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そうだ、ゾンビ召還してゾンビテロ起こしてみよう

ファンタジーの世界観でやると私が設定理解できなくなるし、だったら日本をファンタジーにすればいいじゃんとおもったらこんなのが出来ました

ジャンルは私にはわかりませんが多分ファンタジーです

 その法律が成立した日、日本人の大多数は意味がわからなかったはずだ。

 何が目的かもわからなければ何をするかもわからない意味不明な法律だから冗談ではないか、そんなふうに思われたトンデモ法律なのだから。ただ、一部のテレビ局を除き繰り返し報道してるいるため冗談ではなく本当なのだろう。そう思い日本人は違和感しか無いがその法律を受け入れた。


『日本ファンタジー化推進法律』を。


 そんな日本政府がまず実行に移したことは、ハローワークの名前を冒険者ギルドに変更したことだった。

 そもそも元の日本ファンタジー化推進法律が意味不明なのだから、政府がどんな事をしたとしてもおかしくないのだが、どう考えてもおかしかった。

 それまでハローワークだった建物は作り直され、パソコンも撤去され、現代の建物といった匂いが完全に消された外見だけ木造に見える鉄筋コンクリートの建物となり、内部には酒屋や武器屋や宿屋が追加され、ミッションボードにクエストの紙が大量に張られて、どこからどうみても冒険者ギルドになった。

 職員達の格好も、荒くれ者の戦化粧をした戦士や知的な杖を持った魔法使いや僧侶といったファンタジーにでてきそうな格好に変わり、皆が活動してる。


 無論、日本政府が国税を使ってこんな訳の判らないことをやり始めたのだから批判の声もあった。

 しかし、根本的に日本ファンタジー化推進法律意味がわからなかったため、批判する側もどこをまず批判していいかわからず、間違いなくおかしいのだけど、おかしすぎて意味がわからない、そんな論調になってしまい、批判の声は次第に有耶無耶になってしまった。


 日本人が混乱している間にも日本政府は次々と日本ファンタジー化推進法律を推し進めていった。

 その行動力は日本の政府と役人とは思えないほど素早く、思考は完全にトチ狂っていた。

 聞いたことも無い神を祭った教会が建てられ、国家公務員の大人しめの山賊や海賊が配置され、魔王を名乗る謎の勢力が東北に現れ、王国制になり天皇が国王になり、魔法学校、神官学校、様々なギルドの設立と混迷を極めた。

 この頃になると日本人も諦めたのか慣れたのか順応し、勝手にカタカナ風のファンタジー世界っぽい名前を名乗ったり、地名にしたり、自らを冒険者と名乗る日本人も現れ始め、冒険者ギルドで様々なクエストをクリアし、何時の間にかできていたランクを上げる者も現れていた。


 その中でも一番注目されたのは、魔法学校の設立である。

 いくら日本をファンタジーぽくしたところで、魔法なんて使えるはずが無いのにそんな学校を設立しても意味が無い、意味が無いはずなのだが、もしかしたら日本政府が黙ってるだけで本当に魔法が使えるのでは、そう考えた子供、一部の大人が魔法学校に志望した結果、第一期生は倍率が2000倍を超え、実際にその学校で学んだ人間の一部に魔法が使える者が現れ、世界に大混乱が起きた。


 これが五年前に起きた日本ファンタジー法律初期の『一部』出来事である。






「あっはっは、もう笑いしか出てこないな、見てみろ岩瀬、私たちほんとに空飛んでるぞ、もっといくか、もっと高くに、まだまだいけそうだぞ!」


 虎白は空を飛びながら、自身に抱きつき悲鳴をあげている岩瀬に声をかける。虎白は豊上市に住むテンションの高い普通の女子高生だ。親が魔法使い等ではなく、普通のマジシャンだ。


「二本松さん頼む降ろしてくれ、すげーこわい」

「まだ私の身長ぐらいしか飛んでないのに、怖がりすぎだぞ岩瀬、まあこの浮遊感が怖いのはわかるから降ろすがな、この怖さが良いと言うのに」

「助かります」


 虎白は持っていた杖を地面に向け呪文を唱えゆっくりと校庭に降り立つ。実際杖も呪文も要らないのだが、これが無いと魔法が使える気がしないので使っている。

 横を見ると岩瀬が校庭の隅の芝生に寝転がり大きく深呼吸をし、乱れた息を揃えている。自分の体重の二倍はある男だと言うのにメンタルが細すぎる。


「あ~…地面はいいなぁ…やっぱり人間は地面にいてこその生き物だよ」

「まあそれには同意するが、それにしてもやっぱり魔法は凄いな、岩瀬がいても普通に飛べたし重さを感じなかったぞ」

「俺はずっと落下しそうで怖かったよ、二本松さん、もうこういうのに付き合わせるのはやめてくれませんか…」

「岩瀬は頼みごとしやすいからな~…協力ありがとね竜也くん」


 ようやく呼吸が落ち着いたのか起き上がる岩瀬。ただのクラスメートで友達かと言うと微妙な関係ではあるのだが、頼みごとをしやすく巻き込みやすい性格だったがために虎白は岩瀬を連れて来た。

