3 タンスの中で
トントン、と、部屋のとびらがノックされました。
「リュウ王子、お帰りでしたか?」 女の人の、上品な声が聞こえます。
(リュウ王子? やっぱりあの子は王子だったんだ。でも、リュウって……)
まっくらなタンスの中で、息をひそめる、ナナミ。
「ああ、ぼくなら、ここにいるよ。ちょっと、まって」
王子が、部屋のとびらを開けた音がしました。
「リュウ王子、そろそろ、おやつの時間です。みなさま、お待ちですよ。それから……」
召し使いらしき女の声が、きゅうに低くなります。
「どなたか、お友だちでもいらっしゃるので? 女の子の声がした気がするのですが……」
「い、いや、だれもいないよ。気のせいだよ。すぐにおりて行くと、みなに伝えておくれ、カンナ」
部屋のとびらが閉まり、足音が遠ざかっていきます。
けれどナナミは、タンスから出ようともせず、しばらくじっとしていました。ぼんやりと考えごとをしていたからです。
(リュウ? リュウって……もしかして、あのリュウちゃん?)
――リュウは、つい、ひと月前までナナミの家の水そうにいた、流金というしゅるいの、金魚でした。
ナナミが毎朝えさをあげようとすると、水そうの上のほうまでやってきて、ちぎれそうなほどしっぽをふっていました。長くてひらひらのしっぽは、少しピンクがかっていて、まるで天女のはごろものよう。
ところが、リュウがナナミの家に来て二年ほどたったころでした。
きゅうに元気がなくなってえさを食べなくなり、それから三日後に、リュウは死んでしまったのです。
ナナミは、泣きました。泣いて泣いて、その小さな眼が、はれてしまうほどに。
その次の日でした。
ナナミはお父さんとお母さんといっしょに、庭の花だんのかたすみに、リュウをうめてあげたのです。
「リュウちゃん、よろこんでくれるかなあ」
そこは、夏になると、たくさんのきれいな花が咲く場所でした。
「リュウちゃんは、赤や黄色の、たくさんの花にかこまれて、きっとしあわせさ」
お父さんが、そっと、ナナミの肩をだきよせました――
「もう、出てきてもかまわないよ」
リュウ王子は、タンスの中のナナミに、小声で言いました。
涙をうかべながら、タンスから出ていく、ナナミ。男の子は、うろたえました。
「ど、どうした、の?」
「あなた、リュウちゃんなんでしょう? 私の家にいた金魚の……」
男の子は、うつむいたまま、背中をナナミにむけました。
「ナナミちゃんが、こんなにしつもん好きのおしゃべりだったとは、金魚のときには気がつかなかった、よ」
ぼそり、そう言いのこして、王子は部屋を出て行きました。
(やっぱり、リュウちゃんだったんだ)
部屋に一人とりのこされたナナミは、心ぼそくてたまりませんでした。




