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第八十五話〜夢の中で逢えました〜

投稿日時を間違えた! これはケジメ案件ですね……?

ゆるしてください! なんでもはしませんけど!_(:3」∠)_

 誰かの体温を感じて目を覚ます。

 どこか見覚えのある部屋だ。ああ、灼熱の鉄床亭の部屋だ。ここはマールと二人きりで過ごした思い出の場所だ。横に目を向けるとスヤスヤと眠るマールがいた。なんだか不意に涙が出てくる。なんでこんなにも愛しく、胸が苦しくなるのか。

 よくわからないまま眠るマールに顔を寄せ、そっと触れ合わせる。そうするとマールも目を覚まし、少しの間ぼーっとしたような視線を俺に向けた後、いきなり抱きついてきた。

 胸の中で静かに涙を流すマールを抱き返し、その背中をそっと撫でてているうちにマールが顔を上げて俺を見つめてくる。何も言わずにキスをすると、マールはその目に涙を溢れさせた。知らず知らずのうちに俺の目からも涙が溢れている。ああ、なんでこんなに愛しく、哀しいのか。


『はいはい、イチャつくのはそこまで。目に毒ですよー! というか私も混ぜろオラァン!?』


 甘ったるい声と共に抱き合う俺達に何者かが覆いかぶさってくる。


「うるせぇぞ駄神! 邪魔すんな死ね!」

『夢の中での逢瀬をセッティングしてあげた慈悲深い私に酷い言葉!? もう少し優しくしてくれてもいいのよ?』

「タイシさん、タイシさん、タイシさぁぁぁん……」


 俺に振り払われて床に転がった駄神が抗議の声を上げ、俺の胸元に抱きついたままのマールは俺の名前を呼びながら凄い力で俺を締め付けてくる。ちょっと待ってマールさん、中身出そう。


「よし落ち着けマール、俺はここにいるから……っておい駄神、このマールは本当のマールなんだろうな? 夢の中で作り出した幻影とか言ってくれるなよ」

『正真正銘ほんものでーす。ライブラリ経由で意識を繋げてるよ。チッ』


 床に座り込んだ駄神が面白く無さそうな顔でそっぽを向きながらそう話す。なんかよくわからん単語が出てきたが、そんなに長い間話せるとは思えないな、手短に話そう。


「マール、聞いてくれ。俺はヴォールト達、神と戦って負けたが死んでない。北の大森林に落ち延びて、今はメルキナの母さんに拾われて世話になってる。ただ、負けた時に力を失って魔法が上手く使えないからすぐには帰れない」


 マールの両頬に手を添え、上を向かせて俺の言葉を聞かせる。涙と鼻水で可愛い顔が台無しだ。でもそんなマールが愛おしい。再びマールを胸に抱き、頭を撫でながら言葉を紡ぐ。


「力を取り戻して神と話をつけてからでないと帰れない。きっとクローバーは監視されているだろうから、今帰ったらまた襲われる。今度は多分勝てないし、勝てなかったら多分殺される。だから今は帰れない、でも時間はかかっても必ず帰るから待っててくれ」


 マールが俺の胸に顔を押し付けたままコクコクと頷く。


「もしかしたらお前たちも監視されているかもしれない。だから迎えにきちゃダメだ。なんとかこっちから便りを出せないか模索してみる。そっちもできれば直接来るんじゃなく、誰かを介して便りを出せないか模索してみてくれ」