 今度何かしらのお礼にお菓子でも作ってあげよう。虎白はそう思いサービスで可愛らしくお礼を言うと、岩瀬に気味が悪い物を見るかのようで目で見られた。ひどい。


「しかし、私は天才かも知れないな、ほとんどの基本魔法を一発で使えるようになってるぞ。美少女マジシャン改め天才美少女魔法使い虎白とでも名乗るべきか?」

「二本松さんがしたいなら、それでいいんじゃないですか、じゃあ俺教室戻ります」

「おお、ありがとな岩瀬」


 自画自賛をし始めた虎白を何時ものが始まったとばかりに適当に賛同し、教室に帰っていく岩瀬。

 虎白はそんな岩瀬を見送ってから、周りを見渡す。魔法が使えることをとにかく手当たり次第に自慢したいのだ。ただ人はいるが知り合いが誰もいない、知らない人間に自慢してもいいがそれは流石に嫌がられそうだ。


「しかし、この世界は楽しいことばかりだな、魔法に冒険者、そして魔王、日本の出来事とは思えないこの響き。やっぱりファンタジーは夢に溢れていて最高なのだ」


 虎白が小学生の頃に日本ファンタジー化推進法律は始まり、街並みの所々が中世ヨーロッパのような風景になっていくのが毎日楽しみだった。そして毎日のように報道される魔法に冒険者、ニート問題ついに解決の文字。最後の意味はよくわからなかったが、前者二つのニュースを虎白は楽しみにしていた。


「闘技場に参加するのもいいかも知れない。冒険者となり世界を周り戦うってのも。くふふふ…夢が広がるのだ」


 数年前、日本に闘技場という物ができた。

 本来作る予定はなかったらしいのだが、魔法使いや剣士となった人間達の要望で、古代ローマをイメージして作られ、毎日魔法使いや剣士、謎の職業の人間が戦いに明け暮れ、観客で満員となり、テレビ中継もされ、それまで引きこもりでニートだった人間が一躍ヒーローになったりと、人生が間逆に変わった人間もたくさんいる。変われなかった人間もたくさんいるが、それでも人生変えれるチャンスにめぐり合えて良かったとインタビューしてた事を覚えている。


「私にもチャンスが来るとは、これでまた生命の危機を感じられるあの場所にたてる」

「そこの危険思想娘。昼休み終わって授業とっくに始まってるよ」

「藤村?」

「虎白が違う世界に逝ったままだから連れて来いって言われた、それでどう、卑怯な魔法使った感想は?」


 魔法を卑怯という藤村は弓術使いである、元々は弓道を習っていたらしいが礼儀にうるさくて面倒などいい弓道部を辞め、自身を弓術使いと名乗ってからは好きな様に構え好きな様に射ているため弓道部の人間には嫌われている。そんな彼女であるがどういうわけか出会ったころから魔法を物凄く忌み嫌い魔法大好きっ娘の虎白とは少しだけソリが合わない。藤村も魔法が使えると聞いているから盛り上がれそうなものなのだが。


「最高だよ、最高、今の私なら燃え盛るビルからの脱出も、海中からの脱出も難なく出来るぞ、脱出マジックは廃業したがまたやりたくなってきたな!」

「魔法使いが脱出マジックしたところで何の面白みも無いわよ、それで何の魔法が使えるようになったのよ」

「火に水、雷に土、そして空、とりあえず思い浮かぶ物は何でも使えたぞ」

「異世界転移とか召還は試してみた?」

「多分使えるだろうが使えたら怖いから試してないな、流石にどこ飛ばされるかも何呼ぶかもわからないことは試す気が起きん、そもそもファンタジーの世界からファンタジーの世界に言った所で、娯楽が無さそうで辛そうだ」


 実は初期魔法使いはかなりの人数が行方不明となったり、人間を辞め亜人となったりモンスター化していたりで討伐されていたりする。関係者の話によると異世界に旅立った物、召還をして失敗し、人間で無くなってしまい錯乱し暴走、人を殺してしまい殺人犯として討伐クエストで討伐されてしまった。

 そのおかげで、帰還した者がいない異世界転移や事故が多い召還魔法は使わない者が増え、あまり事故が発生しなさそうな魔法しか使わない者が増えている。


「何でも使えるなら、さっさと犯罪でもして討伐でもされたらいいのに、魔法使いなんて消えてしまえば良いのに」

「魔法で犯罪なんてしてもまったく割りに合わんではないか、成功率が余りに低すぎるし、やる奴なんていないだろ」


 しかし、どこにでもバカはいる者で魔法で犯罪を犯す者もいる、だがそんな者はサーチ魔法や監視カメラや鳥のモンスターの監視の三包囲であっさりバレ、討伐クエストがすぐに立つため犯罪率も低い。

