新たなる幕開けと戦いの始まり(1)
新たなる幕開けと戦いの始まり(1)
藤原はイザベルを伴って、楊の部屋の前に着いたが気が進まない。
「お兄様、楊さんのお部屋に着きましたがどうなされました?」
イザベルが不思議そうに藤原のほうを見ている。
「はぁ・・・・イザベル、頼む」
藤原はため息をついている。
「苦手なお方ですか?」
「まぁそういう感じだ」
「ハオさまの前では楊さんにとおっしゃっていたのに本人の部屋の前で立ち止まっておられるとは情けないです」
「あの場面はああ言うしかないだろう。ハオさんの体調を考えてだな」
「私は楊さんのことはあまり知りませんのでお兄様よろしくお願いします」
「イザベル、そこをなんとかお願いします」
「先ほどのお兄様はどこに行かれたのでしょうか?もう中国に到着されているのですか?」
「イザベルこんな時にそういうあてつけた冗談を言うのはやめてくれ」
「やめてほしいのはこっちです。急がないと楊さんにも予定があるとしたらキャンセルしていただかないといけないのですよ」
「分かりました、分かりました」
楊の部屋の前での立ち止まっている二人の会話が聞こえる中、楊の部屋の扉が開いた。
「先ほどから私の部屋の前で何をされておられるのですか」
呆れた顔をしながら楊が聞き返している。
「ハオさんのことでお話があるのですが?」
イザベルが細々とした声で楊に話しかけた。
「あなた、声が小さい。ハキハキとしゃべりなさい」
その言葉にイザベルが藤原の影に隠れる。
「あのイザベルさん、お前までそれじゃあ話すら出来ないじゃないか」
イザベルは初めて本当に怖いという感情を知ってしまった。
「あなたがイザベルさんですか。初めまして、新生中国副首相の楊です。いくら組織の象徴と言われている存在でも私は遠慮しませんので覚えておいてください」
イザベルを睨みながら楊が言った。
「お前なあ、初対面のイザベルに対して何て事を言うんだ」
「軍隊育ちの私はあなた達のような馬鹿兄妹が嫌いなので初対面からしっかりとした態度を示しただけです」
「ハオさんの前で可愛らしい女性を演じようとした人間のいう言葉か」
藤原は楊に対して嫌味を言ったつもりだった。
「私はハオさまに惚れていますので何を言われようと構いません」
「いやいや年の差が」
藤原は冷静に突っ込みを入れてしまった。
「愛があれば年の差など関係ありません」
「ちょっと待った。今そういうことを話している場合じゃなかった」
「そういえばどのようなご用件で来られたのですか?」
話の筋は合わないままだったがようやく本題の話に入ることが出来るようだ。
「大事な話なので部屋の中に入ってもよろしいですか?」
藤原の口調が変わったことで楊も察したように二人を部屋の中に入れた。
「まず調べさせてください」
そういうと藤原は自分のムーブの機能を起動させた。
「特に異常なしと」
楊にはその行動が理解できなかったがセキュリティ検査のようなものだとは感じた。
「それでは本題に入ります。実は先ほどハオさんが過労で倒れこんでしまいました」
「何故私にすぐに連絡がこないのですか?」
楊は心配そうな顔をしてる。
「リャンミオさんが付いていますので大丈夫です」
「あの女など私に掛かれば一ひねりなのにハオさまのお傍にいつも馴れ馴れしく」
「楊さん、あなたじゃリャンミオさんには勝てません。今はその話ではなくて、今後のハオさんの日程についてお話に来ました」
「私がすべての予定の代理をいたしましょう。ハオさまはこちらで休まれるといい」
「それがそういうわけにも行きませんのでそのスケジュールの打ち合わせにと」
「私にはすべての代理は出来ないと思われているのですか」
「その逆です。ハオさまは自分のお兄様の葬儀と大事な行事にはこれからの国の為にもしっかりと顔を出したいと言われています。ただし、すべての行事に顔を出すとなるとまたいつ倒れられるか分かりませんのであなたにもお手伝いいただきたいと思っています」
「そういうことでしたらお受けいたします」
