信頼と裏切りと真実と偽りの交わり(3)
デトロイト空港での出迎えは少数の精鋭部隊のみだった。
デトロイトの施設がマクドナルドの言うように平穏だとしてもアメリカ国内はレベル5の警戒態勢でテロとデモに備えていた。
死んだ街と言われているこのデトロイトの街もマクドナルドの到着となると最大の警戒態勢を整える必要に迫られた。
まるで誰かの描くシナリオのようにアメリカの国内にいるすべての人間は疑心暗鬼に陥ってしまった。
「渡部所長、マクドナルドさん、お待ちしておりました」
「施設内の責任者の出迎えはないのか」
「申し訳ありません。状況は状況なもので施設にてご挨拶されるということです」
「分かった」
「それからもう1つよろしいでしょうか?」
「何だ」
ブラウンの話を聞いた後の渡部は機嫌は悪かった。
「例のものをお渡しくださればと思うのですが」
「例のものとは何だ」
「マクドナルドさんに付けられていた爆発物をこちらでお預かりし、処理したいと思っておりまして」
「そのことを知っていると言うことは私たちの会話も筒抜けになっていたということか」
渡部の怒り心頭した表情に迎えに来ていた精鋭部隊のリーダと思われる男は黙ってしまった。
「場合によっては軍部の人間の大幅な粛清も考えていたが実行に移さないといけないようだな」
「渡部さん、この非常時にそれはお許しください。この者も上からの指示に従っているだけですので」
「それは分かっている。しかし、そのようなことが出来て、ブラウンの行動を見抜けなかったことが腹立たしくもある。この国の軍部は未だに日本がアメリカの下に属していると思っている証拠だ」
「申し訳ありません」
「大統領機爆破事件以降、軍部も米軍OBではなくWRから選ばれているはずだが」
「その事ですが副大統領のジャクソンが緊急会議を開き、人事を入れ替えまして」
「WRのメンバーでは甘いという結論で済ませ、大切な組織の軍部を米軍OBに丸投げしたのか」
「今回の一件で臨時大統領になり、ジャクソンの立場も上がりましたので事実上の指揮権を持ち、会議を開いた上での決定だったようです」
「この国は国が滅びようとしているときでも上に座るものはそんなことをしているのか」
「言葉もありません」
「マクドナルド、それが分かっていて、何故大統領に立候補しなかった。お前の立場でも組織幹部の推薦があれば、副大統領のジャクソンでなくても、大統領にさせることは出来たはずだ」
「私は上から人を見下ろすようなタイプの人間ではありませんので」
「それが分かっているから言っている。本来なら副大統領のジャンクソンも責任を取るべき人間の1人だ」
「一番身近にいながら見抜けなかった人物が表の世界とはいえ大統領になるのは私も反対はしました」
「それでもこの状況を作り出しているわけなのだな」
「まさか」
「気付くのが遅いぞマクドナルド」
「ジャクソンはまだブラウンの下として動いていると言うことですか」
「そういうことだ」
「私を乗せたルートはジャクソンが」
「まさかとは思ったがはっきりした」
「それからデトロイトの施設は大丈夫だ。ローランドには先に話を通してある」
「こんな時にスミスさんがいてくれていたら」
「その発想はお前にしか出来んな」
珍しく渡部の顔が綻ぶ。
「この状況下で笑っていられるのは渡部さんだけです」
「お前はやはり次の大統領候補だ。ただし、補佐役はある程度の人数が必要だな」
「それだと私は大統領の席に座っているだけということになりますが」
「大いに結構」
「はぁ」
「その話は後日だな。この部隊のリーダはお前か」
「はい」
「デトロイトの施設の状況は変わりないのだろうな」
「もちろんです。我が軍部が周辺一体を警備しております」
「よろしい。では、よろしく頼む」
「了解いたしました」
辺りを十分に警戒しながら精鋭部隊は渡部とマクドナルドを専用車に乗せることに成功した。
「渡部さん、精鋭部隊に怪しい動きなどはないのですか」
「あればこの車には乗っておらん」
「あれですね」
「そうだ」
「しかし、ジャクソンがブラウンやドイツの指揮下にあるとすればこの車の情報も筒抜けになっているとおもっていい」
「それでもこの車に」
「それでもこの車なら少々も攻撃を受けても耐えうる性能があるからな」
「そうでした。SGですね」
「バーバラが命を懸けて残したスミスの発明品に乗車することになるとはな」
「バーバラさんがすぐ傍で微笑んでおられるかもしれませんね」
「しかしジャクソンがどこまでの仕掛けをしているのか分からない以上到着までは気を抜くな」
「はい」
「無事に付くことが出来たらまずワシントンとの連絡する」
「今じゃなくてよろしいのですか?」
「今はまだ身の安全を保証されていないかなら。もしものことがあれば、ブラウンの生存のようにごまかされる可能性もある」
「あまり想像したくないことですが」
「そうだな」
「マクドナルド、到着まで少し休ませてくれ」
「何かあればすぐに起こします。それでよろしいですか」
気を抜くなといった渡部本人からの言葉とは思えないが離陸してから今に至るまで一時の休憩もせず、裏で手を回し、最悪の事態も考えた上での搭乗だったことをデトロイト空港までの一連の出来事の流れで理解したマクドナルドはスミスとの再会を前に少し休んでおきたいのだろうと思った。
「頼む」
そういうと渡部は少し顔を横に向け、目を閉じた。
マクドナルドに軽く肩を叩かれると渡部のぼやけた視界の中にデトロイトの地下施設に繋がる道が壁の間から分離稼動を始めた。
「渡部さん目が覚められましたか」
「どうやら到着したようだな」
「はい、今分離道が稼動しましたのであと2kmと行ったところです」
「俺が居た頃はこんなものはまだなかった」
「これもスミス所長が設計されたものです」
「そうか」
「全面に光るあれは何だ」
「DLEDシステムによる光の照明です」
「これがDLEDシステムか」
「はい」
DLEDシステムとは発光ダイオード(ight emitting diode)を電気伝導率の良い特殊なファイバーケーブルで繋ぐことにより一度だけ電気の抵抗を流せばそれ以降は半永久的に電気を必要としないDelayLEDシステムのことを言う。しかし、このシステムが表に出ると電気量の節電率が大幅に上がることになり電力会社の労働力を削ぐことになるためこれから先も発表されることはない。
「しかしLEDだとするとエネルギーを放出して光を出す以上このシステムには限界があるとは思っていたが空気中にある電子を蓄えて電気に変える技術でこのシステムが稼動していたと聞いたときは信じられなかった」
「私もです。蛍光灯なら放電を継続させつづけることで構築システムを生むヒントがあるのかもしれませんがそれを飛び越えて、空気中の電子を蓄えて電気に変えるということは電力会社が必要なくなることを示唆しますからね」
「このシステムの肝はLEDでもDelayでも特殊ファイバーケーブルでもないというところだ」
「しかし、この電気の流れからあの蓄電装置を発想することが出来た為に今もこうして発明の地で光続けているんですよね」
「感慨深いものだな」
「私は何度も見ていますのが毎回見入ってしまいます」
DLEDシステムを二人が眺めている間に施設内部のゲートが見えてきた。
さらに近づくと、スミス、ローランドを始め、施設内の人間が横一列に並んでいるのが見えた。
「渡部さん、到着しました」
「そのようだな」
一呼吸した後、渡部は専用車を降り、マクドナルドと共にゲートに近づいてゆく。




