半ケツ座(すわ)りと直立不動
待ち合わせの場所 根岸線山手駅に着きました
ミコちゃんは今日は弘田三枝子に似ていないと思いながらも駅前で待ってました
古い型のグレーのトヨタのマーク2が近づいて来ました
男
お待ちどう
ミコちゃん
どうかしら
ほとんどどメイクしていないと言いました
男
うん
ミコちゃんが乗り込むと車はエンジン音も静かに動き出しました
根岸外国人墓地の方角を向いて走り出しました
しばらく走ると何軒か同じような住宅が並んだ家に着きました
一台ぎりぎりに入るような駐車場に車を止めました
車から降りると建売のような家の玄関を男の後について入りました
誰が出迎えるわけでもない静かな家の中に入りました
男
どうぞ
ミコちゃん
お邪魔します
男の後に付いていくと応接間に案内されました
応接間には一人掛けの本革の応接椅子が二つ有りました
小さなテーブルを挟むように向き合って座りました
間も無く応接室のドアが開いて可愛らしい女性が入ってきました
男の妻だと名乗りました
男とは歳がかなりはなれてました
その後に三角頭の女性がいました
三角頭の女性は腕を組んでミコちゃんの顔を見てました
見終わると男の奥さんの耳に口が入ってしまうと思うぐらい口を近づけました
三角頭の女性
ごそごそ・ごそ・ごそ・
何かを話すと部屋から外に出てドアを閉めてまだ話してました
今度はそっとドアが少しだけ開きました
メイクしないで来たミコちゃんをジ〜と見つめなおしました
ミコちゃんは大きな目でジロリと見つめ返しました
目が会ってドアは閉めずに三角頭は隠れました
するとすぐに話し声がイヤでも聞こえてきました
三角頭の女性
違うわよ あの人じゃないわよ
そのすぐ後に再び同じ声が聞こえてきました
三角頭の女性
あれはおネエじゃないの!
三角頭の女性は言いたい放題でした
思わず半ケツ座りの応接椅子からお尻がズルーとずれました
男の可愛らしい奥さんは三角頭の女性に言いました
奥さん
あ あ ありがとう
女性にはお引き取りを願うように背中を押し玄関まで押し出して行きました
お帰り願った後に奥さんが冷たい飲み物をミコちゃんに出しました
奥さん
遠くまでわざわざ申し訳ございません
深々と頭を下げました
ミコちゃん
お役にたてたかしら
奥さん
事情は主人から大体のところは聞いてました
男
まあ もう良いだろう
奥さん
ご近所でうるさくて しかもおせっかいで困って来ていただくしかなかったの
静かに申し訳なさそうに話してくれました
ミコちゃんはいつもの厚化粧をすることに決心して男の奥さんにお願いをしました
ミコちゃん
少しメイクを直したいの!
お願いしました
奥さんは洗面台のある部屋に案内してくれました
奥さん
どうぞ使って
気さくに答えました
メイクが終わるとまたもとの部屋に戻りました
奥さんは目を大きく見開きました
奥さん
ほ・ほう〜
一瞬 時間が止まりました
奥さんはミコちゃんの顔をミコちゃんは男の奥さんの顔をお互い見つめあいました
奥さん
弘田三枝子よぉ〜
ミコちゃん
よく間違えられるの
奥さん
私にもメイク教えてくれない
しんけんに言ってきました
奥さんはいつもほとんどメイクしないということでした
それとは別になんとなく二人とも気が合うことを感じました
男と結婚したのは十六年ほど前で若く歳も十四歳も離れてました
奥さん
何となく結婚しても良いかな みたいに感じて結婚したの
結婚後男は現役を割かし早くリタイヤしました
生活は投資を少しずつするなどお金には困ることはありません
中年の見本のような夫婦の生き方に感銘を受けました
中年の星だと思いました
そもそもミコちゃんは男にソロモンの宝のお店を開店する資金が足りませんでした
その時男から借りました
毎月わずかながら利息をつけて支払ってました
それ以上の深い関係はありません
そろそろ戻らないとお店を開ける時間になります
ミコちゃん
そろそろ失礼させていただくわ
奥さん
今度一度お店に行くわね
ミコちゃん
ぜひ一度おいでください
奥さんが楽しそうでした
女性同士お友達になれたことがとても嬉しいミコちゃんでした
玄関まで送られて外に出てみると男の住居からは港は見えませんでした
その代わりに見えたものがありました
三角頭の女性が少し離れた所からジーと見つめてました
三角頭の女性
ジーーー
ミコちゃん
居るわよ
男
あ そう
相変わらず答えはショートでした
ミコちゃんは三角頭の女性の方にクルッと向きを変えました
そしてかるくあいさつをしました
それを見た女性は あっ と口を大きく開けて直立不動でした
女性は直立不動で大きな口を開けたまま走り去る車を見つめてました
帰りも男のかなり古マーク2で根岸線の山手駅まで送ってもらいました
車の中でミコちゃんは三角頭のヘアースタイルの事を男に聞きました
ミコちゃん
どうして三角のヘアースタイルが好きなのかしらね
男
ヘアースタイルではなく元々の頭が三角 なんだ
ぼそっと言ったのでミコちゃんはお腹がよじれるのが分りました
男
車の後ろから見ても誰が運転しているか直ぐ分る
特に楽しいそうでもなく嬉しそうでもなく普通に教えてくれました
根岸線山手駅から帰ってきた弘田三枝子に良く似たミコちゃんです
帰りにも三角頭が本当に三角形だった事がとてもおかしくて笑いをこらえるのに大変でした
おネエ通りに帰って一人で大笑いをしているミコちゃんをペガサのママが見てました
ミコちゃんが戻ってから少し時間がすぎたある日のことでした
葵のママ
通りも空いているお店も出てきたわね
おネエ通りも高齢化が進みそこで新しいおネエを大募集しようと言いふらしてました
その翌日のことです
手書きの張り紙がおネエ通りのいたる所にありました