「わがりまじだ……」


 ぐいぐいと俺の胸に顔を擦り付けてからマールは顔を上げてそう言った。お前、今俺の胸で鼻拭いたね? まぁいいけどさ。


『はい、どーん』


 見つめ合っていると、駄神が俺達の間に割り込んで引き離しやがった。グーパン再びか、と拳を握ると左手首に熱が走る。


「熱っ!?」

「きゃっ!?」

『これがただの夢じゃないって証に慈悲深い私が左手首に印をつけましたー。イチャイチャしやがって』

「本音が漏れてる」

「あの、タイシさん。この人は?」

『私は神です。タイシくんをこの世界に連れてきた神です。貴女は私に感謝するように』

「はい! ありがとうございます神様!」

『素直だ!? ちょっとキミ、この子素直過ぎなんだけど?』

「当たり前だろ、マールだぞ」


 何言ってんだこいつ。


『あー……そうそう。故あって今、キミのタイシくんと一心同体になって毎日いっしょにイチャコラしてるけど嫉妬しないでね?』

「そうなんですか? でもタイシさん、帰ってくるんですよね?」

「当たり前だ。俺の帰る場所はお前たちのとこだけだし」

「ならいいですよ?」

『……あれぇ?』


 駄神が困惑している。もしかしたらマールは駄神に何かしらの特攻効果を持っているのかもしれん。


『あー、その。とりあえずあんまり繋いでるとバレるかもだからそろそろ切るね?』

「はい! タイシさんに逢わせてくれてありがとうございました!」

『ああ、うん。それじゃあね』


 空間にノイズが走り、いつぞやの真っ白い空間に戻る。


『……あの子苦手だわ』


 流石マールさん。俺にできないことを平然とやってのける。


 ☆★☆


 目元に何か柔らかく、温かいものを感じて目を覚ます。


「大丈夫? なんだか泣いてたみたい」


 心配そうな顔でハーピィさんが俺の顔を覗き込んでいた。身を起こし、左手首を見ると、十字型の赤い痣がついていた。やはりあれはただの夢ではなかったらしい。


『そりゃそうだよ』


 そうだよな。ありがとうな。


『なんだか素直にお礼を言われると調子が狂うなぁ』


 駄神はそう言って黙ってしまった。素直な心でお礼を言われたりするのが効くのかね。まぁ今後はもう少し素直にあいつの言葉を聞き入れてやるとするか。恩もできたし。


「痣? 痛いの?」


 俺の痣に気づいたハーピィさんが柔らかな羽毛でそっと俺の手首の痣を撫でてくれる。その羽先にそっと触れてからハーピィさんを抱き寄せる。


「大丈夫だ。ありがとう、慰めてくれて」

「ううん、いいよ。ごめんね、あまり慰められなかったね」

「そんなことないさ。慰めてくれたから泣けたんだ。俺が涙を見せた相手なんてそんなにいないんだ。黙っててくれよ?」

「うん」


 ハーピィさんはにっこりと笑ってから俺を再び柔らかな羽毛で暖かく包んでくれた。




「随分とすっきりした顔ね」


 寝床から出て水場に行くなりそんな言葉に出迎えられた。言葉の主であるリファナさんが湧き水も凍りつきそうな視線を俺に向けてくる。

 ううむ、もう既に朝とは言えない時間だ。だらしない時間に起きたから起こっているのだろうか。


「お陰様でな。ハーピィさんの優しさと暖かさと包容力にとても癒やされたよ」

「ッ! そ、そう。良かったわね」


 とりあえず穏やかな気持ちでそう返すとリファナは何かに怯んだかのようにすごすごと水場から去っていった。はて? もう少しチクチクとしてくるかと思ったんだが、どうしたのやら。

 首を傾げながら顔を洗っているとブリーダが現れた。手に水袋を持っているので、きっと旅に備えて水を補充しに来たのだろう。


「よう、おはようさん」

「ああ、おはよう。ふむ?」


 ブリーダが俺の顔をじっと見つめてくる。


「随分と表情から険しさが抜けたな。そんなに良かったのか?」

「あん? ああ、まぁそうだな。うん。ハーピィさんは優しくしてくれたよ。もし俺に妻がいなかったらここに骨を埋めてたかもな」

「そうか」


 ブリーダは頷き、水場を使い始めた。ぼけっと見ていても仕方がないのでエルミナさんと合流すべくハーピィの集落の広場を目指す。するとそこにはエルミナさんとハーピィの長であるゴージャスなハーピィの姿があった。二人は俺の姿を認めると手を振ってくる。


「おはようございます」

「おはよう。うん、良い顔になったわね」

「そうね」

「そうですか?」


 別に昨日と何ら変わらないと思うんだが、と思いながら自分の頬を撫でる。まぁ夢の中だけでもマールと会えて、言葉も伝えられたから心配事が減ったのは良かったかな。随分と心に余裕ができた気がする。


「エルミナさん、帰りもここに寄れますか?」

「ええ、寄る予定だけど……」


 エルミナさんが苦笑する。何か勘違いされてるな、これは。


「いえ。いや、とても癒されはしましたが主題はそれではなく」


 そう前置きしてから俺はハーピィさんに話したピルルの話を二人にも話す。


「というわけでして、結果を聞きたいんですよね」

「そういう理由ね。どっちにしろ帰りに塩とか届ける予定だから寄るわよ」

「私からも皆に話しておくわね」

「お願いします。やっぱり帰ることができるなら故郷に帰してやりたいですし」


 もしそれが叶わないとしても一目でも良いから会わせてやりたいし、最低限無事だけでも伝えてやりたい。手の届く範囲だけ、片手間に済む範囲でだけど理不尽から人を助けたいという気持ちは変わらないからな。力を失ってもこのスタンスだけは維持していきたいものだ。


