メイドと出っ歯の姉妹
先生がやとった老婆に近いメイドは働き者ででした
ワイシャツは洗濯していつもアイロンをかけて在り料理も美味しい中華料理を作りました
会話も困る事は有りませんでした
無口で余分なことは話さないところが先生も気に入ってました
そんな日々のなかで無口のメイドが突然話しかけてきました
メイド
先生は日本に奥さん有るか?
夕食を済ませるとすぐに帰るはずのメイドが日本に奥さんがいるのかと聞いてきました
先生
ん・
先生はめんどうだし少々酔っ払っていたことも手伝って生返事をして置きました
無口と言えばもう一人雇った運転手がいました
いつも ク ク クッと笑うやさしい男でした
くうちゃん と呼ぶ事に決めました
くうちゃんに行く場所等を告げるといつも元気にイエッサーと答えました
メイドは 奥さん居るのか 聞いた一週間ほど後のことでした
先生がアパートに帰ってドアを開けると美しくない出っ歯の女性が見えました
先生は部屋を間違えた思ってドアを閉めかけました
メイドの顔が見えました
部屋のドアを再び開けて中に入って行きました
三十歳位の女性が板橋の先生の住まいに来て居ました
先生が部屋に入るとメイドが出っ歯の美しくない女性に何か命令しました
先生にはキッチンのテーブルの椅子に座ってほしいと右手でテーブルの椅子を指差しました
良く見ると何時もは二つしかない椅子が三個になっています
先生は仕方なしに三個ある椅子のいつも座る椅子に腰を掛けました
メイドはテーブルの真向かいに有ったもう一つ椅子を運んで先生の隣に置きました
先生も椅子に腰掛けました
出っ歯の女性がふた付きの白い茶碗を三個お盆に入れて持って来ました
テーブルの上に置くと先生の前に茶碗のひとつを差し出しました
喉が渇いていた先生はふたをずらそうと白い茶碗に手を伸ばしました
メイドがあわてるように先生の手の甲を左手で軽く押さえました
そして右手の人差し指と中指を出してもう少し待てという仕草をしました
メイドが茶碗から手を退けてまもなく右手のひらを上に向けました
メイド
良いです!
先生は白い茶碗のふたを少しずらしました
飲んだら素晴らしい香りがしました
少し渋くそして飲み込むとほのかに甘みがしました
今まで飲んだ事のない味の烏龍茶でした
こんな烏龍茶は確かここには無かったはずと思いました
そして白い茶碗に入った烏龍茶を飲み干しました
すると隣に座ったメイドは立っていた出っ歯の女性にアゴをしゃくりました
すると出っ歯の女性は飲み干した白い茶碗に熱いお湯を入れました
出っ歯の女性はメイドの顔をジーと見てました
するとメイドはテーブルの向かい側の椅子を指差しました
出っ歯の女性は椅子に座りました
座った出っ歯の女性はジィッーとテーブルを見つめてました
メイド
先生 これは上の娘
日本語で紹介しました
メイド
とてもよい娘で料理も上手 気立ても頭も良い子で三十六歳ただ日本語余り分らない
娘の宣伝を一生懸命しました
出っ歯の事は何も話しません
結局は嫁にもらって欲しいということでした
娘の名前はシュウホウと言いメイドはアイギョクというとても老婆のメイドにふさわしくない美しい名前でした
リーさんと呼んでいた先生は始めて知りました
先生はしげしげとテーブルの前に座った気立ても良く頭の良い出っ歯の娘を見てました
身動き一つせずに下を向いてテーブルを見つめていた出っ歯の娘が突然顔を上げて先生の顔を見ました
出っ歯の娘
ヨロク オネガイスマソ
先生はすぐに何を言いたいのか分かりました
しばらく沈黙がありました
結果 先生の意見も聞かずにメイドと出っ歯の娘はおもむろに立ち上がりました
メイド
今日はこれで帰る
出っ歯の娘
サイチェン
振り向いて先生に軽く手を振って明るく歯を出してました
先生
さようなら
出っ歯の娘はやや強張った笑い顔でお帰りになりました
次の日先生が帰ってドアを開けるとニコニコしたメイドがいました
後ろにもう一人の女性の姿が見えました
帰って来た先生に向かってメイドがメイドが言いました
メイド
先生 そこに座って
先生は言われた所に座りました
メイドが今度は先生の正面に座りもう一人の女性もメイドの横に座って先生の顔を見つめてました
先生は紹介されるまでも無く出っ歯をみて姉妹だということは分かりました
メイド
妹のシュウレイ
紹介するでもなく独り言のようにつぶやきました
メイド
どちらも良い子です どちらがいいか
そう言って先生の顔を下からのぞき込みました
メイドは二人姉妹の妹だと紹介しました
女性は姉の秀怜を少し小ぶりにして姉よりやや歯が出ているのが少なく見えました
出っ歯の姉よりは色白の女性でした
先生
結婚はまだしない
きっぱりと断りを入れたにもかかわらずメイドはそれでもひきさがりません
メイド
二人共一緒でいいから嫁にして欲しい
言いました
しかしそんな桃源郷(桃源郷)のような素晴らしい生活が出来るわけが無いと思いました
先生
同じ国の人と結婚二人の子供が本当に幸せになれることだ
まるで世の中を悟りきった老師になったような気分で伝えました
先生は日本に帰国する時にお世話になった台湾の人たちとお別れ会を開きました
台北市内の宮殿のような建物の海覇王という大きな海鮮料理店でした
くうちゃんが本当は日本語がほんの少しだけしか分かりませんでした
だからいつもイエッサーと答えていたとメイドが始めて教えてくれました
くうちゃん
日本語万一点
北京語で話しました
先生
イエッサー
笑顔でくうちゃんに大きな声で答えました
メイドの二人の子供がその後結婚したかどうか先生は興味がありません
イエッサーのくうちゃんの事は時々思い出しました
イエッサー!
先生も元気にまねをしていました
紅のママはおネエになってからも中国茶を忘れる事はできません
横浜中華街の西門通りの方角一つ目の角にある天仁茗茶に烏龍茶を買いにいきます
自分で入れる烏龍茶は台湾で飲んだあの味にはまだ及びもつきませんでした
お茶の入れ方の問題だと気が付いたのはしばらく後のことでした
葵のママは紅のママは台湾リスのシッポだと言います