(1) 大いなる宣言(5)
アレクシアを始めドイツの部隊が撤退を完了したのはわずか3日間だった。
しかし研究施設を始め、表に出てはならないすべての研究資料を始め人材までもがすべて消え去っていた。
それに関しては渡部を始め、ハオ、藤原、イザベルも予想をしていたことだったが問題はWRという秘密裏の組織の施設であるためにここまで徹底的に行動に移すことはしない、いや出来ないだろうと睨んでいた。
WRから強制脱退処分を受け、中国施設を何も残らないほどに破壊していくことまでは予測できていなかった。
その行動とは裏腹に会見でのアレクシアは自分の清廉潔白さをあらゆる証拠を出しては世界に向けて訴え続けていた。
その公式会見すら世界中では注目されず、世界中の新聞やメディアでのインタビューに積極的に動き、少しの注目を浴びることも合ったが同時期に流されたハオ首相による新生中国の国づくりについての会見とでは雲泥の差になってしまった。
「ハオさん、WR中国の施設は当分の期間閉鎖とし、日本施設での滞在になるみたいですね」
「兄や幹部の皆さんの遺体が捨てられていなかっただけでも運が良かったと思うしかありません」
「それは心配のしすぎでしょう。アレクシアの会見を見ましたが自分は潔白潔白潔白だと連呼して証拠を出してきていましたよ」
「幸い中国の場合はWR幹部と政府の顔が同じなので今回はそれが功を奏したようです」
「元々中国はWRに対して否定的な国で閉鎖的なお国柄でもありましたからね」
「WRにも脅迫強制のような形で組み込まれてしまっている分組織に対しての不信感も無いわけではありませんでしたので表の顔も裏の顔も良くも悪くも幹部が同じ椅子に座っている形を取っていました」
「そうでしたか。でも私もWR組織の人間なのかどうなのか怪しいところですよ」
藤原が意味深が発言をした。
「WRの組織の人間の印象とはかなり違うことは私も思っていましたが渡部さんの話によると日本所長の話もお断りになったとか聞きましたが」
「経済産業省の一員だとは思うのですが未だに組織の人間だという納得が出来ていません。気付けば今に至るのような形ですので」
「簡単な経緯は聞いたのですが組み込まれたような流れになったようですね」
「もう今更逃げる気もありませんが」
「イザベルさんもいますしね」
「それもありますが僕自身、ハオさんだから言いますがこの組織の変革を計画しています」
「それはどういうことでしょう」
「今回のドイツの一件、今回は大人しくではないですが中国からは引き下がりました」
「はい」
「しかし、これで終わったとは思っていません。それにアレクシア首相があの組織のトップではないはずです」
「アレクシア首相も駒の一つでしかないとお考えですか」
「一見すれば確かに斬新な会見でしたが一国の首相が他国の領土を占有し、その国の中から会見を開くような危険な行動をするでしょうか」
「私もそれは疑問には思っていましたがまだなんとも言えません」
「会見内容もいきなり占有を示唆していました」
「あの発言は私も驚きました」
「しかし普通に考えても他国の領土であんな発言はしないと思うんです。いつでも狙って殺してくださいと中国の国民に言っているようなものですよ」
「我が国は確かに」
「国内のクーデターで国内の勢力が国内を乗っ取るという例はありますがしかも何故そのクーデターに他国の軍隊が乗り込んでいるのか、誰が考えてもその占有を宣言した国が関わっていると分かりますよね」
「あの時はそんなことを考える余裕もありませんでしたが私じゃなくても、もしあれが世界中に流れたとしてもおかしいと気付くことになりますね」
「急いで対処しないといけないと思いアースシステムを稼動させましたが今思えばその必要もなかったのかと考えたんですよ」
「それなら何故あんな会見を」
「あれは世界中に向けた脅迫映像になるはずだったんだと思います」
