(1) 大いなる宣言(3)
ドイツ首相アレクシアの会見の真っ只中で日米の首相大統領も衛星回線を使用し、会談を開いていた。
「ミスター篠山、今回の一件、日本はどちら側につくお考えか」
「どちらに付くも何もWR加盟国である日本はそのまま正常運転です」
「我がアメリカは場合によってはドイツ側に付く準備も出来ている」
「今何とおっしゃいましたか」
篠山の顔が引きつっている。
「そちら側にハオが拘束されていると知っている。それはドイツへの手土産の準備をしているのではないのか」
「それは違います。ハオ様を拘束などしておりません。こちら側で保護させていただいているだけです」
篠山の言葉には嘘偽りの口調は感じられない。
「やはりそうだったか。しかし、その後の行方がこちらのシステムでも不明なのだがそちら側では居場所の見当はついているのか」
アメリカ大統領ブラウンの苛立ちが声量を通じて伝わってくる。
「ブラウン大統領、少し落ち着いてください。表の世界ではそちら側が大国ですが組織の中ではどちらの立場が上なのか分かってその発言をしていると解釈して構いませんか?」
「ミスター篠山申し訳ない。ドイツの会見の後、アメリカの発言を世界中が注目することになると思うとつい苛立ちが立ってしまった。お詫びする」
「それでアメリカはドイツ側に着くのですか。WRを敵に回すということになりますが」
篠山の口調が強くなった。
「ミスター篠山。それは誤解だ。ハオを捕獲したという情報がアメリカにも入ってきたので日本側の意図を確認したかっただけで日本側の裏切りがあるのか確認をしておきたかった」
「表側の世界では大国のアメリカの運用も随分と大変ですなあ」
ジョークのような言い回しで篠山が嫌味を言った。
「冗談ではなく場合によってはアメリカはドイツに付く選択肢もある。いやあった。軍事力、科学力、経済力すべてにおいてアメリカという国はもう一番ではなくなってしまった為に強い勢力につかなければこの国は死んでしまう」
「今の発言は失言ですなあ。歴史の中においていつまでも一番を保ち続けている国は存在しておりません。我が日本を実験台に行われた壮大な過去の計画のせいでこの国も一時期は衰退を辿りましたが今に至りました。国のトップがそんな気持ちではアメリカという国はもう変われません」
「ミスター篠山、あなたとおっしゃる通りだ。そろそろ私は退くべきなのかもしれない」
「ブラウンさん、退いたとしても次の大統領の支えになるべきです。あなたのように現実に気付き、失敗を経験し、最後に反省をできるタイプの方はアメリカには貴重な人材だと私は思っている。その国はまだ世界の一番であるという自負を持って生きている人間が体勢を成している。アメリカに変化が起きる時、アメリカはまた生まれ変わる時だと私は思います」
「次期大統領にはそのような人物を据えることにする。大統領の器にない私が推し量る人物などその可能性があるのか自信はないが、影で支える決心もついた」
「ブラウンさん、任期終了まであと1年。日米の連携を強くしなければあのドイツと言う国はいくらでも隙を突いてきます。WRを通じて、アメリカという国の弱さを把握している以上これからも警戒を欠かさないようにしてください。そういえば、うちの渡部が近いうちにスミス所長に会いに行く予定になっています。そろそろスミス所長にも本当の真実を話すときではありませんか」
「渡部があの事件以来久々に来米する予定なのか。私も謝罪で顔を出さないといけない人間の1人だ。バーバラ事件のデータの改ざんとその真相をうやむやにした責任は私にもある」
「今の渡部ならそういうことももう気にしていないはずです」
「しかしスミスのほうは渡部を憎しみつづけているままだが真実を知ったところで今更どうなるだろうか」
「親子ですからねぇ。なるようになるのではありませんか」
「堅苦しい国同士の会談とは違い、個々になるとあなたの意見は急に曖昧になりますね」