 ☆★☆


 再び森を駆ける。

 身体が妙に軽く感じる。移動を補助する風魔法の調子が良い。キレがあるというか、繊細に操作できている実感がある。共に俺の横を駆けているブリーダやリファナもそんな俺の様子に気づいているようで、何度か俺に視線を向けてきていた。

 少しイメージを変えて魔法を展開しているのだ。ハーピィさんの包み込むような羽毛が今のイメージである。昨日まではジェット機みたいなイメージだった。

 一度上手く行けばあとは簡単だ。それこそ自転車のようなものである。よほど速く動きたい時は昨日までのイメージのほうが良いが、これくらいのスピードで駆けるなら今のやり方のほうが遥かにスマートだ。

 そうして駆けること数時間、森が開けて白い材質でできた構造物が見えてきた。


「着いたわね。今日はここで野営よ」


 エルミナさんが足を止めたのは白い材質でできた構造物群の中にポッカリと開いたすり鉢状の草地だった。どうやらここは魔力溜まりになっているらしく、空気中の魔力が青白い燐光となって蛍のようにハラハラと舞っている。


「ここ、遺跡ですよね」

「人間はそう呼ぶわね。私達は禁足地と呼んでいるけれど」

「禁足地、ですか」

「そう、決して足を踏み入れてはいけない土地よ。ここも立ち入りが許されているのはこの窪地まで。此処から先、あの白い門の先に立ち入ることは許されていないわ」


 エルミナさんが指差す先にはセキュリティゲートのようなものと、その先に大きなドーム状の白い構造物があった。白いドーム上の構造物は時折不規則な光を発しており、今でもその施設が『生きている』ことが一目瞭然だ。


「興味があるの? やめておきなさい、命がいくらあっても足りないわよ? 中には攻撃が効かない強力な魔物がウヨウヨしてるんだから」

「攻撃が効かない?」

「そ。あの建物と同じ白い素材でできた魔物でね。部外者を見つけるなり魔力の弾丸を乱射してくるの。矢も刃も魔法も通らないわ」


 エルミナさんが溜息を吐いて肩を竦めてみせる。


「まるで入ったことがあるみたいな言い方ですね」

「あるわよ? だって気になるじゃない。這々の体で逃げ出すことになったけどね」

「なるほど」


 確かにエルミナさんは禁足地とか無視して気になったら入りそうだな。


『ここにあるね、擬神格。波動を感じるよ』


 いきなりヒットか。幸先が良いな。


『うーん、そうでもないね。ちょっとここはセキュリティがキツすぎるっぽい。ちょっといってすぐ帰ってくるって訳にはいかないね。もう少しちょろいところを探すか、時期を見たほうが良いと思うよ』


 どっちにしろ今勝手に行動するわけにはいかないな。エルフの集落だけじゃなく他の集落から預かった品も俺が持ってるし。


『マーカーつけといたからいつでもここに案内できるよ。また今度来たほうがいいね』

「ちょっと、行ってみたいとか言わないでよ? タイシくんは今沢山の物資を預かっている身なんだからね?」

「ええ、わかってます。今日はやめておきます」

「今日は、ね」


 苦笑するエルミナさんにこちらも肩を竦めて見せてから野営に必要な道具をトレジャーボックスから出す。虫除けの香炉や天幕、敷布、焚き火をするための燃料や食料、水の詰まった樽などだ。


