第三話 アリシアからのチュートリアル
「起きて下さい、朝ですよ」
「母さん、後五時間、五時間で良いから寝かしてくれ~」
「私は母さんじゃないです。それに五時間も寝たらお昼過ぎちゃいますよ」
俺は母さんにしては若すぎる声に眠りから無理やり覚めさせられ少し不機嫌になった。
「だれだお前?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私アリシア・ベルモンです。
ご主人様。アリシア と呼んで下さい」
俺は取りあえず彼女を鑑定してみる。
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名前 :アリシア・ベルモン・カミシロ 性別 :女
種族 :吸血鬼 (悪魔憑き)
レベル :15
能力値 ▼
スキル ▼
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種族は…まぁ、な。昨日の悪魔にあった称号は表示されないけどどう言う事だ?
「あぁ、そういえば昨日の子かすまん寝ぼけていた。俺は佐渡 誠、名前が誠だ」
俺は彼女の最後の言葉を無視して話を進める。
「体は大丈夫か? それと…言わなければならない事があるんだが」
彼女を吸血鬼にしてしまったと伝えたら彼女はどうするだろうか? 泣き叫ぶだろうか? それとも俺の事を罵倒してくるだろうか? 昨日はかっこうつけたが気が滅入る。
「体はご主人様のお蔭で大丈夫です。あ、詳しい事は夢の中で神様にお聞きしました。私は召喚した悪魔にからだを奪われそうだったんですよね? それを止めてくれてその後死にかけの私を吸血鬼にする事で助けて下さった。そう神さまにお聞きしました。感謝しています」
「そ、そうか」
「神様からのプレゼントですよ誠さん」
彼女はおどけたように言う。
「神様の真似か?」
「はい、ご主人様への伝言だそうです。似てましたか?」
「ああ、似ていたよ、それと質問なんだが」
ついに耐え切れなくなり質問する。
「その、ご主人様ってなんだ?」
「え? ご主人様はご主人様ですよ?」
言ってることが分からないと言う様に彼女は首をかしげる。可愛い。
「いや、質問が悪かった。なぜ俺の事をご主人様とよぶんだ?」
「私はご主人様の眷属ですからご主人様の事をご主人様とお呼びするのは当然です」
「そうなのか」
「そう神様がおっしゃっていましたが、お嫌ですか」
そう言って上目づかいにに悲しそうにこちらを見つめる。
「い、嫌じゃないよ、大丈夫だ。それにその敬語もあまり無理しないで良い」
その一言だけで満面の笑みをうかべるアリシア。後半は聞こえなかったのかな?
「それで聞きたいことが在るんだが、言いたくないなら言わなくてもいい。昨日はなぜ悪魔なんて召喚したんだ?」
途端に表情を替え顔を伏せた彼女は少しずつ話し出す。
アリシアはこの家の持ち主とその奥さんとの間に生まれた一人娘らしい。裕福な家庭で二十数人の家政婦と執事、コックや庭師を雇いこの屋敷で暮らしていたらしい。アリシアはすくすくと育ち14歳を超えた時に俺が歩いてきた道を反対に行ったところにある町の教会の修道女見習いになったらしい。アリシアは生まれつき魔力が多く将来有望な神官になると言われていたらしい。
ところが去年の終わりごろここら辺一帯に疫病が流行ったらしい。アリシアも病人たちを治すことに従事しておりお母さんの元に帰れなかったらしい。そして今年彼女に家の庭師が一通の手紙をもって彼女の元を訪れたらしい。彼女のいた屋敷にもその疫病は蔓延し家の者はほとんど亡くなってしまったとの事で、手紙には母からの言葉が書かれていたらしい。ここは言いにくそうだったので聞かないでおいた。
彼女は急いで屋敷に戻ってきて家族達の墓を見たらしい。それが昨夜だ。そこで茫然となり教会で見た事のある悪魔召喚陣を使い悪魔を使って家族達を生き返らせようとしたらしい。家族が生き返る事が無い事は夢の中で神さまに聞いたらしい。神さまに感謝だ。
「大変だったんだな、今は大丈夫か?」
「はい、今はご主人様が居ますから」
「そうか、質問ばかりで悪いんだが俺にこの世界の事を教えてくれないか? 多分神様に聞いていると思うが俺はこの世界の事を知らないんだ」
「神様から聞いていました。ご主人様は異世界人、何ですよね?」
「あぁ、この世界について教えて貰えますか?」
「勿論です」
アリシアから聞いた事を要約すると
この世界は女神アステアが作り出した世界とされアリシアがいた教会も女神アステアの教会らしい。一年は365日で閏年は無いらしい。1から12の月があり季節は日本と酷似していた。手抜き過ぎないか? 重さや長さの単位も日本と同じらしい。
またスキルがあり…この説明はチュートリアルで聞いたのでとばして貰おう。
地球と違うのが魔物と言われる生物? や、神や精霊等の幻獣がおり人間を襲うものもいるそうだ。強くなった魔物は知性を持つこともあるらしい。
種族はチュートリアルで見た者の様にさまざまな種族があって人間とは別の神を信仰していたりするそうだ。基本的には種族ごとに国を作りそのトップに王プレイヤーと言われる者がいるそうだ。
