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DH  暗闇の手 激動(第二部)   作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
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信頼と裏切りと真実と偽りの交わり(4)

信頼と裏切りと真実と偽りの交わり(4)


「スミス所長、渡部さんをお連れしました」


「お初にお目にかかります」


スミスの口調がわざとらしく渡部の耳に響く。


「そうだな。お前が言葉を喋る頃には私はここには居なかったからな」


「それと、ジャクソンから連行するように指示がでています」


「ローランドから話が伝わっていないのか」


「ローランドはジャクソン派に捕まってしまいました。引渡しの条件があなたなのです」


「分かった。そういうことなら私を連行するといい。そこにいるローランドは偽者なのだな」


こうなることをすでに予想をしていたように渡部は素直に従う姿勢を見せた。


「スミス所長、本当にこれでいいのですか?ローランドさんからお話を聞いているのではないのですか」


マクドナルドの言葉にスミスは口を閉じている。


「いいんだ、マクドナルド。こうなることは予測していた」


「渡部さん」


渡部がジャクソン派の兵士に連行されてゆく。


「スミス所長、私はあなたを見損ないました」


「どういわれても構わない。私はローランドを救わなければならない」


「いい加減にしろ。渡部さんを連れていった所でローランドさんが引き換えに戻ってくると思っているのか。それならすでにこの場所で交換するはずだろう。何がアメリカの象徴だ。もう少し賢いと思っていたが感情がコントロール出来なければその賢さも役に立たないらしいな」


いつものマクドナルドには無い迫力がそこにあった。


「お前はやっぱり大統領の器だ、マクドナルド」


連行されてゆく渡部が呟いた。


「アメリカのWRはいつから2つに割れた。ジャクソンは本当にWRのメンバーなのか。ブラウンもドイツで生きている。スミス所長、あなたはどちらの組織に属しているのだ」


「私はローランドを取り戻したい」


「取り戻す為に組織を裏切るのか。それがバーバラさんの喜ぶことだと思うのか」


「母は喜ぶでしょうね」


「記録されていることは渡部さんを守ってと言うことになっているが真実は違う。しかし、本当に渡部さんに銃口が向けられていたとしても、やはりバーバラさんは渡部さんを守って死んでいたと思う。それと同じ事を今渡部さんがあなたのためにしようとしているとあなたはまだ理解できないのか」


「マクドナルドさん、あなたは立場が上の私に口を出すことがどういうことなのか分かっているのですね」


「立場だとあなたがWRを裏切っているこの行為であなたの立場はすでに存在しない」


「同じ組織のローランドを助けることが裏切りというのか」


「あなたのやっている行動は個人的な行動だ」


「なら、どうすればいいのだ」


「まず、今連行されていっている渡部さんを解放してください。渡部さんが居ればローランドさんの救出も必ず出来る」


「あの男を信じろと言うのか」


「バーバラさんが命を懸けて守った男を信用できないのですか?」


真実ではないが、ここは組織の記録に残る出来事を信じているスミスを説得するにはこういうしかないとマクドナルドは思った。


「渡部ではなく、マクドナルド、お前を信じる」


そういうと連行されてゆく渡部の解放を兵士に指示した。


「このことはジャクソン大統領にご報告させていただきますがよろしいのですね」


「構わん。それよりもお前たち、裏切り者のジャクソンの命令に従い、行動しているという行為に対してWRからどのようなことをされても構わないと言うことで理解していいのだな。ブラウンの一族と同じ運命を辿りたいのだな」


スミスがジャクソン派の兵士に対して恫喝した。


「君たち、今ならまだ間に合うけど、どうする?」


マクドナルドは優しく声を掛けた。


「申し訳ありませんでした。今この時から私はスミス所長、いえWRのメンバーとして、行動させていただきます」


事の重大さに気付いたそこにいたすべての兵士を掌握した。


「渡部所長、アメリカの所長として、個人として、どんな厳罰も受け入れます」


「そんなことはいい。部下を助けようとしたお前の行動を責める気は無い」


スミスは自分のイメージしていた渡部の印象と違うことに戸惑っていた。


(イザベルさんと藤原さんと過ごすようになってあの人も変わったな)


声には出さなかったがマクドナルドは頭の中でそう言っていた。


「マクドナルド、私の為にお前が命を懸けることは無い」


「イザベルさんからお父様を守ってくださいと言われてますので」


「全くお前と言うやつはこんな時にそういう冗談を言うな」


「冗談ではないですよ。いつものようにのんきに訪米の話をしていたら、マクドナルドさん、今回のアメリカ行きは覚悟を決めておいたほうがいいですよと真剣なまなざしで言われましたが信じていませんでした」


「お前はそのままでいい」


「良くはないのが分かりました」


「お前もローランドの救出に手を貸してくれ」


「私の人脈を使ってみましょう」


この二人の信頼関係をスミスは目の前で見せ付けられた。


「渡部所長、私は何をすればいい」


スミスはローランド救出に焦りを感じていた。


「私たちに任せてくれる覚悟は出来たか?」


スミスはゆっくりと頭を下げた。


「それとだ、スミス所長、ようやくこれが完成した。効果はゆっくりだが少しずつ楽になってゆくはずだ」


渡部はスミスに透明な液体の入った瓶を手渡した。


「これは」


「バーバラから頼まれていたものだ」


「まさか」


「私だけでは辿り着けなかったが日本スタッフの力でようやく完成することが出来た。ただし、お前にしか効果は無い。遺伝子の水平伝播を利用した薬だ」


水平伝播とは、個体間や生物間において起こる遺伝子取り込み。生物の進化に影響を与えられていると考えられているが水平伝播が起こる現象と原因はまだ解明されていないとされている。


「とりあえず、飲んでおけ」


スミスに言い聞かせるような渡部の口調だった。


「はい」


その瓶を開けるとスミスも何も言わずに一気にその瓶の中身を飲み干した。


「それからもう培養システムでの進化をしようと考えるな。そこから先の進化は自分は生きていることで補ってゆけ。そこに本当の進化があると私は思っている。イザベルがそうであるようにな」


「あなたはその為に」


「バーバラとの約束だ。お前が私をどう思っていても良い。しかし、お前は二人の大事な息子だからな」


「私はあなたを憎んでいた。憎むことで生きることが出来た」


「それでいい。憎んだままその寿命が尽きるか、私の薬の開発が近いのか、私にも予測出来なかったがよく生きていてくれた」


スミスはその言葉に力をなくし、崩れ落ちた。


そのスミスの両手を渡部は握り締めた。


「スミス、長い間、苦しい想いをさせてすまん」


渡部は目じりを細め、こみ上げるものを堪えていた。


「ローランドを救出後、母の墓に一緒に連れて行ってください」


スミスは自分の言葉とともに心の奥に痞えていた深い闇が消えてゆくような感覚だった。


「ああ、もちろんだ」


しかし、この2人に涙はなかった。


その横でマクドナルドは言葉を押し殺して涙を流していた。

 

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