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空玩具  作者: 九藤 朋
22/32

蒼の失踪 三

 入り組んだリアス式海岸での漁を中心に栄えている町の、代表的名士のような存在が、水産物加工会社の社長ということを、わっさんさんが車中で教えてくださいました。


 今、わたくしたちは社長宅の応接間に通され、接待を受けています。広い応接間には本物の暖炉が設置され、シャンデリアが氷の塊のように煌めいています。毛足の長い絨毯に、どっしりした木材の家具。ソファーの座り心地は腰が沈み込む程。ベランダに続く硝子戸からは青い空と海が見えます。


「何せ向神先生の件は私にも驚天動地でして」


 寂しくなった髪の毛を後ろにぴっちりと撫でつけた社長・園山(そのやま)和夫(かずお)さんが自らもコーヒーを飲みながらわたくしをちらちらご覧になっています。

 彼の隣にはサングラスを掛けた中年の男性。専務の(たき)川登(がわのぼる)さんということでした。こちらの方のわたくしを見る目つきはより粘着質なものでした。


「清夜は園山さんに調査報告をする前に、いなくなったんですね」

「そうです、崖から転落するところをはっきりこの目で見ました」


 レオさんの問いかけになぜか専務の滝川さんが答え、レオさんはちらりと彼を見遣りました。

 

「あの夜は子会社の社長たちも招いての立食パーティーが行われていました。向神先生はだいぶん、お酒を召し上がり、外の空気が吸いたいと言ってベランダに出られたのです。足元のおぼつかない様子を不安に思った私が跡を追ったところ、先生が脚を滑らせて崖から……」


 滝川さんは口早に説明されました。わたくしは血の気の引く思いでそれを聴いていました。レオさんを見ると、険しい顔つきをされています。


 部屋数の多い園山さん宅に、その晩は泊まることになりました。

 お夕食は、それは豪勢でした。

 わたくしとレオさんは個室を一人で割り当てられ、わっさんさんと月太さんは相部屋になりました。部屋の内装は海を意識してか青い色で統一されていました。海傍だからか、磯の香りのする気がいたしました。

 入浴を済ませたわたくしがベッドに腰掛け悄然としていますと、部屋のドアがノックされます。


「鈴子。起きているかい?」

「レオさん。はい」

 わたくしはネグリジェの上からガウンを羽織りました。

「ちょっと失礼するよ」


 紳士的なレオさんは、入室しても一定の距離をわたくしから保ち、話を切り出されました。


「専務の滝川が怪しいのは解るんだが、彼の心が全く垣間見えない」

「そんなこともあるのですか?」

 滝川さんの言動にはわたくしも不審を感じておりました。


「稀にね。護符やそれに近しい物を身に着けていたりすると、心が視えにくくなる。恐らくお守りでも持っているんじゃないかな。お蔭で彼の話の真偽が確かめられない」

「そんな……」

「そこで、鈴子」


 レオさんが言いにくそうに一瞬、口籠りました。


「彼からそれを取り上げてくれないか。何か名目をつけて」

「わたくしにそんなことが……」

「彼は君にご執心らしいことは心が視えなくても解る。君にしか出来ない」


 わたくしの脳裏ににいさまと、滝川さんの顔が浮かびました。

 にいさまを捜し当てる為なら、否やはございません。




挿絵(By みてみん)





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