兄嫁とネエエッー
すでに兄弟姉妹とおそらくその家族全員がそろっているのが道の向こうから分かりました
三郎はスーツの内ポケットを探ると財布を出しました
日善商事株式会社 化学薬品課 課長代理の名詞を確かめました
前の日に日本橋の人形町の板倉屋で買った六福神のお土産を持ち直しました
古くなって開きの悪い玄関の引き戸に手をかけると押し気味に力を込めて開けました
三郎
ただいまで〜す!
玄関に入りました
見たことがある懐かしい和式の重いテーブルが置いて在りました
ほとんど家族全員がテーブルを囲むように座って居ました
三郎
あらっ!
急いで言い直しました
三郎
こ こんにちわご無沙汰です
出来るだけ低い声で挨拶をすると長男の一郎の嫁が飛んで来ました
兄嫁
いやだ!他人行儀ね〜 サア サア サア 三郎さん上がって!
裏で転んで思いっきり顔をぶつけて平べったくなったような顔の兄嫁が出迎えてくれました
玄関上がり口の下から見えた兄嫁の顔は殆ど凸凹が見えません
昨年帰郷した時よも更に平べったい顔になってました
一年ぶりに実家に上がりこんだ三郎はまずお仏壇の前に正座しました
ご先祖様に六福神の人形焼を供えて三本の線香に火をつけて線香立てに置きました
三郎
南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経
三回唱えてから和式の重いテーブルの隅に席を取って見回しました
上座から長兄の一郎その横に平べったい顔の兄嫁がデンと座ってました
そして次男の二朗その横に姉の秋子と妹春子と並んで座ってました
次男の嫁が見当たりません
三郎
あれ 次郎兄さん 姉さんは?
次男
嫁は都合が悪く来ることが出来ない
その日は世間話をしながら兄弟姉妹と飲んだり食べたりして遅くまで話をして休みました
三郎の生まれ故郷は顔が去年より平べったくなった兄嫁にすっかり乗っ取られてました
三郎は故郷が少遠くなったように感じて 少し寂しい思いが心を一瞬過ぎ去りました
翌日三郎が起きて庭を眺めていました
すると顔の平べったい兄嫁が朝からご機嫌に鼻歌などを唸りながら近づいて来ました
兄嫁
三郎さ〜ん おはよ〜
ご機嫌にあいさつををしました
三郎
おはよう
普通にあいさつをしました
あいさつが終わるか終わらない内に顔の平べったい兄嫁が思いっきり耳元で言いました
兄嫁
三郎さん何時までも一人で居ては〜ねぇ〜すご〜く〜いい話があるの
間合いを伸ばし気味に嬉しそうに普通の声で話しました
三郎は思わず下がり気味に話を聞きました
その後朝食のときに顔の平べったい兄嫁が兄の一郎に向って賛同を求めます
兄嫁
どうかしらね
兄嫁は食事中にもかかわらずわざわざ向きを変えました
兄の一郎の方を向き詰め寄りました
一郎
・・・
平べったい顔の兄嫁は再び兄の一郎にものすごく近づきました
兄嫁
ネエエッー!
答えを催促されました
一郎
・・・
返事は聞こえませんでした
今度は平べったい顔の兄嫁は三郎に聞きます
兄嫁
川向こうのさっちゃんを三郎さん知っているわよね〜
高いテンションで去年より平べったくなった顔の兄嫁が三郎の顔をのぞきました
兄嫁は特別な笑顔で意味ありげに話し始めました