人間の分(ぶん)と方角
かほる子のお店は葵のとなりにあります
小さなカウンターだけのお店でした
かほる子のママは中年をやや過ぎたようなおネエでした
ロングの赤に近い色のかつらをつけてます
大きな目で見つめられると思わず汚れた水の入ったバケツを見ているようでした
そんなに大柄でもなくやせている訳でもなくごく普通の中年に見えました
かほる子のママは人の面倒を良く見てました
いつもお客の人生相談に乗ってます
顔は貧相で瞳だけがきわだってました
最初はお店の二階に住んでました
かほる子
方角が悪いの
言うと 卯辰巳の方角に引っ越しました
かほる子
方角が悪いの
二回目が酉戌亥の方角に引っ越しました
かほる子
方角が悪いの
三回目が子丑寅の方角に引っ越しました
二年の間に三回も住まいを変えました
現在は再びお店の二階に住んでます
この次の引っ越す方角は午未申の方角だと誰もが知ってました
かほる子のママは神様が居ると信じています
お祓いや占いも得意です
高島易断所本部編集の一年間の運勢が生年月日で分かる開運暦の本を離さずに持ってました
カネボウ株式会社のファッション事業部で取り扱っているランバンのバックに入れてありました
ランバンのバックは細かい灰色の横縞模様の入っていました
神宮館開運暦は毎年ごとに買い換えました
かほる子のお店のママの源氏名は かほる です
客がママを呼ぶ時に少しだけ間違えました
カ オ ル ママ
呼ばれました
かほる子のママは赤に近い色のロングのかつらを右手でサアーと上げました
かほる子
か ほ る 良い かほる よ カオルとかほるは大違いよ
言って鼻の穴を大きく膨らませました
かほる子
かおるは縁起が悪いのよ 分った
ひどく興奮して怒りました
大きく鼻の穴を膨らませて言い直しを迫るかほる子のママが大好きです
ママはいつもお客に言って聞かせました
かほる子
人は心よ 神様が決めたことなの一生分のむと 終りなのよ
お酒をよく飲むお客に言いました
お客が質問をします
お客
その後飲み続けたらどうなるのかねえ
質問をした客に怒鳴るように答えました
かほる子
その後は神様の元に行くか体が悪くなって飲みたくとも飲めなくなるの
答えはまだ続きました
かほる子
人間には分というものが有って一生分食べてしまえば食べる分は終わりなの
そしてしゃべり続けました
かほる子
一生分遊んでしまえば遊べなくなるのよ誰にでも人間には分というのも有るのよ
人間の生きられる時間も限りが有り生まれた時に神様が決めてあると言いました
かほる子
死ぬ時は自分では決められないのよ 誰にもわからない事よ
細やかに くどくど 説明をしました
かほる子
お店もやめなければ〜一生分働いちゃったから ホホホ
真顔で再び鼻の穴を大きく膨らませて言いました
面倒見の良い慈悲深いママなのでした
お店はけっこう繁盛している割に高級なお酒や高級なおつまみはありません
あまり売り上げにはつながりません
それでもかほる子のお店は賑わってました
かほる子のママは着物でご出勤してくる日がほとんどでした
今日は綿麻の夏着物で帯は昼夜帯をしてました
結びは一般的な貝の口結びで足袋なしの雪駄履きというおしゃれでステキな姿でした
かほる子
夏の着物は人から見ても涼しげでなければいけないのよ
今日も何か相談に来るお客と待ち合わせていました
お店の方に急いでツーツツーと内またで歩いて行きました
面倒見の良い善なる心を大切にする慈悲深いかほる子のママでした
かほる子
相談ってことは一緒に感動してあげて一緒に悲しんで一緒に喜んであげる事よ
いつもかほる子の慈悲深さは誰にでも平等に分け与えられてます
ちなみにかほる子のママの高島易断所の運勢はママの人柄を表したようにぴったりと当ってました
かほる子
いやだ〜あ〜やっぱり神さまはいるのね
ひどくおどろきました
おネエになるか占い師になるか迷ったかほる子でした
とても面倒見のいい善なる心をとても大切にする慈悲深いママです
自分のお店の事とおネエ通りがどうなるかは占いません
最近 万両のお店の千ちゃんとカモメというお店のトモちゃんがきました
トモちゃん
どうしても占って欲しいことがあるの
かほる子のママにお願いしました
かほる子
今は駄目よ占えないのよ
トモちゃんは不思議そうな顔をしていました
かほる子
一週間ぐらい前に二階で転んで頭を打ったの
千ちゃん
大丈夫なの?
かほる子
今は何もうかばなくなったのよお〜
トモちゃん
えっ もう占えないの
かほる子
大丈夫よ!前にも同じことがあって一ヶ月間位したらもとに戻ったわ
そんな時に無理をして当たらなかったら困ると言いました
特に近い人は占う時に心が乱れるから調子が良い時にやらなければと今回はお断りしました