閃剣の巫女編 Ⅰ-Ⅰ
誤字・脱字の指摘よろしくお願いします。
序章 終わりからの始まり
はるか遠い、遠い場所に魔法と剣のある世界があった。そしてある街の宿に、一人の少年がいました。
その一人の少年はたくさんの人達の協力によって、魔王を打ち破り、みごと世界を救って見せました。
しかし、彼はその代償として、自らの命を神の作った武器、「聖剣」に差し出しました。
そして、少年はその世界から消えました。だが、それは命ではなく、その肉体が、その世界から消失したのです。
それは、あの魔王の「死ぬより苦しい思いをさせてやる」という意地悪だったのか、それとも神のきまぐれなのか、どちらにせよ、彼は今までいた世界とは異なる場所へ流星のように空を切り裂き、たどり着いたのでした。
――――――そして、運命の歯車は静かに回りだす――――――
第一章 閃剣の巫女編
――――――西暦二〇XX年十二月三一日場所は長野。長野県のなかでも大きな町のひとつに、ある学校の男子寮で一人の少年が、スマホを手に電話をしていた。、瞳は黒く、少したれ目の顔立ちに、耳元まである綺麗な白髪が特徴だ。
「あ~あ、あと一時間で今年もおしまいだね……吟はこの夜どうするの?除夜の鐘でも鳴らしに行くの?」
「あ~、いやとくに何もしないかな?和音こそどうなんだよ 友達とでも行くのか?」
すると和音は少し
「ううん、この後おばあちゃんと一緒に鳴らしてくるの。なんでも、家が代々繁栄しますようにってお祈りをしてくるらしいわ」
「そうか、さすが中屋敷家って所か」
「…………」
「あ、ゴメン…………」
吟は自分の発言が彼女を傷つけてしまったと思いすぐに謝ったが彼女はいつもどおりの声のトーンで返事を返す。
「ううん、なんもだよ……それじゃあ、明日学校で」
「うん。また明日」
そうして、次の四月から高校二年生になる、東城吟(十六歳)は、電話の後、シャワーを浴びて明日の部活動の手伝いに向けて早めに寝ることにした。
◇◆◇◆◇
部屋の前、茶色い木造の台にのかった電話。そこでの会話が終わった黒髪でショートカットの少女、中屋敷 和音(十六歳)はスタスタと駆け足で部屋の右にある服かけから、白のコートを着て首にはマフラーを巻き、自分の部屋の扉を閉めることなくを飛び出した。
玄関の小窓からは大きな闇に白い粉が無数にまっている。それは地球温暖化が進んだため見なくなってしまった天然の雪。そのせいで普段より数倍寒かったが、今日にはピッタシの天気だと和音は思った。
「準備はいいですか?和音」
玄関から外に出るとそこには同じくショートカットの綺麗な茶色の髪に、何一つ文句のつけようがないくらいに着物を着こなしている六十歳前後の女性がいた。その若干たれ目のその女性に和音は元気な声で返事を返す。
「うん。いけるよおばあちゃん」
そして、二人はアスファルトで舗装された道に沿って歩き始めた。相変わらず雪はちらついており体温を奪っていく。
「そういえばおばあちゃん、通り魔の方はどうなってるの?」
今現在、この長野県では通り魔事件が発生しており、すでに五人もの被害者がでていた。幸いにも死者はでておらず、誰もが重軽傷ですんでいる。和音がおばあちゃんと一キロほどしか離れていないお寺の除夜の鐘を鳴らしに外出しているのも通り魔のせいである。
その犯人に共通する点は二つ。
一つは、全身黒尽くめだということ。
もう一つは、剣や刀のような鋭利な刃物を持っていること。
質問に対して、おばあちゃん、中屋敷 智子は、少しため息をついた。
「もぉ、高校生にもなってニュースもろくに見ないんですか?」
「しょ、しょうがないじゃない!部活の朝練や学校の宿題が多いんだから」
その言い草に和音はすかさず反論する。ムキになった和音を見て智子はもう一度だけため息をして答えてくれた。
「……どうやらこの街の近くに来ているらしいですよ。なんでも、警察の一人が傷を負わせたとか……」
「そうなんだ……」
そうして、再び前を向くとそこには黒ずくめの人が一人立っていた。体格的には男だが、その足取りは不安定で、今にでも倒れそうだった。
(……もしかして、通り魔!?)
