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九尾の孫 【結の章】 (1)  作者: 猫屋大吉
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本家(2)

優介 危機? 策士の勝利?

本家の露天風呂は、巨大な岩山をくり抜いた中にある。

丁度、和歌山県の南紀勝浦温泉のホテル浦島の大洞窟風呂の様だ。

大洞窟風呂は、海に面しているが、本家の風呂は、谷に対して立っている。湯船から見える風景は、四季折々の顔を持つ。

湯は、この地方の温泉で単純硫黄泉で効能は、リューマチ、神経痛、皮膚病等に効能があるとされている温泉水が自然に湧きだした所に岩をくり抜いた湯船を設置し、使用している。また、風呂に浸かりながら川の音が、反射して聞こえてくる。分家でこの近くに住んでいる者は、しょっちゅう利用している。


中司兄弟と分家の男連中は、仲が、良く 互いに背中を洗いっこしながら世間話をしている者や、今日の出来事をしゃべっている者等、様々で、誰一人として今後の成り行きを心配している者は、居なかった。

これは、当主である中司雄一郎の圧倒的な霊力に一族が、頼り切り、その力を脅かす者等いない事を信じているからで有った。

実際、2年前に中国から仙狸せんりが、数百年ぶりかで再度、新潟県上越市で発見された時、当主、雄一郎が、赴き、仙狸に数十メートル離れた位置から指差しした所、仙狸は、黒い炭と化し、砕けて死にその魂までも粉々に打ち砕いた。それを同行していた分家の5人に聞いた他の分家も一様にその結界の力を変容させ、武器と化した雄一郎に盲信した。



仙狸 : 狸は、山猫を表し、一説には、猫又の原型とも言われている。主に化けるのが上手く、人間の生気を吸う妖怪とされている。その昔、同じ上越市において猫又が、暴れたと言う伝承が、残っている。中国の妖怪である。



雄一郎は、分家に自分を盲信するのを止めて欲しいと言うのが、口癖になっていた。

優介から見ても、兄、雄一郎は、まさしく化け物と言える。


先代の当主は、神一人であれば退ける事が、出来た。だが、雄一郎は、10体来ようが、何体来ようが、関係無く退けてしまうそれ程、凄まじい霊力の壁を作る事が、出来るのだ。歴代5位以内には、確実に入ると言われる程、膨大な量と圧倒的な力の霊力である。

だが、歴代の強い霊力を持った当主が、現れた時、敵対する妖も強い霊力を持った物が、現れるのは、中司家の歴史を紐解くと一目瞭然である、それを雄一郎は、懸念しているのだ。

実際、ここに、玉賽破ぎょくざいぱと言う 玉藻前たまものまえの孫が、登場して来た。

霊力は、修行しだいであるレベルまでは、向上すると言われている。分家の若者達も本家の修行棟で日夜、修行に励んでいる しかし、そのレベルを超えるのは、やはり血、血縁、血統と言わざるを得ない。

なぜなら、修行を殆どしていない優介のレベルですら彼らは、超える事は、不可能に近いのだ。

平和を意識して常に霊力の上を目指している人間であればある程、雄一郎の持つ力に盲信してしまうと言う悪循環を引き起こしいる。これは、人が人である限り、避けられない不協和の一つでもある。


人が人である限り、3次元を超える事が、出来ない。神と呼ばれる存在は、5次元から上の存在となり、言わば、中司一族は、太古の昔より、人でありながら7次元以上の力を有する一族であるからに他ならない。


以上の事実が、雄一郎の悩みであり、トラウマにもなりつつある。



優介は、雄一郎にそれを言われると掛ける言葉が、見当たらない。

「俺が、前を走る。兄さんは、守りに徹してくれ。強力な守りは、心強い。今度は、妖狐達も白澤はくたく様も俺達には、ついている。当然、神様達の協力も俺は仰ぐつもりだ。大丈夫だ、俺達、中司一族郎党は、其々に守る者が居る。絶対に負けない」と、

自分で言って恥ずかしくなるセリフを言ってしまった。

雄一郎は、それについて「お前の守る者とは、やはり、優子さんか」とにやにやと笑いながら言った。

優介は、「・・・・・」

そう来るか、今の状況でそう来る! と、唖然として自分の時間が止まった事を自覚し、

これからは、酒を呑んでから風呂には、絶対に入らないと心に誓った。


優介は、風呂から出て、居間でコーヒーを飲みながらタバコに火を点け、今日の事をじっくり考えていると、少彦名命すくなひこなのみこと様に貰ったあの【玉】の事を思いだした。

