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第九十四話〜駄神に上手くしてやられました〜

「で、この娘がタイシくんの言っていた神様だと」

「はーい、完全無欠の美少女神リアルちゃんです☆ よろしくねー」


 エルミナさんの言葉に正座させられた駄神がばちこーんとウインクしてみせる。ちなみに俺もその横で正座させられている。


「いっそ首に縄でもつけておいたほうが良いかしら?」


 笑顔のまま青筋を浮かべたリファナは今にも俺も折檻しそうな勢いだ。昨日の今日でこれだからね、言い訳のしようもないけど今回に関しては無実を主張したい。俺はハメられたんだ。いや、どっちかというとハメさせられる寸前だったな。HAHAHA!

 笑えん。


「タイシくんが言っていた通り、ものすごく可愛らしい外見をしているのね」

「はっはっは、褒めても何も出ないよ」


 満更でもないのか、エルミナさんの言葉に駄神が満面の笑みを浮かべる。正座させられてるから神らしい威厳は全く無いけどな。


「ところで、今後の方針を説明したいんだけど良いかな?」

「それは興味があるわね。聞きましょう」


 エルミナさんが唯一ある椅子に腰掛け、リファナは不機嫌そうな表情で立ったまま両腕を組んで壁にもたれかかった。俺も正座をやめてあぐらをかく。駄神はその上に座りやがった。


「おいコラ」

「別にいいじゃん、減るもんじゃないでしょ? 邪魔されたんだからこれくらい許してもらうよ?」


 リファナが頬をヒクつかせて今にもキレそうだったが、駄神はそれを無視して俺に背を預け、話し始めた。クソッ、いかにも女の子って感じのいい匂いがするのがムカつく。


「とりあえず、一つ目の擬神格の取り込みは完了したよ。まだまだ全盛期には程遠いけど、ボクも多少は力を取り戻せた。こうして実体を得て君達と直接言葉を交わせるようになったのもそのおかげだね」

「タイシくんの力はどれくらい戻ったの?」

「ストレージ……まぁトレジャーボックスの上位互換的な機能を使えるようにしたよ。もう一個擬神格を取り込めればメニューも含めて大森林に来る前までの力は取り戻せるんじゃないかな?」

「めにゅー? っていうのはわからないけど、もう一つで力を取り戻せるなら案外簡単に行きそうね」

「でも、ボクが力を取り戻さなきゃ意味が無いからね。タイシが力を取り戻して、装備も以前のレベルに戻したとしてもせいぜい神々のうち一人か二人を相手にするのがやっとだろうし。ボクが以前の状態以上に力を取り戻せばまるっと全て解決するさ」


 そう言いながら駄神が指先で俺の膝に「の」の字を書くように撫でる。くすぐったいから手で払ってそれをやめさせた。


「それにはいくつの擬神格が必要なんだよ?」

「さぁて、いくつかな。取り込む擬神格の格の高さにもよるからはっきりとは言えないね。格の高い擬神格を上手く取り込めれば数個、そうじゃなかったら十個くらいになるかもね」

「甘い見通しで行かずに長期戦の覚悟で臨んだほうが良さそうね」

「ですね。次に行くとしたら最寄りの禁足地はどんなところなんですか?」

「んー、そうね。ここからだと同じような距離にいくつかあるわね。一つは無の荒野。魔物の寄り付かない魔力溜まり以外何もない荒れ地よ。次に禁断の園。異常な植物型の魔物が跋扈している危険な場所で、中央にはとてつもなく大きな木が生えているらしいわ。最後が大地の角と呼ばれる大きな尖塔で、一日に二十四回光るのよ」

「光るだけ?」

「光るだけ」


 俺の質問にエルミナさんは頷いた。


「光るなら何かしらの動力があるってことだし、擬神格があるんじゃないか?」

「可能性は無くもないけど、ボクが思うに禁断の園のほうが怪しいかな。異常な植物型の魔物が大繁殖してるということは、植物か生命か何かを司る擬神格が暴走してるのかもしれないし、あるいは何らかの防衛機構が働いているのかもしれない。外敵を排除するような環境のほうが怪しいと思うね」

「なるほど、一理ある」


 最終的には総当りでもいいわけで、それなら駄神のオススメに従ってみるのが良いかもしれないな。


「それじゃあ次の目標は禁断の園ってことで良いかな?」

「ええ、いいわよ」

「おっけー」


 目的地の決まった俺達は解散……解散しませんね?


