(1) 大いなる宣言(2)
「中国の人民の皆様初めまして。ドイツの首相アレクシアです。この度はこの新生中国と同盟関係を結ぶ為にこちらへやってきましたがその途中で中国内部の混乱に巻き込まれて急遽こちらで会見を開くこととなりました」
ドイツのアレクシア首相とはWRドイツ本部トップにも君臨する女性である。
ドイツ首相として以上に存在感のある美貌と頭脳を持ち合わせている。
敵対関係にあったパキスタンとインドの両政府の間に立ち、その講和と合併国パキスタンインド連合をまとめ上げた上にアフガニスタンで二分する勢力の間に立ち、こちらは二カ国に分断しそれぞれに新しい国を誕生させることにも成功している。
その積極的平和貢献でノーベル賞候補にも挙がったが自ら辞退を申し出たという経歴の持ち主だった。
「あの女しらじらしくあのような言い回しを」
リャンミオがいつもとは違い冷静さを失っている。
「藤原さん、あの女です。わが中国の幹部達に白い薬を薦めていました。ドイツが開発した不老長寿の成分を混ぜたものだと言っていました」
ハオは自分が見た光景を思い返すように話した。
「ドイツ首相自らが中国のテロを起こしたのか。ますます腑に落ちない」
藤原はこの惨劇の先にアレクシアが発するであろうとんでもない発言をまだ予測できないでいた。
「お兄様、あの方は新人類のお1人です」
イザベルの言葉に藤原の閃きが重なった。
「なるほど、そういうことか」
藤原は気がついたようだがアレクシアの口から驚愕の発言が世界中に発信された。
「わがドイツは中国政府の支援のためにこちらに共同の軍隊を置かせていただくことになりました。お亡くなりになったチャン様からこのように条約締結のための書類にサインもしていただきましたので混乱の続くこの新生中国という国の礎の助けとなれるように支援させていただきます。なお、今逃亡中のチャン様の弟にあたるハオ様はチャン様殺害計画の首謀者としての国際手配を世界各国のトップの方々にご連絡していますので発見次第中国への強制返還をお願いします」
「やはりそうきたか」
「藤原さんこれはどういうことですか」
リャンミオが心配そうにハオの様子を伺いながら藤原の言葉に反応した。
「中国の混乱に紛れて中国を自分の物にする気だな。正確に言えば、中国領土の地下に大きな研究所を建設したいのだと思う」
「ドイツに足りないものは私でもお兄様でもなかったということですか」
「イザベル、そういうことだ。日本で起きたここ一連の事件もすべてフェイクだったということだ」
「あれだけの命を奪っておきながら」
「イザベル、お前なら分かるだろう。新人類が自分の欲のためだけに生きるとしたらどういう行動に移るか」
「私には分かりません。分かっていても大切な人たちの為にそんな行動には出ません」
「そのお前の言葉がこの世界の光になってくれると俺は信じてる」
藤原はイザベルの頭を優しく撫でた。
「藤原さん、私はこれからどうすればいいのでしょうか。兄暗殺の汚名を着せられてはいますが私と同行しているとお二人にもご迷惑をかけることになりそうで心配なのですが」
「それなら心配はいりません。打つ手はいくらでもありますよ」
「イザベル、ハオさんと結婚してくれ」
「お兄様、いきなり何をおっしゃられているのか理解が出来ません」
頭を撫でられご機嫌だったイザベルの表情が困惑した表情に変わる。
「ハオさんを助ける為だしちょうどいいタイミングだと思う」
「藤原さん、私の方は構いませんがイザベルさんが困っておられるのでそのアイデアを使わない手でお願いします」
ハオは少し頬を赤く染めて照れているようだ。
「ダメか。一番簡単で良い方法だと思ったんだけどなあ。中国の混乱の中、ハオさんは中国にはいなかった事にすればアレクシアの発言は撤回せざるおえないと思って」
「お兄様それならわざわざ私を利用しなくてもそういう風に出来ると思いますが」
「そこはついでにだよ」
「何のついでにですか」
「すいませんお二人の会話に入れませんので無理やりに入りますがハオ様の無実はすぐにでも世界中に証明出来ることが可能ということですか」
「向こうが映像を出してきてもそれが再生されなければいいんです」
「お兄様まさかアースシステムの闇の部分をお使いになられるということですか」
「毒には毒を持って制するしかないか。気がかりなのはあの国がどれだけの科学力を有しているのかということになるが科学力以上のものを使用していない限り負けることはないはずだ」
「さっきから何を言っているのかは理解できませんがハオ様の無実が証明できるなら私も何かお手伝いしたいのですが」
「藤原さん、私が未熟であるばかりに申し訳ありません」
藤原に頭を下げるハオ。
「ハオ様、あなたは未熟ではありません。こんな短時間でいつものハオ様に戻られました。俺なんて1週間以上立ち直れていなかったのでお恥ずかしい」
「お兄様の優しさは弱さでもありますので今後ハオさんを見習ってください」
「そうだな、イザベルの言うとおりだ」
そんな二人の姿を見て、ハオもリャンミオの顔からも不安や悲しみの色は消えていた。
ドイツ首相アレクシアの発言で世界中のトップが動くことはありえなかった。
WRの支配下にある国々はもちろんハオの暗殺首謀者説を否定し、連日、ドイツ側に批判的な発言を繰り返した。
しかし中にはWR支配国の中にもドイツ側の肯定に回る者も現れるようになるなど中国の地下領土の分配を目当てにしたのか、洗脳者の仕業か判明しないが予期せぬ動きも垣間見えた。
