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その場所で貴方を待つ  作者: 水無月とおる
18/30

秘密


 時を進み、行き着いた先の川原にあの娘は居た。独りで。

 季節は秋の頃。平成と呼ばれる時代。あの娘はまだ数えで六つだった。

 暫くの間、娘は空を見上げたり、空を舞うトンボを追いかけたりして遊んでいた。


 私が水面から顔をだし、まじまじとその姿を見つめていると、不意に動きを止め、こちらに振り返った。


 そしてきょろきょろとあたりを見つめ、首を傾げる。


「お兄ちゃん?」


 だが誰も返事をしない。



 もしや私の気配を感じ取ったのか――。

 そう一瞬疑ったが、そんなわけは無いとそのときは気にせずに居た。


 暫くすると、その少女に近づく男の姿が見えた。


「アヤメ。」


 男は青いワイシャツという着物を身にまとっていた。男の声に娘は振り返り、嬉しそうにそちらへと駆け寄った。そのとき、アヤメというのがこの少女の名だと気づいた。


「お兄ちゃんだ!」



 二十代半ばくらいの男はやや子が――アヤメが近寄ると柔らかな顔で笑った。


「元気だったか?」

「うん!」


 元気よく答える少女はこちらに背を向けている。男はしゃがんで少女を抱きしめた。


――この童女の兄か?


 だがそれにしては妙に歳が離れている。この時代と違い、アヤメの生きた時代はそんなに大きく歳の離れたきょうだいは少ない。ならばただの知り合いか。


 そんなことを考えながら二人の様子を見つめた。


 するとどうしたことか、男がこちらに顔を向け、私と目が合ったのだ。



 ぬしは気づいているだろうが、私達のような存在は普通の人間には目に見えぬ。特に私のように高位のものは、中途半端な坊主にすら見えぬしその気配も感じられない。

 まあ私が見せようと思えば可能だがな。



 だが男は私を見てその目を細めた。


――見えている。


 そう直感した。

 男の様子にアヤメが首をかしげる。


「ああ、ごめんねアヤメ。」

「うん。」

「今日はこの間の続き持ってきたよ。」

「わーい!」


 男はそう言うと、鞄の中から何かの書物を取り出し、川原に座った。アヤメをその膝の間に座らせ、持ってきた書物を読み聞かせた。アヤメは嬉しそうにそれを聞く。


 そんなことが何度か続いた。


 男が持ってくるのは異国の御伽噺、絵巻物のようなもの、まあ様々だ。


「これが、お・・・おと、ひめさま?」

「そうだよ。よく読めたね、アヤメは覚えが早い。」



 二人が川原に来るのは大体半月に1回くらいだったが、そのうち、もっと感覚が狭くなっていった。私もその光景を見るのが日課になっていた。一年経ったが男は最初の時以降私のほうを見向きもしない。そのうちあの男と目が合ったのはただの偶然かと思うようになった。