しまった。すっかり見て貰うのを忘れていた、どうする。奪われでもするとやっかいな事になりそうだ と思い、兄に預け、本家の先祖の霊が眠る霊廟の地下に設けられた宝物庫に預ける事にした。

居間を出て、兄の部屋へ廊下を走り、部屋の前に行くとドアをノックした。

中から「どうぞ」と言う声がしたので、中に入り、事の詳細を伝えると、

兄は「うむ、危険な物だな、消滅させる事も可能だが、預かっておこう。術を施した後、宝物庫に入れて置く」と快く預かってくれた。

優介は、「ありがとう兄さん。おやすみ」と礼を言い、取り敢えずは、一段落かとほっとしながら宛がわれた部屋、旧自分の部屋に移動した。


部屋に入ると、

「おっかえり~」と優子の声。

「なんでお前が・・・居る」と尋ねると、

「今までずっと同じ部屋で一緒に寝てましたって咲子姉さんに言ったら、じゃ、一緒にしなくちゃねって、同室になっちゃいました~。もう、これは運命だよね~、私、やっぱり優介の嫁だねっ」


(それ、その言い方、かなり誤解されてるぞ。いいのか俺、良いのかお前)

どんどん優子の策に嵌っていく自分を感じた優介で有った。


その晩、優介は、嫌な夢を見た。池に落ちてもがいている夢だ。

足が、重い。

顔の周りに水草が、引っ付く。

そこで、目をさました。

優子が、自分のベットから優介のベットへ移動して来ていた。

水草は、優子の後髪だった 動かない足は、優子の足が、足の上に乗っているからだった。優介は、ベットから出ると寒いと思い、諦めて優子の寝ている方の反対を寝返りした様に向いて再び、目をつむった。

気になって寝れないでいると、背中から

「優ちゃん、怖いよ、私、怖いよ」と、寝言を言っている。

優介は自分の中に何かが生まれたのを感じた。

日頃、馬鹿みたいに明るいのは、きっと怖さを隠す為に自分の心に嘘をついているからなのだろう。

優介は、優子の寝ている方へ向き直り、片方の腕を優子の枕代わりにしてやり、空いたもう片方の腕で布団の上から柔らかく抱きしめる様に腕を置いた。

「ふにぃ~」とまた、寝言。

優子の髪のにおいを嗅ぎながらまた眠りに落ちていった。


朝、御手伝いさんが、起しに部屋の戸を開けた。

「おはようございます。あらあら、仲がよろしいですね、御朝食の用意が出来ております。広間へ急いでくださいね」っと、一つのベットで2人で寝ているところを目撃された。

たしか、あの御手伝いさんは、仲間内で井戸端会議が、大好きな人だ、と気が付き、一気に目が、覚めてベットから飛び起きた。

部屋に備え付けの洗面所で顔を洗い、戻って来ると優子も目を覚まし、「おはよう、ゆうすけ~。ごはんだよね、10分で用意するから、一緒に行こうよ」

とズボンを履いてワイシャツのボタンを付けている優介に言う。

断る理由も思いつかず、御手伝いさんの口を封じる手段がない物かと思案中の優介は、

「あぁ、」と そっけない返事をしながらタバコに火をつけた。

「そっけないな~」と優子は、呟いた。

タバコを吸い終わり、優子が、優介の二の腕を両手で挟む様に持ち、

「お待たせっ、いこっ」と上機嫌で腕を掴んだままスキップしている。

優介の本能が、何かを訴えた が、成り行き上、そのまま、広間へ向かった。

広間に入るや否や、「優介、若いなー」「仲良いねー御二人さん」と、声が、掛る。すでに今朝の情報が、蔓延していた。

優子が、

「もう、昨日、抱きしめて寝てくれたの嬉しかったけど、優介、激しいんだもん」

こ、こいつ、問題発言!また、誤解を招く発言をーっ。

と優介は、心で叫んだ。

「朝から 抱きしめたやら 激しいだ のと若い者は、羨ましいのぉー、優介」 と、背中を軽く叩いて来る。

真後ろから豪快な声。声の主は、福井のおじさん。

周りからは 笑い声。

いや、これは、嘲笑。

目が点になり、頭が、真っ白、全身硬直 金縛り状態。

本能は、正しかった。

もう、皆さま、思いっきり誤解していらっしゃる。

自分を擁護する気力すら失せて亡霊の様にふらふらと膳に着くと中司雄一郎夫妻が、席に着き、

さぁ、頂きましょうと号令を掛け、朝食会が始まった。

優介は、味の解らないまま朝食を終えた。

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