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第九十五話〜伝説の剣を見つけました〜

「じゃあ、世話になったな」

「ああ」


 見送りに来てくれた翠鱗の蛇人族や鍛冶場のお姉様達に別れを告げ、蛇人族の集落を出発する。

 駄神と一夜を共にした後、俺達は蛇人族の集落でもう一日休んでから次の目的地である『禁断の園』と呼ばれている禁足地へと向かうことになった。エルミナさんの話ではここからは日が昇ってすぐに出れば昼前には辿り着ける距離にあるらしい。

 それにしても鍛冶場のお姉様達だけでなく翠鱗の蛇人族も残念そうな表情をしていたな。


「どこかのタイミングでしっぽりするものと思ってたんだけどなぁ」

「積極的に行けばそうなったかもな。でもまぁ、エルミナさんやリファナを蔑ろにするわけにはいかんし、そういうタイミングはお前自身が潰した感あるぞ」

「そう言われるとそうかもしれないね」


 なんせ昨日一日はこいつのせいでご機嫌斜めになった二人を宥めるのに使ったようなものだしな。というか、蛇人族の集落に来てから妙にリファナの機嫌が悪かった理由が可愛らしすぎて悶えた。

 要約すると、ゆっくり数日休むって話だからイチャイチャして過ごせると思っていたのに、俺が蛇人族やら駄神やらにかまけて構ってくれなかったからいじけていたらしい。

 宥めすかした末に真っ赤になりながら小声でそんな事を告白するリファナの可愛さに悶絶したのは言うまでもない。まさに正統派ツンデレだな。


「さぁ、行くわよ」


 昨日一日構い倒したリファナの機嫌はまさにMAX、最高潮である。


「うん、今日も良い天気ね」


 ついでにエルミナさんはお肌がツヤツヤしている。日が落ちてからはエルミナさんのターンだったんだ。深くは聞くな、俺は燃え尽きたよ。


「それで、お前はどうやってついてくるんだ? 俺達と同じ速度で走れるのか?」

「できなくはないけど疲れるし、面倒だからそんなことしないよ」


 そう言った駄神の姿がフッと掻き消えた。どこに行ったのかと視線を巡らせると、頭の中からもはや聞き慣れた声がする。


『こうやってついていくよ』

「ついていくっていうか憑いていくだよな、これ」

「あら? 神様は?」

「どうやってか知りませんが、俺の頭の中に戻ったみたいです。もうなんでもありですね」


 ヤツのことは深く考えるだけ無駄なので、歩きながら自分の装備を確認する。腰には魔鋼剣と、ホルダーに収めた黒鋼製の投げ杭と神銀製の投げ杭が二本ずつ。神銀製の杭には加速の魔法文字が刻印してある。今俺が使える遠距離攻撃手段の中で最も威力があるのが恐らくこいつだろう。

 後は神銀棍がストレージの中に入っているが、嵩張るので出してはいない。ちなみにトレジャーボックスに入っていた荷物は全てストレージに収納し直しておいた。中には保存の利かない食料などもあったので、これでいつでも美味しく食べられるようになったわけだ。


「エルミナさん、禁断の園の辺りには休める場所はあるんですか?」

「うーん、あることはあるんだけど……」


 俺の質問にエルミナさんは苦笑いを返してきた。なんだろう?


「近くに私達とは別氏族のエルフの里があるんだけど、気位の高い連中でね……私達だけならともかく、タイシが一緒だとちょっと泊まるのは難しいかもしれないわ」

「気位の高い連中ねぇ」


 所謂テンプレ的なエルフってことだろうか。人間を見下していて、排他的な感じの。


「自分達こそ正当なエルフで、それ以外のエルフ……つまり私達は本来の存在意義を忘れた雑種だ、とかそんな感じで言ってくるいけ好かない奴らよ」

「まぁ、そんな感じね。ずっと昔からこの大森林に引きこもって暮らしてきた連中よ」

「なるほど。そうなるともし前回みたいなことになったら蛇人族の集落まで引き返したほうが良さそうですね」

「そうね、少し遠いけれどそうした方が良いと思うわ」


 とりあえずざっくりとした方針は決まったので、エルミナさんの先導で大森林を走りはじめる。

 ところで、大森林の様相はエリアによって大きく変わる。エルミナさんやリファナの住んでいる集落の周辺は赤茶けた地面に見上げるような高さの巨木が間隔を空けて聳え立つようなところだし、獣人族やハーピィさん達の集落がある辺りは普通サイズの木が多く、いわゆる普通の森という感じだった。

