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空玩具  作者: 九藤 朋
15/32

宝物 二

 煌らかな金髪を掻き上げて、レオは目の前の旧家を一瞥した。

「日本独特の家屋だな。ボン、嫌いじゃない」

 灰青色の瞳を検分するように細めると、当然のように咲洲家の呼び鈴を押した。


 レオさんのお姿を見たにいさまは、控え目に申し上げて嫌そうでした。

 わたくしが咲洲さん宅のお手伝いさんに頼んで、お茶を淹れさせてもらって部屋に戻ると、レオさんがにいさまと対峙されていたのです。

 わたくしは一瞬、お二人を月と太陽だとも、コブラとマングースとも見紛いました。

 お友達同士なのにこのお二人は時々、妙な緊張感を互いの間に醸し出すのです。

 けれど並ぶと絵になるお二人です。

 にいさまの漆黒の髪と白皙の肌。

 レオさんの輝く金髪と灰青色の瞳。

 さんざめいて咲く艶やかな二輪の華のようで――――――。

 その、一対にも見えるお二人のご様子に、わたくしはほんの少し嫉妬してしまいます。

 レオさんがわたくしを見て、そっと微笑みました。心を読まれたのかもしれません。

 わたくしは恥ずかしくて、誤魔化す意味合いも含めてレオさんに尋ねました。

「レオさん。なぜこちらに?」

「ボンジュール、マドモアゼル・鈴子!それは依頼した者として見届ける義務と責任を果たすべく、馳せ参じたのだよ。清夜と部屋が同じなのだね」

 わたくしはお盆を卓上に置くとレオさんの台詞の後半、さらりと言われたことに頬を紅潮させました。レオさんが言わんとしているところは明らかです。

「レオ。君、(いやしく)も半分日本人の血が混じっているなら、遠慮と婉曲の美徳を身につけたらどうだい。今からでも遅くはないよ」

「エクスキューゼ モア。これは失敬。しかし清夜、細かいことに一々気を立ててはいけないよ。もっと世界的視野を持たなくては」

「そのワールドワイドな言動で女性に平手打ちを貰ったのを忘れたのかい。どうせ今回の依頼料も発生するかもしれない追加料金も君でなく咲洲さんが払うのだろう?」

 レオさんはばれたか、と言うように肩を竦ませました。

「それだけでなく。僕は君を仲介した手数料の代わりに、ここに滞在させてもらう許可を得たんだよ」

「邪魔でしかない…」

 苦い顔をするにいさまに対して、レオさんは実に愉快そうな顔をされました。

「そうかい?僕は人の心を垣間見ることが出来る。ここにいてこの能力が重宝されないことはないと思うが?」

「……気がついたことがあれば教えてくれ。僕と鈴子さんのこと以外でね」

「―――――――了解」

 レオさんが含み笑いで請け負うと、色気のある流し目をわたくしに寄越されます。

 その、灰青色の流し目が、わたくしをどぎまぎさせます。

 わたくしはどぎまぎしながら、温くなったお茶をお二人の前に差し出しました。お茶は二人分しか淹れておりませんでしたので、わたくしは遠慮しようとしたところ、ことん、と目前にレオさんが湯呑を置きました。

「鈴子。有り難いけれど淑女に我慢を強いる男は、紳士を名乗る資格がない」

 お茶のことにお気付きだったにいさまは、当然、レオさんがお茶をわたくしに譲るべきだと考えられたようでございます。

 ご自分の為に淹れられたお茶だと考えることも出来たと思います。

 ですがレオさんはわたくしの心の一端を読むことで、事実をお知りになったのです。

 このような能力があれば、わたくしより余程にいさまのお役に立っていただける気がして、わたくしは頼もしく思いました。

 同時に、にいさまとの秘め事の記憶を、なるべく思い出さないよう心がけねばとも思ったのでございます。


 夕刻になると律子ちゃんが小学校から帰ってきました。

 庭で、いつものようにお気に入りのおはじきで遊ぶ律子ちゃんが、一人では寂しくなかろうかと、わたくしが声をかけると、嬉しそうに律子ちゃんはわたくしとおはじき遊びに興じてくれました。

 最近の子供はゲームで専ら遊ぶようですが、わたくしはそちら方面は不得手でして、おはじき遊びで安堵したのでございます。

 おはじき遊びと言っても他愛ないもので、二個並ぶおはじきの間を、それらに触れずに指で弾いたおはじきが通過すると、その通過したおはじきを自分の得点となる、といったものです。低木と低木の間のならされた土の上に、律子ちゃんはたくさんのおはじきを並べていました。土に並ぶ赤、青、黄、緑。さながら焦げ茶色の画用紙に描いたクレヨン画のようでわたくしはほっと和むのです。

 にいさまとレオさんが、渡り廊下からわたくしたちを見守っておられます。


 レオが笑い声を上げた時、清夜は彼が今回の一件の手掛かりを掴んだのだと察した。

「何を視た、レオ」

「いやいや、他愛ないものだよ」

「だが怪盗予告に関わりがある。そうだな?」

「そうだな…只一つ言えることは」

「何だ?」

「宝物は決して盗まれることはない。だが無傷でも済まないだろう」

「どういうことだ」

 レオが清夜に接近してほとんど囁き声で言った。

「清夜。今回の事件は、起きたほうが良い」



挿絵(By みてみん)




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