VI アルディーンに到着
ようやく初めての街への到着ですね
アルディーンに到着
レイヴはベッドで目を覚ました。
見慣れた天井。寝慣れた布団。
そしてまったく慣れていない柔らかくて暖かい何か。
レイナ、まだ寝てるな。今何時だ……?
俺はベッドから身を起こしレイナの頬にキスをしてから時間を確認しようとするが
「レイヴさん……」
そんな声が聞こえた。声の方に視線を向けるとレイナが顔を赤くしてこちらをチラッチラッと見ていた。
おっと、起きていたようだ。
「あ、レイナ、起きてたの?」
俺はそう言いながらレイナの頭を撫でる。
レイナは目を細めて気持ち良さそうにしながら
「はい、レイヴさんが起きる少し前から起きてました」
そう言ってレイナも身を起こす。
早朝のレイナは眠たそうな目に少し乱れた髪。ポーっとしたような表情をしていて、朝起きてきた子供のような感じだった。
うーん、朝のレイナも可愛いなぁ。
もう俺、レイナならなんでも可愛いのかもしれない。
そういて数秒ぼーっとしたレイナは俺の方に向くと俺の体にもたれ掛かってきた。
「ふわぁ、朝のレイヴさん。朝からレイヴさんに抱きつけるなんて幸せですぅ」
なんてことを言いながら俺の胸に顔をうずめる。
吐息が暖かくて今この時間に抱くには非常にまずい感情がこみ上げてくる。
ていうか、レイナ何かキャラ変わってない?
あの一日で3枚ぐらい皮むけたんじゃないのかな。
でもまぁ、俺としてはこっちの方が……
いやいや、そんなことを考えてる場合でもない。
今日出発してアルディーンに到着しないと。それが今の俺たちの目的なはず。
「レイナ、ほら、朝食をとってアルディーンに向かわないと」
「うぅん、もう少し……もう少しだけ……」
俺がレイナを離そうとするとそんなことを言いながら抱きつく力が強まる。
「ダメ、それぐらいなら街についてからでもいくらでもしてあげるから、今はご飯食べて出発しよう」
「うぅ……仕方ないです」
「よしよし、じゃあ行こうか」
そう言って離れたレイナの頭を撫でながら二人で食堂に向かう。
食堂に向かって廊下を歩いている間もレイナはぴったりと俺の右腕に引っ付いている。
人って一夜でここまで変われるものなんだな……
俺は人間という生き物に新たな希望を見出しつつ食堂に向かって歩く。
食堂について椅子につく。
何故かレイナは俺の膝の上。
「あの、レイナさん?なんでそこなのかな?」
「え?何か変でしょうか?」
「あぁ、いえ」
「フフ、冗談ですよ」
そう言ってレイナは俺の隣の席に着く。
そうして朝食を済ませ出発の準備をする。
準備といっても特に用意することもないのだが。
「あ、レイヴさん、私は準備できましたよ」
「うん、俺も特に用意するものもないから大丈夫だよ」
二人で確認し合い、準備が整った事を確認する。
そして
「それじゃ俺たちは出発するから。また何かあったらよろしく頼むよ」
「かしこまりました、お気をつけて」
メイド達が礼をして見送る。
俺たちはそれを確認して頷く。
「それじゃ、行こうか」
「はい。街についたら案内しますね」
そうして外に出て家をアイテムボックに仕舞う。
一瞬で周りが元の森に戻る。
こうして見るとこんなところで野営していたなんて嘘みたいだな……
俺は苦笑しながらレイナを促して街へと歩を進める。
レイナは案の定というかなんというか俺の腕にひっついている。
こんな状態でモンスターに襲われたらどうするんだ。
そんなことを行っていたら遭遇した。フラグ回収乙でした。
出てきたモンスターは大きい猿のようなモンスター。
人に似たような顔で短い尻尾が特徴のハイートというモンスターだ。
正直動作を必要としないほどの強さなので
『死』
自分の魂を削って対価にし、自分より一定以上格下の相手を即死させる呪術だ。
魂を対価にするので正直言ってコスパはクソみたいに悪い。
しかしそこは俺のスキル『呪術代償不要』がある。
なのでコスパは最高である。
産廃呪術が圧倒的有能呪術になってしまう。
まぁ適応条件がかなりの実力差がないと意味がないわけだが。
この呪術は完全に雑魚処理用になっている。
今のところこのあたりではそれほど強敵は出ないだろうし最強がバタフライワームというのだから問題ないだろう。
そうやって森を進んでいるうちに前方に光が差す。
どうやら森の出口に到着したようだ。
「あ、森から出るみたいだね。出たら大体どれぐらいでアルディーンにつくかな?」
俺は腕にひっついているレイナに問いかける。
レイナはこちらを向き
「えっと、森から出たら街道に出るので道なりに進むと大体数十分あれば着くと思いますよ」
「あ、結構森から近いんだね、これなら今日中にギルドの用事終わらせて宿探せそうだね」
今の時間はまだ昼前ぐらいだ。アルディーンについて昼食をとっても余裕があるだろう。
「レイヴさんもギルドに用があるんですか?」
「うん、ギルドに登録しようと思ってね。登録しといたら色々便利かなと思って」
俺はギルドに登録して依頼を受けられるようにする。こっちの人間との関係をある程度は持っておきたいからギルドの人達と交流を持つためでもある。
ギルドの治安がいいことを祈って……
流石に荒れ狂ってるギルドとか、ないよな?頼むぞ?
