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甲冑娘セツナ

 アルタリス世界を構成する国家群では、一種の生体装甲の中に若い娘を「内臓」として閉じ込める事で稼働する兵士を安全保障の手段のひとつとしており、その兵士のことを「甲冑娘」と呼ばれていた。


 ただ、誰でも「甲冑娘」になれるものではなく、生体装甲に適合しなければ当然「内臓」になれなかった。なので本人の意志の如何にも関わらず、半ば強制的に「甲冑娘」にされる事も少なくなかった。そんな一人がセツナだった。


 以前、彼女は街道脇でお茶屋の娘として働いていたが、たまたま移動していた甲冑娘部隊から適性を見込まれてしまい、そのまま「お持ち帰り」された不運な娘だった。


 適性を確認され「内臓」に選ばれたセツナは正式に甲冑娘部隊へ徴兵されてしまった。そのまま他の甲冑娘の内臓(人間の娘)によって、「ヴァンジャリーナ」と呼ばれる紅色の生きた甲冑の内臓にされてしまったのだ。一度、内臓に選抜されると最低でも成人するまでは勤めないといけないのだった。


 そんな甲冑娘セツナをいま憂鬱にしているのが、そう恋だった! しかも「ヴァンジャリーナ」を管理する書記官のウマールを好きになったのだ! しかし、彼と会うときはいつも甲冑娘なので素顔を出すことが出来ないので憂鬱だった。


 そんな彼女が彼と素顔のままでそれとなく会う事が出来る日が来た。それは「ヴァンジャリーナ」が一年に一度の整備のために錬金術師の館で解体されるからだ。その時、邪魔になる「内臓」の娘は追い出されので、整備が終わるまでは束の間の自由というわけだ。


 セツナは一年ぶりに甲冑の中から出してもらえた。甲冑の中では裸の状態で身体に無数の管を差し込まれているので、こうやって外に出るのが嬉しかった。いつも生ぬるい中で変な感覚に苛まされることもないし、「ヴァンジャリーナ」の干渉を受ける事もないので、自由だと感じていた。


 しかし、この自由にも制限があった。自分が甲冑娘の内臓であることを、全ての男に話すことは許されないのだ。もし話した場合には死を賜ることになるという掟があった!


 錬金術師で借りた人間の若い娘の服を着たセツナはそーとウマールの様子を見に行った。実は彼とは相思相愛の仲だけど、それは「ヴァンジャリーナ」としてであり、人間の娘ではないのだ! それに掟があるのでウマールには甲冑娘と名乗ることができないのだ!


 セツナはウマールが休暇を過ごしている錬金術師の館の前にある湖のほとりを歩いていた。いつもは生きた甲冑娘の内臓になっているので自分の足で歩く感覚が気持ちよかった!


 こうして風に吹かれ光を感じるのが嬉しかったが、ウマールを直接自分の目で見れるという楽しみもあった。聞いた話ではウマールは湖の釣り人用の柱の上で釣りをしているということだった。その時、ウマールの姿を見つけた! セツナは駆け出していった、いつものようにハグしたいと! そう思ったのは、いつも作戦が成功したとき、ウマールと成功を分かち合っていたからだ。ここではセツナとしてハグしたかった!

 でも途中で掟の事を思い出した。いくらなんでも男に自分の正体を明かせないかと!


 そのため、ウマールには、ただ偶然にやってきた少女の振りをするしかなかった。するとウマールの方から話しかけてきた。


 「お嬢さんはどこから来たんですか?」


 「この近所の村です。私はアチュルといいます」


 このアチュルというのはセツナの妹の名前だった。セツナの名前を使った時のリスクを考えると出来なかったからだ。


 「そうなんだ、僕は錬金術師の館で泊まっているウマールというんだ」


 「あなたって甲冑娘部隊の人でしょ? 胸に勲章があるから」


 「そうだよ。そうだ君は知っているかな、ヴァンジャリーナって甲冑娘を。彼女の担当をしているんだ。結構相性がいいんだよ」


 相性がいいというウマールの言葉にセツナは嬉しかったが、名乗ることが出来なかった。


 「そうなんですか」


 「で、いつも一緒に行動しているんだけど今日はお休みなんだ。内臓の娘とデートしたいけど掟で出来ないのが残念!」


 セツナはその言葉に胸が熱くなったが、当然名乗ることは出来なかった。結局、セツナはその日、ウマールに想いを人間として伝える事ができなかった・・・


  セツナを甲冑娘に変えた「ヴァンジャリーナ」は、鮮やかな紅の生体装甲だった。由来ははっきりしないが、遥か昔にこの世界に侵略してきた何者かの兵隊が纏っていたもので、生き残ったのが甲冑娘部隊で使われているもののひとつだった。