さっきまで話していた「通り魔」と情報が一致していたため、和音は一気に警戒レベルを最高にまで、引き上げる。そして、虚空から自分の胸の高さくらいまである刀を取り出し戦闘態勢をとる。
すると、向こうもこちらに気づいたようで、しばらく見つめていた。
そのうち、男は背中に手をまわす。そして、背中からは淡い紫色の剣を抜いた。その剣の形は西洋のほうによく見られるロングソードだった。その雰囲気は武芸をたしなんでいる、と言うものではなく全身から殺気がこぼれていて、まるで軍人のような印象を受けた。
(あれを相手にするのはきつそうね)
そして、和音は動く。目の前の不審者を排除するために。
◇◆◇◆◇
「……ここはどこだ?」
とある少年は山の中から出るために、明かりのある方へ歩いていた。その体は傷だらけで歩けるのがやっとというありさまだった。
星明かりは一つも見えない。どんよりとした雲が空を覆っているらしく雪がしんしんと降っている。所々ほつれて、アンダーシャツが見えてしまっているボロボロコート一枚ではかなり寒い夜だ。足元も草木の上に雪が積もっておりよく滑る。
しばらく歩いていると、見たこともない素材で固められた道のような場所に出れそうだったので転がるようにそこへでた。
どうやら文明がしっかりとあるらしい。少年はそこに安堵し、同時に危機感も強くなった。
手当てができるならそれに越したことはない。だがしかし、場合によっては相手を斬らなければいけないかもしれないからだ。できるならそんなことはしたくなかった。
そこからさらに歩いていると、正面に人の気配がした。視界があまり良くないうえに、意識がもうろうとする中少しだけ顔を上げて見ると、そこには年配の女性と、十六、七歳くらいの少女がこちらへゆっくり歩いてこちらへ向かって来ていた。
(ここがどこだか聞いてみないと……)
そう決意し少年は近づく。しかし、向こうからは声どころか「敵意」が向けられた。
しかも虚空から刃物を取り出している。少年は純粋にどうやって出してるのかきになったが、一旦わきに置いといておくことにする。
そして、敵意を向けられて黙っていることも出来ないので自己防衛のために少年も背中から相棒の愛剣を抜いた。
◇◆◇◆◇
先に動いたのは和音だった。和音は最短距離で詰め寄り、鋭く刀を振り下ろした。近くで見るとそれは自分とあまり変わらない少年だ。
その少年はそれを受け止めることも無く、うまく剣の腹を使い、受け流す。そして、その隙をついて、すかさず鳩尾に掌底を打ち込む。
「っ!!」
和音は声にならない苦痛を上げ、ふらついた。少年はさらに追撃を加えようと蹴りを放とうとしたが、真横から突風が吹いたため、攻撃を中断させられる
「一旦引きなさい!!」
和音は、すぐさまバックステップで距離を取る。
「おばあちゃんどうする?今なら倒すことできるけど?」
和音は戦う姿勢を見せたが、智子の額には若干の汗が浮かんでいた。
「……手負いの獣ほど怖いものはないわ、逃げるわよ」
「え?」
その答えに和音は「何で?」という顔を向ける。しかし、智子は有無を言わさせない表情で自分達の周りに大風をおこして、自分達を包んだ後、そのまま空へ飛び立ち、着た方向へと引き返した。
◇◆◇◆◇
「どうして逃げたりなんてしたの!?」
和音は興奮し、我慢できず玄関先で智子へ詰め寄った。
その様子を見た智子は
「あの少年は、生半可な今を生きる人間の目ではありません。あれは戦闘のプロ、あなたどころか私ですら勝利できるかわからないような相手です」
それを聞いた和音は信じられないような顔で智子を見た。彼女はこの世界でもそれなりに名の知れ渡った人物で、確かに「一対一」よりも「一対多」を得意としているが、それでもあの少年に負けるとは思えなかったからだ。
それから、いそいでいるような表情で智子は言葉を続けた。
「それより、今すぐ客室に布団と救急セットを準備し、ストーブをつけといてください。いまごろあの少年は倒れているはずです」
その声に若干ビビリながら、和音は包帯や、傷薬や薬草の類を入り口から一番近い客室に準備した。
━━━━━━しばらくすると、風を纏った智子がぐったりとした少年を抱えながら戻ってきた。
腹部には大きな傷があり、出血している。その体は冷え切っており、生きているのが不思議な有り様だった。
