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第九十話〜遺跡の最奥で遂に見つけました〜

今回の更新はここまで!


7巻近日発売予定!(サイトによると7/10

もっと早く並んでいるかもしれない。今回も桑島さんの素敵なイラストが! 是非買って見てね!_(:3」∠)_

「さて、ここはなんて名前の禁足地でしたっけ?」

「嘆きの牢獄塔ね。ここは危ないわよ?」

「確かに、なんかいるわね」


 聳え立つ白い塔、というかビルのようなものを遠くの岩陰から監視しながら小声で話し合う。何故すぐ近くまで近寄らないのかというと、白い装甲を備えた警備ロボットのようなものが塔の周りを巡回しているからだった。

 太陽の位置を見るに、まだお昼過ぎといったところだろうか。避難シェルターの遺跡からこの前の塩取引の際に寄った獣人の村を経由して更に二日移動した地点にその白い塔は建っていた。

 もはやおなじみとなっている白い構造材で構築されている塔のような建築物である。窓のようなものは少なく、全体的に堅牢な雰囲気を漂わせている。塔の天辺からは光り輝くアンテナのようなものが伸びており、定期的に明滅している。どうやら生きている施設のようだ。まぁ巡回している機械兵士のようなものを見ればそれは一目瞭然なわけだが。


「あれ、壊せると思います?」

「前にも言ったと思うけど、あの白い身体の兵士は倒せないわよ。どれだけ魔法や矢を浴びせても足止めにしかならないし」


 一見白い鎧を身に着けた人間のように見えるが、のっぺりとした頭部には覗き穴の類はなく、定期的に身体の各所が明滅している。見た感じ武器のようなものは持っておらず、割と軽快な足取りで歩いている所を見ると機動性はそこそこ高そうだ。


「こいつで壊せないかなぁ」


 トレジャーボックスから長銃型の魔法銃を取り出し、狙撃モードにしてみる。ホログラムのようなものを利用した照準器はあるのだが、倍率の高い狙撃スコープがあるわけではないので遠距離から命中させられるかどうかはちょっと微妙だ。


「どうかしらね。魔法を篭めた矢とそう変わらない威力みたいだし、難しいんじゃない?」

「ですよねー」


 射撃が効かないならあとは物理で殴ってみるしかないが、さて。


「どうしてもここを調べるの? この前みたいにもっと安全な場所を探して調べてみたほうが良いんじゃないかしら?」

「うーん、でもリアルが言うにはここに目的のもののうちの一つがあるっぽいんですよね」

『うん、擬神格の波動を感じるね。間違いなくここには擬神格があるよ』

「やっぱ間違いなくここにあるって言ってますわ。まぁ、やるだけやってみましょう。いざとなれば逃げるんで、とりあえず俺だけ突っ込みます。ここから援護してください」


 そう言い置いて岩陰から躍り出る。


「あっ!? もう、無茶して!」

「リファナ、援護するわよ」

「はい」


 あとでリファナに怒られそうだな。まぁ今はいい、後のことは目の前の障害を乗り越えてから考えよう。走りながらトレジャーボックスから強化神木棍を取り出す。

 走り寄る俺に気づいたのか、巡回していた機械兵士のうちの一体が俺の方を向いて警告音を鳴らした。俺はそれに構わず風魔法と魔闘術を併用して爆発的な加速で間合いを詰める。


『Biiiiiip!!』

「せめて意味のある言葉を発しやがれ!」


 魔力を篭めた神木棍を抉りこむように白い装甲へと突き立てる。ズドォン! と自動車同士がぶつかったかのような衝撃音が響き、白い機械兵士が吹き飛んだ。ついでに俺が手にしていた強化神木棍も砕け散った。


「うっそぉん!?」


 吹っ飛んだ機械兵士はピクリとも動かなくなったが、他の場所からも機械兵士が二体駆けつけてきた。腰から大型のブッシュナイフを引き抜き、魔力を纏わせる。

 こちらへと駆け寄ってくる機械兵士の肩パーツがパカリと開いた。咄嗟に過ぎった嫌な予感に従ってすぐに移動して近くの岩に身を隠す。そうすると聞き覚えのある射撃音とともに岩が砕け始めた。どうやらこの前手に入れた魔法銃と同等の銃撃を受けているらしい。


「こわっ」


 呟きながらトレジャーボックスから長銃型の魔法銃を取り出し、岩陰から半身だけ身体を乗り出して単射モードで応射する。何発か命中したが、大したダメージになっていないようだ。やはりこの銃では威力不足であるらしい。

 今度は連射モードで応射して連続で命中させるが、少し仰け反るだけで歩みをとめることすらできない。

 次いで魔力を集中し、純粋魔法レベル2の魔弾を発射してみるがこれも魔法銃とさして変わらない結果に終わった。つまり。


「全然効いてねぇ!」


 一機が射撃で俺を釘付けにし、もう一機が悠々と距離を詰めてくる。接近戦で俺を仕留めるつもりか? 馬鹿め、俺は接近戦のほうが得意なんだよ!