 今回俺達が向かった先はどうかというと、歪に曲がりくねった樹木が乱立する気味の悪い、鬱蒼とした様相である。まるで領都クローバーのある大樹海のようだ。


「植生が様変わりしてきたな」

「ちょっと普通じゃないわね。何もかも捻じ曲がってる感じがするわ」


 すぐ隣を走るリファナが眉を顰める。やはり森に生きるエルフとしてはこの歪な森には何か思うことがあるのだろう。メルキナも大樹海の森の様相は気に入らない感じだったもんな。

 前を走るエルミナさんはどう思っているんだろう、と視線を向けると不意にエルミナさんが横に跳ねた。いや、回避行動か?

 俺は咄嗟に魔鋼剣を引き抜いてそのまま前に進み、リファナはエルミナさんと反対方向に跳ねて間合いを取っていく。正面から左腕に巻き付いてくるような気配を感じ、反射的に剣を振るう。


 ザンッ。


 何か柔らかいものを斬った感触あった。緑色のロープ……? いや、蔦か? 確認する前に次々と危険感知が警鐘を鳴らす。


「タイシ!」

「大丈夫だ! しゃぁっ!」


 四方八方から殺到してくる蔦の群れを魔力を篭めた拳と魔鋼剣で全て打ち払い、切り払う。なかなかの数だが、俺に触れるつもりならもう三倍くらいは物量が要るな。触れて巻き付いたところで力づくで引き千切ってやるけど。

 リファナが退避した方向から風魔法を纏った矢が飛来し、俺へと届く前に数本の蔦が弾け飛んだ。うん、良い腕だな。リファナと一緒に四十本ほどの蔦を撃退したところでエルミナさんの退避した方向から強力な風魔法を纏った矢が飛来し、森の一角を吹き飛ばした。

 すると俺に殺到していた蔦の群れが急に力を失い、地面へと落ちる。どうやら蔦の本体を仕留めてくれたらしい。


「タイシくん、大丈夫?」

「これくらいならなんでもないですね」


 魔鋼剣を魔法で浄化しながら周囲を警戒する。しかし厄介だな。気配察知が効かないぞ、今の蔦。本体の位置も気配察知にかからなかった。


「あんたちゃんと剣が使えるのね」

「いや、使えるよ。なんだよそれ」

「いや、今までのタイシくんの戦い方を見ていると、ねぇ?」


 エルミナさんが苦笑する。

 うん、そういえばベヘモス相手には突っ込んでワンパンだったし、機械兵士相手には鈍器でひたすら殴るって感じだったね。でもホラ、ワーウルフ相手には……ワーウルフも技術らしい技術は使ってなかったかもなぁ。いいんだよ、能ある鷹は爪を隠すとかそういうのなんだよ。


「今までそういう機会が無かっただけだ。これでも剣はそこそこ振ってる」


 これ以上襲ってくる気配は無いようなので、取り敢えず魔鋼剣を鞘に収める。


「それより今の魔物、気配が感じ取れませんでしたが」

「こういう歪んだ森には魔物化した植物が出るのよねぇ。襲ってくるまで普通の植物と見分けがつかないから厄介なのよ。でも、これが出てくるということは禁断の園に入ったってことでもあるわ」