すぐに客室へつれこまれ、智子の看病をうけた。和音にはまたもや有無をいわさない声で「寝なさい」と言ってきたので、おとなしく自分の布団の中に入った。
次の日、少年の部屋を覗いて見ると、少年は静かに寝息をたてて寝ている。それを確認した和音、少年を起こさないように、静かにその場を離れ家を出た。
◇◆◇◆◇
「へぇ、それは大変だったね」
「そうよ、私だって毎日練習しているのに、足でまといのようなこと言って、嫌になるよ!」
場所は学校の道場。一昔前の高校生が使っていたような教室四つ分くらいの広さをもつここを、吟と和音の二人で使っていた。
和音は竹刀を振りながら彼、吟に愚痴を言っていた。吟はその場に正座した状態で、愚痴を聞いている。
「で、その少年は今も寝てるの?」
一休みと言わんばかりに、その場に座った和音に綺麗なタオルを渡しながら、吟は尋ねた。それを和音は隠す必要もないので、素直に返事を返す。
「うん。……たぶんだけど、SPの消費が激しかったんだと思う」
SPが体内から急激に減ると、体がだるくなったりして調子が悪くなる。
減り方はいくつかあるが、能力の連続使用や、傷口からの大量の出血が主である。
「そうなんだ……はやく元気になって事情を聴けるといいね」
和音もそう願いながら再び立ち上がりそのいらだちをぶつけるように素振りを続けた。
◇◆◇◆◇
放課後、吟もその少年に会いたいと言ったので、和音と共に和音のおばあちゃんの家がある山の坂道を登っているときだった。空は昨日の夜雪が降ったとは思えないほどの青空が広がっていた。ポカポカした陽気に和音は
(これで雪がなかったらそっこーお昼寝するんだけどなー)
そんな状態だったからこそ突然二人の背筋がゾッとする寒気に襲われ、不快感を覚えた。後ろを振り返るとそこには、黒いフードに、黒い皮製の手袋、黒いブーツ、と言った、黒ずくめで長身の男だった。それは、正真正銘の「通り魔」だった。
「和音!」
「うん!」
二人は特に相談することもなくそのまま、通り魔に背中を向けて走り出そうとしたが、ありえないようなスピードでまわりこまれ、退路をことごとく阻止された。
「……戦うしかないみたいね」
「そうだな……」
「おいで!日向!」
「来てくれ時雨!」
そして、和音は刀型のSA「日向」を、吟は狙撃銃型の時雨を展開した。和音は間合いを最短距離でつっこみ、吟は、後方へと銃を構えたまま後ろへ後退する。
しかし、その一太刀を通り魔は左腕で防ぎ、はじき返す。
その音は金属と金属がぶつかり合う耳障りに近い高い音だった。
無論、生身で、刀の一振りを防げるわけがない
(金属製の篭手!!)
和音は昨日の経験を生かし、すぐさま、バックステップで距離をとり、通り魔の刀の一振りを回避した。
その直後、後方から銃弾が、通り魔に飛来した。
通り魔はよほど動体視力がいいのか、篭手で的確に銃弾を防いだ。そのことから、篭手も中々丈夫な物らしい。その後も吟が撃ちまくるが、一向に当たらない。
「吟!あんまり撃ちすぎてSP枯渇しないでよね!」
しかし、しばらく銃弾を撃ったあと、吟は、息をきらし、困った表情を浮かべた。
「ごめん。もうSPがないから……がんばれ!」
そして、武器は構えたまま、応援し始めた。幼馴染の行動に対し和音は
「ちょっと!いつもあれほど気をつけてって言ってるじゃない!!」
と突っ込みを入れた。
しかし、二人でようやく押し返していた相手を一人で押し返すのは無理だった。
次第に差し込まれ、ついに……
「あっ!!」
刀が吹き飛ばされてしまった。容赦なく、刀が目の前でうえに構えられる。
和音があきらめかけた時、
「うぉぉぉ!!」
吟がタックルをしかけ、少しだけ態勢を崩した。
(いまなら!)
和音は回し蹴りを放ち、すぐさま吟が逃げる隙間をつくろうとしたが、通り魔はニヤリと笑う。
(ここまでなの……)
和音があきらめかけ、右手の刀が無造作にふるわれた。
だが一つの影が通り魔と和音の間に割って入った。その右手には淡い紫色のロングソードが握られており、剣は通り魔の一撃を防いでいた。その頭には包帯が巻かれており、服装は男性用の浴衣姿。
和音はこの格好に心当たりがあった、
「おい、大丈夫か?」
なぜならそれは昨日出会った少年だったのだから。
続く
前作、「セブンスソード―七つの聖剣―」もよろしくお願いします。