 タイミングを見計らって岩陰から飛び出し、機械兵士に向かって最大限に魔力を篭めたブッシュナイフを振り下ろす。


 バギィン、という音と共にブッシュナイフは砕け散った。


「うっそだろお前!?」


 あれだけ魔力を篭めればオリハルコンだって切り裂ける筈なのだが、機械兵士の白い装甲には傷一つ付いていない。流石に衝撃は殺しきれないのかたたらを踏んだが、逆言えばそれだけのことだ。

 白い機械兵士は不自然な体勢のまま腕を振り回して殴りつけてきた。動きそのものは稚拙で回避は容易いが、当たると骨の一本や二本は持っていかれそうだ。振り切った腕を取って投げ飛ばしてやろうと思ったのだが、後方で射撃をしてきている機体が誤射も恐れずにバンバン撃ってくるせいで関節技や投げ技を決める隙がない。

 こうなりゃ殴れればなんでも良い。長銃型の魔法銃をトレジャーボックスから取り出し、フルスイングで目の前の機械兵士をぶん殴った。なかなか良い手応えだ。魔法銃も壊れていないようなので、そのまま繰り返しぶん殴る。

 後方で射撃をしていた機体の方はエルミナさんとリファナが引きつけてくれているらしく、射撃がこちらに飛んでこなくなった。仕留めるなら今がチャンスだ。何度か殴っているうちに機械兵士は色んな所がひしゃげて動かなくなった。

 俺はその足を掴み上げ、一気に間合いを詰めてエルミナさんたちの隠れている岩場に射撃を繰り返しているもう一機の機械兵士に叩きつけた。耳をつんざくような打撃音が響き、機械兵士がばらばらになる。


「我ながら嫌だなぁ、この脳みそまで筋肉詰まってそうな戦い方」


 繰り返し白い機械兵士を殴ったせいで歪んでしまった長銃型の魔法銃を眺めてボソリと呟く。機械兵士の外装と同じ素材で頑張って叩けば倒せる。それがわかっただけでもよしとするか。

 警告音を発しながら新手が現れるのを確認して、両手に機械兵士の残骸を持つ。


「おらあぁぁぁぁぁぁっ!」




「流石に呆れたわ」

「倒せたから良いじゃない」


 呆れるリファナを諌めているエルミナさんも苦笑いしている。


「俺だって好きであんな戦い方したわけじゃないですよ」


 武器がことごとくぶっ壊れたから仕方なく、緊急措置としてやってみたらたまたま有効だっただけだ。流石に神木棍やブッシュナイフが砕け散るような装甲を素手で殴りたくない。


「それよりもどうするの? 武器、壊れちゃったんでしょ?」

「そこらにいっぱい落ちてるじゃないか!」

「結局同じ戦い方するわけね」

「呆れるほど有効な手段だから仕方ないね」


 そこらに散らばっている機械兵士の残骸を回収してまわる。それにしてもこの白い素材は一体なんなんだろうな? 金属ではなくて陶器っぽいんだが、こんな強靭な陶器なんて作れるのかね。


『今度教えてあげるから早く進もう』


 んだよ? 急かすなんて珍しいな。


『ボクとしても今みたいに何の力も無いような状態は落ち着かないの』


 いいだけ人をいじくり回しておいて何の力もないとかうっそだろお前。まぁ元々の力に比べれば何の力も無いようなもんなんだろうけど。


「進みますか」

「そうね、気をつけていきましょう」


 リファナも無言で頷く。嘆きの牢獄塔の入り口はもうすぐそこだった。


 ☆★☆


「何の施設なんだろうな、ここ」

「見当もつかないわよ」


 建物の内部にはよくわからない機械が林立していた。時折壁や天井から魔法弾を放ってくる自動機銃のようなものが出てくるので気が抜けない。どれも機械兵士の残骸を投げつけて破壊したけど。

 棒手裏剣? 投げてみたけどかすり傷も与えられずにひん曲がってたよ!


