信頼と裏切りと真実と偽りの交わり(5)
信頼と裏切りと真実と偽りの交わり(5)
スミスと渡部の前に突然見慣れない飛行体が姿を現す。
「新型の方のエアーサンダーが何故ここに」
渡部が声を漏らした。
「エアーサンダー?」
スミスは初めて見るその機体に驚きを隠せない。
「スミスさん、大切な人をお届けに上がりました」
ガルウイングタイプの扉が開き、藤原が降りてくる。
「お前まさか1人で」
「いえ、1人ではありません、お父様」
「イザベル、お前まで。どうして」
「それとローランドさんも居られます」
「本当か」
スミスの声が強張る。
後部のドアが開いた。
「スミス所長、申し訳ありません。あんな連中を信じたばかりに」
ローランドは少し蹌踉けながらも、一歩一歩を力強く踏みしめようとしながら歩いてくる。
「お前が無事で良かった。私も騙されていたのだ。お前に責任はない」
ふわふわとした足取りのローランドの元にスミスは足早に駆け寄った。
「それでは私たちは帰りますので」
「渡部さん、急ぎますので説教は帰国後にお願いします」
そういうと、2人はそそくさとエアーサンダーに乗り込み、ステルス機能を稼動し、姿が消してしまった。
「あの馬鹿、自分の予定も詰まっていると言うのに」
渡部はここでも涙をどうにか堪えた。
「渡部さん、あの2人、何者なんでしょうね」
マクドナルドはニヤけていた。
「お前のいう人脈とは随分身近にいる人間なのだな」
「この役職をしていると知り合いは多く出来るのですが私が信用できる人間は自分を抜くと片手で数えられるほどいるのか、いないのか」
「さすがだなと言いたい所だがマクドナルド、今回はそういうわけにもいかんな」
「分かっています。しかし、私たちの後ろをエアーサンダーで途中まで付いてきていたことを私も知りませんでしたので」
「あいつらのやりそうな事だ」
「あと、ローランドさんの救出に争うことなく成功したのは渡部さんのおかげです」
「どういうことだ」
「渡部さんの映像をリアルヴィジョンで軟禁されている建物に映したらしいです」
「最新兵器を使わずに、最新機器を使って救出したということか」
「あの人は争いごとが嫌いですからね」
「その映像はどのカメラを使用した」
「カメラではありません。私のムーブからです」
「それでお前はムーブを掛けたままだったのか」
「ずっとイザベルさんからの指示を受けていました」
「スミスに凄んだときもか」
「あの時は感情を止められず、すいません」
「そうだったか」
「しかしエアーサンダーか。2人から話は聞いていましたが」
「DLEDシステムのように通常運転は大気中の電子を蓄積して稼動することもできるがステルス機能と高速移動を目的としている以上、通常運転は皆無だろうがどうしても譲れなくてな」
「新型の方のガルウイングのドアのデザインは昔の日本車のものを真似たらしい。中央に蓄電システムを積む予定だったがイザベルが格好悪いのが嫌だと言うことで4分割している。結果的により細かな蓄積残量計算が出来るようになった。DLEDシステムの通常運転と、雷の蓄電システムを使用して、どの速度で走ってもステルス機能の稼動が可能になる乗り物に仕上がった」
「なんとなくですが理解できましたが初期のエアーサンダーとはデザインも中身も全く別物になったということですね」
「初期型は競走馬に乗るようなものだだったからな。開発全般に関わっていた藤原はよく乗りこなしているが暴れ馬と表現していい」
「藤原さんにはぴったりの乗り物と言うことですね」
「あれはああいうものを手なずける才能があるようだからな」
「渡部さん、一旦収束ということでまず中に入りましょう」
「そうだな。スミスとローランドの方もそろそろ話しかけてもいいタイミングか?」
「そろそろ大丈夫だと思います」
二人の方に視線をやると、渡部とマクドナルドに深く頭を下げている。
「スミス、良かったな」
「ローランドの件、本当にありがとうございました」
スミスは重ねて、頭を下げている。
「ミスター渡部、今回の件、何とお詫びを申し上げればいいのか。この責任は私にあります。厳罰はスミス所長ではなく私にお与えください」
ローランドは必死に責任を自分に向けさせようとしている。
「何のことだ。今回の一件はジャクソンが責任を取るべきであろう。お前たちは騙された。ただそれだけだ」
渡部の口調がいつもの調子に戻る。
「さすがだな」
マクドナルドは小さな声でささやいた。
「渡部所長、とりあえず施設内でこれからの話をすることにしましょう」
スミスの口調も戻っていた。
「そうだな」
そういうと、ゲートの前に近づき、スミスが認証を始めた。
「これがお前の作ったゲート認証システムか」
「日本のシステムを改良させて作りました」
「DLEDもSGも体験したがこれも良いものだな」
「ありがとうございます」
スミスと渡部はこの場面で初めて親子としてのたわいの無い会話をした。
