(1) 大いなる宣言(4)
刻々と事態は緊迫の度合いを増している。
ドイツの動きに相対するように裏側の組織であるはずのWRの主要メンバーが続々と国のトップに入れ替わるようになった。
到着後の日本でのハオの緊急会見はその幼さの残る青年から発した言葉とは異なり、新生中国という大国のトップに相応しいものだった。
ハオの会見の場面に戻る。
まずは日本の篠山首相が会見の挨拶を始めた。
「今日は我々日本の友人である新生中国のハオ様に来ていただきました」
緊急の公式会見とは聞いていたが周りの報道陣は篠山の発言に騒ぎ始めていた。
「皆さん静粛にお願いします」
場の騒乱を収めようと警備員やSPまでが躍起になっていた。
その隙を付きアクシデントが起きるのではと警戒していたリャンミオの部隊とスミスのチームの動きを察したのか今回の会見ではそれらしい動きは見られなかった。
「ハオ様、こちらへお越しください」
篠山がハオを会見の中央で呼ぶ。
「ごくり」
喉を鳴らしたのは藤原である。
「お兄様が緊張なさってどうするのですか」
会見場にはいないが全方位のカメラの映像を見ることなく中央のハオの映像にだけ目をやっている藤原。
「こういう場所でもハオさんは緊張しないんだな」
「お兄様が会見なさるわけじゃないのにどうしてそこまで硬直されているのですか」
「ああいう場所は見ているだけでも肩がこってくる」
というと藤原は軽く両肩を何度か回して肩をほぐしている。
「それに比べハオさんは凛々しいお顔をしてますね」
「そうだな。やっぱり俺とは器が違うな」
「しかしこの状況で何をしゃべられるのでしょうか」
「そういえば原稿も持っていないしそういう準備をしていなかったなあ」
「大丈夫でしょうか?」
「心配することはないんじゃないか。ハオさんの表情がすべてを表していると思うぞ」
藤原は少し笑みを浮かべた。
「そういう瞬間だけはお兄様はお兄様なんですね」
「俺はいつも俺のはずなんだが」
「そうです、お兄様はいつもお兄様ですね」
イザベルも笑みを浮かべた。
「ハオさんが会見を始めるぞ」
「はい」
壇上に着き、少しの沈黙を経た後にハオの会見が始まった。
世界中で私の会見を拝見してくださっている皆様、中国の新しい首相となりましたハオと申します。
我が兄チャンは突如として起きた幹部間の銃撃戦に巻き込まれこの世を去りました。
その原因も今国内の部下に捜査させているところです。
まず初めにお伝えしたいのですがドイツの首相が我が中国と同盟を結ぶような会見を開いておりましたが私が首相になった以上その同盟の破棄を宣言させていただきます。
それでもなおドイツ自治省というドイツが占拠している我が国の領土に留まるというのなら我が国はドイツという国に宣戦布告を行うことになります。
本日の発言から1週間以内の撤退をお願いしたい。
それでも占有権を主張されるのでしたら私の手元に準備されドイツに向けて合わせている核爆弾のボタンを押す用意もしておりますのでご承知いただきたい。
なお、アレクシア首相ご自身ではありませんがドイツ産の不老不死だという白い粉状の薬を飲まされその副作用でこの惨劇が起きたのではという情報が私の耳に入ってきております。その薬の発見には至っておりませんが発見と同時にその成分の分析をする準備も出来ています。
「ハオさん、わざとDHの存在を口にしたな。これでこれ以降同じような事件が世界中で起きた場合、ドイツ一国のみが疑われることになる。そしてDH使用の抑止も込められているのか」
ハオの会見の途中で藤原が呟いた。
ハオの会見はまだ続く。
我が兄チャンが残してくれた新生中国という国は今は離れ離れになってしまった兄弟国も合わせて守っていくことが我が国の使命であり、中国の首相としての務めであると思っております。
今後ドイツに限らず他国が新生中国と兄弟国に対して占有の意思を示す行動を取られた場合には直ちに行動に移す準備と意志があることを他の国々も合わせて知っていただきたい。
しかし、占有ではなく友好の意思のある国とはさらに強い絆を持って関係を強めていきたいと思っております。
首相としての最初の仕事は我が国に対するドイツ撤退の確認と我が兄チャンの葬儀です。
これからは新生中国のあり方を指し示す政策を世界中の方々にも情報発信していく予定です。
兄の意思を継ぎ、貧富の差があったとしても国民が心豊かに暮らしてゆける国づくりを私は目指していくことをこの場を借りて国民に約束します。
もちろん私1人で出来るものではありません。
国民一人一人が努力を惜しまず、さまざまなアイデアを出し合い、協力して助け合い、新生中国という国を作り上げていく礎を築く柱の一人一人となってくれることを強く願います。
なお私の潔白は映像の通りです。
ただし今回は外遊ではなく、日本との大事な技術提携を結ぶ為に来日しました。
無事に結ぶことが出来ましたが新生中国の政策に大切な意味合いを持ちますのでこの会見での発表は控えさせていただきます。
