インターハイ編 第一部 選抜編 Ⅱ-Ⅰ
……ピピピ……ピピピ
目覚まし時計が狂ったように高い音を出しながら和音をたたき起こした。
「何時よぉ~せっかくいい夢見てたのに…………」
そして、時間を確認してみると
七時四十五分
「……………寝坊したぁぁ!!」
そして彼女はベットから飛び起きて朝ご飯すら食べずに家から飛び出して行った。
◇◆◇◆◇
「はぁはぁ、……ギリギリセーフ」
和音が教室にはいると普段とは明らかに雰囲気が違った。何か驚いているかのように浮き足立っている。
「吟、何かあったの?」
そのセリフを聞いた吟はいたって普通に回答を返した。
「何でもSAによる斬り合いが可能になったんだって。ある空間……ラグナロクフィールドだったかな?その中でならSAで斬り合っても軽い痛みと疲労感へ変換されて生身の体には傷一つつかないらしいよ」
「それって大発明じゃない!!もしかして今回のインターハイにも採用されるの?」
「みたいだよ。ただ、それが突然追加されたもんだから先生方焦ってトーナメント作ってるみたいだよ」
「もしかして、それ使えるの!?」
「うん。どうやら腕輪型のが三つ届いてるみたい」
関心しながら和音は右手に力を入れて握り拳を作った。
「何だか燃えてくるわね」
「僕は残念ながらSP規定値がに達していないから参加できないけどがんばってね」
そのセリフに和音は疑問を覚えた。
「何でSA足りないと参加できないの?」
「何でも疲労感に変換するときSPを媒体とするから一緒に減るんだってさ。そこで足りないと身体にも影響がでるらしいよ」
「ふーん。そうなんだ……」
そこで戸が開き、担任の先生が中へ入ってきた。
「ほらほら、席に着け。今日は新しい仲間を紹介するぞ」
この時期に転校生?クラスのほとんどが似たような疑問と期待が入り混じる顔をしながら、入り口へと目をやった。
そして、転校生が先生の呼びかけに合わせるように教室内へと入ってきた。
その少年は綺麗な顔立ちに黒髪と蒼い瞳が特徴的な身長百七十前後…………そこまで和音が観察してどこかで見たことあるなという考えにいたった。
「って、焔じゃん!?」
「ん?あぁ、和音か。おはよう昨日はよく眠れた?」
和音の声と焔の返しに全員(吟をのぞく)が驚いた。
「知り合い……だったのか?」
先生も予想外だったのか恐る恐るといった感じで質問している。
「えぇ、下宿先のおばあちゃんの家の孫だそうです」
と極々普通の返しをして、何の指示も受けず空いてる席……つまり窓側の一番後ろの席へと向かって椅子に座った。
無論、朝自己紹介をほとんどしなかったためHR終了後クラスのメンバーが近寄ってきて焔を質問攻めにしていた。
「どこから来たの?外国人?」
「綺麗な瞳だね写真いいかい?」
「好きな食べ物とかない?なんなら放課後作ってあげるよ!」
そんなみんなの態度にアタフタしながらも焔はみんなに打ち解けていった。
──────その夜
和音がふといつも修練している裏庭を見ると正面の大岩の上に人が座っていた。
最初はドロボウかと思ったら雲に隠れていた月が姿を見せてその少年の顔を柔らかく映し出した。
「なんだ、焔か。どうしたのこんな所で。」
声をかけると焔は振り返った。
「いや、ただ明日のSAの訓練どうしようかなと」
「あー、確かに焔の実力だとうちらのクラスじゃ相手にならないか」
和音は少し笑いながらそう返事を返してサンダルをはいて隣に近寄ってきた。
「うーん、それもそうなんだけど……ちょっと試してみたい事があるんだ」
「なになに?」
そう言いながら焔の口元に耳を当てるそして焔も小さく教えた。
◇◆◇◆◇
──────六時間目 グラウンド
「ではこれより、ソーサラーフィールドの運転試験もかねた模擬戦を始めます」
先生のその合図を受けて日直が体操の指示を出した。
体操終了後以前やったくじ引きどおりに模擬戦が始まった。
しかし、誰もが全力では打ち合わずお互いに遠慮しているような雰囲気が流れ続けていた。
(何で全力でこないんだ?)
焔も最初の相手と打ち合いながらそう考えていると、そこでようやく観察していた長身でスタイル抜群の女性の先生が前にでた。
「お前ら何で手なんかぬいてるんだ!あぁん!?」
その声に全員が動きを止めて先生の方を見た。
「次手ぬいてたら私が殺す気でそいつの相手してやるから覚悟しとけよ!」
そんなセリフと共に先生はフィールドの外へ出て行った。
和音もため息を一つついてから相手の方へ見やった。するととても強張った表情でこちらを見ていた。そこで和音は嫌でも相手の考えがわかってしまった。
恐いんだ。人に刃を向けることが。
ようやくここまで築いてきた能力者の立場。迫害がなくなった訳ではないが、それでも少なくなった。それを自分が壊してしまうかもしれない。ダメにしてしまうかもしれない。その他にも人に刃を向けると言うことは相手に敵意を向ける。つまり友人関係に何かしらのわだかまりができるのではないだろうか。
そういった感情が渦巻き冷静になれず、この活動に身が入らないのだ。全員。
いや、ここにいる人間のうち四人はこの状況でも平然としている。特に知り合いの一人は何かよからぬことを……
そこまで考えたとき
「あきた。帰る」
一人の少年の声がその場に響いた。
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