「魔物除けは?」

「いらないわ。ここは魔物が近寄らないから」


 ふむ? この魔力溜まりが何か関係してるのかね。


『神力砲のクレーターだからね、ここ。魔物は近寄らないと思うよ』


 よくわからんがそれは俺達は大丈夫なのか。


『一晩くらいなら大丈夫。まぁ魔物が嫌がる波長の魔力溜まりみたいなもんだと思えばいいよ』


 そいつは重畳。一晩くらいならって言葉が気になるがまぁいい。

 どうもエルフの三人は干し肉や果物だけで晩飯を終える気のようなのだ。それはちょいと味気なさすぎやしないか? と思うのだが三人ともそうは思わないらしい。


「スープくらい作ろうぜ……」

「一晩くらい粗食で済ませても良いじゃない」

「そんなにスープが飲みたいならあんたが作れば?」


 エルミナさんとリファナはこの調子でブリーダに至っては座り込んで黙々と干し果実を味わっている。


「OK、じゃあ俺が作るよ。物資の中から適当に使って良いのか?」

「良いわよ。使いすぎないようにね? ついでに私達の分もよろしく」

「へいへい」


 土魔法でサクっと簡易かまどを作り、その上に鍋を置いて適当にスープを作ることにする。明日の朝の分も一緒に作ってしまえば無駄がないだろう。

 そこそこの大きさの鍋に水魔法で生み出した水を注ぎ、火魔法で加熱する。沸騰するまでの間に塩漬けのベヘモス肉のブロックを取り出し、脂身のある部分を薄く削ぎ切りにしてこぽこぽと泡を生み始めたお湯に投入。そのまま煮込み、出てきたアクを掬い取ってから干し野菜と干しきのこを手で砕きながら投入。そのまま暫く煮込み、塩で味を整える。

 あとはキノコと野菜の出汁がしっかりと出るまでコトコト煮込む。キノコを入れる場合あまり煮立てないのが美味しさのコツだと思う。エルフの三人がスープカップを持って『まだか』という顔をしているのが微妙にムカつく。

 出来上がったスープの味見をして再度味の微調整をしたら完成だ。

 真っ先に突き出されてきたエルミナさんのカップにスープを注ぎ、次にリファナ、最後にブリーダのカップにスープを注ぐ。最後に俺のだ。


「うん、いい味ね」

「悪くないわ」

「美味い」

「そいつはどうも」


 虫が飛んできてスープに入ったら嫌なので土魔法で作った石製の蓋に浄化をしっかりとかけてから鍋の上に置く。

 全員で寝るのは流石に不用心なので、二組に別れて眠ることになった。まず先にブリーダとエルミナさんが眠り、その後俺とリファナが眠る。正直こういう見張りは後番のが辛いのだが、お言葉に甘えることにした。

 食事を取ったらすぐに二人は天幕で寝たので、リファナ二人で火の番をしながら見張りをする。魔物も来ないらしいし、正直かなり暇である。魔法や剣の練習をして先に寝た二人を起こすわけにもいかない。大きな声で話すわけにもいかないので、必然的にこうなる。


「なんで隣に座るのよ」

「いや、大きな声で話すわけにもいかないし仕方ないだろ」

「話すことなんて無いわよ」

「そう言うなよ。暇だろ」


 ジト目で睨みつけてくるリファナを気にせずあくびをする。話でもしてないとこれ絶対寝るわ。今日も昼前まで寝床にいたけど、睡眠時間はそんなでもないからな。夢の中でマールと会ったせいかなんかあんまり寝た気がしないし。


「呆れた。あれだけ惰眠を貪ったのに眠いわけ?」

「あんま寝てないんだよ」

「不潔」

「しっかりと浄化したから清潔です」

「そういう話じゃないわよ」

「知ってる」

「殴るわよ?」


 なんかこのやり取り、デレる前のメルキナを思い出すなぁ。この子もデレたらメルキナみたいに激甘になってしまうんだろうか?

 リファナもエルフの例に漏れず、とても美人さんだ。ただ、色白のメルキナやエルミナさんと違って肌は日に焼けたような褐色の肌である。所謂ダークエルフっぽい美人さんだが、胸は慎ましい。褐色エルフは胸が大きいイメージなんだけどな。美しい銀髪って点はイメージ通りなんだけどな。

 観察しているとキッと睨まれたので適当な話題を振る。


「メルキナとは知り合いなのか?」

「……幼馴染よ」

「そっか。まぁ歳も近そうだしそうだよな……つってもエルフは見た目じゃいくつなのかわからんけど」

「人間が短命過ぎるだけでしょ」

「寿命ばっかりはなぁ。その分繁殖力は上みたいだけど。エルフのことはよくわからないが、発情期にならないと子供が作れないんだろ?」

「あんたね、もう少しマシな話題はないわけ? 未婚の乙女にそういう話する?」


 歯を見せて怒りを滲ませるリファナに肩を竦めて見せる。


「ちょっとした下ネタじゃないか。そうだなぁ、んじゃ禁足地について教えてくれ」

「エルミナさんから聞いたでしょ?」

「ここ以外にもあるんだろ? どの辺にあってどんなところか教えてくれよ。興味あるんだ」

「あのねぇ……禁足地の意味わかってる? 足を踏み入れることを禁じている地なの。それはね、ただ単に入ったら命が危険ってだけじゃないのよ」

「つまり?」

「そこには触れてはいけないものがあるのよ。禁忌の地でもあるの。口にするのも憚られるの。それくらい察しなさい」


 リファナはそう言ってツンと横を向いてしまった。うーん、取り付く島もないな。まぁリファナがダメならエルミナさんかブリーダかマルス君にでも聞いてみるか。デルフィーダさんでもいいな。