そして、本日、会見の場を用意して頂いた日本国と篠山首相には深く感謝の意を表わします。
私の会見はこれで終わりですが質問などありましたらどうぞ。
「中国新報のヤンといいます。ハオ様が中国に居られなかったということですがチャン様のご遺体は今どこにあるのか確認は取れているのですか?」
「遺体発見後、部下により冷凍保存されています。我が兄だけでなく幹部の方々の遺体も同じように保管されています。葬儀も兄の葬儀と同日に行う予定です」
「今回の突然のドイツによる占有に対してどのような思いをされていますか」
「私はドイツとの同盟について全く聞いていませんでしたので正直半信半疑です。ドイツの緊急会見も一方的なもので映像では中国側のものは1人も顔が見えませんでした。帰国後は同盟書類というものを確認したいと思います。兄弟だけしかわからない独特の隠し文字のようなものを使っていますのでそれが入っているのかどうか確認してからその後の判断をしたいと思います」
「その後の判断というのはどういうことでしょうか?」
「世界最高裁に訴えて公平に判断していただきたいと思います」
「先ほど核使用の示唆もされていましたが核使用という方向には行かないのですか?」
「占有に対しては強攻な意思を持って対処しますが同盟というのは書類上の問題ですので裁判で十分だと思っています」
「もしもですが、ドイツ自治省といわれている新生中国の領土の占有を約束の期限を過ぎても撤退の意思を示さない場合は核のボタンを押されるのでしょうか?」
「もちろんです。それはどの国の自衛でも同じだと思いますが新生中国の場合はその行動がはっきりしているというだけの話です」
「先ほど謎の薬の話をされていましたがチャン様殺害の要因をドイツが仕掛けたということはあるのでしょうか?」
「まだ明確になっていませんが現時点でその可能性が高いということを申し上げたいと思います」
「ハオ様自身まだお若いですが国民が首相として認めてくれると思いますか?」
「ヤンさんといいましたね」
「はい」
「あなたは今の私の会見と現在質問をしていてどう思われますか?」
「はっきりしている方だとは感じました。チャン様の補佐で副首相をされているのは知っていましたがどのような国内政策を考えておられるのか気になりました」
「会見どおりの発言になりますが新生中国は中国とは根本が変わりますのでもう少しお待ちいただきたい」
「分かりました」
「それと良い眼鏡をされていますがそれは日本の鯖江製のものですか?」
「すいません。国内のものはデザインは好きなのですが強度の方が心配なものでこういう仕事では日本製のものが信頼できますので」
「そういう技術も製品も新生中国ではしっかりと取り入れたい。その為に一番の根本を改善する予定です」
「国民の1人としてハオ様の政策を楽しみにしております」
この後、世界中のマスコミの多くの質問に予定の3倍以上の時間をとり、淡々粛粛と答えていった。
「ハオさん、今日は培養装置行きだな」
「ハオさん大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃないだろうな。でもチャンさんの弟だけでなく中国の首相として印象付けることは成功したといっていいだろうな」
「あれではドイツも撤退するしかないですね」
「多分それどころじゃ済まないぞ。撤退したとしてもアレクシア首相の退陣は確実だな」
「そうですね」
「表側に出てきたのはいいがまた地下に逆戻りだな」
「それはそれで怖いです」
「今回のこの一件さえもテストだったりするかもなあ」
「そうかもしれませんね」
珍しくイザベルが考え込んでいる。
「腑に落ちないことばかりか、イザベル」
「はい。今回の流れはドイツにとって最終的には最悪の結果になってしまいましたがこれがわざとだとすると何を目論んでいるのか考えてしまいます」
「そうだな」
藤原も言葉に詰まってしまった。
「これから先世界はどうなっていくのでしょうか?」
「イザベル、どうなっていくのでしょうか?じゃこの世界は他人が動かしていてそれを見守って生きている側の発言をしているぞ」
「ハオさんがあんなに頑張っているのに私が弱気な発言をしてしまいまいした」
「正直俺も一瞬そう思ってしまった」
「お兄様」
「大丈夫。また何か起これば元に戻る」
「事件の起きないときのお兄様は本当に不甲斐ないです」
「お前に心の弱さを挙げられた時と何一つ変わらない人間ですので」
藤原がイザベルの口調を真似ている。
「お兄様、まだ根にもっておられるのですか?」
「はい、申し訳ありません。心が弱いもので」
藤原はイザベルの口調をまだ真似ている。
「ハオさんを見習ってください」
「努力してみます」
「これだから不出来な兄を持つと妹は傍にいないといけないのです」
「イザベルありがとう」
二人の会話がいつものたわいのないものに変わっていった。