「えっと……?」


 どうしたんだろう? と皆の顔を見回す。リファナは相変わらず不機嫌な様子で腕を組んだままだし、エルミナさんはニコニコしながら席を立つ気配はないし、駄神は俺のあぐらの上から降りない。


「ところで神様? この後はどこでどうやって過ごすおつもりなのかしら?」


 ニコニコしたままのエルミナさんが駄神にそう問う。


「そりゃあボクとタイシは文字通り一心同体だからね。タイシの部屋で二人きりでしっぽりと過ごすよ?」


 俺のあぐらの上で、俺の胸に頭を預けながら駄神がそう言い放つ。やめてください。そんな身の毛もよだつような予定はありませんから。ああ、リファナさんの視線が氷点下です。やめて、そんな目で見ないで。俺だってそんなの望んでないんです。


「とりあえず元に戻れ。ハウス」

「ボクは犬か。折角実体化したんだから少しくらい肉の快楽を味あわせてくれてもいいじゃないか。ちゃんと気持ちよくしてあげるからさ」

「いくら可愛くてもついてるのはちょっと……」

「そう言うと思ってほら、ついてないよ?」


 そう言って駄神が俺の手を取って自分の股間に手を突っ込ませる。つるぷにっ、とした感触が指先に伝わってくる。おお、確かに無い。いや、違うそうじゃない。


「あいたっ!?」

「いきなり何やってんのお前」

「頭叩くことないだじゃないか」


 頭を押さえている駄神を抱え上げてあぐらの上から撤去する。


「とりあえずですね、そういうえっちなのはよくないとおもいます」


 俺の発言に三人から「お前はどの口でそれを言うんだ?」という視線で見られてしまった。くっ、そんな視線には屈しないぞ。


「今はほら、力を取り戻すための大切な時期だし? そういうことにうつつを抜かしている時間はないだろう?」

「どんな時でも毎日取っ替え引っ替えしていた人が何か言ってま――イタタタタタ!?」

「余計なことを言ってはいけない」


 できるだけ笑顔を作りながら駄神の頭を握ってゆっくりと力を込める。


「痛い痛い痛い!? なんでこんな酷いことするのさっ!? ボクばっかり酷いよ! これがキミのために命懸けで落ち延びてきて、一生懸命尽くしてきたボクに対する仕打ちなの!? こんなのあんまりだよっ!」


 頭を押さえた駄神が俺の顔を見上げてぽろぽろと涙を零す。おいやめろ馬鹿。泣くのはズルいだろう。助けを期待してエルミナさんとリファナに視線を向けるが、エルミナさんは難しい表情で考え込んでおり、リファナは腕を組んだまま苦々しい表情をしている。


「ほんのちょっとくらい報いてくれてもいいじゃんか……見せつけるだけ見せつけて、ボクにはこんなのばっか……酷いよ、あんまりだよ、こんなのってないよ」


 涙を流してグスグスと泣く駄神。あーっ、嘘臭ぇぇぇぇぇぇ!!! どうもこいつの涙はゲロ以下の臭いがプンプンするんだが、こうも露骨に泣かれると突き放せない! 突き放しにくい! 汚いなさすが駄神汚い。


「あーもう! わかった! わかったわよ! 一日くらい好きにすれば良いわ!」


 最初に折れたのはリファナだった。おい、そこで諦めるなよ! もっと頑張れよ! そこで諦めるなそこで! 俺の貞操がかかってるんですよ!?