 そんなある日のこと――。いつものように時を越えて二人の様子を眺めていた。暫くしてアヤメが慌てて帰っていった。男はいつものようにその背中を見送る。


 そして男は少しの間その場所に立ち尽くしていたが、暫くするとふっとこちらを振り返り、私をその視線の先に捉えた。



「・・・。」

「・・・。」



 男は何も言わずただ私を見つめている。私も男から視線を逸らさなかった。


 すると突然男が口を開いたのだ。


「こんにちは。」

「・・・。」

「貴方に言っているんです。」

「・・・おぬし、私が見えるのか?」

「ええ、ぼんやりとですがね。」




 なるほどやはりこいつと目が合ったように思ったのは気のせいではなかったのか。


 男はまるで私を見定めるように目を細める。


「妖怪・・・じゃないですね。邪な感じがしない。」

「・・・妖だろうが神であろうが、私らに関係ない。それは貴様ら人間が勝手に名づけたものさ。」


 私の言葉に男は楽しそうに笑った。


「ああ、そうですね。」

「おぬし一体何者だ?ただの人間じゃあるまい?」

「人間ですよ・・・。本当にただ、見えるだけの。」



 男の瞳には、そのとき僅かに寂しげな色が滲んだ。


「ぬしの力、人にしては強い。」

「まあ、そうかもしれないですね。」




 男はにこりと笑った。先ほどまでの寂しげな気配は微塵も見えぬ笑顔。それがやけに嘘くさく感じたのを憶えている。


「おぬし、名はなんと言う?」

「人外のものには名前を教えない主義なんです。」


 なるほど慎重なことだ。邪なものに名を知られるのが危険だと知っているのだろう。ならば何故自ら関ってきたのか。


「ほう・・・。賢明だ。では何故私に声をかけた?」

「見ていらしたでしょう?僕達を。」


 “僕達”がこの男と娘のことを指していることはすぐに理解した。


「やはり気づいていたか。」

「気づかないわけないでしょう?あれだけ毎回見つめられれば。」



 男の言葉にそれはそうだと頷いた。


「ずっと見ていたから・・・。あの子を、アヤメを気に入っているのかと思いまして。」


 男は私を見定めようとするかのように上目遣いでこちらを見た。


 なんという男だ。私を目の前に全く動じる気配がない。


「どうなんですか?あの子を気に入ってくださったのか、それともただ食おうというのか・・・。」


 そういったときの男の目が敵意、否殺気に満ちていた。もしこの最後の問に私が是と答えれば私に呪いでもかけそうだな。


 私はふうっと息を吐いて


「人を食おうなど思わぬ。それは獣のすることよ。」

「・・・そうですか。まあならいいんです。」


 殺気を潜ませ、男は空を見上げた。


「あなたはでは妖ものの類ではないのでしょう?ではやはり土地神かなにかで?」

「人外のものであることは認めよう。しかし祠を必要とするような弱き土地紙の類でもないわ。」

「ではもっと高位の神か何かですか。」

「この川とその流れを統べるものよ。時の流れ、命の流れの主よ。」

「…。」


 訝し気な男の様子に苦笑が漏れた。

「まあわからないだろう。私も何故、そしていつ生まれたのかわからないくらいだ。」

「ともかくあなたは強い力を持っているのでしょう?」

「ああ。それだけ聞きに来たのか。」

「・・・まああと一つ。」


 私の問いかけに男はもう一度こちらに顔を向けた。


「あの子を・・・。守ってくれるならと・・・。」

「なんだって…?」

「なんでもありませんよ…。」



 その日男はそれだけ言って帰っていった。私はその言葉の意味を何度も咀嚼した――。



 一体どういう意図を持っての言葉だったのか。まるで、まるでどこか遠くに行ってしまうかのような――。


 だからか、それまで以上に二人を注意深く観察した。


 そのうちアヤメが汚れの目立つ着物で現れるようになった。その度男はわけを尋ねるが、アヤメは何も言わない。そして笑顔で男に甘えるのだ。


 男は痩せたアヤメのために食べ物を一緒に持ってくるようになった。


 そして私はアヤメが帰った後、男と川原で話すようになった。私はそれとなく男に娘との関係を尋ねたが男ははぐらかすばかりだ。

  あるとき、あの子の格好ややせ細った体を男に問いただした。


「あの娘、まだ子どもだろう。親は何をしている。もう冬だというのに夏の格好じゃないか。食べるものもろくに与えられていないのだろう?」

「・・・最低な親なんです。」


