弁天小僧とロレックス
紫のお店には 四人掛けのボックス席が三つありました
他にカウンター席八つでおネエ通りでは二番目に大きな店です
今日の紫音ママは薄い紫色で絽の着物を着ていました
高そうな紫色の正絹の男帯を締めて
結びは片ばさみでした
履物は藤色をした和服用です
お客が足元を見ているのが紫音ママに分かりました
紫音ママは少しだけ絽の着物を上げて得意そうに足袋の話を始めました
着物を上げた足元には藤色の履物と紫色の足袋が見えました
紫音ママ
浅草の めうがや でえ!特別に作ってもらったものなのよぉ〜
草の根で染めた色なの!自慢してお客に見せびらかしました
なるほど 美しく高貴なムードの紫色の足袋をはいてました
はいている足をよく見ると どう見ても30センチはありそうな大きな足でした
紫色の足袋をはいた足は履物から大きく両側に!はみだしてました
そんなことをしているうちに マルちゃんに紫音ママがたずねました
紫音ママ
今なん時
マルちゃん
私は腹時計なの ママ ロレックスは
紫音ママ
あらいやよ!今日はお着物だから 金の〜ロレックスは〜着けていないのよ!
金のロレックスをとても強調して言いました
紫音ママの金のロレックスは一度も見た事がありません
紫音ママ
お着物は下着も着けないのが決まりごとなの!ホホホホ
微笑んでました
それを聞いていたミーコさんが左手を軽く口に微笑んでお客の顔をのぞき込みました
ミーコさん
ヤアダ〜アン〜ママ
今度は小町ママの顔を見てボックス席の上を見ました
ボックス席の壁に立派な額に入ったモネの青を基調とした睡蓮の絵がありました
この絵画はミーコさんがずいぶん前にモネのシルクスクリーンだと言われて買ったのもでした
もちろんにせものです
印刷をしたただの絵でした
小町ママ
マルちゃんは絵を買ったんじゃないの 高い額縁を買ったのよ!
笑顔で言います
林檎の歌のドアが開きました
入ってきたのは薄紫のチャイナドレスを着た若いおネエでした
チャイナドレスは ぼたんの花が刺繍してあります
お早うございます
チャイナドレスのおネエは全員に向かってあいさつをしました
それから紫音ママに向かって少し太めの声で言いました
ママ カネさんがみえているわよ!
入ってきたチャイナドレスの美しい女性は紫のお店の従業員です
愛ちゃんという美人のおネエでした
愛ちゃん
お稼ぎ〜〜
林檎の歌の正面 紫のお店に急ぎ足で帰って行きました
愛ちゃんは子供の頃にはよくいじめられました
おネエになってからは紫音ママと楽しく暮らしてました
愛ちゃんはママを激しく尊敬しています
愛ちゃん
うちのママはすごいの!おしゃれよ!物知りだし尊敬しているの
愛ちゃんの住まいはおネエ通りに近い紫音ママが借りているマンションの隣の部屋に住んでます
ママも愛ちゃんのことを妹のように可愛がっていました
林檎の歌に来ていた紫音ママはもう少し足袋の自慢をしたかった様子でした
お客のそばに近寄りました
紫音ママはお客の曲がったネクタイを直しました
紫音ママ
いい男ね〜see you again!
すごく気取って言うと立ち去ろうと林檎の歌のお店のドアを開けました
紫音ママ
あら雨・・月様・・雨が・・
月潟半平太に出てくる芸者梅松の名台詞を小町ママに向かって言いました
小町ママ
おまちなせえ 傘ならあるぞぇ〜
小町ママはカウンターの下から一本の古びた番傘を出して紫音ママに渡しました
紫音ママはドアに向かって歩き出します
ドアの近くまで来ると クルッ! カウンターの方に向き直りました
カウンターの方に向き直った紫音ママはガニマタでした
借りた傘をパッと広げ肩に担いで歌舞伎の 白波五人男!弁天小僧菊の助!
名台詞を吐きました
紫音ママ
知らざあ言って聞かせやしょう
浜の真砂と五右衛門が 歌に残せし盗人の
名さえ由縁の弁天小僧菊の助たあ〜おれがことだあ〜
と言いながら薄い紫色の着物の裾をたくし上げました
紫音ママは古びた番傘を差して音頭をとりながらガニマタで林檎の歌を出て行きました
紫音ママ
いよぅ〜ポン ポン ポン ポン いよぅ〜ポン
小町ママ ミーコさん マルちゃんお客は思わず・その素晴らしさに見とれてました
お客
おお おおおお~
お客はあいた口がふさがりません
そして拍手をしたのは弁天小僧菊之助がガニマタで出て行ってほんの少し間があいてからでした
お客は口をあけたまま何も言わずに帰りました