プレイヤーとは何か。それは世界から様々な恩恵を受けている事だそうだ。神の加護などと違い世界そのものが決めている物であるらしい。良く知るものでステータスなども世界の恩恵、祝福と言っても良い。
王プレイヤーの場合は国の状態や国家事業等もステータスで見る事が出来るらしい。俺はまだ建国していないので自分のステータスしか見れないが。
王プレイヤーは世界の統一を目指して戦っているらしい。王プレイヤーの勝利条件は段階があり最終的には世界征服。と言う事だそうだ。
王プレイヤーは数百年前にもいたらしいが一時を境に全てのプレイヤーは消え大災害が襲ったらしい。そのせいで全ての種族は等しく人数を減らされそれから100年でここまで立て直したらしい。
そして大災害の終わりから丁度100年目の俺がこの世界に来た一週間ほど前に女神アステアから信託が下りプレイヤーの再来とそれに伴う世界統一への戦争を聞いたらしい。プレイヤーについては信託と共に伝えられたらしい。言いたい事は沢山あるが一言だけ言おう。『気にしたら負けだ。』
「と、言う感じです。分からないことや聞きたい事があったらいつでも聞いて下さいね」
「ありがとうアリシア。分かりやすくて良かったよ。じゃあ取りあえず建国してしまおうか」
「はいご主人様の国ですね。」
「あぁもちろん。それじゃ 『ニホン建国!』」
俺は種族を選んだ時と同じように腕を掲げ国の名前を叫ぶ。
ポーン ニホンが建国されました。
この場所を首都に設定しますか?
「頼む」
ポーン この場所をエスポワール首都とします。
エスポワールのステータスを閲覧可能になりました。
俺は早速エスポワールのステータスを開く。
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国名 : ニホン
王 :佐渡 誠
設定 ▼
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「アリシア、これ見えるか?」
「はい、これがニホンのステータスですね? 国の名前しか書いてなくて味気ないですね」
「俺には設定と言う物がみえるけどアリシアには見えないのか?」
「すみません。見えません」
「いや、謝らなくていい多分キングプレイヤーにしか見えないのだろう取り合えず基本を設定してしまうからアリシアは自由にしていてくれそれとそんなかしこまった口調はやめろ。命令だ」
「命令ですか?」
「あぁ、少しずつでいいから慣れて行ってくれ」
「わかりまし…うん」
「そう、それでいい。じゃあ俺は設定しちゃうから自由にしてろよ」
「じゃあ家の中をお掃除してきます」
そういってアリシアは部屋を出て行く。
「それじゃぁお仕事始めますか」
俺は目の前に広がる王プレイヤーのウィンドウに書かれた文字を鑑定の魔眼を用いて更に詳しく分析し、コンピューターのプログラムに似た無数のルーン文字の羅列にする。なんとなくその文字がルーン文字だとわかったのはおそらく神様が翻訳効果をくれたのだろう。そしてその文字の羅列を世界のプログラムとして解析する。言ってみればそれは文字通り世界を読んでいると言う事だった。言葉にするのは簡単だが人間だった頃には出来ない芸当だろう。
「駄目だ。この先が分からない」
けれども前世の知識を持っていてもそう簡単には行かなかった。今のままで解析できるのはプログラム全体の数パーセントにも満たない。けれどその数パーセントが常人には出来ない事を誠に教える人はいないが。
「一応表面上は出来たけどこの先は当面の課題だな」
そう言って完成したのは国としての主な行政機関を地球の国の物を参考に魔法関係の物を追加した、ニホンのステータスだった。王として誠の名前がありその下に空白の各大臣と各軍の大将の役職がありその下に地方の領主等が並んでいく。
このステータスを故意に書き換えると言う行為がいかにこの世界にとって異様な事なのかまだ誠は知らない。
「アリシア~、完成したぞ」
「は~い、今行きま~す。」
どうやら地下室の掃除をしていたらしくくぐもった声が下から聞こえてくる。
「ご主人様やっと完成したんですか? 私はもう一階と二階とお庭は綺麗にし終わって地下室ももうおわっちゃいますよ?」
「早いな」
確かこの屋敷かなり大きいし庭なんてヴァンパイアになって日光が痛いはずなのにどうやったんだ? あの感じは日焼けした次の日の様で肌がヒリヒリして物凄く痛い、あれを強くした感じがヴァンパイアが日光を浴びた際の反応だ。
「え? ご主人様、ご主人様が設定をすると言ってから二日も経ってますよ?」
「ふ、二日? そんなにか?」
集中はしていたがそんなに経ってるとは…。ヴァンパイアの体凄いな。二日も飲まず食わずに寝てもいないのに。
「す、すまんアリシア、お腹減ってるか?」
「大丈夫です。ヴァンパイアになってからお腹も減らないしそんなに疲れないんです。」
「そうか、ごはんも忘れててごめんな。二日も時間食っちゃったから取りあえず寝てから食事にでも行くか」
「食事ってどうするんですか? おうちにはご飯はありませんよ?」
「吸血鬼なんだから、吸いに行くんだよ。血を」
さぁ、一眠りしたら異世界初の食事に出かけよう。
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