「まぁ、軍事施設っぽい感じではないな。探してるものは大規模な動力源に使われていたらしいし、エネルギー生産施設かな?」


 発電所みたいなものじゃないだろうかと見当をつける。職員の休憩スペースのような部屋や事務所のような部屋は見つけたのだが、特に何も収穫はなかったのだ。見取り図も見当たらなかったので三人で施設内を彷徨っている。

 そうして暫く階段を登ったり降りたりしているうちについに最奥部らしき場所へと辿り着いた。検問所のような場所だ。


「正面の通路の先に頑丈そうな扉、左右はガラス製で覆われた検問所っぽい部屋か」

「なんだか物々しい雰囲気の場所ね」

「正面の通路は後にしてまずは左右のスペースを調べましょうか」


 調べてみるとここは実際に検問所であるようだった。この先に重要な区画があるようで。左右のガラス張りのスペースには魔力に反応する押しスイッチがあり、同時にそのスイッチを押し込むことで正面の扉が開くようだった。


「私達が居なかったらここで詰んでたわね?」


 エルミナさんがニヤニヤと笑う。最初一人で遺跡巡りをしようと考えていたからね、うん。


「エルミナさんの忠告に従って良かったです」

「私は?」

「リファナにもついてきてもらって良かったよ!」


 二人に頼らず独りで行動していなくて本当に良かったと思う。


「でもこれ、分断されちゃうな」

「こればかりは仕方ないわね。リスクを取らないとこの先は探索できなさそうよ?」

「ここで更にスイッチを押してる人を殺しに来るような罠は無いと思うけどね。寧ろ中のほうが危ないんじゃない? どっちにしろ神様とアンタが行かなきゃ意味が無いんだから考えるだけ無駄よ」

「そうだな、覚悟を決めるか」


 リファナの言う通り、先に進むしか無いのだ。一応二人に拳銃型と長銃型の魔法銃を渡し、扉を開けてもらって先に進むことにする。


「気をつけてね」

「怪我するんじゃないわよ」

「二人も気をつけて」


 お互いに声を掛け合い、扉を開いてもらう。中は薄暗いが、結構広い空間であるようだった。特に罠などは無いようで、ひんやりとした白い通路を慎重に進んでいく。


『見つけた』


 通路を進んだ先に現れたそれを見た。

 リアルの声が頭のなかに響く。


「なんだ、これは」

『擬神格だよ』

「これが? こんな……こんなものが擬神格だっていうのか」


 遺跡の最奥部、妙な装置の上に擬神格はあった。その見た目はどう見ても……。


「全裸の女の子じゃないか」


 得体の知れない薄緑色に発光する液体に満たされたカプセルの中。そこに全裸の少女が浮かんでいた。

 体型は幼く、年の頃はシェリーやカレンと同じくらいだろう。ぼんやりと見開かれたその目は虚ろで、意識があるのかどうかも判然としない。胸の中央に光を放つ結晶のようなものが癒着しており、定期的に結晶が光を放っている。カプセルに接続された無数のケーブルは結晶が光る瞬間にその光を吸い上げているように見える。


『あれが擬神格の容れ物さ。さ、手早く頂いちゃおうか』

「待て待て待て、もう少し説明しろ。あの子は生きてるのか?」

『身体だけはね。神格をその身に降ろした時点で魂は砕け散っている筈だし、よしんば神格の降臨に魂が耐えきれていたとしても擬神格の形成に伴う絶え間ない激痛で廃人になってると思うよ。今のアレは擬神格をその身に定着させているだけの肉の塊さ」

「あの子から擬神格を抜き取ったら、あの子はどうなる?」

『あの身体は死ぬだろうね。でも気にすることはないさ、とうに魂は滅びているんだから。肉がついているだけで白骨死体と何ら変わりないよ』


 そうは言うが、抵抗を拭いきれない。


『彼女のことを想うならさっさと擬神格から開放してやるのが一番だよ。そうじゃなければ彼女の身体はこの施設がいつの日にか朽ち果てるまでずっとあそこで独りきりだからね。それに、君が在るべき場所に戻るためにはどんな手でも使うんだろう? こんなことで躊躇してる場合かい?』