「仕方ないわね」

「エルミナさーん!?」

「仕方ないじゃない。神様の言うことももっともよ? タイシくんに聞いた話の通りなら、神様はタイシくんを見捨てて一人で逃げることだってできたはずだもの」

「むむむ……」


 そうだろうか?

 擬神格を取り込むために俺という器が必要だっただけじゃないかという見方もある。そもそもの話、こいつの目的は俺を世に放って進歩の乏しい世界に一石を投じるというものだ。その結果としてこいつが力を失ったというのも自業自得、今の状況はその失敗を取り戻すために俺を利用しているだけとも言える。やはりこいつに優しくしてやることなどないのでは?


「……」

「……くっ!」


 やめろっ、そんな捨てられた子犬のような目で俺を見るな! それは俺に効く。


「くそっ。わかった……わかった! わかったよ! 俺の負けだ」


 やけくそ気味にそう叫ぶと駄神は涙を流したままぎこちなく笑みを作り、俺に抱きついてきた。ああくそ、可愛い。こいつの術中にハマってる気しかしないんだが。

 エルミナさんが苦々しい表情を浮かべながら手を振り、リファナを連れて部屋から出ていく。これで俺に逃げ場はなくなった。


「なぁおい、演技はもういいだろ。二人きりになったんだから」

「むぅ、別に全部が全部演技ってわけじゃないんだけど?」


 駄神が涙の跡が残る目を擦りながら不満げな声を上げる。


「引っ掻き回せて大層満足しただろ? わざわざあんな悪趣味なことしなくたって二人きりになることなんてできるだろうに」

「だから、全部が全部演技じゃないってば。君達が仲良くしてるのを見て寂しくなったのも本当だし、それなのにキミに冷たくされて悲しく思ったのも本当だよ?」

「ぐっ、この……やめろよそういうの」


 駄神が胸元に取り縋って俺の目をじっと見上げてくる。ついついこいつを素直な目で見てしまいそうになるので、こういうのは本当にやめて欲しい。


「それより本題だ、本題。二人きりになって何の相談だよ」

「別に本題なんて無いよ。こうしてキミと二人きりで、キミを独占して、この身体でキミを感じたかっただけ。秘密の相談ならわざわざ実体化する必要なんてないでしょ?」


 俺の胸に顔を擦りつけ、その小さな手で俺の背中を撫でながら駄神はそう言う。


「あー……いいね、これ。なんだかこうしてキミに抱きついていると肩の力が抜けてほわっとしてくるよ。ほら、キミもボクの背中に手を回してちゃんと抱きしめてよ。そうそう」


 腕の中で駄神が満足そうに息を吐く。


「ずっとこのままでいようかなぁ。貧弱なままでいればこうやって肉体を触れ合わせることもできるし」


 貧弱なままでいれば、か。神々にボコられるまでこいつが俺の前に姿を現さなかったのは、元のままだとただそこに在るだけで何かヤバい影響でも出るからだろうか。地母神ガイナとか見ただけでヤバかったからなぁ、こいつも同じような感じなのかもしれん。

 でも、その願いはな。


「それは困る」

「だよねー。ああ、嫌だ嫌だ。もういっそ全部諦めてあの二人とボクとキミとの四人でどっかに逃げて末永く暮らさない? キミの寿命くらい良い感じに弄れるから――わかってるよ。そんなに怒らないでよ、言ってみただけだよ」