 男はそれだけ言うと、ふっと目を伏せた。


「最低で、最悪な親たちなんですよ・・・。」




 その様子があまりにも切なげで、私は思わず口を噤んだ。男は暫く黙ったままだった。


 その背中に再び声をかける。


「・・・あの娘の親をお前は知っているのだろう。」

「・・・ええ。」

「・・・。」



 男はただそれだけ言ったきり黙った。暫しの間沈黙が流れる。夕暮れ時の日光が奴の顔を逆光で隠す。


「ぬしは以前、私に言ったな。あの子を守って欲しい、と。」

「・・・そんなこと、言いましたか?」

「言ったよ。」


 男はふっと息を吐き出し、顔を上げた。そして――


「貴方は僕を何だと思っていますか?」

「何って、人間だ。私が見える。」

「そうじゃなくて・・・、僕とあの子の関係です。」



 確かに、少し気になっていたことだ。不自然な二人の関係。川原で会って話をして帰っていく。ただそれだけの間柄。

 奇妙な、だがどこかしっくりと来る関係。


「ただの知り合い・・・ではないな。」

「ええ。少なくとも僕にとっては、ね。」

「?」


 含みのあるもの言いに眉根を寄せると男は覚悟を決めたかのような表情を見せた。

 そして、口を開いた。


「あの子は、私の娘です。」


 その言葉に思わずまじまじと男の顔を見つめてしまった。


「・・・。」

「神様でも、驚くことあるんだな。」


 黙ったままの私をからかうかのよな口調で男が笑った。


「いや、なんというか…。」

「親にしては若すぎると?」

「いや、あの娘はお前を兄と呼んでいたろう?」


 私がそう尋ねると、男は自嘲するように


「だから言ったでしょう、あの子は僕をどこか近くに住んでいるただのお兄さんだと思っているんだ。」

「・・・何歳差だ?」

「僕が十八歳のときに生まれています。でもあの子の母と関係を持ったのは僕が高校二年生、十七歳のときです。」

「この時代にしては随分早く結婚したのだな。」


 私の言葉に男は首を横に振って


「結婚はしてないです。」


 重々しい言葉だ。

 男はまっすぐこちらを見た。


「“一度っきり”の過ち、だったんです。」

「・・・。」



 また目を逸らし、男は話した。自身の過去を。自分の過ちを。




 ◇ ◇ ◇



 男の家は中々裕福な家柄だったが、その当主は家に対する愛情は薄かったらしく、外に何人も愛人を作った。


 奴の母はそんな愛人の一人だったらしい。男の父が歳をとって作った妾。父親はその莫大な財産を男の母につぎ込むほど、彼女にのめりこんでいたらしい。

 だが男が四つのとき、母が死んだ。事故死だったらしい。


 父親は一族の反対を押し切り、奴を迎え入れた。

 だがそこからが地獄の始まりだったのだ。



「父親の正妻は悉く僕の存在を無視していました。親子ほども歳の離れた腹違いの兄弟たちはことあるごとに僕を詰り、苛め抜きました。三十五歳年上の姉は僕と同じ年ごろの自分の息子を可愛がり、僕と比べてばかりいました。二十六歳年上の次男には邪魔だと蹴られました。」


 また、男の奇妙な言動も家族の気に障ったのだ。母が死んでから見えるようになった影や気配、それが他人には見えぬものだとわからぬ男はそれを無闇に口にしてしまったのだ。


 自分の唯一の味方である父は仕事が忙しいのかたまにしか姿を見せない。会うたびに大袈裟な土産を持ってきたが、父が家をでれば義姉が隠した。

 義母が病死し、父が老いから体調を崩しがちになってから兄弟たちの嫌がらせは激しく悪化した。


 少しでも口答えすれば殴られ姉の子どもらには苛められた。


 居場所など無かった。



 次第に家に寄り付かないようになった。


 学校――この時代でいうと、学問所や寺子屋のようなものだが――で騒ぎばかり起こし、十二歳の頃には近所の悪餓鬼とつるんで、この時代で言う同心のような奴らにも世話になったという。

 喧嘩ばかりの毎日。たまに家に帰って口やかましく叱ってくる兄弟にも怒鳴り散らしていた。父からもらった小遣いを使って遊び歩く。


 夜中に歓楽街を歩いたこともあったと――。



 そんなある時、男は同じように悪さばかりする若造に捕まり、一方的に暴行を受け、逃げた。


 仲間は助けてくれなかった。所詮は男が金持ちという理由での付き合いだったのだ。ただカモにされていたに過ぎなかったのだと・・・。その時改めて、自分はごみのような存在だと気が付いた。