 かつて生体装甲は男性型が主流だったが、長年使われて行くうちに寿命を迎え、現在でも使えるもののほとんどが女性型が大半であった。そのため甲冑娘に選ばれるのは、ある程度成長していてまだ可塑性のある成人前の少女だけであった。なお、成人になっても甲冑娘のままであったら、一生を甲冑娘として過ごさないといけないといわれている。


 さて、ウマールはその「ヴァンジャリーナ」との冒険談をアチュルことセツナに長々と語ってくれた。ウマールは暇があって相手がいたら誰にでも話をするのが好きだった。まあ、機密情報にあたるものについては避けてはいたけど。


 黒騎士兵団との格闘、地下神殿の捜索、はぐれ狼龍獣との戦いなど、ウマールが「ヴァンジャリーナ」と出会ってから今までの話を語っていた。セツナからすれば懐かしく愛おしい話であったが、あの時ウマールはそう思っていたんだと分かってよかった。


 そんな時、ウマールの竿に大きなあたりがきた! ものすごく引っ張るので竿が湖に吸い込まれて行きそうだった。


 「すまんが君、手伝ってくれないか?」


 その言葉にセツナは竿を一緒に持った。それはいつもウマールの指示で活動する甲冑娘の動きといっしょだった。ただ、ヴァンジャリーナはウマールの身長の倍もあるし、魔法などをかわす盾になることもできるが、人間の娘のセツナは明らかに力がウマールよりも劣っていた。


 一年も生体装甲の甲冑の内臓だったので肌は白く、人間の娘としての力は大したことなかった。それでもセツナはウマールのために精一杯釣り竿を引くのを手伝っていた。そんなこんなで長時間格闘したのち水面近くに大物の予感をさせるシルエットが見えてこた。


 そこで最後の力を込めて引っ張ったら、魚の方が力尽きたのか抵抗しなくなり勢い余って宙を舞ってしまった! そして反動で二人とも倒れてセツナの上にウマールが覆いかぶさる状態になってしまった。しかも偶然オマールの手がセツナの未熟な胸を触るようになったうえ、二人の唇が重なってしまった!


 その時、セツナの胸は早く鼓動していた。いつも頑張れよという感じでオマールはヴァンジャリーナの外骨格を触ることが多く、その行為も甲冑娘として認識するだけであったけど。いま、オマールの手はセツナの膨らみを捉えていた! それでセツナの顔は真っ赤になった!


 そのまましばらく沈黙が続いたが、二人ともこう感じたという。なんか二人でそばにいると安心できると。でも、普通のカップルのように居るのは許されず、セツナはまた甲冑娘に戻らなないといけなかった。


  ウマールと別れたセツナは裏口から錬金術師の館に戻った。すぐに借りていた服を返すと毛布で体を包んで戻って来た。甲冑娘に戻るために!


 もし許されるのならそのまま逃げても構わないが、甲冑娘になっている間、生体装甲の一部が身体に入ったままになっているので、長い時間いまのまま人間の娘でいると衰弱死する危険がある。だから正式に除隊になるまで、逃げるのは死を意味していた。


 「セツナ! 楽しんできたウマール書記官と」


 そうやって出迎えてくれたのは同じ甲冑娘の「ティンライン」ことアムルだった。彼女は「ヴァンジャリーナ」とほぼ同じスペックだったが、色が藍色だった。ウマールが管轄する甲冑娘は二体のみであったが、それはウマールはさる高貴な身分なので一種の修行として書記官を勤めているにすぎないからだ。


 甲冑娘は互いだけの時は「セツナ」や「アムル」と呼び合う事が出来るが、その他の人物と接触している時には決して語ることができなかった。「内臓」の正体は知られては困るからだ。


 その理由は明らかではないが「アムル」は、甲冑娘たちが所属する「王国機動軍」の最高指導者である国王の第四王女ということも関係しているかもしれなかった。


 「さあセツナ。名残惜しいかもしれないけど、そろそろ甲冑の中に入りなさいよ」


 甲冑の整備をしていた女性錬金術師のキャルに促された。キャルは「王国機動軍」専属の甲冑娘の管理官で、全ての「内臓」の素性を把握していた。彼女の手で全ての甲冑娘が誕生していた。


