信頼と裏切りと真実と偽りの交わり(終)
信頼と裏切りと真実と偽りの交わり(終)
「ハオさま」
リャンミオが咄嗟に抱きかかえる。
「ハオさん」
「ハオさん」
藤原とイザベルが心配そうに駆け寄る。
「ハオさまは人生で初めてハードなスケジュールが続いていましたので体調に負担が掛かってしまったようです」
リャンミオはハオの額に手を当て、答えた。
「この短期間の間に色々なことがあったからなあ」
「お兄様、そんなのん気なことを言っている場合ではありません」
イザベルの口調が怒っている。
「とりあえず、意識が戻るまでベッドで休ませておこう。イザベル、お前は医療スタッフを呼んできてくれ」
「分かりました」
「俺はハオさんをベッドまで運んでおく」
「私は何を」
「リャンミオさんは病室まで運び終えましたらハオさんの傍にいてあげてください」
「分かりました」
「しかし、2日後にはチャンさんの葬儀か。ハオさんの体調を考えると、新型で行くしかないか」
幸いハオの体調はは微熱程度だったが心労と疲労による体の限界はピークに達していた。
「お兄様、医療スタッフを連れてきました」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
藤原とリャンミオの声が重なる。
「ハオさんは大丈夫でしょうか?」
「イザベル、今詳しく検査してもらっているが少し体温が高かったが心配ないと思うよ。ただチャンさんの事から首相就任、新生中国の未来絵図と休みなしで働いていたからなあ。一人で抱えすぎていたがそろそろ周りの人材にも手伝ってもらうタイミングが来たんじゃないかと思う」
「でも、ハオさんは信じれる人がいないんですよね」
「確かに本国に本心で接することの出来る人間はいないだろうが、新しい副首相についてはハオさんも認めていた」
「それでは今回の葬儀行事には変わりにその方に」
「イザベル、それは出来ない。体調だけでなく、命を狙われる場面も覚悟していくことにはなるがハオさんを首相として初めての行事でもあるから欠席は許されない」
「そうですか。私はそういうことはよく分かりませんのでお兄様の言われることが正しいのでしょうね。でも」
「お前の気持ちもいいたい事も分かっているがハオさんの為でもある。それは分かってくれ」
藤原が真剣な目をしてイザベルに答える。
「お兄様がそこまで言われるのでしたら。ただし、ハオさんの体調を優先してください」
「ああ、もちろんだ」
二人がハオについて病室の外で会話をしている間にハオの目が覚めた。
「ここは」
「ハオさま、気が付かれましたか」
リャンミオが心配そうに声を掛ける。
「藤原さんとイザベルさんは」
「今この病室の外で今後の予定について話しておられるようです」
「私なら大丈夫です。兄の葬式に出なければいけません」
「はい、承知しております」
「リャンミオ、お前は付いてくるな。約束どおり、イザベルさんとこの施設の警護に当たってくれ」
「しかし」
「藤原さんと一緒に行くんだ。心配はない」
「はい」
リャンミオの返答が力なく沈んでいる。
「ハオさま、少しよろしいですか?」
すべての検査を終えて、二人の会話の終わるのを待っていた医療スタッフの責任者が話しかける。
「この度はお世話になりました」
リャンミオが深々と頭を下げる。
「検査を終えましたが異常は見られませんでした。しかし、長期の休養が必要だと思われます」
「しかし」
「ハオさまのご身分もスケジュールも理解しております。ですので、これからすぐにでも培養装置の中に最低半日休まれてください」
「しかし、それでは」
病室の扉が開き、藤原とイザベルが入室する。
「ハオさん、私も同じ考えです。スケジュールの変更も合わせて提案します」
「しかし、それでは」
「大丈夫です。副首相でも変更の利く行事は楊さんに代わっていただきましょう」
「私はすべての行事に顔を出したいと思っています」
「ハオさん、それでは新生中国の掲げるハオさんの言葉に反しますよ。少しは副首相にも仕事をさせてあげてください。あなた1人で一国の全てを抱えてはいけません」
「藤原さん」
「お兄様」
「ということでハオさんが休まれている間に楊さんとスケジュール調整をしておきますので安心してお休みください」
藤原の押し切る口調にハオは自分の会見での言葉を思い出していた。
「そうですね・・・・・・自分で言っておいて。藤原さん、よろしくお願いします。楊さんにもお願いしますと伝えてください」
「はい」
「それではハオさま、このままお連れしますので寝ておいてください」
ハオはベッドに寝かされたままで培養装置に運ばれていった。
「藤原さん、ありがとうございました」
「リャンミオさんにお礼を言われることは何もしていないですよ」
「いえ、本当なら私が言わなければいけないことでした」
「誰かというのはないです。言える人がいえばいいんじゃないですか。私はハオさんの描いている新生中国に賛同する友人です。ハオさんにこれ以上倒れられたら困ります」
「楊という人物は非常に優秀なようですがハオさまは本当に認められたのでしょうか?」
「まあなんとなくですが」
認められた原因に自分の事が関連しているとは言えない藤原。
「なんとなくでも親しくない人間をハオさまは認められたのでしたら私が口を出すことではありませんので」
「培養装置にハオさんがいる間、リャンミオさんもハオさんの警護をお願いします」
「そのつもりです」
