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エテルノ・レガーメ  作者: りくあ
9/11

第8話

「あら、ルカくん。早起きなのね?」

「あ、シェリアさん。おはようございます。」

「ルカーおはよぉー!」


シェリアさんと話をしていると、後ろから寝間着姿のウナが庭へやってきた。彼女は最近アリサの部屋で寝泊まりしていて、僕の部屋で寝る機会は徐々に少なくなっていた。喧嘩している訳ではなく、単純にウナがそうしたいと希望しているからだった。


「おはようウナ。アリサは起きた?」

「ウナ起こした!けど寝ちゃった。」

「そっか…。じゃあ、後でご飯持っていこうか。」

「うん!」

「おはようルカくん。」

「おはようございます!」

「そうだ。この間、ギルドに来たい子がいるって言ってたよね?ルカくんの向かいの物置部屋、片付けておいてくれないかな?」

「ヴェ…ルの事ですね。大丈夫なんですか?」

「住む所がなくて困ってる子なんでしょ?放っておけないよ。」

「ありがとうございます!片付けしたら、早速呼びに行ってきますね!」


ご飯を済ませた後、ウナと一緒に物置を片付けると、1人で森へ向かった。


「前はこの辺りで会ったんだけど…。どこにいるんだろう…。」

「ルカみっけ!」

「うわ!?ヴェル!なんでここに?」


木の枝にぶら下がり、逆さまになった彼女の顔が突然目の前に現れた。彼女は軽い身のこなしで地面に着地すると、僕の前まで歩み寄った。


「なんでって、ルカが来るのわかったから。」

「わかるの?」

「指輪!ヴェラが渡したんでしょ?それでルカの居場所がわかるの!」

「すごい!そんな機能あるんだね!」

「ところで、あたしに何か用事?」

「そうだった。ヴェル、ギルドに住んでもいいって。許可貰えたから呼びに来たんだ。」

「本当!?やった!すぐ行こう!」

「わっ!?引っ張らないでよー!」


ギルドの門の前までやってくると、ルルが目の前に現れた。


「ルカ様。この度は誠にありがとうございます。」

「あ、ルル。ううん。気にしないで。」

「いくつかルカ様にお願いがあります。」

「お願いって…何?」

「まず、ヴェル様が吸血鬼である事は誰にも話さないようにしてください。吸血鬼は人間から恐れられているので、内密にお願いします。」

「わかった…。他には?」

「日が暮れるとヴェラ様に変わるのですが、姿が変わると他の方が驚かれるので、ヴェラ様のお姿を見られないようにしなければなりません。」

「そっか…急に大きくなったらびっくりするよね…。わかった。」

「一応ヴェル様にもお伝えしていますし、私も常にそばにいるようにしますので大丈夫かと。」

「喋る猫は大丈夫なの…?」

「他の方には、にゃーとしか聞こえませんのでご安心を。」

「そ、そうなんだ?」

「ルカー!こっちー?あっちー?どっちー!」


既に門をくぐり抜け、中に入っていた彼女は敷地内をあちこち走り回っていた。


「待ってヴェルー!そっちじゃないよー!戻って来てー!」




「ここが二人の部屋だよ。」

「おおー!」


元々物置になっていた部屋は、要らない物を処分したものの、まだ残っている物も多く、お世辞にも綺麗だとは言えない状態だった。


「一応、掃除はしたんだけどあんまり片付けられなくて…。手伝うからこれから片付けを…」

「ううん。大丈夫!」


彼女が部屋の中央に向かって歩きだすと、親指に口をつけた。指から滴る血を床に垂らし、何やらぶつぶつと喋り始めた。


「っと…。…盟約は……証。我が血を…とし……変え、………に従…」


足元に溜まった血が浮き始め、部屋に飛び散った。


「うわ…!? 」


飛び散った血が壁や床に染み込み、部屋にあった物がすべて全く別の物に変わってしまった。


「すごい…。こんなことも出来るんだ…。」

「成功してよかった~。ルカの血は美味しいだけじゃなくて力もすごいや!」