「なるほど」


 となると、ここからはいままでのペースで快調に進むというわけにはいかないようだ。


『擬神格の反応があるね……ちょっと妙な反応だけど、強いな。何か覚えがあるような気がする』


 頭の中に駄神の声が響き、ある方向に引き寄せられるような感覚を覚える。なるほど、あっちにあるのか。


「目当てのモノの反応があるそうです。あっちですね」

「そう、じゃあ慎重に進みましょう」

「俺が前衛で、殿はエルミナさんにお願いして良いですか?」

「わかったわ。リファナちゃんは前後のフォローをお願いね」

「了解」


 何かに使えるかもしれないので切り払った動く蔦を回収しておいた。ほら、もしかしたら美味しいかもしれないし? この世界、こういうゲテモノっぽいのが意外と美味しかったりするんだよ。それに食えなくても何かに使えるかもしれないし。


「こういうのはもう更地にしていくのが楽なんだけどなぁ」

「更地って……」

「極大爆破とかで、こう、どかーんと。大樹海ではよくやりましたよ」

「むやみに自然を破壊するのは良くないと思うけど」


 そんな話をしながら慎重に進む。基本は俺が先行して囮になり、凌いでいる間に後衛の二人に本体を倒してもらうという感じだ。俺ならうっかり巻き付かれても力ずくで引き剥がしたり引き千切ったりできるし、生半可な攻撃では大ダメージは負わない。

 しかしまぁ襲ってくること襲ってくること。凶暴な植物どもを撃退しても五分も歩かないうちにまた襲われるから遅々として探索が進まない。


「ええい、鬱陶しい。いっそ焼き払ってやろうか」

「私達も炎と煙に巻かれちゃうわよ」


 リファナが苦笑する。俺一人なら強引に突っ切っても良いんだが、エルミナさんとリファナはそうもいかない。俺ほどのパワーと耐久力は二人にはないので、蔦に捕まると結構危ないかもしれない。


「きゃっ!?」


 とか思ってたらすぐ後ろにいたリファナが悲鳴を上げた。何事かと思って振り返ると蔦に片足を巻き取られ、凄い勢いで樹上に釣り上げられて行くところだった。咄嗟に飛び上がろうと腰を落とす。


「このっ!」


 しかしリファナもやられているばかりではなかった。素早く腰から大型ナイフを引き抜き、自分の足に絡みついた蔦を切る。おお、やるじゃないか。

 落下時に風魔法を使ったのか、空中で姿勢を制御してふわりと地上へと降り立った。ふむ、白か。シンプルイズベストだな。


「何よ?」

「ナイスパンツ」


 殴られた。痛い。


「馬鹿なこと言ってないで早くこんなところ抜けるわよ!」


 プリプリと怒るリファナを宥めたりしながら慎重に進むこと二時間ほど。


「でっかいなぁ……つかなんだこれ、壁?」

「これ、一本の木なのかしら……?」


 繁茂した凶暴な植物の襲撃を凌ぎきり、歪な森を抜けた先には湖の中に佇む巨大な木があった。高さはエルフの樹上村のあった巨木と同じくらいだが、太さが半端じゃない。直径何キロメートルとかいうレベルだろう。見る限り複数の樹木が密接に絡み合っているとかそういうことではなく、一本の極太の樹木であるようだ。

 これ、真っ当な生物なんだろうか。


「水は清浄に見えるけど……」


 聳え立つ壁のような樹。その周りの湖、というか水たまりの水は怖いくらいに透き通っている。この巨大な樹木の落ち葉らしきものが無数に堆積しているが、生き物の姿は見えない。これ真っ当な水なんだろうか。どう考えても真っ当じゃねぇな!


「魚も何もいないわね。あまり触れないほうがいいかもしれないわ」

「そうだな。しかし反応はあの木の中にあるようなんだが……」


 惹きつけられるような感覚は目の前の巨木から感じられる。となると、この異様に綺麗な水を渡っていかなければならないんだが。


「ぐるっと回ってみましょう。何かあるかもしれないし」

「最悪周りの木を伐採して筏でも作るか」

「それも手間ねぇ……」


 三人で砂浜のようになっている湖の岸を歩き始める。少し歩いてわかったことだが、どうやらこの砂浜には襲ってくるような生物は居ないようだ。砂浜の際に生えている植物達も砂浜にいる俺達には攻撃を仕掛けてこない。


