死んだふりと月の砂漠
夏も終わりに近づいた日の夕方でした
その日は西の空が不気味に赤色でした
葵のママはお店の表を掃除してました
かほる子のママがあわてて外に出てきました
西の空を見上げすぐに両手を大きく広げました
かほる子
神が御下りになるう~おおお
深々と頭を下げてなかなか頭を上げません
葵のママは掃除を止めてジーとかほる子を見つめてました
葵のママ
かほる子もいよいよ召される時が来たのかね~
そっとつぶやきました
かほる子は薄いピンク色に濃い緑の大きな四っ葉のクローバーがプリントされたパジャマでした
かほる子は何か祈るとクルッと向きを変えてお店の中に入って行きました
葵のママはヒモにつけて何かを引きずって来る小学校三年生位の男の子を見つけます
気になった葵のママは何か引きずった男の子がお店の前まで来るのを待つことにしました
何かを引きずった男の子が葵のお店の前まで来ました
引きずった紐の先に子猫が首にヒモをつけられ何の抵抗もせずにいるのが見えました
首にヒモをつけて引きずられている子猫はまったく動かずに引きずられるままになってました
葵のママは黙って見過ごすわけには行かずぼっちゃんを呼び止めました
ぼっちゃん
僕のことですか
いばったように言いました
そしてうるさそうに葵のママの顔を見て立ち止まりました
ぼっちゃんはナイキのマークが入った水色の派手な形のスポーツシューズをはいてました
それに白色に近いスラックスをはいて、長袖の後ろにgと大きく入ったシャツを着てました
髪の毛もきれいにスポーツ狩りにしてあります
首にヒモをつけられて引きずられてきた子猫はピクリともしないで引きずられたままでした
葵のママは死んでいるのかと思いました
葵のママ
ぼっちゃん子猫はどうしたの死んでいるの
やさしく聞いてあげました
ぼっちゃん
死んでない!
ぶっきらぼうに言うので葵のママは首にヒモを付けられ引きずられて来た子猫に近づきました
ぼっちゃんは突然子猫を引きずって歩き出しました
葵のママ
ちょ ちょっと待って
お店に入り冷蔵庫の中にある残り物のみかんを一個持って大急ぎでもどりました
首にヒモをつけられ引きずられて来た子猫は引きずられて来たままでした
葵のママ
ぼっちゃんお食べなさいよ
持ってきた残り物のみかんを出してぼっちゃん手渡しました
ぼっちゃん
人から物をもらってはいけない 両親から言われている
両親に厳しくしつけられているようなことを葵のママに言いました
葵のママ
まあ いいから今日は特別ね おネエさんとぼっちゃんの秘密よ
無理やり猫を引きずってきたヒモを持ってない方の手に残り物のみかんを押し込みました
ぼっちゃんは迷惑そうな顔をしました
そんなことは無視して首にヒモをつけられ引きずられて来た子猫を見ました
まだ依然として引きずられてきた姿のままピクリともしませんでした
心優しい葵のママは迷惑そうな顔の子猫を引きずって来たぼっちゃんに聞きました
葵のママ
猫大丈夫なの
ぼっちゃん
別に・
ヒモの先の子猫の頭をそう〜と撫でたら子猫は悲しそうな目で葵のママの顔を見上げていました
葵のママは子猫は死んでなかった よかったと思いました
首にヒモをつけて何の抵抗もしない猫を無理やり引きずって来たぼっちゃんにやさしく言いました
葵のママ
猫がかわいそうだから抱っこして帰ってあげたらどうから
葵のママは優しく子猫を抱き上げました
左手の爪の上に血がにじんでいるのを見つけました
葵のママ
おお 可愛そうに
葵のママは急いで自分の右手の薬指に唾をつけました
葵のママ
おばあちゃんに聞いた
子猫の血がにじんだ爪の上をさすってあげました
もう一度薬指に唾を付けました
葵のママ
おばあちゃんに聞いた おばあちゃんに聞いた おばあちゃんに聞いた
同じことを三回繰り返しました
それを!見ていたぼっちゃんは不思議そうな顔をしました
ぼっちゃん
衛生的に良くない
葵のママに向かって言いました
葵のママ
こうしてやると早く直るのよ
ぼっちゃん
・・・
葵のママ
誰に聞いたか言って続けて三回やるの
ぼっちゃん
・・・
葵のママ
ぼっちゃんはおネエさんに聞いたわけだからおネエさんに聞いたと言えばいいの
ぼっちゃんに話しました
ぼっちゃん
おネエさん
葵のママ
傷とかニキビ ふきでものにも効くの
ぼっちゃん
聞いたことがない
葵のママ
おネエさんはニキビなんか無くてお肌がとても美しいでしょう
ぼっちゃん
美しい? おネエさん
葵のママを見つめているぼっちゃんに優しく子猫を渡しました
葵のママ
おネエさんのお店がそこだから少し寄って話でもしていかない
語りかけるように話をするとぼっちゃんはひどくいやそうな顔をして葵のママの顔を見ました
ぼっちゃん
僕は早やく帰らないと塾に間に合わない
早やく帰らなくてはならないことを主張しました
ぼっちゃんは仕方がないからあんたの顔を立てやるよという顔で子猫を抱っこしてました
葵のママはぼっちゃんに急いで聞きました
葵のママ
動物愛護分かる
ぼっちゃん
動物を可愛がることだろう
知っているよという憎たらしい顔をして早やく帰りたいという態度がありありと見えています
葵のママ
それじゃ気をつけてお帰えんなさい
見送りました
ぼっちゃんは後ろを振り向きもせずにいかにも仕方なしに子猫を抱っこして帰って行きました
葵のママは後姿に向かって寂しげに歌いました
葵のママ
♪ひろ~い砂漠を~ ひと~すじに2人~はどこへ~ いく~のでしょう おぼろ~にけぶる~ 月~の夜を~
いかにも寂しげに歌い終わるとしばらくの間ぼっちゃんと子猫が過ぎ去った方向を見ていました
ママの目から一粒の小さな涙が絹糸をひくように流れました
葵のママ
猫も賢いねぇ 死んだ振りしていたのよ
首に紐をつけられて何の抵抗もせずに無理やり引きずられて来た子猫をほめました
少しでも子猫が幸せになれると良いのに祈りました
路地からもう無いカクレミノがソロソロと心配そうに枝を鳴らしているのが聞こえました
何の抵抗もしない子猫の首にヒモをつけて無理やり引きずって来た惨劇を目の辺りにしました
葵のママはぼっちゃんはどういう躾を両親から受けのか?
学校では何を教えているのだろう?理解に苦しみました