「人間とはそういう生き物だと私は思います。私もそろそろ退く時期にきておりますが次期首相の候補はもう見つけておりますのでゆっくりと田舎で畑でも耕しながら最後を全うしようかと思っています」
「次期候補といえば、やはり渡部ですか」
「渡部は政策の表舞台などには不向きな研究畑の人間です」
「まさか」
「本人は断るでしょうが」
「それに経歴が」
「そこは組織の力で何とでも出来ますが本人の承諾を得るのが一番の難題になります」
「それに比べればこちらの次期候補の説得などまだ楽な方かもしれん」
「いけませんなあ。会談の話がついつい横に反れてしまいました」
「ミスター篠山。今回は日米合同会見という形でドイツに対して拒否会見を開きましょう」
「良いお考えです。組織統制の強化にもなるように強硬な発言の方向で準備します」
「こちらも同じ考えです。それでは後ほど」
「それでは後ほど」
こうして日米合同で行われた会見はその後の国々の会見に対して大きな影響力を持った。
ドイツ自治に対しても否定的な意見が大半を占めることとなり、組織としても面目と強化を高める結果となった。
しかし、日米合同会見にも藤原のアースシステムに近い作用が掛けられていたことをこの二人は知らない。
その会見の映像にアースシステムの癒しの効果の要因となる藤原とイザベルのムーシンパシィの効果が乗せられていた。
これに気付いたものは今回もイギリスのWQただ1人だったがやはりその原因は分からなかった。
そして未だに誰かと声を通じての会話をすることはしていない。
藤原、イザベル、ハオ、リャンミオの場面に戻るとしよう。
「渡部さんの承諾を取れたのでこのまま戻るぞ。アースシステムの稼動は早い方が良い」
「お兄様、ハオさんの方はどうなっていますか?」
「それについては心配はしていない。あの人が首相のうちはドイツに媚びることはない」
「お兄様は篠山首相とお知り合いなのですか」
「ああ、まだお前が誕生する以前の話になるがあの人は本物の武士のような人だ。退く事も攻める事も知り尽くしている感じの政治家だと俺は感じた」
「私はあの人が嫌いです」
ハオが会話の間を割ってきた。
「ハオ様、もうあの事は」
「ハオさんは何故篠山首相がお嫌いなのですか?」
しまったという顔をしているのは藤原だった。
「私の父を侮辱した人だからです」
「そうだったのですか。侮辱というのはどのようなものなのですか」
もうどうにでもなれとうなだれている藤原。
「あの方は私の父をわが中国を犯罪無法地帯にした張本人だと世界中におっしゃいました」
「それは本当の事なのですか」
追い討ちをかけるイザベル。
「私はそうは思っていません。父の代ではすでに中国というものは手が付けられない混乱の渦の中にあり毎日のようにどこかでテロが起きていたようです。軍部と政治は分断された勢力でお互いに牽制し合い国内の統制が取れないままだった国をまとめ上げたのがうちの父チャンです」
「ハオさんのお兄様と同じ名前」
「私は兄さんの助けにと作られ生を受けた存在ですが父も兄も大切な家族としていつも守ってくれていました」
「試験官ベイビーはその頭脳と引き換えに虚弱体質の方も多いと聞きますのでお二人ともご心配だったのでしょうね」
「母は久々に父が家に帰ってくるということで夕食の買い物に行ったままテロに巻き込まれて亡くなりました。そのこともあり父はテロを減少させるために一層軍部と政治のまとまりを計ったのです」
「ハオ様、もうその辺りで」
心配そうに見守るリャンミオ。
「いやリャンミオ、すべて話したい。今後日本と中国がお互いに助け合うということはこれから中国のトップに立つ僕と篠山の間に個人の感情を出してはいけない。その為に閉じ込めていた自分の憎しみを吐き出すことをしなければこのまま篠山に合うことも出来ない」
「ハオさん」
