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きりたんぽ鍋とお母さん

カモメのお店はおネエ通りではあまり古くないお店です


カモメのお店のママ トモちゃんは青森県のむつ市下北半島の生まれでした


むつ工業高校を出て東京の電気関係の会社に就職をしていました


あるものすごく寒く風の強い月がとってもキレイな夜でした


ふら〜とおネエ通りに足を()み入れました


田名部というお店に入りました


田名部のママがトモちゃんのお母さんに顔と雰囲気がそっくりに見えました


後で考えてみるにトモちゃんはホームシックとかなり酔っ払ってました


それでそう見えたのかも知れないと思ってます


田名部のママを見ればトモちゃんのお母さんの顔はすぐに分りました


トモちゃんが田名部に行くと必ずママがきりたんぽ鍋を作ってくれました


きりたんぽ鍋は信楽焼きで鉄赤格子の二十センチ位の(なべに入って出て来ました


田名部のママ

たんぽ は食べる直前に入れるのがいいわよ


教えてくれました


田名部のママも青森県の出身らしいママは「そうよ」とも「違うわ」とも言いませんでした


トモちゃんが田名部のお店に通い出して一年位で田名部は誰にも知らせずに閉店しました


田名部のママはどこに行ったのかまったく分からなくなりました


トモちゃんは普通の家庭に育って普通の生活をしてました


子供の頃の夏休み父親が大事にしていた高い釣り竿を持って自転車で近くの港まで出かけました


えさのアオイソメを針につけると勢いよく港の中央に向かって投げました


真っ直ぐには飛びませんでした


右にビユ〜ンと飛んでしまいカモメが群れている近くに餌が落ちました


投げなおそうとリールを巻きました


カモメがトモちゃんの投げたアオイソメを食べて空に舞い上がって行きました


父親の高そうな釣り竿を折って見事に餌を食い逃げされました


呆然(あぜん)としているトモちゃんを笑うように真っ青な空を真っ直ぐに見えなりました


トモちゃんは家に帰って行くしかありませんでした


父親は折れた釣竿を見ても何も言いませんでした


田名部のお店が無くなってしばらくたちました


トモちゃんは仕事で茨城県の龍ヶ崎市の牛久沼の近くに行った時のことです


お昼にうなぎ街道の小名浜屋でうなぎの肝吸いが付いたうな丼を注文して ボーとしてました


いきなり肩をたたかれました


ようっ!久しぶり!


男に肩をたたかれました


振り返るとどこかで見たようなさわったことがあるような男が立っていました


真っ赤なブレザー姿にピンク色のネクタイをしめています


お知り合いにはなりたくないような男でした


男は一人で立ってトモちゃんを見てました


トモちゃんはそのまま思い出そうとしばらく見てました


どうしても思い出しません


私よ わ・た・し


男はおネエ言葉でした


右手をおネエ風に口に当てました


トモちゃんは はっと あっを 同時位に小さな声をあげました


私よ わ た し はまぎれも無く 田名部のママでした


田名部のママ

ごめんね


トモちゃんに言うと早足で待たして在ったタクシーに乗って去って行きました


しみじみと言いました


トモちゃん

やっぱり似てなかったなあ


出て来たうな丼のうなぎの肝吸きもすいを先に飲みながら静かにため息をつきました


トモちゃん

はぁ〜


食事を済ませて再び確認しました


トモちゃん

やっぱり似てないな


ポツリと言うと千百円払ってうなぎ街道の小名浜屋を後にしました


それから間もなくおネエ通りでトモちゃんはお店を開きました


トモちゃんの得意料理は信楽(しがらき)焼きで一人前ずつ出す青森名物のきりたんぽ鍋でした


たんぽ は食べる直前に入れて出してました


トモちゃんは源氏名を特別付けてありません


いつの頃からかトモちゃんと呼ばれてました


別に気にすることもなく呼ばれるままにしてました


トモちゃんはおネエ通りのカモメのお店とは少し離れたアパートから通ってました


わりかし氏素性うじすじょうの分かるトモちゃんでした


それいらい魚釣りとカモメ釣りはやりません


カモメが折ってしまった父親の折れた釣り竿だけは何故かとても大切に持ってます


おネエ通りでは どこから来たのか どこの生まれか 氏素性は全く問いません

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