 「キャル様。今度の任務はどうなります?」


 セツナは少し不安になっていた。「ヴァンジャリーナ」の外観が大きく変わっていたからだ。


 「お前さんはよくやってくれた! だから一つ上の階級に性能を向上させたから。まあ、しばらく慣れるまでには時間がかかるかもしれないけど、今までよりも激しい動きが出来るようになるから」


 そういわれたが、セツナは本当は普通の生活をしたかった。もし甲冑娘を辞める事ができるのなら辞めたかった。でもウマールと一緒にいられるのならこのままでもいいと思っていた。


 裸になったセツナはバラバラになっている「ヴァンジャリーナ」の甲冑に潜り込んでいった。この「ヴァンジャリーナ」は、セツナの体内に挿入された制御器官に反応して動き始めるため、セツナ以外の娘は着れない状態になっていた。


 「どお、セツナ? 気持ちいい?」


 「気持ちいいわけないでしょ! あなただって甲冑娘になるときが一番嫌だといっているじゃないのよ!」


 そうセツナが言ったのは甲冑娘の内臓にされる時に、生体装甲から無数の管が伸びてきて身体に張り付いてくるのが苦痛だったからだ。そう甲冑娘になるのは人間であることを捨てる事だった。


 「そうだねえ、でも甲冑娘になってしまえば、自分で食事する必要はないし、寝ているときでも用事はすむからね。なんだって私らは内臓なんだから」


 セツナを甲冑娘の内臓にするために、生体装甲とも呼ばれる甲冑の内部から触手のようなモノが伸びてきた。それはセツナを捕食しようとしているように見えて気色悪かった。その触手がセツナの体内へと侵入し始めた!


 「うあ、あ・・・、う・・・」


 セツナは叫びたかったが、口と鼻から侵入してきた触手に阻まれ言葉にならなかった。また目から涙が溢れていたけど、その瞳も覆われてしまった。セツナの身体は「ヴァンジャリーナ」と融合してしまった。


 「さあセツナ気が付いたヴァンジャリーナとして? 起き上がって!」


 キャルはそういってヴァンジャリーナに語りかけた。ヴァンジャリーナには力がみなぎっていた。内臓と甲冑が完全に融合したからだ。セツナという少女は甲冑のなかに溶け込んでいった。


 「ふう、気持ちいいなあ! 本当に動きやすいよ今度のヴァンジャリーナは」


 ヴァンジャリーナの紅の甲冑はむくりと起き上がった。女性らしいボディラインの甲冑娘は自分の身体を確認していた。さっきまでの白くひ弱な少女の姿ではない自分に少しうっとりとしていた。それにセツナという少女の姿は消えてしまった。


 しかし消えないものがあった。ウマールへの恋心だ! ヴァンジャリーナは食堂にいるウマールの元に向った。


 「ウマール様、整備完了いたしました! どうですか私の装備は」


 ヴァンジャリーナはウマールに確認してもらっていた。きちんと整備されているか、また新しい装備品が取り付けられているかを。その時、ウマールの手が触れるのを気持ちよい刺激と感じていた。そのとき、胸に手が触れ唇を重ねた事を思い出した。


 また、ああいう事を彼としたいと思ったけど、ヴァンジャリーナの胸は硬い装甲に覆われ、唇は露出していなかった。甲冑娘でいる限りあのような事が出来ないのが悲しかった。


 「よしヴァンジャリーナ。問題ない! 取りあえず今日は休んでくれ。明日は南の湖に向って夏季定期演習を行うからそのつもりで!」


 そういって一行三人は同じ部屋に向った。これはパーティーは原則として同室しないといけないという規則があるためだけど、甲冑娘が書記官を守るためでもあった。その時間はヴァンジャリーナは愛おしかった。まあティンラインが邪魔というか一緒だけど。


 ウマールの寝顔をみていて、昼間の事を思い出していた。セツナとして過ごした楽しい時間を・・・

「ヴァンジャリーナ」のセツナの物語いかがでしたが? 小生の作品の問題点として、途中で連載を放棄するというものがあります。期待していたものの反応が予想以上に悪かったり、また反対に良かったけど構想が続かないといったものがあります。


 そこで、新たな試みとして短編として掲載することにしました。話はいくらでも風呂敷を広げるかもしれないけど、とりあえずちょっとだけ書くというものです。


 そのため、セツナの物語は評判がよかったら紡ぎたしと思います。

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