13 魔物討伐戦とトッププレイヤー
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魔物討伐戦 GAME START
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魔物討伐戦が始まった。周りのプレイヤーたちは我先にと遠くに見えるゴブリン軍団めがけて突っ走っていく。
そんな中私たちは少し外れた場所に移動し、さっきショーイチが提案した魔法を唱える。
「<水壁>」
<水魔道>Lv10の<水壁>を唱える。私の目の前に水の壁が張られる魔法だ。
特に攻撃から身を守ろうとかそういう事ではなく、ただ単純にこの魔法が一番水量が多いのだ。
<水壁>の魔法陣が張られ、まるで緩やかな滝のような水の壁が張られる。
私はその壁に新しい魔法をぶつける。
「<水銀>」
転職して新しく覚えた魔法、<水鏡魔術>の<水銀>。
この魔法は、自分の水系魔法で出現する「水」を「水銀」に変化させる。これをぶつけられた私の<水壁>は、たちまち銀色の壁になる。
そして最後の仕上げにもう一つ。
「<操水>」
自分の周りにある「水」を操る魔法、<水魔術>Lv1の<操水>。
水銀の壁はぐねぐねと形を変え、馬のような形に...??
「...なんにゃ?この銀ピカ芋虫」
「あれ...思ってたより操作めっちゃ難しい...」
「...うん。形はどうあれ、早く動ければ...」
「え? 俺さっき馬に乗っていくって聞いたんだけど」
馬になるはずの水銀は、芋虫からさらに形を変え、なんとか4足歩行になった。
ずんぐりとした熊以上に太い四肢に、首から上が無い。こいつには是非「オメガ」と名付けたいところだ。
<操水>でもっと精密に操作するにはSLvが足りないのか、それとも...例えば<魔力操作>的な何かがあればいいのか...今度クリスに聞いてみよう。
「んぅ...これ以上は無理っぽい」
最終的に、球状の胴体部分にアメンボのような足が4本生えた可愛らしいものになった。
3人がそそくさとオメガちゃんに乗り込む。
「最初に比べたら...スタイリッシュな見た目になったね」
「マリも早く乗るにゃ!出遅れちゃうにゃ!」
「戦場が俺たちを待ってるぜ!」
3人が乗ってるオメガちゃんに私も乗り込み、操作する。ゲシゲシと足を動かして走り出すも、スピードは速いのだが乗ってる私たちががっくんがっくんとアホ程揺れる。
なんとか速度を維持したまま揺れに対処。そうこうしていると操作に慣れてきたのか、途中で足をさらに4本増やすと動きも安定した。
「くっそ、出遅れちま...ッてなんじゃあれ!」
「銀色のクモ!?きっしょ!!」
「あれ何の魔法だろ...固有かな?」
散々な言われようだが、実際乗り心地良いしめっちゃ早い。この調子なら1番槍を飾れそうだ。
我こそは一番槍!と息巻き走るプレイヤーを横目に、オメガちゃんは疾走する。擬音を付けるなら「げしげし」だろうか? 「かさかさ」じゃなければなんでもいっか。
「クモ」という言葉が耳に入ったので、動きもそれとなくクモに寄せてみる。あっ...なんか動かしやすいかも? ついでだし頭も付けてみようかな...