アレクシアの思惑どおりに計画は進むはずだった。
「一体誰が邪魔をしている。原因は分からないのか」
アレクシアの怒りの言動が部屋中に響く。
「どうやら、WRが関係しているようです」
「世界中に発信している映像の再生される回数が何故伸びないのだ。あんなに衝撃的な映像を作り上げてもこれでは計画通りにハオを拘束することが出来ない」
「そのことですが、ハオがその時は非公式に日本に滞在して観光していた様子の映像に世界中が魅入ってしまいあの映像を信じているものがいないようです」
「どういうことだ。あれは多少の加工はしてはあるがほぼ現実の映像を編集してある本物の映像なのにどうして誰も見ようとしない」
「アースシステムによる効果を用いていると思われます」
「脳自体に一時的に癒し効果を生むシステムのことか」
「はい」
「WRの後ろには渡部が控えているということか」
「いえ、謎の研究員でこちらにもデータがありません」
「中国の国内でも暴動が起き始めているというのは本当か」
「はい連日ドイツ自治区で中国人による暴動が大きくなり始めています。DHを使われてはいかがでしょうか?」
「お前はドイツ自ら犯人だと名乗り出ろと言っているのか」
「そのつもりはありません。寧ろDHを使い新生中国の統治はうまく行っていないということを世界に発信したらどうかと思いまして」
「発信しても見るものがいない映像では無意味だと思わないのか」
「失言しました。申し訳ありません」
「お前はドイツに戻れ。新しいプログラムの更新を脳のチップに入れて帰ってくるのだ」
「分かりました」
「優秀なはずの私の人材がプログラムの更新を怠るとこうも無能に感じてしまう。試験官ベイビーに脳の細胞増殖チップを埋め込んだまでは良かったが頭脳の明晰なものに限って私のプログラムに耐え切れないまま脳死状態に陥ってしまった。そのために凡人を利用したが今度は細胞の増殖には耐えれるが肝心のグリア細胞の増殖が思うようには増加しない。まあそれでも頭脳明晰な試験官ベイビーの2倍の能力は発揮し、大人数の生産が出来るのだから満足しないといけないか」
WRの組織の中で新人類と認識されていないアレクシアという存在である。
しかしドイツはこの一件でWRから強制的に外されることになった。
WR側からするとドイツというまだ見ぬ科学力を手に入れることが可能になるという思惑があったが他国組織の人間を誰1人として受け入れることをしようとしなかった。
その間にドイツ側からは多くの人材が他国に渡り、その国の技術を覚え、ドイツの技術力との差も推し量る機会を与えてしまったが今更組織内でその責任を指摘するものも論じるものはいなかった。
何故ならドイツの入国に対して誰一人として反対をしたものが居なかったからだ。
日本にももちろん一名の人員がドイツから派遣されてきたが日本の研究室内で亡命を希望して、その直後に意識を失い脳死という見解で片付けられた。
脳の一部に損傷があり、焦げ付いた形跡も見られたがその原因が不明のまま丁重にドイツの家族の許に送り返された。
その時のことを藤原は鮮明に覚えている。
「渡部さん、フランツはどうして死んだのか分かったのですか?」
「原因は不明だが脳の一部が焦げているらしい」
「脳内チップを使用していたということですか」
「今の時代脳内チップの使用は珍しいことではないが遠隔操作できるとなると話は別だな」
「それは可能ですよ。通信技術の発達でいろいろな電波が世界中飛び交っていますから。しかも最新技術の塊のこの施設内も多くの電波が行き交っていますし」
「しかしセキュリティの網をどう掻い潜る」
「掻い潜る必要はないと思いますよ。フランツさん自身が1つのPCだとしたら直通で通信のやりとりをしていた特別な電波があったのかもしれません」
「ドイツの科学力はそこまで進んでいるというのか。まだ私たちの知らない電波をすでに使用していると」
「もし仮にそうだとしたら全てが繋がりませんか?もちろん証明できる証拠はありませんが」
「お前が言うならそうなのかもしれないな。日本の技術者をドイツに送り込もうとしたが拒否された。そしてフランツ君の死だ。そうなると日本の施設の一部はフランツ君の眼を使いドイツ側に映像を送られているかもしれないな」
「渡部さん、そこまではないはずです。フランツさんは義眼を入れている形跡はありませんでしたし、ドイツには直接やりとりで連絡していましたし怪しいところはありませんでしたよ」
「そうか、それならいいが」
「しかし、近い将来、いろいろな国から派遣されてくる研究員に対してはそこまで疑って掛かる必要はありますね」
「フランツ君の一件で当分日本は他国からの研究員の派遣を拒否することにした」
「私もそうしてもらえないか渡部さんに提案に来たんですがフランツさんの一件でドイツという国が恐ろしい国だと認識しました」
「そうだな。人間を駒のように使っているこの国のトップはこの組織を超えた闇かもしれないな」
「WR(ワールドレジスタンスもしくは世界の障壁)はあくまでも人間洗脳支配をしつつも世界バランスを考えた運用を目的とした組織団体ですがドイツという国はそのどちらも考えてはいないようです」
「世界統治とでも言いたいのか」
「そこまでは分かりませんがあの頃のドイツにやり方が似ていると思いませんか」
「そうは思いたくないが今後一番警戒するべき国だな」
「はい」