 頭の中でリアルが囁く。


『さぁ、彼女の胸に輝く擬神格をその手で抜き取るんだ。終わらせてあげなよ』

「……わかった」


 手を伸ばし、カプセルに触れる。とぷり、と俺の手がカプセルの中に入り込んだ。どうやらこれはカプセルではなく、謎の液体がそのまま柱のようになっていただけらしい。

 少女の胸に手を伸ばし、硬い感触の結晶に手を触れる。少女は何の反応も返してこない。虚ろな視線は変わらず中空に固定されている。


「行くぞ」


 力を篭めて結晶を握り込み、一気に引き抜いた。肉を引き裂くような感触とともに結晶が彼女の身体から引き抜かれ、薄緑色だった液体が血の色に染まる。その光景に呆然としている間に引き抜いた結晶がズブズブと俺の手に埋まり始めた。


「ぎっ!? あっ!?」


 肉を引き裂く激痛が突き抜ける。どういう原理なのか、握り拳ほどもあった結晶が突き抜けることもなく俺の手の平に沈み込んでいく。それと共に肉を引き裂くような激痛が手の平から腕、肩を伝って全身に広がる。まるで体の内部をガラスの破片で引っ掻き回されているような感覚だ。あまりの激痛に膝を折り、白い建材の床に倒れ込んだ。


「がっ!? ぐぁ、あァ!?」


 体中を掻き毟り、激痛に藻掻く。肌の下を硬質の何かが這い回っているような気がするのだ。


『言い忘れてたけど、擬神格を取り込む時って痛いらしいんだよね』


 言うのが遅すぎる。

 全身が痛くて指一本動かせない。あまりの痛みに意識を失いそうになるが、痛みでまた意識が戻る。それを延々と繰り返す。


 痛みに耐えてどれくらいの時間が経っただろうか? 激痛が徐々に収まってきた。

 ガクガクと震える身体をなんとか起こし、荒い息を吐く。身体中が汗で濡れている。実に不快だ。痛みを堪えながら浄化を使い、不快感を一掃する。

 どれくらいの間苦しんでいたんだろうか。


『そんなに長い時間じゃないよ。カップ麺が五個くらいできる時間かな』


 その微妙な例えやめろ。


『じゃあ光の巨人が五人空の彼方に帰るくらいの時間』


 だからやめろ。

 落ち着いてきたのでなんとか立ち上がり、最初に擬神格の結晶が潜り込んだ右手を開いたり閉じたりする。とりあえず支障はなさそうだ。


「で、取り込みは成功したのか?」

『成功したよ。まぁ十全に力を引き出すのにちょっと時間が要るけど。まだまだ完全復活には程遠いね』

「さよか」


 とりあえず一歩前進したならそれで良い。


『今回のでまぁ、キミの力は八割がた戻せるんじゃないかな?』

「そいつは嬉しいね」


 少女の浮かんでいた液体に目を向ける。そこにはもう何も浮かんでいなかった。血の色も、彼女の躯も存在しない。


『擬神格を失って身体が崩壊したみたいだね』


 酷すぎる。彼女が存在した証はもうどこにも遺っていない。何もかもが滅び去り、消え去ってしまった。そうしたのは俺なわけだが。


『気に病んでも仕方ないよ。彼女はとっくの昔に滅び去っていたんだから。ここに在ったのは僅かな残滓さ』


 そう簡単に割り切れるもんかよ。とにかく心配しているだろうから戻るとしよう。


 ☆★☆


「本当に心配したんだからね!?」


 検問所に戻ると二人から大層怒られた。開いた扉の先から俺の苦悶の声が聞こえてきたのだから、それも当然か。


「すみませんでした」

「身体は大丈夫なの?」

「とりあえず不調は感じないですね。馴染むまでちょっと時間がかかるらしいんで、今後について乞うご期待ってところで」


 実際のところ何も変わった感じがしない。駄神は取り込んだ擬神格の処理のために暫く作業に集中するって言ってたし。


「一旦集落に戻りますか」

「そうね、少し安静にした方が良いかもしれないわ。何が起こるかわからないわけだし」

「ここから一番近いのは蛇人族の集落ね」

「蛇人族?」

「下半身が大蛇なの」

「ラミアか……なんでもいるな、この世界」


 まだ見ぬ蛇人族とやらに思いを馳せながらちらりと既に閉ざされた最奥の扉に視線を送る。嘆きの牢獄塔に囚われていた者は、もういない。

 せめて俺だけでもここに囚われていた名も知らぬ少女の存在を覚えておこうと、そう心に誓いながら遺跡を後にした。

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