「ねぇ、メルキナは元気にしてるの?」

「うん? 元気にしてるぞ。森を出てからは暫くあちこちフラフラして食い道楽してたようだ。俺と出会ってからはまぁ、最初はリファナと同じような態度だったけど今はベタ惚れだな。甘やかされすぎてちょっと困るくらいだ」

「うん……聞く限り確かにメルキナらしいわね」


 焚き火に照らされながらリファナが微かに笑みを浮かべる。


「メルキナは村での生活が退屈そうだったから。毎日毎日同じことの繰り返しで嫌になっちゃうって口癖みたいに言ってたわ。血の気も多くて、やっぱり人間の血が入ってるからって陰口叩かれたりもしてた」

「人間は大層嫌われてるみたいだもんな」

「私の親とか祖父祖母世代は人間に虐げられたみたいだからね。私は直接人間に何かされたことはないけど、そういう大人達から話を聞いて育ってきたのよ」


 リファナの瞳が揺れる炎を見つめる。


「人間がエルフにどんな仕打ちをしたか知ってる? 晩餐に呼んで薬を盛ったり、大人達を残らず呼び出して子供だけになった村を襲ったり、やりたい放題だったらしいわ。百以上あった氏族は殆ど滅ぼされて、今大森林に残っている氏族はたったの五つよ」

「メルキナも危ない目に遭ったことは一度や二度じゃないって言ってたな」


 寝物語に聞いたメルキナ危機一髪の内容を思い出す。


「だから、私は人間が好きになれないわ。あんたのこともね」

「んー、まぁ俺がエルフの立場でも簡単に気を許すことはできそうにないな。でもまぁ俺に関しては安心していいぞ、この世界の人間じゃないし」


 訝しげな表情で俺を睨みつけてくるリファナに言葉を続ける。


「ちょっとした呟きを悪い神様に拾われてこの世界にやってきたんだ、つっても信じられないよなぁ?」

「そんな与太話信じられるわけないでしょ?」

「ですよねー。ま、それは別に信じてくれなくてもいいや、証拠のある話でもないし。ただまぁ、人間だからってだけで嫌うのは少しもったいないと思うぞ。それじゃエルフだからって理由だけで酷いことをした奴らとそんな変わらんし」

「そんなのっ!」

「しーっ、静かにしろって」


 大声を出しかけたリファナをなんとか落ち着かせる。


「ちょっと言葉が悪かったが、俺が言いたいのは人間って種族のくくりだけでものを考えて判断するのは良くないんじゃねってことだよ。人間って一口に言ってもいろいろなやつが居るさ。救いようのない悪人もいれば自分を犠牲にして他人を助けるような善人もいる」

「あんたは善人だって言いたいわけ?」

「俺はどっちかというと悪人だと思うなぁ。確かに人を助けちゃいるけどそれは結果的にそうなってるだけで、徹頭徹尾自分のためにしか動いていないし」


 ここは俺としては譲れないラインだ。誰かのために身を粉にして働くなんてまっぴら御免である。俺は俺のためにしか力を振るわないし、働かない。他人のためになんて絶対に働きたくないでござる。

 リファナはそんな俺の目をじっと見つめた後に目を逸らした。


「なぁ、その人の目をじっと見つめるのってエルフの流行りなのか?」

「別にそんなんじゃないわよ」

「じゃあ何なんだよ」

「うっさいわね、なんでもないわよ」


 なんか態度がぞんざいな感じになった。これは関係が良くなったと見るべきか否か。まぁ気を遣わなくても良い相手になったと考えれば良くなったということで良いのではないだろうか。

 その後はとりとめのない話をして時間を潰し、程よい頃合いでエルミナさんとブリーダを起こして見張りを交代した。


「変なことしたら私の弓に誓って絶対に報いを受けさせるわよ」

「しないって」

「この矢よりこっちに来たら殺すからね」

「わかったって。良いからもう寝ろ、俺は寝る」


 結局リファナは俺が寝るまで何か横で騒いでいた。もう眠いから寝かせろ。

ケジメ案件を起こしたので今晩も上げます_(:3」∠)_(平伏

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