「私はイザベルを連れて、今後のスケジュール調整を楊さんとしてきます。あの方も自分なりにハオさんの代理としての準備はしているとは思います」
「分かりました。よろしくお願いします」
「それからリャンミオさんも休むことは忘れないようにしてください。ここは日本なのでスミスさんのチームにも助けてもらってください」
リャンミオが不眠不休に近い職務をこなしていたハオの傍で同じように不眠不休で警護をしていたことを知っていた。
「はい」
「私からスミスさんに話も通しておきますので必ず休んでください」
「はぃ」
見透かされたリャンミオの返事が小さくなる。
(場面がアメリカのデトロイトに戻る)
「渡部所長、しかしあの二人は何者なのですか?」
ゲートの中に入り、改めてローランドが聞いた。
「あの二人は何者なのか私にも分からない」
その言葉にローランドも返答できない。
「ただ、本当に仲の良い兄妹だとは思う」
渡部自信、自分の口から出た言葉に驚いている。
その言葉にマクドナルドは大笑いしてしまった。
「マクドナルド」
渡部の視線が睨んでいる。
「すいません。でも、まさか渡部さんの口からそんなセリフが出るとは思わなかったので」
「それは私もだ。今の言葉、あの二人には口が裂けても言うな」
「分かりました」
スミスとローランドも自分たちの想像している渡部の印象と違うことに驚いている。
「スミス所長、施設に入っていきなりだが二人だけで話がしたい。今後のこともあるがその他に聞きたいこともある。どうだ?」
「私は構いません。ローランド、渡部所長と大事な話をするのでA1の部屋に飲み物を頼む」
「分かりました」
「マクドナルド、日本との連絡を取り、何もなければ休憩していてくれ」
「分かりました」
(デトロイト施設A1)
「実は」
スミスが重い口を開く。
「ブラウンに聞いたのか」
渡部が聞き返す。
「いえ、篠山首相からご連絡があり」
「そうだったか」
二人の会話に詳細な言葉はないが、バーバラの真実の出来事についての事の様だ。
「本当に私の為に」
「ああ、そうだ。私ではない。スミス、お前のためだ」
「どうして私のような出来そこないのようなものの為に」
「それは私の発想とそれを信じたバーバラの努力とお前が誕生した奇跡。そのすべてを守るためだったと今は分かる」
「なのに私は」
「なのにではないだろう。だからお前はいろいろなものを発明してきた。自分の実績を重ねて、所長という役職にまで登りつめた。私はバーバラの気持ちに気付いていながら自分の気持ちに気付いていながら何も出来なかった」
「私も後から誕生したWRやWQに嫉妬ばかりしていました」
「それは私もだ。お前も知っての通り、日本にはイザベルもいるが藤原がいる」
「名前は聞いていましたがあの男が神の啓示とよばれる意味が分かったような気がします」
「藤原には今は嫉妬はない。今回のローランドの件もそうだが毎回助けてもらっている」
「器の違いですか?」
「色々な出来事を経験していくうちに私もようやくその現実に気付いた」
「私もその事に気付くのが遅すぎたようです。少しでも進化のことを考えて自分に苦しみと苦悩ばかりを与えていたのかもしれません。その結果がこの身体です」
そういうと、スミスは服を脱いで自分の上半身を渡部に見せた。
「まさかここまで進行していたとは。どれだけ培養液の中に浸かっていたのだ」
「生きている限りは自分の進化の限界を知りたいとも思っていました」
「その為に神の災いの苦しみを耐え抜いてきたのか」
「はい。しかし今回の件で自分のしようとしていたことが間違っていることに気付きました」
「スミス式培養装置のことだな」
「どうしてその事を」
スミスは驚きの表情を隠せない。
「篠山首相がブラウン元首相との会話中にブラウンの失礼な言葉に恫喝するとその話を口に出したということだ」
「ブラウンが」
スミスの声に敵視が感じられる。
「私は別に構わないとは思う。お前の痣と疲労が消えるとしても、お前の寿命はもう限られているのだな」
「私にも想像はつきませんがあの装置が自分の実績を後世に残す最後の発明にするはずでした。しかし、もう必要ありません。母もあなたも本当はそれを望んでいないし、今の私もそれを望まなくなりました」
「スミス。痣はなくなり、遺伝子異常もなくなると、イザベルと同等の新人類が大量に生産されることが可能になるがお前はそれでいいのだな」
「はい。自分の欲や嫉妬のために。立場や権力の為に。私たち新人類と呼ばれるものが誕生してきたわけではないということに今更ですが分かりました。だから、新人類は3人しか誕生していないことも」
「組織の中ではそうだが、ドイツに関しては分からない」
「あの国でもし誕生していたとしたらそれは新人類ではなく神か悪魔ではないでしょうか?」
「お前もそう思うか。強制的に誕生させた化け物ではないかと私は思っている。普通の人間でさえ人造人間のように変えてしまう組織だ」
「私はやり方は違いますが同じ事をしようとしたのかもしれません」
「それは私の責任だ。もう少しこの薬の開発が早ければ」
「それも運命というものなのかもしれませんね、お父さん」
「スミス。今何といったのだ」
「それも運命だといったのです、お父さん」
「そうか、お父さんと呼んでくれるのか」
渡部はあふれ出る涙を止められなかった。
それはスミスも同じだった。
その傍にはバーバラが二人を包むように暖かな空気が漂っていた。