「これはこれで不気味だよな」

「本当に安全なのか疑わしいわよね」


 凶暴な植物達さえも手を出しかねるような脅威が潜んでいるのではないか、と疑心暗鬼に陥りそうになる。魔力眼が使えれば何かわかったかもしれないが、使えないものはどうしようもないのでひたすら警戒するしかない。


「二人とも、あれを見て」

「なんだありゃ……あからさまだな」

「橋……?」


 三十分ほども歩いただろうか。まだここからは遠いが、先の砂浜から巨木に向かって一直線に何かが伸びているのが見えた。橋のように見えるが、遠すぎて何なのか正体が判然としない。


「あれを伝っていけば安全に巨木に辿り着けそうね」

「お誂え向き過ぎて怪しいですけどね」

「とにかく行って調べてみましょう」


 現場に急行してみると、砂浜から巨木へと伸びていた――いや、その逆で巨木から砂浜へと伸びていたのは巨大な一本の根のようであった。砂浜にはまるでこの根を、あるいは巨木を祀るかのように鳥居のようなものが建てられており、その脇には灯籠のようなものも設置されていた。灯籠には魔法の光のようなものが灯り、辺りを明るく照らしている。


「明らかに人の手が入ってますよね、これ」

「そうね……まぁここも禁足地だから、近隣の氏族の手が入っていてもおかしくはないのだけれど」


 鳥居のようなものや灯籠のようなものを観察しながらエルミナさんが難しい顔をする。


「まぁ、考えていても仕方ないわ。入るべからずと書いてあるわけでもなし、門番がいるわけでもなし、勝手に入りましょ」

「いいんですかそれで」

「構わないわよ。禁足地って言っても入ったからって罰があるわけじゃないしね。命の保証が無いってだけで」


 そう言いながらエルミナさんは木の根の上を歩いて湖を渡り始めた。俺とリファナもその後を追う。


「何を祀ってるんでしょうね、ここは」

「うーん、正直に言うと私はあまり禁足地の由来については詳しくないのよね。リファナちゃんは何か知ってる?」

「私も場所をいくつか知っているだけで、由来については詳しくありません」

「そうよねぇ。そういう情報は自称正当なるエルフの皆様方が独占してるし」

「ああ、噂の奴らね」

「そ、リイの氏族ね。ちなみに私達はダーナの氏族よ」


 エルミナさんとリファナにエルフの氏族についての豆知識を聞きながら湖を渡っていく。

 現在大森林に住まうエルフの氏族は五つで、元々この大森林に住んでいたリイの氏族以外にエルミナさん達の所属するダーナの氏族、マウントバスに近い大森林の西側に住むギーラの氏族、鳥人族の住む大森林北側に近い場所に住むメルの氏族、ゲッペルス王国に近い大森林の東側に住むジンの氏族がいるらしい。

 ちなみにリイの氏族が住むのは大森林の中央部、ダーナの氏族が住むのは比較的カレンディル王国に近い大森林南部であるとのことだ。


「まぁ、彼等の言うことも間違いではないんだけどね。私達みたいに大森林の外で生きていた氏族は他種族との混血も進んでいるから」

「なるほど」


 リイの氏族は純血主義を貫いているのだろうか。いくら寿命の長いエルフとはいえ、それも限界があると思うが。


『ジェネレーターがまだ生きているのかもね』


 ジェネレーター?


『データ化した遺伝子バンクからクローンを作り出す機械、ってとこかな。厳密に言うと違うけど、まぁそんな感じで理解してくれればいいよ』


 すげぇな古代人。何でもありじゃねぇか。

 そんな話をしながら歩いているうちに巨木の根本へと辿り着いた。ちょうど正面に巨木の内部へと入っていけそうな洞がぽっかりと穴をあけている。


「どうにもこう、安全な浜といい、橋みたいになってる木の根といい、この洞といい、作為的過ぎて疑わしいんだけど」

「気持ちはわかるけど、疑っても仕方ないでしょ」

「もしかしたらリイの氏族が手を入れているだけかもしれないわよ?」


 確かに、その可能性もあるか。まぁ疑っていても仕方がない話ではあるし、とっとと中に入るとしよう。


「明るいわね」

「蛍火草を植えてあるみたいね。やっぱりリイの氏族の手が入っているみたい」


 蛍火草というのは魔力を蓄えて光る性質がある燃料いらずのファンタジーエコ照明だ。エルフがよく利用するものなので、エルミナさんはこの巨木に手を入れているのはリイの氏族であると考えたようである。


