1話 マサル
この重いカバンを背負うのもこれが最後、思い出と決別する様に足を早める。
振り返れば少しボロい校舎、もうこの景色も見ることはない。唯一の友人は先に帰った。
最後くらい一緒に帰りながら今までの事を色々思い出して笑ったりこれからの事を語ったり
「というか、あいつ本当に友達だったんか?」
思い返してみれば朝に挨拶を交わし、帰りに挨拶を交わし、それ以外は殆ど交流がない。
勘違いマサル、友達のいないマサル、可愛そうなマサル、この3年間何をしてきたんだマサル。
「うるさいわい!!」
つい大声を出してしまった、周りの目線がとても痛い。
泣きそうになったがダッシュして乗り切った。
「なんでこんな目にあわないといけないんや・・・・」
自業自得マサル。
「ただいまー」
おかえりなさいと玄関に出迎えてくれるのはペットのイヌ。
『イヌ』というのは名前であって柴犬の『イヌ』命名したのは父。
とても可愛くて人懐こいヤツだ。僕にも凄く懐いている、親友と言っても過言ではない。
「ほらイヌ、ただいまのなでなでだ」
頭を撫でようと手を伸ばした瞬間の出来事だった。
マサルの手を華麗に避け、マサルの右側に横ステップで移動し、戦闘態勢を取ったのだ。
「ほう、この俺とやるってのか? イヌよ」
玄関で突如吹っ掛けられた勝負にマサルは本気になっていた、イヌ相手に。
「いいだろう、今後一切俺に歯向かう事ができないくらいに痛めつけてやるからな」
不良の真似をして指の関節をボキボキと鳴らし、マサルも戦闘態勢に入った。
最初に仕掛けたのはイヌの方だ、マサルが戦闘態勢を取った瞬間、懐に飛び込み
股間を狙って噛み付いたのだ、だがここは流石マサルだ、後ろにステップし交わす。
「ふっ、わかってるんだよ!お前の攻撃パターンは!」
犬相手に本気のマサル、人間相手では勝ち無しのくせに犬相手には強気。
その後もイヌの攻撃は止まらない。だがここは流石マサル、全ての攻撃を避ける。
イヌも息があがって、やるじゃねーかと言う様にニヒルな笑みを浮かべる。
「なかなかやるな・・・・だが次はこっちの番だ!」
マサルは拳に力をいれてイヌに向かって振りかざした。
だが、あまりにも大振りなこの技がイヌに通じるわけもなく避けられた。
更に懐に入られ股間に噛み付かれるマサル、声にならない叫びを上げるマサル。
WINNER イヌ
ちなみに言うが、ここまでの戦闘シーンはこの物語に全く関係ない。
イヌに負け、卒業記念品の紅白饅頭をイヌに奪われてかなりへこんだマサル。
「そうだ!!」
なにか閃いたマサル、ウキウキしながらリビングに入る。
「お母様!! あのイヌの野郎に紅白饅頭を取られました!助けてください!」
典型的な小物マサル。
「あら、マサルちゃん今日の夕飯はカレーだから練乳買ってきてちょうだい。」
話を全く聞かない母、カレーと練乳の関係性も問いたい。
「カレーなら仕方ない、この俺にまかせておけ!」
おつかいに行く事になったマサルは家を飛び出し猛ダッシュでスーパーに走り出した
「今日は迷子にならずいけるかしら・・・・。」
近所のおつかいで迷子の心配が必要な18歳マサル。
「あっ・・・・ラムレーズンを頼むの忘れたわ」
・・・・ラムレーズン?
猛ダッシュで家を飛び出したマサルだが、50m走った所で体力の限界がきた様だ。
「ゼェ・・・・ゼェ・・・・」
典型的なインドア派マサル、18歳とは思えない圧倒的運動不足。
「ちょっとそこの公園で休憩するかの・・・。」
公園のベンチに横たわり、息を落ち着かせる。
ワイワイと賑やかな声がするので中々落ち着かないマサル。
だが遊具で遊ぶ子供たちを見て少し和んだ様だ。
「そういえば僕も昔はこの公園で友達とよく遊んだよなぁ」
昔から友達など居たことがないのは言うまでもない。
記憶を捏造するのが得意なマサルは無かった思い出に浸り、そのうち眠りに落ちた。