突然イザベルがハオを抱きしめる。
「イザベルさん、藤原さん以上に本当の私は弱くて醜い人間なのです。あなたに似合うような男でもないのはこれでお分かりいただけたと思います」
「お兄様」
「どうしたイザベル」
「お兄様の心の弱さを10個以上挙げてください」
「はぃ?」
「お願いします」
「えっと、分かった分かった」
というと藤原は心の弱さを挙げていった。
(今日はなんだか体調が悪いなあと思うとその日はブルーになる)
(何も無いところでつまづいて転びそうになるとその日は最悪な日になるのかと思ってしまう)
(スタッフの誰かと目が合って笑われると何で笑われたのか気になってしょうがない)
(プログラムを打ち込んでいて何度も同じ文字でスペルを間違えてしまうと凹む)
(予期せぬ事が起き続けてしまうと自分の所為じゃないかと感じてしまう)
(今日こそはカレーの日だと思っていたのに外出許可を取れない毎日に落ち込む)
(本当はこんな世界さえ夢の中の出来事じゃないかと思うと眠れなくなる日もある)
(ふとした時にすべてを投げ出して何処か遠いところに行きたくなる)
(イザベルがもっと兄に優しく接してくれたらいいのになあと思うときがある)
(組織内での自分の存在が異質だという立場は理解しているが敬語ばかり使われるので萎える)
(自分の為に取っておいた北海道から取り寄せしたヨーグルトの最後の一つをイザベルがこっそり食べてしまったときにイザベルが体調を崩したことがあってどちらの意味でも落ち込んだ)
「ふぅーこんなものでいいか」
藤原はすっきりした顔をしている。
「お兄様、最後の一つは弱さではなく私への文句ですよね」
「急に挙げろというから淡々と思い浮かぶことを呟いたが言ったことは全然覚えてないぞ」
「まあいいでしょう。我が不出来の兄の心の弱さがハオさんにもリャンミオさんにもお分かり頂いたと思いますので」
「はぁ」
ハオは困った顔をしている。
「可愛い」
リャンミオは意味不明は発言をしている。
「というわけです」
「どういうわけだ」
藤原が突っ込みを入れる。
「私も藤原さんのような道を歩いてみたかったですがそういうわけにも行かないようです。でも、何だか心が楽になりました。これもお二人のおかげです」
「ハオさんにはハオさんの心の弱さがあって当然ということです」
「はい、イザベルさんありがとうございました」
ハオのお礼の言葉を聞いてイザベルは抱きしめるのを止めて離れた。
「まあ、その俺の心の弱さでハオさんが救われるなら良しとしよう」
「藤原さんのように生活観に溢れた弱さはありませんがそれぞれに持っている弱さを抱えたまま人は生きていていいのだと今は思えます」
「ハオさま」
「立場上、生まれてから今までずっと対等に接してくれる人間に会うことがありませんでしたので自分にとっては大切な出会いになりました。しかし、到着したと同時に私は中国代表の顔に戻ります」
「そうですね。私もハオさんじゃなくハオ様と呼びなおさなければ」
「私はハオさんはハオさんとしか呼びません」
「イザベルそれじゃあ、ハオさんの立場が無いだろう」
「お兄様がその立場にお立ちになられたらいいのです」
「あのなあ 俺は 有名無力 無名有力を芯に置いて生きているんだ」
「また難しい言葉で私を翻弄しようとしてますね」
「なるほど藤原さんらしい。でも、あなたは表舞台でも有名有力のままで立っていけるお方だと私は思います。その流れが来た時は逆らわずその流れに乗ってほしいと友人として思っています」
「その流れが来ても私は乗ろうとは思いませんが日本と中国のお手伝いはさせていただきます」
「やはりそういうお方なのですね」
「心が弱い人間なので」
「それは私も同じです」
どれくらいの時間が経ったのか分からないがイザベルの導き出したルートを元に自動操縦で動いていたエアーサンダーは気がつくと日本の地下施設に無事に到着していた。




