閃剣の巫女編Ⅰ─Ⅳ
二人はほとんど同時に動いた。お互いに足音をいっさい鳴らさずに間合いを詰め互いの武器をぶつけ合う。
カキイィン!! という、金属どうしがぶつかったときの甲高い音が、部屋に鳴り響く。
「神速」
そう表現しても差しつかえないほどに二人の初戟は速かった。
つばぜり合いになったが、一、二秒で互いに一度距離をとるために同じようにバックステップする。
「……思ったよりやるわね」
「そちらこそ」
そして、少しだけ言葉をかわしたのち、再び互いの懐へ、飛び込んでいく。
焔は、最短距離で右肩めがけて剣を振るう。それを希は、刀の刃の横で受け流しその形から、切りかかる。
しかし、焔は剣を一度離してさらに、身体を精一杯反らし紙一重で回避した。
そのあと焔は、腰の所から念のために用意しておいたダガーを引き抜いて構えた。
防御を封じた上での攻撃だったので、威力こそ低い方だがかわされるとは思ってなかった希は、驚きを隠せず
「何で!?」
と、大声で聞いてしまった。その質問の答えは、自然と聞こえてきた。
「和音の刀に比べて君の刀の刀身が五センチも短かったからです。……女性でもスピードがだせるようになんですよね?」
それを聞いた希は、だから何?、といった顔を向けて無言で斬りかかった。
(なんだ、この程度なのか)
そう考えながら焔はうまく刀を弾き返しながら、冷静に戦況を把握し始める。
(いや、もしかしてまだ様子見なのか?)
その考えにたどり着いたとき、焔は自然と笑いがこみ上げて来た。
「何がおかしいの!?」
彼女が、怒りのこもつた声色で焔を
怒鳴り散らす。
(だとしたら……本気をださせる!!)
と心にちかった焔は、ある作戦を取った。
(名付けて、『挑発作戦』!!)
◇◆◇◆◇
(なんなのよ!)
希は自分の攻撃が、何でもないように受け流されているのにいらだっていた。
相手はまだ能力を発動していない。だから自分も使わず、純粋に刀で勝負をしている。だが、
(技術に、差がありすぎる!)
それほどまでに彼の剣の技術は卓越していた。少なくとも、この学校内で勝てるものはいないと思わせるほどに。
すると突然彼は、楽しそうに笑い出した。
ただでさえいらだっていたところに、謎の笑い。
今まで押さえていた感情が一気に溢れだそうとしていた。
試しに笑った理由を聞いてみると彼も口を開いた。
「何でって、楽しくてしょうがないからですよ。……もしかして、疲れてしまいましたか? 僕はまだつかれていないのですが」
その挑発のような答えに希はついに感情を押さえきれず、
「いいわよ、私の本気見せてあげる!!」
その瞬間希の周りに火の渦が表れ始めた。
◇◆◇◆◇
──────少し時間が戻り、昨日の夜
「パイロキネシス?なんだそれ?」
吟と焔は、寒くなってきたので居間に戻ると和音に捕まってしまい、三人で作戦会議をしていた。そこで、突然和音が「パイロキネシスは、どうするの?」
と訪ねてきたので聞き返していた。
「パイロキネシスって言うのは発火系の能力で、基本は目視だけで物を燃やすことができる能力のことなの……といっても、それで人命を奪ったら逮捕されるけどね」
と、吟からではなく和音から丁寧に説明された。
「…………つまりにらまれたら終わりなんだろ? 問題ない、問題ない。その前に片付けるよ」
二人から「本当に?」という目を向けられたが、手を軽くふって「大丈夫」と笑いながら言った。
◇◆◇◆◇
──────そして今。
「倒さなかったね吟」
「うん。そうだね」
和音は呆れた声で吟に話しかけ、吟はいつも通りのニコニコ笑顔で返事をかえした。
「後でどう説教しようか……」
「とりあえずしなくていいと思うよ。まだ負けてないし」
和音の説教宣言にたいして吟はやんわりと先送りするようにうながした。
(さて、こっからはタイミングだな)
焔はそのタイミングを伺う。
(負けない!)