(エアーサンダーで帰国途中の藤原とイザベル)
マクドナルドのムーブを通して、その様子を見ていた。
「イザベル、どうやらうまくいっているようだな」
「当たり前です。だから私は言ったのです」
「でも、あの状況だとタイミングが悪いと何を言われていたか」
「それも予測して、搭乗完了後にステルス機能をすぐ稼動するようにセットしていたのです」
「まさかゲートに向うまで俺たちが近くにいたとは誰も気が付いていないだろうな」
「多分、お父様は気付いておられますよ」
「イザベル、渡部さんが帰ってきても今のことは話すなよ」
「もちろんです。でも、本当に良かった。私にはお兄様が二人になりました」
「そうだな。しかし、まだ終わったわけじゃない。解決までここに居たかったが自分の予定を考えるとそういうわけにも行かなかった。ハオさんを待たせたままで来てしまったしなぁ」
「でも、予測していた以上のことが起きていましたね」
「やはり向こうは人間を駒としてしか考えていないようだな」
「そのようですね。あの装置をお父様にお渡し出来ていなければ、あの兵士たちと合わせて爆死していましたね」
「あの独自の周波数とSGPSを使ってこれからも何をしでかすのか考えると恐ろしい。マクドナルドさんの服に付けられていた装置も兵士の銃に装着されていた装置も違うものだった。一つは猛毒のガス、一つは高性能爆弾。ドイツから来ていたフランツさんは人体を改造されていた」
「私たちだけでこれから先も防ぎきれるでしょうか?」
「無理だろうな。方向性も使用目的も違うが対峙しているのは間違いなく新人類。もしくはそれを越える存在か」
「命は一つしかありませんのにどうしてあんなことが出来るのでしょう」
「そうは考えていないんだろうな。いくらでも生み出せるとでも思っているんじゃないか。もしくは人類の削減でも考えているのか」
「私も生み出された一人です」
「イザベル。いくらでもとは言ったが俺はそうは思っていない。神の災いを受けずに生まれてきたことを思い出せ。生み出されたという言葉は間違っている。お前は奇跡的に生まれてきたんだ。生み出されたわけじゃない。そうじゃないと神の災いを受けながらも奇跡的に生きているスミス所長の事柄もどう解釈すればいい。科学的にも化学的にも説明の付かないことが起きている。結果的に考えても奇跡という言葉でしか言い表せない出来事だろう」
「お兄様」
「イザベルはイザベルだ。大事な妹だ」
「そういえば思いだしました。大切と大事の違いを調べていましたが結論が出ませんでした」
「まだその事を調べていたのか」
「もちろんです。妹のような存在かもしれませんが私はいつまでもお兄様のお傍を離れるつもりはございません」
「もうすぐ日本に到着するぞ」
「お兄様はいつもタイミングに恵まれておられるようですね」
「そう感じたことはないけどなあ」
「リャンミオさんとはハオさんとお兄様が中国行かれている間にいろいろとお話をさせていただこうと思っています」
「イザベル。あまり無理難題な質問はするなよ」
「無理難題とはどういう事を言うのですか?」
「まだ無理難題の意味を知らないのか?それともわざとか?」
「分かりません」
イザベルが少し微笑んだ。
「お前知ってたのか?」
「いえ、知りません」
「それはどっちでもいい。中国に行く以上、俺にもハオさんにも何があるか分からない。その覚悟はしておいてくれ。もしも何かあれば渡部さんに」
「お兄様は大丈夫です。それに中国には初期型エアーサンダーで行かれるということなので何かあればこれでリャンミオさんと助けに行きます。私は自動操縦やシステム的なお仕事しか出来ませんがリャンミオさんに他の分野のお仕事をお任せすれば良いと思いますので」
「いや、お前たちには日本の施設に留まっていてほしい。イザベルの家がなくなったら、どうする。自分の帰る場所がなくなるのも嫌だからな。日本の施設は現在WRの中では最重要施設で奪われるわけには行かない。その為にもお前とリャンミオさんを残していくんだ。約束だとか遺言だとか個人的なことじゃない。理解してくれイザベル」
「私は理解しません。お兄様と同じように自分の思ったように感じたままに行動させていただきます」
「分かった」
日頃の自分の行動を振り返るとそれ以上藤原は何もいえなかった。
「日本にいても、私に出来ることは協力しますのでご安心ください」
「俺のムーブも渡部さん以上に最新にグレードアップされているようなのでフォローに関しては安心してる。ただ、変な機能は追加していないだろうな」
「大事な機能以外追加はしておりません」
「イザベル、お前、今、何か含みを持った言い方をしなかったか?」
「それはお兄様の気のせいです」
いつものほのぼのした会話のまま、新型エアーサンダーは自動操縦で日本の地下施設に到着した。
出迎えにハオとリャンミオが待っていたがガルウイングの扉が開き始めた時、急にハオの意識がなくなり、倒れてしまった。