『反応はまっすぐこの奥からだね』

「反応はまっすぐこの奥からだそうです。厄介なことが起こる前に進みましょう」

「そうね」

「わかったわ」


 俺、リファナ、エルミナさんの順番で並んで警戒しながらも足早に進んでいく。巨木の洞の内部は一本道で、特に危険もなく最奥部まで進むことができた。


「剣、だな?」

「そうね、剣みたいね」


 巨木の洞の最奥、学校の教室ほどの広さのさして広くもない円形の空間の中心には一本の剣が突き刺さっていた。一見して普通の剣とは言い難い雰囲気を持っている剣である。

 切っ先が木の床に突き刺さっているので正確な長さは判らないが、恐らく柄も含めると俺が今腰に差している魔鋼剣よりも少し長い。刀身は幅広で厚く、全体の重量はかなりありそうに思える。

 柄頭と鍔の部分には紅く明滅する結晶が嵌め込まれており、鍔の結晶から白い刀身に向けて同じく紅く明滅する回路のような線が幾重にも伸びている。剣ではあるのだが、剣の形の電子機器のようにも見えるな。


「見るからに尋常な剣じゃなさそうだが」


 剣の柄に手を伸ばそうとすると突然白い光が弾けて駄神が現れた。どうやら目的のモノを前にして実体化したらしい。


「この剣かぁ……懐かしいなぁ、まだ現存してたんだねぇ」


 ジロジロと突き刺さった剣を観察しながら駄神が呟く。どうやらこいつに縁のある剣であるらしい。


「この剣はね、旧世界滅亡の際にボクを最後に止めた剣だ。因果を歪曲させて使用者の望む結果を引き寄せる、絶対勝利の反則武器。正しくチート武器ってやつだね」


 駄神が剣の柄に手をかけ、無造作に剣を地面から引き抜く。


「運命を司る神と時間と空間を司る神、二柱の神の擬神格を使って古代人が作り上げたまさに決戦兵器さ。剣の持ち主に対する攻撃は放たれた時点で無かったことになり、自分の攻撃は命中が確定してから振るわれる。これがあれば神々なんてけちょんけちょんにできるね」


 はい、と駄神が俺に剣を手渡す。見た目に反して随分と軽いな。これなら非力な人間でも軽々と振るえそうだ。実に手に馴染む。


「んー……おい、この擬神格は取り込めないのか?」

「へ? いや、まぁ取り込めるけど必要ないでしょ。これがあれば勝ち確だって」

「いやぁ……お前の言う通りの性能ならこれはアカンだろ。そりゃこれを使えばあの忌々しい神どもは伸せるかもしらんけど、こんなのに頼ってあいつらに勝ったとして、あいつらは負けを認めるのか?」


 手の中で剣の柄を弄びながら考える。

 仮に俺が向こうの立場だとして、こんな反則武器を持ち出してきた相手に唯々諾々と従うだろうか? まぁ、死にたくなければ従うか。でもそれでいいのか? 何か違う気がする。


「というかこれ、安全なモノなんだろうな?」

「使いすぎなければ大丈夫だよ」

「……使い過ぎたら?」

「うーん、最悪消滅するかな?」

「はい無理ー。こんなもの使えません」


 こいつを使って神々を従わせたとしよう。その後はどうする? 何か困ったことがあればこいつを頼るようになるんじゃないだろうか。こいつがあれば何者にも負けることはないだろう。まさに世界の王者だ。神々でさえ俺に逆らえなくなる。

 だが、その後どうする。その後に何か困ったことがあれば俺はこいつを頼ることになるんじゃないか?