 何とか歓楽街の路地裏に逃げ込んだが、そのときにはもう歩く気力も無く、泥と血にまみれて座り込んでいた。そのまま意識を埋もれさせ、目が覚めるとどこかの部屋の中で布団の上に寝ていたそうだ。


 あたりを見渡せばそこには女が居たのだそうだ。自分より年上の女。


 女は男が目覚めたことに気がつくと、紅を塗った唇の端をくっと上げ笑ったのだと、それがやけに記憶に残っていると、男は呟いた。



――お前誰だよ。



 男の声に女は笑みを浮かべたまま、近づいてきてそのまま男を見下ろした。



――あんた、1回うちの店きたでしょう?馬鹿そうな仲間に連れられてさ。


 女はこの時代の遊郭の女だったらしく、どうやら男を気に入り目をつけていたようだ。勿論男はそんなこと知ったことではない。迷惑な女だと一蹴したが、女は引かなかった。


――ねえ、助けてあげたじゃない。いいじゃない1回くらい。


――うるせえ、体が痛いんだよ。


――じゃあ私がしてあげる。



 もうどうでもいい。勝手にしろと、男はそのまま半分意識が混濁したまま身を任せたらしい。




 男の怪我は思いのほか酷かったらしく、結局医者送りの末、家の人間の知るところになった。



「警察も来て・・・。姉たちは遂に僕を追い出す口実を得たとばかりに父に報告しました。


僕は父に呼び出された。久しぶりに会う父はとても弱々しく、病の進行具合が見て取れた。」


――最近、やんちゃしてるみたいだな。


――関係ないだろ。


――そうだな、私が何か言う権利はないものな・・・。



「父はそういって遠い目をしました。目に見えて痩せこけ、子どものころに感じた威圧感にも似た雰囲気は消えていました。」



――お前は彩音に似てないな・・・。性格も顔も。でも目と髪質は彼女のものを受け継いだのだね。



 彩音とは男の母、つまり父の愛人の名だった。


――お袋に似てないからなんだってんだ。なんの嫌味だ、クソッタレ。


 顔もろくに知らぬ母の話など男にとっては煩わしいだけだったのだ。金のために父の妾に成り下がった女だと。

 男の言葉に父は泣きそうな顔で微笑んだ。



――いい女だった。優しいひと・・・。彼女はお前を愛していたよ。


 何を言うのだろう。どうせこの男の愛を買うための道具にすぎなかった息子のことなど愛しているとは思わない。もし愛していたって、傍に居なければわからないじゃないか、なんの意味も無いじゃないか。


 男は唇を強くかんだ。早世した母が恨めしい。何故死んだのだと理不尽な怒りが身を包む。

 そんな男の様子を見つめつつ父は言葉を続け、


――愛情のわからぬ私に愛を与えてくれた。氷のように冷え切った私の心を“優しい”と言ってくれた。歳は離れていたが・・・。



――何が言いてえ。


――・・・自分を、自分を大事にしろ、怒りや悲しみで磨いだ刃は自分の身を傷つけるものだ。年ごろに大人に反抗するのは構わない、だが他人やまして自分を傷つけてまですることではない。


「顔を上げると父の笑顔がありました。母のことを思い出したのか、とても遠くを見つめるその瞳がびっくりするほど若く見えた。」



――まあこれは彩音の受け売りだがな。実、お前は誤るな、お前の道を。それが、それだけが、お前の父親としての唯一の私の願いだ。



 

「父はそう言うとすうっと目を閉じました。その瞳からは一筋の泪がこぼれ、皴を伝い落ちていきました。そして父はか細い声で何度も何度も呟いたのです。“すまない、すまない彩音”と・・・。」