「ですが、少々やりすぎてしまいましたね…。窓やドアまで変えるつもりはなかったのでしょうが、変わってしまいました。」

「ほ、ほんとだ…。まあ…大丈夫…だと思うけど…。」

「力が大きすぎると扱いが難しくなります。ヴェル様には少々厳しかったようですね。」

「うーん…ちょっと血を使い過ぎちゃった…。」


ふらふらとベッドに倒れ込むと、ルルが側に歩み寄った。


「ルカ様。大変恐縮なのですが…。」

「あ、うん。わかったよ。腕でいいよね?」

「よろしくお願い致します…。」


彼女に血を分け与えたが、以前のようにすぐに起きる事はなく、しばらくルルが様子を見ることになった。


「ルルー?ルカだけど…部屋に入っても大丈夫ー?」

「大丈夫ですよ。どうぞ。」


夕日が差し込み部屋の中が赤く染まっていた。


「ヴェルは…あれからずっと眠ったまま?」

「はい。まもなく交代の時間ですから、ヴェラ様とお話でもされているのでしょう。」

「ヴェルとヴェラが話を…?そんなことが出来るの?」

「身体の中にお二人の世界を作っています。一つの身体にお二人で住んでいる…と言った感じでしょうか。」

「ごめん…よく分からないや…。」

「契約者であるルカ様でしたらお見せしてもよろしいでしょう。見に行きますか?」

「見れるの!?すごい!見てみたい!」

「では、やってみましょう。まずは、ヴェル様の額にルカ様の額をくっつけてください。」

「えっ…額?…こ、こう?」

「はい。そのまま、目を閉じてお待ちください。」

「う、うん。」




「ルカ様。目を開けてください。」

「…ん?……あれ?」


目の前には青い海が広がり、心地よい波の音が聞こえる。さっきまで彼女の部屋にいたはずなのに、気がつくと海辺の砂浜の真ん中で横になっていた。


「ここはどこ?」

「ヴェル様、ヴェラ様の身体の中です。」

「え?海があるよ?」

「これはただの風景です。」

「いきなり過ぎて頭が追いついていけないよ…。」

「あれー?!ルカがいる!」


陸の方から少女の声が聞こえ振り返ると、黒いワンピースを身にまとったヴェルの姿があった。


「ヴェル!」

「ルルが連れてきたの?そんなことも出来たんだね!」

「ヴェルは知らなかったの?」

「うん!全く!」

「ヴェル。話の途中で居なくなるな!まだ終わってな…」


彼女の後ろから、同じ髪色で同じ髪型、同じ瞳の色をしている背の高い女性がやってきた。まるで、ヴェルの子供時代と大人時代を同時に見ているような、不思議な気分だった。


「本当だ…2人が同時に存在してる…。」

「ルル。お前が勝手に入れたのか?」

「いけなかったでしょうか?契約者であれば立ち入れるはずですが…。」

「いいじゃんヴェラ~。せっかくだし、ルカにここを案内しようよ!」

「あまり長居するのはよくない。さっさと済ませて。」

「はーい!よし行こうー!」

「え!?どこいくの!?」


ヴェルに手を引かれ、砂浜を走り出した。

海で囲まれた離島のような場所で、山があり、森があり、川があり、草花が生い茂っている自然豊かな環境だった。


「森とかもあるけど、生き物が全く居ないね?海にも川にも何もいないの?」

「ヴェラが魔法で作った場所だから、生き物は居ないよ。」

「魔法ってすごいなぁ…なんでも出来ちゃうんだ…。」

「2人で同じ身体を使ってるはずのに、あたしは出来ないことがヴェラには出来ちゃうからすごいよね!」

「お前が勉強しないから。だから私がこうして教えてやってるんだ。」

「身体が寝てる間、2人はここで過ごしてるんだ?」

「そう!あっちに家もあるよ!」


彼女は、海辺から山がある方角に指をさした。


「そういえば、外では夕方のはずなのに、ここは夜なんだね。」

「ここに朝と昼は存在しない。程よい月明かりがあって、うす暗い方が丁度いい。」

「あんまり太陽がピカピカーな場所は好きじゃないんだよね。吸血鬼は。」

「あれ?でも昼間、ヴェルは外に出てるよね?」

「昼間は私が魔法をかけて太陽の光を軽減していますので。」

「あ、そうなんだ…。」

