2 咆哮と邂逅
『さらばだ、[勇者]』
龍王のそんな一言と共に、放たれる白と黒の奔流。
全てを巻き込み、一瞬で勇者を消し飛ばし、轟音を響かせながらそのままプレイヤーのいる広場へ向かってくる。
あぁ、これは死にましたね。
「んなっ!?」
「そんなんありかよ!!」
と阿鼻叫喚の断末魔があちこちから聞こえる中、一瞬で蒸発していくプレイヤー達。
―――俺の代わりに、龍王を...倒してくれ.....
死ぬ間際、勇者の呟きが聞こえた気がした。
どうやらここまでがオープニングイベントのようだ。
これで、初期の街にリスポーンするのだろう。よく考えられたイベントだ...
さ、私もリスポーンして、レベル上げしようかな!
龍王に吹き飛ばされた瞬間に目の前に飛び出たウィンドウを確認する。
「
龍王の咆哮により死亡
●リスポーン→最初の街<アイネール>
〇生命珠を使用する
」
ん?
《生命珠》が使用されました。
んん?
気が付くと、目の前に大きな城。
その目の前に広がるとんでもなく広い広場だった。
そう、だった。
焼け焦げ、抉れ、ただ広いだけの荒れた土地。広場だったものだ。そして誰一人として生き残ってはいない。
まぁ、ラスボスっぽい敵の本気っぽい攻撃だし、5万人いたとしても初期装備のレベル1じゃ木っ端も同然かな。
用がなくなったであろう龍王はそそくさと帰ったようだ。雷雲も遠ざかり、今はそこそこ晴れている。
「うーん」
もしかしなくても。
負けイベント、生き残っちゃったのでは?
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<マリカード> ヒューマン ♀ Lv1
職業:なし SP:0
▼装備
<N>旅人のローブ
<N>旅人のシャツ
<N>旅人のズボン
<N>履き潰れた靴
▽有効スキル
▽魔法系スキル
水魔道 Lv1
▽生産系スキル
服飾 Lv1
▽便利系スキル
目利き Lv1
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インベントリ
初心者用HPポーション 10
初心者用MPポーション 10
ステータスを確認したけど、インベントリに入っていたはずの持ち込みアイテムが消滅してた。
ってことは「ランダムアイテム」で手に入れていたのが、一度だけ死亡を回避できる感じのアイテム《生命珠》だったってことかな...?
なんかいきなりゲームの大筋を外れた気がしないでもないけど...
「まぁ、ラッキー...なのかな?」
とりあえず、飛んだり跳ねたり<水魔道>を飛ばしてみたり、今できることを確認した。
<水魔道>は、今のところ水球を飛ばせるだけのようだ。
▽水魔道 Lv1
水球
水球を作り出し、指定した方向に射出する。
こんな感じ。
水球の速度は、お父さんと昔やったキャッチボールくらい。ぶっちゃけそんなに速くない。
...これに当たったところで、ダメージになるのだろうか?
服飾は確認できなかったが、目利きを自分の着ている服に使ってみると
<N>旅人のシャツ 120セル
と、防御力とか詳細なステータスが見られる訳じゃなく、商品価値が分かるだけのようだ。
...これは失敗したかな?
いや、まだスキルのレベルは1。育てたら使える子になるはずだ。きっと。
「うーん...とりあえず、あそこ行ってみようかな?」
目に入った城を目指そう! だって、まわりにそれしかないし。
※
「ふおぉ...ひろぉ...」
正面からお城に入りまっすぐ進むと、それはそれは広い部屋が広がっていた。
多分、謁見の間だろうと思う。
道中の調度品や壁に飾られた絵画などは、どれもぼろぼろで風化していた。目利きによると価値は0セル。残念。
ところどころにある観葉植物のようなものも、人の手で管理されないまま長い年月が経ったのだろう、もはや壁を伝う大きな樹のようになっていた。
謁見の間の正面奥には、少し高くなった場所に大きく立派な椅子が今もそこそこ奇麗なまま残っている。
座っていいかな...?
「ふふ、くるしゅうない。くるしゅうないぞ?」
誰もいないし、椅子に座って少しだけ王様気分を味わった。
綿のない硬い椅子だったけれど、まぁ、いい気分ではあったから良しとする。
「大体こういうゲームだと、王様の椅子の裏には隠し通路が...」
探したけどなかった。残念...