 ◇ ◇ ◇


「暫くして、父は設備の整った病院に入院し、海外にいた長兄も帰って着ました。私自身も少しずつ刺が取られように大人しくなったんです。何だか不思議と、憑き物が取れたような気がしたんです。ずっと愛されていないと思ってた。でも父はただ不器用なだけなのかもしれないと、感じるようになったのかもしれないですね。高校二年の二学期を転機に、それなりに勉学に励むようになった。高校三年生を向かえ、大学受験を考えるようになったころ・・・。」


 男はそこで言葉を濁した。


 先を促すと男は苦しげに言葉を吐いた。


「手紙が来たんです。差出人は知らぬ女の名前でした。封筒の中には写真が数枚入っていました。赤ん坊の写真でした生まれたての真っ赤な赤ん坊のもの、それからベッドの上で眠る恐らく同じ赤ん坊の写真。何の嫌がらせだと、破り捨ててしまおうかと思ったのですが・・・ふと不安がよぎりました。単なる嫌がらせなら差出人の名など記載する必要はありません。それに僕の名前がきちんと宛名に書かれていることから考え、適当にポストに入れたわけでもない。そのときになって私はやっと思い出したのです約一年前の夏のあの日、見知らぬ女に抱かれたことを。」


 男は苦渋の表情を浮かべていた。苦薬でも飲み干すかのように。


「写真の裏には連絡先があって、迷いましたがそこに電話しました。出たのは甲高く甘ったるい声の女でした――。」



 それは男が昨年夏に意識が朦朧とした状態で相手にした女のもの。


 男は背筋が凍るような思いがした。



――お前・・・。


――ああ、実?憶えてるう?


――なんで、俺の名前・・・。



 名など名乗っていなかった。勿論住んでいる場所だって教えてない。なのに女は男の居場所を探り当てたのだ。


――調べたんだあ。あの後子どもできたことわかってね、おろすのも可哀想だから産んだの。もう三ヶ月!


――三・・・。


――実によく似てるでしょう?フフフ。


 これは、この間違いだけは・・・あってはいけないものだった。こればかりは取り返しがつかない。


「どうしようかと、そればかりが頭の中で響いていました。最低でしょう?自分の子どもの出生を無かったことにしようとしたんですから。」


――本当に俺の子か?


 信じられない、信じたくない。


 そんな思いが男にこの言葉を発せさせたのだろう。

 だが男にもわかっていたのだ。生まれた時期も女と関係を持った日から逆算すれば丁度重なる。


 それに髪の毛と目の色が男のものとまったく同じだったのだ。色素の薄い灰色がかった茶色の瞳と細い髪の毛のせいで明るく見える髪の毛。

 記憶に残る女は、髪は染めていたのでわからないが目の色は真っ黒だった。



――当然よ、似てるでしょ?特に目の辺りが。


――・・・いきなり何の用だ。認知しろってか。


――まあそうしてくれると嬉しいんだけどね、別にそこまで望んでないよ。


――じゃあ何だ。


――あのねえお金足りないの。父親になれとか言わないし、助けてくれる?


――俺はまだ学生だぞ!?そんなの・・・。


 男の焦った言葉に、女はクスリと笑って


――何言ってんのお?おうちお金持ちなんでしょ?



 その一言で理解した。


 どうやら女は男の家が資産家であることまで突き止めその上で子を産んだようだ。


――ねえ、あんな大きな家にとっては大変よね?会長の息子に隠し子なんてさ。しかもお父さん病気だって?



「その言葉を聞いた途端涙を流す父の姿が脳裏を過ぎりました。父に知られたくない。そう強く思ったんです。」



――わかった、払うから。


 それがある意味始まりだったのかもしれぬ。


――そういえば名前付けてよ。ホントはもっと早くつけなきゃなんだけど。書類、提出とりあえずしとけば名前は遅れてもいいって言われたんだけどそろそろねえ?


――わかった。


「私は自分の子どもが娘であるということと生まれた季節、そして母の名を拝借し、名づけたんです。石川彩芽と。それだけが自分が出来ることだという思いもあったのか、必死に考えたのを覚えてます。でも――。」


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