「いろいろ知りたい事もあるだろうが、そろそろ戻るぞ。」

「えー!もうー?」

「ヴェル様。本日もお疲れ様でした。ゆっくりお休みになってください。」

「はぁーい。また来てねールカ!」

「あはは…来れたらね。」

「こちらに出口があります。参りましょう。」


森の中を進んで行くと大きな谷にやってきた。

谷底はかなり深いようで、底が見えない程だった。


「かなり深そうだね…落ちたら死ぬかも…。」

「落ちるぞ?ここから。」

「えぇ!?」

「ここから飛び降りることで元の場所に戻ることが出来ます。」

「こ、怖すぎるよ!他の方法は無いの?」

「ない。」

「えぇ…。」

「では、私が肩に乗りましょう。これで少しは恐怖が軽減されるはずです。」

「た、確かに少し安心するけど…。いくらなんでもこの高さは…。」

「じれったい奴だ。ほら、行くぞ。」


彼女が僕の腕を掴み、2人同時に谷に身を投げた。


「わ!?ちょっ…まっ…!うわぁぁぁ!!!」




「ぅ…。」


目を開くと、月明かりに照らされたヴェルの顔が目の前に現れた。ベッドの上で、彼女を押し倒しているかのような体勢になっている。ハッと我に返ると素早くその場から離れた。


「ルカ様。どうかされましたか?」

「え!?あ、いや!なんでもないよ!」

「ふわぁ…よく寝た。」

「あれ?ヴェラだよね?その姿ってヴェルのままじゃ…」

「魔法で昼間と同じ大きさにした。急に姿が変わったら、他のやつに見られた時にまずい。」

「その手もあったね…。」

「ヴェルには出来ないし、私がこっちの姿になるしかないだろうと思って。」

「ヴェラも結構大変だね…。」


ーコンコン


「ヴェル、いる?」


お風呂上がりなのか、髪が濡れたままになっているウナが、扉から顔を覗かせた。


「あれ、ウナ?どうしたの?」

「なんでここいるの?ルカ。」

「あーえっと…。ヴェ…ルに話があったから。」

「ウナだっけ?あたしに何の用?」

「お風呂!みんな終わったから、ヴェル次。」

「わかった!わざわざありがとう!」

「じゃあウナ、アリサの部屋戻るね。おやすみルカ。」

「うん!おやすみウナ。」


扉が閉まると、彼女は再びベッドの方に戻っていった。


「喋り方まで変わっててびっくりしたよ。」

「あー…。ちょっとだけ寄せてみた。でも疲れるんだよなぁ…ヴェルの喋り方。」

「ところでお風呂は入らないの?」

「………らい…。」

「え?なんて言った?よく聞こえなかったんだけど…。」

「ヴェラ様は水が嫌いなのです。お風呂は入りません。」

「え!?お風呂入らないの!?疲れも汚れもとれないよ?」

「ヴェルが朝一で入るからいいの!嫌いなものは嫌いなの!」

「ヴェル様の嫌いなものはヴェラ様が、ヴェラ様の嫌いなものはヴェル様が。お互いに助け合っているわけですね。」

「は、はぁ…。」

「それよりもやる事があるし。」

「やる事?」


彼女は思い出したかのようにベッドから飛び起きると、椅子に座っていた僕の方に歩み寄ってきた。


「もちろんルカも手伝うから。」

「ぼ、僕が手伝える事なら…?」

「大丈夫~ベッドの上で横になっててくれるだけでいいから~。」

「え!?それってまさか…!」

「ルル!確保!」

「うわぁ!?」


ルルの尻尾が伸びたかと思ったら、一瞬の内にロープのように身体に巻き付き、腕を動かせない状態になってしまった。そのまま身体が持ち上がり、ベッドの上に移動させられた。


「すみませんルカ様…。主の命令は絶対ですので…。」

「そ、そんなぁ…。」

「痛くないんだし、むしろ気持ちよくなるならいい事じゃない。」

「な…///!?」

「今日は時間をかけてゆーっくり味わうとするか~。」

「えぇ!?どうせ吸うなら早く済ませてよー!」


血を吸われて、ムズムズする感覚に長時間耐えなければならない、地獄のような一夜を彼女の部屋で過ごす事となった。



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