表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/134

第八十話〜無事(?)に狩りから戻りました〜

「アツゥイ!?」


 超熱い。顔を庇っている腕やら何やら皮膚がジリジリと焦げるような感覚が俺を襲う。痛い、超痛い。今にも叫び出しそうだ。いや、叫んでいるのかもしれない。喉が焼けるように熱い。

 ここまで痛い目に遭ったのは大氾濫の時に戦った黒い怪物以来じゃなかろうか? やるな怪獣、お前は間違いなく強敵だ。俺が弱くなってるだけかもしれんけど。


「がああああぁっ!」


 叫びながら前に踏み出し拳を握る。いつの間にか手に持っていたはずの棒きれは無くなっていた。燃え尽きたのか? まぁ些事だ。握りしめた右拳に思い切り魔力を込める。


「だぁっ!」


 ブレスを吐き終わって口が半開きになっている怪獣の懐に潜り込み、その胸元に全力の拳を突き刺した。

 ズドォン! と素手で殴ったとは思えないような手応えがあり、怪獣は一瞬ビクリと体を震わせた後、全身の穴という穴から血を噴き出して絶命した。

 横倒しになる怪獣の体に巻き込まれないように無様に地面を転がって逃れる。超痛い。全身火傷で泣きそうだ。でもよく見てみると服は燃えてボロボロになってしまっていたが、皮膚は真っ赤になって水ぶくれができ、ケロイドになりかけているだけだった。

 いや、だけだったも何も結構重傷だと思うけど焦げてたりはしなかった。

 とりあえず回復魔法を重ねがけをして自分の治療をする。回復魔法のレベルは1相当で正直しょぼいが、何度も重ねがけすればそれなりに効果はあるようで痛みが引いてきた。


「無茶したわねぇ」

「折角貰った服をダメにしちゃってすみません」

「ん……まぁいいわ。許してあげる」


 エルミナさんは少し悲しげな顔をしたが、すぐに優しく微笑んで許してくれた。そして俺の頭をさわさわと触ってくる。


「髪の毛もちょっと焦げてるわね。軽く切っちゃいましょうか」

「ああ、お願いします」


 絶命した怪獣に取り付いて何やら処理を始めたエルフ達を横目に見ながらエルミナさんにされるがままにする。凄く痛い目に遭ったせいかどうにもすぐに立ち上がる気力が沸かない。

 エルミナさんは小ぶりのナイフでサクサクと髪を切ってくれる。そのまま視線を別の方向に動かしてみると、俺が持っていた棒きれは真っ二つになって離れた場所に転がっていた。力を込めて握りしめすぎたせいなのか、魔力を篭めすぎたせいなのか、それとも炎の魔力に耐えられなかったのかはわからないが、まぁ棒きれだしな。あとで拾っておこう。


「奴は何か使える素材が取れるんですか?」

「殆ど全部使えるわね。毛も皮も丈夫だし、内臓は食用にも薬にもなるわ。爪や牙や骨や角は加工して武器にできるし肉も美味しいわよ」

「あー、内臓とか肉とかはダメになってるかも」

「血抜きは水魔法でなんとかなるわよ、少し味は落ちるけど。破壊された内臓は仕方ないわね。はい、おしまい」


 最後にブワッと強めの風が吹いて細かい髪の毛を吹き飛ばした。うーん、手足のように風魔法を使うな。これもやっぱ慣れというか修練なのかね。今までスキルに頼って魔法を使っていた部分も多いし、真面目に魔法の使い方っていうのを修行したほうが良さそうだな。

 髪も切ってもらったので立ち上がると俺がふっ飛ばしたアレス君が他のエルフに支えられながら歩いてきた。おや? 回復魔法を使える人は居ないのかな。


「回復してやろう」


 ジッと俺を見てくるアレス君を浄化し、何度か回復魔法をかけてやる。回復魔法ももっとこう、色々と試してみないとなぁ。でも回復魔法って怪我しないと使わないし、怪我するのは嫌だしな。三度ほどかけたあたりで傷が治ったようなのだが、アレス君は相変わらず俺をジッと睨みつけている。