 ふざけたことを抜かす駄神を引き剥がそうとしたら思ったより強い力でくっついて離れねぇ。このやろう。


「君はあの子に首ったけだもんねぇ。こんなに可愛いボクがこう言ってるのに靡かないなんて本当に筋金入りだよね。妬けちゃうなぁ」


 駄神が俺の顔を見上げ、服の上から俺の胸板を吸う。やめれ、くすぐったい。


「でも、ボクがこれだけ肩入れしたんだ。持ちつ持たれつではあるけど、ボクの持ち出しの方が多いのはわかるよね?」

「わかりたくないなぁ」

「そんないじわる言っちゃやだよ。そろそろ、取り立てても良いよね?」

「……致し方ないな」


 俺は観念して駄神を胸に抱いたまま仰向けに倒れ込んだ。




 駄神とのアレについてはノーコメントで。もう一度言うが、ノーコメントで。

 いや、やっぱり一言だけ言っておこう。堕落と享楽を司るとかいう眉唾話は案外言ってた通りなのかも、とだけ。生身の身体に慣れていないあいつが先にダウンしてなかったら色々と危なかったな。


「朝食だぞ、起きているか? 人……間?」

「おはよう」


 ところで、蛇人族のねぐらの空調は完璧だ。どれくらい完璧かというと、裸で寝ても寒く感じたりしない程度に完璧だ。仕組みは判らないが、常に部屋内の人員が適度に過ごせるように室温が変化しているのではないだろうか。

 つまり何が言いたいかというと、昨夜の情事の後始末もしないままに泥のように眠ってしまえるほどに快適だったということだ。そして、今そのツケが回ってきている。誰がどう見ても勘違いしようもない現場を部屋主に目撃されてしまっている、ということだ。


「その、す、すまない。まさか、こんなことになっているとは」

「いや、良いんだ。借りた部屋でこうなってしまっている俺が悪いしな」


 うん、お互いに謝っていてもアレだしガン見してないで部屋を出てくれないかな。もうね、視線がおはようしている息子に突き刺さってるよ。お前も朝から元気だな。


「ええと、その、その娘は……? 連れには居なかったと思うのだが……?」

「ちょっと複雑な話なんだ。多くは聞かないでくれ」

「そ、そうか。その、なんだ。ああ! わ、悪かったな、じゃあ、な……?」


 するするするっ、と器用に後退して翠鱗の蛇人族は部屋から出ていった。あの娘はいつもなんというか間が悪いな。そういう星の下に生まれてきたんだろうか。

 自分の体と寝台をまとめて浄化し、しっかりと服を着て駄神を叩き起こす。こいつもついでに浄化してやろうと思ったのだが、よく見るとどこも汚れていない。


「ボクは神だから。決して汚れないのさ」


 そう言ってドヤ顔をしていた。そう言えば身体につけたはずのキスマークも消えてるな。


「んー、でもキスマークが残らないのはちょっと残念だよね」

「バカなこと言ってんじゃねぇ。行くぞほら」

「あはは、別に恥ずかしがらなくていいじゃないか」


 いつもの白いワンピースを着た駄神が妙に馴れ馴れしく抱きついてくる。くっ、こうやって素直に甘えられると突き放しにくい。いかんぞ俺、こいつはあの駄神だ。どんなに可愛かろうが、ろくでもない存在には違いないんだ。心を許すな。


「まだ心を許してないって顔だね」

「そうだな、その通りだよ」

「心も身体も一緒になったのに?」


 見上げてくる駄神の――リアルの眼をじっと見つめ返す。

 綺麗な瞳だ。この世のものとは思えない、まるで天上に輝く星のような美しい瞳だ。その顔はまさに理想の少女そのもの。清純であり、またどこか淫靡な雰囲気も併せ持つ成熟しかけた少女の顔。髪の毛はまるで光そのもののように輝き、美しいという表現すら陳腐化しそうだ。


「こうして触れ合って、言葉を交わせる。今はな。でも――」

「おっと、そこまでだ。それ以上はいけない」


 リアルがその華奢な指を俺の唇に当て、それ以上の言葉を堰き止める。


「だから、だよ。今くらいはボクのことを素直に想っておくれよ」


 そう言ってリアルはにんまりと笑った。

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