「まあそれに副首相としての顔見せ行事でもあります」
「ハオさまは私を副首相として正式にお認め下さったのでしょうか?」
「私からそれとなく認めてもらえるように話しました」
「あなたは対話術には長けているようですからね。今回は助かりました」
「対話術というか信頼できる方だと思いましたので」
「私を口説いても無駄ですよ」
「いや100%口説いていることに対しては否定をさせていただきます」
楊は少しムッとした顔をした。
「まあそのことに対してはいいでしょう。それで私はハオさまと一緒に同乗すればよろしいのですね」
「はい。途中途中ハオさんには休んでいただきながら代わりに楊さんが行事に出ていただけたらと思っていますがどうでしょうか?」
「構いません。ハオさまと同乗できるとは夢のようです」
「楊さん、ハオさんがこの間言った言葉は覚えていますか」
「そのことについてはもちろん覚えています。華ではなく、龍であれということですね」
「ハオさんの前ではともかく、国民の前ではその姿勢でお願いします」
「ハオさまに言われたことですので華に龍を加えて、副首相としての勤めを果たさせていただきます」
「はぁ。ハオさまに怒られるような格好はやめてくださいね」
「承知いたしました」
ハオという語尾が付くと楊の言葉が馬鹿丁寧になることに気付いた藤原はハオという言葉を用いて楊との会話を進めた。
「それからイザベルさん、いつまでもハオ様があなたのことを好きだとは思わないで下さい。いずれ私に振り向かせていただきますのでご注意くださいね」
イザベルはまだ藤原の影に隠れている。
「私はお兄様が一番でハオさんは2番目に好きなのです」
イザベルは楊に答えた。
「血は繋がっていないようですし、その方が私には好都合ですので私は応援いたしますよ、イザベルさん」
「楊さん、1つだけよろしいですか?イザベルのことを馴れ馴れしくさんづけするとハオさんに怒られますよ。イザベルはこの組織の象徴であり、あなたの立場からするとさまと呼ばれる身分です。過去も調べさせていただきましたがそういうことで何度も降格処分を言い渡されていますよね。しかし今回は降格処分よりもハオさんの傍に居られなくなるということになりますがいつまでもそういう態度を取られると私もハオさんにご報告しなければなりません。それでもよろしいですか?」
ハオという言葉を盾に藤原がまた楊を説き伏せる。
「イザベル様、先ほどまでのご無礼お許しください」
楊が素直に頭を下げる。
「いえ私はべつに構いませんがハオさんやお兄様が嫌がられると思いますのでよろしくお願いします」
「申し訳ありませんでした」
「イザベルは組織の象徴です。それを理解した上でお話いただきたい」
「お兄様そこまでおっしゃらなくても」
「いやダメだ。今組織は大事な時だ。こういう事の積み重なりで統制が取れなくなる」
「そういうことでしたら」
イザベルも藤原の言葉に従う。
「それから本来なら私もあなたの上の立場の人間ということを知っていますね」
「承知しております」
「今はハオさんにとっても非常に大事な時期なのでよろしくお願いします。あとハオさんには前回に限らずお色気攻撃は通じませんのでお伝えしておきます」
「イザベルさまのようなお子様がお好みなのですか。しかしその事に対しては私も負けません」
「さすが楊さんですね。ハオさんから楊さんにもよろしくお願いしますと言われていました」
「本当に認めていただけたと理解してよろしいでしょうか?」
「ハオさんご本人からの言葉ですのでそう思いますが」
「ハオさまにこれからよろしくお願いしますとお伝えください」
「いえ、同乗の時にそれはご自身でおっしゃってください楊副首相」
「そうですね。それでは改めてスケジュール調整に入りましょう」
「時間がありませんのでこちらこそよろしくお願いします。イザベルお前も手伝ってくれ」
「分かりました。すぐに準備します」
こうして、ハオが体調回復に勤しんでいる間に新生中国帰国に向けての準備は整った。