 正直言って俺は弱くて自堕落な人間だ。より手っ取り早く、確実な解決方法が手元にある場合にそれを頼らないという自信がない。

 もう一回くらいは大丈夫、もう一回くらいは……なんて感じでこの剣を多用するかもしれない。それに、この剣は存在そのものが危険すぎる。何か間違えて俺に敵対するような相手の手に渡ってしまった場合どうしようもなくなる。


「間違いなく近道だってのはわかるんだが、どうにもこいつは使う気にならんな。お前に任せるわ」

「……そう」


 俺が剣を突き返すと、駄神はそれを受け取って何とも言えない表情をした。困ったような、嬉しさを隠すような、そんな微妙な表情だ。


「じゃ、これはボクの力にしちゃおうね。特大級の力を持つ擬神格が二つ、これは捗るね」


 駄神の手に握られていた剣が切っ先からサラサラと砂のように崩れ、紅い光が駄神の身体に吸い込まれていく。鍔の部分と柄頭に嵌められていた紅い結晶も崩れ、やはり光となって駄神の身体へと吸い込まれていった。


「これで取り込み完了。取り込んだ力の処理には少し時間がかかるけど……」


 駄神がこちらに手を掲げると、虹色の光が俺を照らした。全身がチリチリと痺れ、体の奥底から熱いものが込み上げてくる。


「これでとりあえずは元通りだ」


 自動的にメニューが開き、久しぶりにステータス画面が表示される、


【スキルポイント】10ポイント(スキルリセット使用可能)

 【名前】タイシ=ミツバ  【レベル】75

 【HP】983 【MP】5003

 【STR】1891 【VIT】1925 【AGI】1790

 【DEX】525  【POW】1057

 【技能】剣術5+ 格闘5 長柄武器5 投擲5 射撃1 魔闘術3

     火魔法5 水魔法5 風魔法5 地魔法5 光魔法5 純粋魔法5 回復魔法5

     始原魔法2 結界魔法5 空間魔法5 生活魔法 身体強化5 魔力強化5 

     魔力回復5 交渉2 調理1 鍛冶5 彫金5 魔導具作成5 気配察知5

     危険察知5 隠形5 鑑定眼 魔力眼 火耐性3 水耐性3 風耐性3

     地耐性3 石化耐性3 精神耐性3 毒耐性3 物理耐性3 魔力耐性2


 お、レベル上がって――って剣術に+ついてるゥ!? 俺も人外の領域に足を踏み出していたのか!? 全く自覚ねぇよ!


「どう? 久々に力が戻った感覚は」

「良いね、実に良い」


 身体強化と魔力強化の効果か身体が軽く、魔力の充溢を感じる。こんな感じだったかな? なんか前よりも力が溢れているような感覚があるが。


「力が戻ったの?」

「そうのようですね。見た目には変わらないでしょう?」

「そうね」


 別に角が生えるわけでもないしな。


「ボクは擬神格の処理に入るね。暫く時間かかるからよろしくー」


 駄神はそう言うとフッと消えた。どうやってかは知らんが、また俺の中に戻ったんだろう。なんかもう勝手知ったる自分の家みたいに出たり入ったりされてるな。なんか妙な感覚だ。


「とりあえず出ますか。空間魔法も使えるようになったんで、一度行った場所なら転移できますよ」

「転移?」

「一瞬で離れた場所に行けるんだ。便利だぞ」


 と、巨木の洞を出た瞬間だった。一本の矢が俺達の足元に突き立つ。何事かと対岸に目を向けると、結構な数のエルフ達がこちらに向かって弓矢を構えていた。そしてその中に一人、明らかに異質な存在がいた。

 他のエルフが軽装に弓矢、腰に大型ナイフとエルミナさんやリファナと似たような格好なのに、一人だけ迷彩柄の頑丈そうなパンツにシャツとジャケットという出で立ちのおっさんが混じっていた。どうにも見るからにやる気の無さそうな感じだ。というか、見るからにエルフじゃないんだが、何者なんだろうか。


「この地は我らリイの氏族が守護する禁足の地。貴様ら、何の目的でこの地に足を踏み入れた?」


 エルフの一人がそう声を上げた。

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