そんなこと考えながらも俺たちは街道に出る。
そこは石のタイルでちゃんと整備されている道だった。
アルディーンに向かうであろう商人や冒険者の姿がちらほら見える。
レイナが街道に出ると腕から離れて隣を歩く。
ちゃんと場所とかは考えるようだ。よかったよかった。
街中でひっついてて変な奴に絡まれたりしたらたまったもんじゃない。
レイナはその辺考えてるのかな?
「ていうかレイナ、今更だけど随分変わったよね」
「え、そうですか?まぁ確かに今までとは違うかもですが実はこれが素ですよ?」
まじかよ……レイナ案外甘えんぼな性格してたのね……
「そ、そっか、ならいいんだけど。素のレイナが見れて俺も嬉しいよ」
俺はレイナの頭を撫でて街道を進む。
レイナはもう撫でられた程度じゃキョドらないようだ。
ニコニコ微笑んで俺の後をついてくる。
そうして進んでいると街の門が見えてくる。
よく見ると街に入る手続きで列が出来ているようだ。
「これは結構待たないといけないかもねぇ」
「ですねぇ、できれば早く行きたいんですけどねぇ」
二人で文句を言いながら列の最後尾に並ぶ。
周りを見ると並んでいるのは商隊だけだった。
ギルドの冒険者として登録している場合ギルドカードを見せるだけで通れるようだ。
「これはやっぱりギルドに登録したほうがいいようだね」
「はい、ついでに私も登録しておきます」
「そういえばレイナはギルドに何の用があったの?」
「あぁ、ギルドに届け物です。中身は知らないんですが受付に渡すだけでいいって言っていたので」
「なるほど、それならすぐに終わるっぽいね」
俺たちがそんな話をしていると自分たちの順番になる。
「はい、今回街に入る目的は?身分証明できるものがあるなら見せてもらいたい」
門番の男に声をかけられる。
勿論身分証明なんて持っていないので
「身分証明できるものはないですね。今回はギルドに登録しに来ました」
「ギルドの登録かわかった、身分証明ができないならあっちで書類を書いてもらうよ」
「わかりました」
「で、そっちの君は?君もギルドに登録か?」
「あ、私はギルドに届け物があるのでそれを、ついでにギルドに登録もしますが」
「わかった、ではあっちの建物で手続きを済ませてくれ」
門番の男は街の壁沿いにある小さめの石造りの建物を指差す。
大きさは小屋ほどだろう。
「わかりました。じゃあレイナ、いこうか」
「はい」
俺たちはそうして建物に入る。
「街に入る手続きか?」
そこでも男に声をかけられる。
「はい。身分証明できるものを持っていないのでここで手続きをするように言われまして」
「なるほど、わかった。ではあちらで書類に記入してもらえればそれでいい」
俺たちは促された場所で書類に目を通す。
書くのは名前、目的、滞在期間などだ。
それを書き終え男に渡す。
「よし、じゃあこれを持って門に行ったら入れるぞ」
男はそう言って一枚のプレートを手渡した。
銀色の金属の板に『許可証』と書いてある。
俺たちはそれを持って門へと向かう。
そして先ほどの男に許可証を渡す。
「よし、確認した。ようこそアルディーンの街へ」
色々やったがようやく街に到着することができた。
アルディーンはかなりの大国らしい。
生活必需品なら中央広場で粗方揃うし、食堂街に行けば十分に店は充実している。
街の中央に王城がありその周りには堀がある。そして1つだけ架け橋がありそこからしかはいれないようになっている。
まぁこれが城としては普通なんだよな……
俺はそんなことを考えつつレイナと昼食を取りに食堂街へ向かった。
食堂街は非常に活気にあふれていた。
昼間にも関わらず酒を飲んで騒いでいる者たちもいる。
酒に酔って軽い喧嘩をしているものもしばしば……
こういうところは前の世界と変わらないんだな。
俺はそんなことを考えながら
「レイナは何か食べたいものはある?」
「そうですね、軽くサンドイッチとかいいですね」
「そうだね、じゃあそれにしようか」
そう言って食堂街の中で店を探す。
しばしば店の人に勧誘の声をかけられながら目的の店に着く。
「ここにしましょうか」
「そうだね、じゃあ空いてる適当な席に座ろうか」
そう言って席に座り店の人にサンドイッチを3人分頼む。
どうして三人分かというと俺が2人分食べるからだ。
ちょっと昼食にサンドイッチ一人分では少なかった。
そうして俺たちは昼食をとりながら雑談をした。
「そういえばギルドの雰囲気ってどんな感じなの?」
「そうですねぇ、雰囲気は悪くないです、いい人も結構いますし」
「なるほど」
俺はさっきから少し気になっていたギルドの雰囲気について聞いたがどうやら荒れ狂ってるギルド、なんてことはないようだ。
もしかしたらアルディーンのギルドがそうなだけかもしれないが。
「でもレイヴさんがギルドの雰囲気なんて気にするんですね。絡まれても一瞬で倒せるでしょう?」
「まぁ仮にそうだったとしてもやっぱり人間関係とか大事にしたいし?」
「確かに人間関係は大切ですね、そう考えると確かに心配になるかもですね」
そういったギルドの話をしながら俺たちは昼食を終える。
「さて、じゃあギルドに向かうとしようか」
「はい、早く終わるといいですね」
俺たちはギルドに足を進める。
アルディーンのギルドが新たな出会いの場となることを知らずに……