希は刀を強く握りしめ刀に意識を集中させる。
「燃えよ、八重桜!!」
希がそう言った瞬間彼女のもっていた刀身が燃えて炎を纏った。
「行きます!!」
そう言って、彼女は間合いをつめ斬りかかる。焔はそれを紙一重でかわし、バックステップで距離をとろうとするが、
「逃がさない!!」
「くっ!!」
すぐさま間合いを詰められ、刀が振り下ろされた。今度はかわしきれずわずかにかすり、服が若干焦げる。
その後も焔は、かわし続ける。
「逃げてばかりじゃ勝てませんよ!」
希は勢いにのったのか、威勢のいい声で挑発してくるが、焔は無言で炎刀をかわし続ける。
しばらく続けていたが、
(このままじゃ私が先に力尽きてしまう……それなら!!)
一振りするそのわずかな時間で、希はそう判断し攻撃をいったんやめた。
次に虚空から刀の鞘を出してそれに燃えたままの刀を収めた。
(……くる!)
焔は用意しておいた切り札を発動させた。
「すべてを切り裂け!!青山流抜刀術、鉄斬り!!」
次の瞬間、音速で刀が抜き出され容赦なく焔の身体を斬った。
(これなら!)
勝利を確信した希だったが、目の前にはなぜか、無傷の焔が立っていた。
(え、なんで無傷?)
確かに手応えはあった。死なない程度に力加減はしたものの、スピード、威力、切れ味のどれを見ても血が出てないのはおかしすぎる。
(……………)
そして彼女の脳は、パニックを起こし何も考えられなくなった。
「……動くな」
さっきとは違う漆黒の剣の刃を首筋に構えた焔が後ろに現れた。
その場にいた全員が無言で、焔を驚きの表情で見ていた。
「…………まいりました」
希は素直に、自分の敗北を認めた。
そして、吟による模擬戦終了の合図のホイッスルが鳴り響いた。
◇◆◇◆◇
「……何が起きたの?」
希は終了後一番にそのことを焔にたずねた。その質問にたいし焔は、何でもないように答えた。
「あんたがさっき炎を出したのと同じことをしただけだよ」
それを聞いた吟は、なるほど。と言う顔をしたのを和音は、見逃さなかった。
「吟、何かわかったの?」
「うん。……ねぇ焔今のは『幻術』じゃないのかい?」
それにたいし、焔は満足そうな笑みを浮かべた。
「えーと、うん。まぁあたりだ」
そう言って焔は、自分の横に同じ背丈のもう一人の焔を作り出した。
「いつのまに練習したの?」
和音が、そうたずねると焔は素っ気なく
「今日の朝なんとなくやってたら出来たんだよ」
と答えた。それを聞いた全員が、声を出せずにその場で数分立ち尽くした。
「……そろそろでましょう」
と言う希の言葉に促されるまま今日はそのままお開きとなった。
しかし、あの時希には妙な違和感があった。彼は確かに幻術を使っていた。しかし、あの攻撃の最後には爆炎が発生する予定だったのだ。しかし、実際発生したのは煙のみだ。
(もしかして、相殺された?いや、確かに爆発した手応えはあった。煙もでてたし、彼は幻術も使っていた。そんな余裕は彼にもないはず……それなら一体)
ふと気づく、
相殺ではなく吸収だとしたら。
それならすべてに合点がいく。しかし、そんな力を持った剣が存在するのか?
てっきょく彼女はその自問自答に決着をつけることはなかった。
そして三人は、この後も通り魔を追権利を手に入れた。
◇◆◇◆◇
──────模擬戦のあった夜のある路地裏。
(たりない……)
一人の怪しいフードを被った男は、そんなことを考えていた。
(もっと、もっとだ!)
そして、よろけながら男は立ち上がる。
(もっと血を!オレニ、チヲヨコセ!!!)
そして男は、街頭の並んだ道に沿って街の方へと降りていった。
続く