1-1
見張り台から飛び降り、家へ向かって騒めく人ごみの中を駆け抜ける
太陽が真上にあるにもかかわらず、冬の冷たい空気が頬を撫でていく
とても寒い
大通りを抜け、十字路を右に曲がる
真正面に見えた私の家のドア。壊れそうな勢いでバンッと開け、思いっきり叫ぶ
「おにーーちゃーーーん!!!!敵軍!!!敵軍だよ!!!!!!」
うるさいと言いたげな目で私を見てくる
お兄ちゃんからの視線、とても痛いです
「はぁ…。言われなくてもちゃんと連絡来てるから。あと勢い強すぎ、壊れる。うるさい」
小言を言うお兄ちゃんを無視して私は続ける
「ねえねえねえ!!今攻めてきてるのって兎の国でしょ?!私も行っていいよね?ね?!」
私の問いを無視して戦いに出る準備を黙々と進める
愛用の短剣を2本手に取ると、私のほうに向きなおった
…その目つきはさっきのジト目と違って、まるで怒っているようで
「戦いに出るのはだめだ。家でおとなしく待ってろ」
「なんで?!だって兎の国だよ?!私でも戦えっ…
早口でまくし立てる私の言葉は、お兄ちゃんの言葉によって遮られる
「油断と慢心は戦いにおいて最大の敵。軍で訓練受けたわけでもないのにいきなり戦いに出るのは自分の身を危険に晒すだけだ。…聖奈もまだ死にたくないだろ?」
じゃあ、なるべく早く終わらせるから。と戦いへ出ていくお兄ちゃんを黙って見送るしか出来なかった
またこれだ
いつもいつも危ないから、油断と慢心は戦いにおいて最大の敵だ、なんていってお兄ちゃんは私を戦いに出してくれない
かといって軍に入れてくれるわけでもないし、自主練をするしかないのだ
お兄ちゃんだって小さいころから戦ってるわけだし、なにより…
なにより、危ないのは誰だって同じだもん