「にゃ? いきなり乗り心地が良くなったにゃ?」
「クモの動きを真似してみました」
「にゃ...」
「ここから見た感じ、思った通り手前側にはレベルの低いゴブリンが集まってるみたいだね」
「いきなり奥行くのは、ちと辛そうだな...」
オメガちゃんの頭を作ってたら、いつのまにか戦場に着いたみたいだ。うじゃうじゃといるゴブリンと接敵まで30秒程度のところで、全員オメガちゃんから飛び降りる。
オメガちゃんはそのまま敵陣に突っ込ませておいたけど、途中で<操水>の範囲外に入ったのか「クモ」の形が液体に戻り、ちょっとした銀色の津波みたいになった。
臨戦態勢を整えて、まずはグレンが吼える。
「ゴブ共ォ!!かかってこいやァ!!」
「んー、いつ聞いてもクソうるさいにゃ...」
盾術スキル<集敵>。大声を上げる事でも発動可能なこのスキルは、敵のヘイトを一気に集める。
波のようなゴブリンの突撃が、一気にグレンに押し寄せる。
「あとは任せたぜ! <構守>」
「任せろにゃ! <構剣>!」
「<構射>、一番槍は頂くよ! <連射>!」
グレンの<構守>、黄色い光が身を包み、防御を固める構え。
クロエの<構剣>、赤い光が身を包み、手に持つ剣が鋭さを増す。
ショーイチの<構射>、緑の光が身を包み、その集中力は高められる。
それぞれが武術系スキルの<構>系を使っていく。自分がこれから行う役割を宣言することで、その役割に連なる行動に大きな補正を与えるスキル。しかし、代わりにそれ以外の行動に負の補正がかかるというデメリットがある。
...武術系スキル持ってないから私には出来ないんだけどね。仕方ないから似たやつを使おう。
私はショーイチの放った数発の矢の行き先を見つめながら、魔法を唱える。
「<鏡値>。いただきます、クロエ」
「あいにゃ」
銀色の光が私を包む。体の動きが一瞬にして数段階引き上げられるような感覚だ。
<鏡魔術>Lv15...<鏡値>。PTメンバー1人のステータスを1つ、自分にコピーして上書きする魔法。これで私はクロエの「敏捷」をコピーする。
素早い獣人であり、敏捷系のパッシブを持つ。更に最近、猫獣人専用スキルっぽい<猫身>なんていうスキルを得た彼女の敏捷値は、ゲーム内最速レベルといっても過言ではない。
そんなクロエの敏捷をコピーした私は、彼女と共に遊撃する。
「あちしはMP温存しながらやるにゃ! <剣撃>!」
「援護は任せて。<水刃>」
クロエと二人でゴブリンの合間を縫うように動き回る。<集敵>の効果で敵はグレンの方しか見ていないので、素早い動きですれ違いざまに横から<剣撃>で撫で斬りにしていくクロエ。
クロエが討ち漏らしたり、攻撃しづらい敵は私が魔法で打ち抜く。水の刃を飛ばす<水魔道>Lv15、<水刃>だ。弧を描いて飛ぶそれは<鏡片>よりも範囲が広く、より貫通する。推奨レベル1のゴブリン相手になら、これくらいで十分だろう。
「守る分には余裕があるが、流石に数が多いな!」
「5万人近いユーザーが一気に戦うイベントだからね! ちょっとスタンドプレイが過ぎたかな?」
敵を集めるグレンとその後ろから弓を射るショーイチ。グレンはあまりにも弱いゴブリンの攻撃を防ぐのに飽きたのか、隙を見て斧で殴っている。
「にゃ、思ったけど、これくらいなら、スキル要らないにゃね」
「私はそんな事言ってられないよ。<水壁>」
「魔法使いなら、仕方ないにゃ」
「仕方ないと思うならスキル使って助けてよ。<操水>」
短剣を振りながら、途切れ途切れに会話するクロエ。
ぶつかってくるゴブリンの大群に<水壁>。突撃してくるゴブリンを数匹まとめて押しとどめる。
さらに<操水>を使って、水の壁からゴブリン側にトゲを大量に突き出して一網打尽にする。...この物量はちょっときついかも。
と、そんなことを考えていたら、ついにプレイヤーが追い付いてきたようだ。
戦いながら周りを見渡すと、目を引く集団がちらほらいる。
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「「「「「「<構剣>!」」」」」」
6人組の剣士は、まるで騎士のように一列に並んで剣を構え、<構剣>を発動している。赤茶けたマントがいい感じになびき、お揃いの騎士鎧は鈍く輝く。
「征くぞ!我ら錆銀騎士団、民を守るためなら喜んで血に塗れようぞ!」
「「「「「応ッ!」」」」」
隊長格と思しきプレイヤーが名乗りを上げると、流れるような連携でゴブリンを屠っていく。
剣術系と盾術系を全員が使っているようで、<集敵>を上手く使いながら敵をコントロールしている。<構剣>で剣術系に補正がかかるが、<集敵>の効果が下がっている。これを上手く使って<集敵>で敵が釣れ過ぎないようにしているのも上手い。
しばらくゴブリンを切り続け、周りにゴブリンがいなくなると、隊長格の人が一呼吸おいて騎士一人一人の顔を見る。そして息を吸うと
「我々の勝利だ!!」
「「「「「うぉぉぉおおおお!!!」」」」」
と、勝鬨を上げ称えあう。まるで戦争で生き残ったかのような喜びの感情の爆発だ。
まぁ、まだ戦いの途中なんですが。
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「はっはぁー!! 余興ご苦労だな銀色!! 俺様の登場だぁ!」
目立つ青いマントを翻し、まるで主人公のような金髪の魔人の男。両手には1本ずつ、銅色の剣。銀色とは私の事だろうか?
