、イザムを交えてエリアボスを倒しに行くことになりました。



















最初は丁寧に「カナデさん」だったのに、どんどん遠慮がなくなっていつの間にか「カナデ」になりました。

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