「アメリカ、ロシアに続き、半減したとはいえ3番目に領土の大きい国を突然占拠できる力を世界に見せ付けたかったということですか」
ハオの顔色が曇る。
「今回も罠に掛かってしまったのはこちらになってしまったと私は思っています」
「藤原さんの見解が正しいとすれば中国での行動も地下施設の占有だけでなく、我が国全体の占拠を目的としていたということになりますね」
「そしてそれを足がかりに他国を次々と占拠していく用意もしていたのではないかと思っています」
「それならアースシステムの稼動は正しかったのではないでしょうか」
「相手の出方をもう少し見て戦略を練っていたとしたらアースシステムの使い方も変わっていたかも知れません」
「私のせいですね。私が日本に到着した時にもう少し冷静に物事を捉えることが出来ていたら」
「目の前で自分の兄が殺されて、自分も死に物狂いで逃れてきたとしたら自分も思考停止しているはずです」
「しかし私は新生中国を変えていく大黒柱という存在にならないといけない人間です。ここから先は誰にも苦悩した顔を見せるようなことがあってはいけないと考えています」
「それはリャンミオさんやイザベル、私にもですか」
「そうでした。すいません今の言葉は撤回します」
「安心しました。それからどうしても帰られるのですか?」
「日本政府の方には日本での葬儀も薦められたのですが国のトップの葬儀を本国でしないというのも国のトップが出席しないというのも国民の信頼を失うことになりますので」
「確かにハオさんの日本訪問には未だに疑いの目を持っている人間も少なからず存在しますからね。葬儀欠席となるとその疑いも掛かりかねない国ですしね」
「藤原さんも今回は帯同なさるのですよね」
「破壊された中国施設の現状報告を渡部さんから任されています。イザベルはお留守番になりますが」
「もし何かがあっては困るので私もその方が安心して帰国できます」
ハオの緩んだ声が聞こえた。
「それは私もです」
「話は変わりますが渡部さんから副首相にと薦められた人物がいるのですかこの方を藤原さんは知っておられますか」
ハオがタブホから画像を開いた。
「見たことあるような無い様なあるような」
「印象にないということですか」
「優秀な人だったのは覚えているんですが名前がすごく長かったような記憶があるんですよね」
「確かに名前の長い方でした」
「それとあなたと同じ試験官ベイビーなんですがニックネームが怖かったんですよ」
「なるほど、そうでしたか」
「確か、独断譲とか冷酷嬢とか言われていたような気が」
「フルネームが長すぎて気付いていなかったのですが女性の方だったんですか」
「軍隊育ちのためにその画像のように軍服コスプレにサングラスまでして分かりにくいですがよく見れば女性だと分かりますよ」
「はぁ」
ハオには良く見ても渡部に渡された資料から女性とは思えない経歴の数々が記入されており、画像からも男女の確認すらしていなかった。
「ハオさん、ほら資料にも女性と記入されているじゃないですか」
「画像と経歴から勝手に男性だと思っていました」
「まあ同じような方だとは思いますが」
その時にハオの部屋のドアがノックされる。
「ハオ様おられますか」
可愛らしい少女のような声が聞こえる。
「はい、どなたでしょうか?」
ドアの声にハオも返答する。
「この度新生中国の副首相に任命されました楊と申します。帰国の折にはご一緒になりますがまずはご挨拶にと参りました」
「噂をすればですね、ハオさん」
「今私の友人が来ているところですかそれでもいいですか」
ハオが問いかける。
「私は構いません」
「ドアの開錠をしましたのでそのまま開けてお入りください」
「それでは失礼します」
自動ドア扉が開き妖艶な着物を身に纏った美女が目の前に立っていた。
「初めまして、楊です。フルネームは長いと思いますので楊でよろしくお願いします」
「こちらこそ、初めまして、ハオです。この度は副首相になられるご予定だとか。まだ私は正式に結論を出させていただいていませんが」