「敵の量はそこそこだな!こんなクソ雑魚共さっさと蹴散らして、ボスのお目見えと行こうや!!」
「イザムー、さっさと狩ってきてー」
「分かってんぜ、竹光!<構双>、/右攻、/左攻!カナデ!」
「はいはーい! <波長魔術>、<調律>!そ~れ!」
カナデと呼ばれた女の子が、その手に持った大きな音叉をゴブリンに振り下ろす。ポーンという戦場とは場違いな音が響き渡るが、その音を聞いた瞬間、聞いたプレイヤー全員にバフがかかる。
<波長魔術>、聞いたことがない。音に関する固有魔法だろうか?
「おらァ!<双撃>ッ!」
「<音撃>!どーん!」
「<成長>、<根の槍>」
[双剣士]のうるさい青マントのイザムが双剣で切り込み、群がり始めたゴブリンをカナデが<波長魔術>の<音撃>で吹き飛ばす。鐘の鳴ったような音が周囲に広がる。
そして、吹き飛ばされたゴブリンにエルフの竹光が<木魔道>で追撃する。振り巻いた種に<成長>を使い一気に成長させ、<根の槍>で地面から勢いよく槍のような根で突き刺す。
「おら!こんなもんかゴブリンども!」
「ゴブリンなんて推奨レベル1でしょ? しょうがないと思うんだぁ」
「竹光!種はまだあるか!?」
「100とちょっとー」
「まだ全然いけそうだなァ」
魔人特有のギザギザした歯を挑発するように見せつけ、目をギラギラさせながら敵をにらむ。青くなびくそのマントは、敵の血で徐々に赤く染まっていた。
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ゴブリンの大群が押し寄せ、あちこちでプレイヤーが戦っている中、その場所だけ異質だった。
敵も味方も、地面さえも燃えていた。
「キャッハハ! 燃えてアタシのポイントになれ!! <爆炎>!!」
「そんな無差別に燃やすのはダメだろう、味方に当たったらどうする」
「そんなの構ってられないわ!」
テンション高く<爆炎>を敵陣にぶっ放す全身赤いゴスロリ幼女。そして、その子を宥めながらも肩に乗せる渋めの大盾おじさん。敵からしてみれば、さながら戦車だろう。
「エシリアちゃん、そんな魔法ぶっ放し続けたらさ、ボスが出たときにMP尽きちゃうよ」
「う...そんなの、後で考えればいいの!<火球>!」
「...うん、いい子だ」
大盾おじさんの言葉が効いたのか、<爆炎>をやめて<火球>を使いだした幼女。存外聞き分けが良いようだ。
「さっさと片付けちゃいましょ!アタシ早く強い敵と戦いたいわ!」
「そうだね、俺もそろそろ戦おうかなと思うんだけど、降ろしていいかな?」
「降ろすくらいなら...戦わなくていいわ」
「...そうかい、じゃあ敵を集めるから、俺の分も倒してくれ」
「任せなさい!!」
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「すごいにゃ」
「僕たちも負けてられないね」
「あんな人たちいたんだ」
◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇
▼武術系スキル
▽双剣術【レア】
<構双> Lv1
双剣を扱う構え。左手と右手でそれぞれ「攻」、「防」、「逸」などを設定出来る。
▽音叉術【レア】
<音撃> Lv5
音叉を大きく鳴らし、生まれた衝撃波を前方に飛ばす。ダメージは低いが吹き飛ばし効果が強い。
▼魔法系スキル
▽波長魔術【固有】
<調律> Lv10
一定の音を鳴らし、その音を聞いた味方の全ステータスを微上昇させる。
▽木魔道【種族】
<根の槍> Lv10
周囲にある木の根を操り、敵の足元から槍のように勢いよく突き出す。
<成長> Lv15
植物の種を一気に成長させ、木系魔法に必要な植物を作り出す。しかし、すぐ枯れる。
▽炎熱魔術【レア】
<爆炎> Lv1
火と風に通ずる魔術師に許された魔法。広範囲に爆発的な炎をもたらす。
▼便利系スキル
▽猫身
猫のようにしなやかで素早い動きが出来るようになる。
トッププレイヤー(ちら見せ)
後にマリと絡みます。カナデちゃんとか。
2019/08/08 2:08
分かりやすいように一部加筆。内容に変更ありません。