気を取り直して城を探検する。
思ってたよりもものすごく広かったようで、1時間ほど歩き回ってしまった。
でも、発見はあった。
「なにこの部屋...不思議」
城の一番てっぺんにある部屋。寝室っぽい部屋の天井に、まるでドアのような構造があったのだ。
近くにあった本棚をよじ登り、なんとかそのドアをくぐると、一面鏡張りの迷路のような部屋があった。
万華鏡のように自分の姿が四方八方に映る。光源もないのに、どこを見ても明るい不思議な部屋だ。
そんな四方八方の鏡に映った自分を見て、改めて思う。あぁ、この角度から私ってこう見えているのか...とか、もうちょっと痩せたほうが...とか。
そんなことを考えていると
「へぇ、こんなとこに客なんて珍し...何をやっているんだい?」
やっぱ映えて見えるんだなぁと、モデルポーズをしていた私に声をかける青年。
※
「実は、こういうことがあって...」
「なるほどね、まぁた何というか斜め上の方法だね、んふふ」
だからこんなにも早くに...いや早すぎ...と呟く目の前の青年。
今までの事を掻い摘んで話したら、ふんふん言いながら納得してくれたようだ。
見た目はなんだか全体的に白っぽく、透けているような...そんな青年。
髪の色なんて現実じゃあり得ない感じだ。だって、CDの裏面みたいに輝いてるし。
「あぁ、すまない。名乗るのが遅れたね。僕は[鏡の精霊]のミラ」
「あ、私はマリカードです。...[無職]です」
「ふふ、その状況だと仕方ないよね」
精霊だったようだ。
無職と聞いてにこにこと笑うミラ。
マジメに無職ですっていうのすごい恥ずかしいけど、事実だから仕方ない...
「でもそうか...[無職]ねぇ」
丁度いいかもなぁ...と呟くミラ。
「...」
「あぁいや、馬鹿にしてるわけじゃなくてね!」
「はぁ」
「ねぇ、突然だけど、マリカードはどうしてもなりたい職業とか決まっているのかい?」
唐突にそんなことを聞かれた。
なりたい職業かぁ...
「着飾るのが好きなので、[裁縫師]とかですかね? あぁ、でも魔法も使いたいから、[魔術師]もいいかもって思ってます。どうしてもコレ!っていう職業は今のところないですけど」
「なるほどなるほど! そしたらさ、[鏡魔術師]になってみないかい?」
「[鏡魔術師]?」
「うん、鏡の魔法を使える良い職業だと思うんだけど。どうだい?」
優男スマイルで聞いてくる。
まぁ、これといってなりたい職業もないし、案外<服飾>にも使えるかも...
いつでも着こなしチェック出来るの、もしかして割とアリなのでは?
ここは流されてみるのも一興なのでは?
「いいですね、[鏡魔術師]」
「良かった!断られたら泣くところだったよ。じゃ、さっそく」
ミラが手を振ると、私の目の前にウィンドウが表示される。
なになに? 「転職チュートリアル」?
「僕は今から君を[鏡魔術師]に転職させようと思う。だけど、君はチュートリアルを受けていない[無職]。
だから特別に、今ここで僕がチュートリアルを進めようと思うんだけど。いいかな?」
「おー、よろしくお願いします!」
ぺちぺちと拍手しながらお願いする。
おぉ、なんだかテンション上がってきた。
MMORPGをやってるぞ!って気持ちがすごい。
「普通の異邦人は、最初の街<アイネール>に入ると同時にこのチュートリアルを進行するんだ。
そこで初めての職業に就くことになる。ちなみに職業は、その人が持つスキルによって解放される。
例えば、<剣術>を持っているなら[見習い剣士]。<火魔道>なら[見習い火魔術師]って感じでね」
「そうなんですか」
「うん。そして各自選んだ職業と種族によって、レベルアップによって上がるステータスや解放できるスキルも変化するのさ」
「なるほど」
「最初に選べる職業は、大体が[見習い]なんだけど。そこから成長するにしたがって、転職する幅が広がっていくわけだ」
「転職って、レベルの制限はあるんですか?」
「ん? 特にないよ。 いつでも転職は可能さ。該当スキルがあるのなら、[剣士]をやってても[魔術師]に転職できるし、その逆も然り。
ただし、上位職になるには、実質レベル制限があるといってもいいかもしれないね。
上位職の開放の条件が問題になるんだけど、スキルとスキルレベル、それからプレイヤーレベルに依存だからね。一定のプレイヤーレベルに達するまで、上位職にはなれないといっても過言ではないのさ。
あぁ、もちろんだけど、ステータスの伸びに関しては上位職の方が有利だけど」
「なるほど、それじゃ別の質問なんですけど―――」
と、しばらくの間ミラから色々な話を聞いた。
まとめると
・解放済みの職業であれば、いつでも転職できる。
・職業はレベルアップ時のステータスの伸びと解放できるスキルに関わる。
・上位職はスキルとレベルで解放される。
・上位職の方がレベルアップ時のステータスの伸びが良い。
そのほかにも
・プレイヤーレベルやスキルレベルを上げると、SPを獲得できる。
・SPを使うことで、解放したスキルを有効化できる。
・スキルによってはSPを使わずとも有効化出来たりする。
・初期職の一つ上の二次職は、大体レベル15が目安。
とのことだった。
なんだかとっても自由度が高い気がする。
これってあれでしょ?
ちょっとだけ[魔術師]をやって魔法系のステータスを伸ばして、武術系職業で魔法をある程度使えるようにするとか、[魔術師]と回復系の職業をとっかえひっかえして、色々使える万能後衛になったりできるってことでしょ?
うーん、でも逆にあんまりおかしな転職繰り返すと器用貧乏まっしぐら...難しいなぁ。
※
「大体わかりました!丁寧にありがとうございました!」
「別にいいさ、これくらい。さ、最後に君の転職を終わらせようか。
でもその前に...」
ミラがすっと近づき、私の額に手をかざす。