「そうでした。それならば力づくで承諾していただきましょうか」
楊の目つきが変わる。
「お前、あの馬鹿力女か」
何故かその目つきで藤原の表情が変わる。
「馬鹿力女って。お前こそ、男の癖に非力極まりない軟弱男が」
楊の言葉遣いが変わる。
「二人とも知り合いなのですか」
ハオが間を割って問いかける。
「一応命の恩人になる」
納得していない顔をしながら藤原が答えた。
「一応って私がいなかったら今この世に存在すらしていなかったくせによくもまあそんな口が叩けるわね」
藤原を睨みながら楊は答える。
「その節は大変お世話になりました」
嫌々ながら頭を下げる格好をする藤原。
「こちらこそ、大変お世話させていただきました」
返す刀のように頭を下げる楊。
「私はどうしたらいいのでしょうか」
困ったように二人に問いかけるハオ。
「ハオさん、この方なら安心して警護の1人としてお勧めします」
「私は組織から副首相として任命されてきたのです」
「副首相として首相に挨拶するのにそのエロさは必要なのか」
「これは大人の女のフォーマルドレスですが」
「そうですか。資料の画像とは違いこれはこれはお綺麗なお姿をされておりますね」
珍しく藤原がここまでネチネチと攻めるのには理由がある。
命の恩人とは言っているが命を亡しそうになった原因を作ったのも楊だったからであるがその話はまた別の機会に。
「別にあなたの感想を聞きたくありません」
「そうでした。どうぞどうぞ、ハオさんお相手してあげてください」
「藤原さん、落ち着いてください」
ハオが場を収めようとしている。
「ハオ様よろしいのですかこの様な軟弱者を友人にされて」
「楊さんでいいですか」
ハオの口調が強くなる。
「はぃ」
その口調を感じ取った楊の声が小さくなる。
「藤原さんは友人である前に私の恩人であり、兄の数少ない良き理解者でした。その藤原さんを悪くいうのでしたら今すぐアメリカにお戻りください」
ハオの態度の急変に楊は態度を変えた。
「申し訳ありませんでした。そういうつもりではありませんでしたがこの方も私のことを散々に言っておられましたので勢いでハオ様にも失礼なことを言ってしまいました」
その姿を見て藤原も反省する。
「ハオさん、私もすいませんでした」
「分かればいいのです。ただ新生中国の副首相になる覚悟をあるのでしたらその格好をまずやめて頂きたい。プライベートでもそのような姿は止めて頂きたい。わが国は古来から華よりも龍を必要としている国家なのです。その意味をお分かりでないのならやはりアメリカに帰られた方がよろしいかと思います」
「チャン様の弟君とはいえまだお若いのでハオ様の器を測り兼ねておりましたが私も龍の一部となって新生中国のお手伝いをさせていただきたいと思います」
「あなたの資料を見させていただきましたが副首相として任せられる人材であるとは思いましたが藤原さんから独壇嬢、冷酷嬢と周りから呼ばれているという情報も聞いています。私はその情報で副首相に向いている人物であると判断しましたが人間的な部分も先ほど垣間見れて安心もしました」
「それはその方が。いつもの私はその方の情報のようにたわいの無い出来事や会話に執拗に攻め立てたり喧嘩したりするようなことはないのですがその方に対しては何故か」
「会話の煽り方の才能があるとイザベルも言っていたなあ。そういうつもりは無いのに」
「藤原さんの言葉には感情以上の何かが相手にも伝わるのでしょうね。良い意味でも悪い意味でも」
ハオが冷静に答える。
「ハオさん、私の器の小ささを端的にまとめるのはやめてください」
わざとらしく咽るような格好をする藤原。
「そういうことですか。ハオ様の言葉で私も納得がいきました」
楊が納得するように頷いている。
「藤原さん、楊さん、お二人とももうよろしいですか?」
「はい」
二人はハオに頭を下げながら返事をした。