 討伐クエは基本的に報酬が高く、一気にランクもあがるため人気なのだ。


「そうね、犯罪はほんと割に合わないよね…あー…眠い…」


 藤村はだるそうな声を上げ、芝生に寝転がる。先ほど岩瀬が寝転がっていた辺りだ。藤村は理由をつけてた授業をすぐサボる、今回も私を呼ぶと言いながらサボる予定だったのだろう。虎白もそれに付き合い藤村の横に寝転がる。それと同時に校舎の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた、何か起きたのだろうか。

 突然騒がしく原因なんていっぱいあるが、どうせくだらないことだろう、虎白はそう考え、既に寝息を立て始めた藤村の隣で寝ることにした。



 ――30分後。虎白が近くで変な音がするため目を覚まし、横を見ると藤村は何時の間にか消えていた。

 代わりに視界に入るのは、慣れ親しんだ火の匂いと熱さ。そして逃げ惑う人間に、それを追いかけ襲いかかる人間の形をした人間では無い者。身体が腐っていたり欠けて、あきらか死んでいるのに動く、所謂ゾンビ。

 虎白は自身の目に写る光景を冷静に受け止めた。犯罪者は確かに少ない、だが時折世界を崩壊させようとする終末思想の人間がいるのだ、今回もそれであろう、何度かニュースで見たことがあるゾンビテロというやつだ。だが冷静に事態を受け入れられないものもいる。


「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ」

「はははは、ゾンビどもめが思ったより弱いじゃねーか…ぎゃっ…あっやめ、やめてえええええ」

「今のうちに逃げるぞ」


 叫び声を上げ逃げ惑う女子生徒、魔法でゾンビをなぎ倒していたが後ろから襲い掛かられ押し倒される男子生徒、そしてそんな光景を尻目に冷静に逃げていく集団。

 虎白的にどれが正解かといえば、三番目の集団であろう。

 このゾンビテロ、ニュースで何度か見たことはあるが一度目以外全て成功に終わっている。成功といっても国が滅ぶレベルでは無く町一つがゾンビまみれになってしまい封鎖されるレベルの成功で、そのような事態に陥った町が日本各地にあるのだが、未だにゾンビは討伐はされていない。


 理由は簡単だ。

 初めてゾンビテロが行われた時の対応が最悪だったためだ。

 生きるためにゾンビを殺し逃げた人間が、ゾンビの遺族に訴えられ、殺人犯として刑務所に入れられたのだ。このせいで自身が犯罪者になるリスクを背負ってまで討伐する人間が皆無になった。今では正当防衛と言われているが、それでもゾンビの遺族が人間に戻せるのに殺したなどとゾンビを殺した男殺したなどという事件も発生しているのだ、そんなリスクを背負ってまでゾンビを殺したがる人間はいない。

 しかもこのゾンビテロ、大量のゾンビを召還した者が恐ろしく特定し難い。

 何しろ魔法はどこでも使え、別に呪文を唱える必要性が無いのだ。そのため召還をした容疑者は絞れても個人で動いてない限り特定が出来ない。そして一度ゾンビが広まればあとは勝手に広がっていくから召還する必要が無くなる。


「弱い、鈍い、遅い、そんなゾンビ達から人間は逃げることしか出来ないなんて、ファンタジーって何なのだろね、折角魔法が使えて簡単に倒せるのにさ」


 虎白は一人愚痴る。先ほどまでの魔法が使えて楽しい気分が台無しである。

 いくら国がファンタジーを推進したところで、日本国民が心の底からファンタジーを受け入れないがために、ゾンビテロは無くならない。実際戦ったことは無いが、ネットによるとゾンビは本当に弱いらしい、すぐに動かなくなるらしい。

 しかし、生きた人間の復讐が怖くてゾンビは倒さないほうが良いと言われ続けている。


「ああ…でも…」


 虎白は気が付いた。

 自分の事を仇として付け狙う人間が怖いから人間はゾンビを殺せない。だから他人がゾンビを倒してくれるよう祈り逃げる。しかしだ。

 狙われて、狙われ続けて、生命の危機を常に感じる生活になれるかも知れない、マジシャンの親の後継者として脱出マジックを散々し続け、生命の危機ジャンキーと化してしまった身としては。魔法使いになれた日に降って沸いたゾンビテロ。これは、神様から私へのプレゼントなのかも知れない。


 この時。近くに虎白の表情を見れる人間が一人でもいたら、こう言っただろう。


『天使のような笑みだった』と



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