「お前……何故俺を助けた?」

「何故って言われてもなぁ。特に理由なんて無いけども。まぁ助けられそうなら助けるのは自然だろ?」


 俺の答えが気に入らないのか、アレス君は仏頂面のままだ。そして何を思ったのか腰に下げていた大振りのナイフを剣帯ごと外して俺に差し出してきた。


「命を助けられた礼だ」

「おお、いいのか? 助かるな」


 これは素直に嬉しい。早速受け取った大振りのナイフを革製の鞘から引き抜いて刀身を確かめる。これは所謂ブッシュナイフというやつだな。ククリナイフ、あるいは山刀と言ったほうがわかりやすいだろうか? 肉厚で、先端に行くほど幅広になっている。鉈と違うのは切っ先があるから突き刺すこともできるという点だ。

 しかしこれはなかなかの業物のようだ。重心が先端に寄っていて振り回しやすいし、よく研がれていて切れ味も良さそうだ。剣帯にはもう一本程良い大きさのナイフと小さな砥石もセットでついていた。


「随分良さそうな品だが、本当にいいのか?」


 後から返せとか言われても返さないぞ。


「二言はない」

「そうか、ありがとうな。とても嬉しい」


 早速剣帯をつけたいところだが、俺の服は焼け焦げてボロボロなので無理そうだ。後で新しい服をもらえるだろうか? ううむ、あまり世話になりすぎるのもアレだが、こればかりはエルミナさんに頼るしかないんだよなぁ。

 とりあえず山刀だけを鞘ごと剣帯から抜いて手に持ち、剣帯はトレジャーボックスに入れる。それを見てアレス君だけでなく他のエルフも少し驚いたようだ。どうやら空間魔法を見たことが無かったらしい。

 トレジャーボックスのことを軽く説明すると、アレス君ではない男性のエルフが興味津々といった様子で聞いてきた。


「どれくらい運べるんだ? あの獲物はそれで運べるのか?」

「わからないな、限界までものを入れたことがないんだ。いい機会だから試してみようか」

「そうね。じゃあ処理を進めていきましょうか」


 エルフの男性と俺のやり取りを聞き、エルミナさんが音頭を取って怪獣の解体が始まる。

 持ち帰って処理をすると臭いがするし、それがまた別の魔物を引き寄せることもあるということでここで処理をすることに決めたようだ。

 ただ見ているのもなんなので俺も手伝うことにする。力持ちなのは言うまでもなく、土魔法も水魔法も使えるし魔力も多いから何かと役立てるだろう。獲った獲物を捌くのもクローバーの獣人達とよくやったし、補助くらいはできる。


「手慣れてるのね?」

「地元じゃそれなりに狩りもしたんで。大きい獲物をみんなで協力して捌いた経験もそこそこありますよ」


 勿論こいつを捌いたことはないが、結局のところ魔物も『いきもの』には違いないのである程度応用は利く。こいつはいかにも動物型って感じだし、まぁ大丈夫だろう。虫型とかワーム型とかはまた捌き方が違ったりするけど。

 この怪獣も動物型の例に漏れず、まずは腹を掻っ捌いて臓物を取り出すらしい。内臓は壊滅かと思いきや、肺と心臓以外は大丈夫だったようだ。ただ、心臓が破裂していたので水魔法を使って血抜きをしないといけない。


「なんかすみませんね、手間かけさせたみたいで」

「こいつ相手なら仕方ないわね。まぁ死人も出なかったし上々よ? 怪我人はタイシくんが治してくれたしね」


 普段は矢でハリネズミのようにするしかないので、皮の方は穴の空いていない部分が多くて逆に良かったようだ。こいつは特に大きくて強かったからいよいよ倒しきれないとなれば集落のない方向に誘導して一時撤退、後に戦力を整えて再度討伐という流れも検討していたらしい。

 そんな話を聞きながらエルフ達と協力して怪獣を解体する。そうして得た有用な臓物や剥いだ皮、魔法で血抜きをして切り分けた肉などをトレジャーボックスに収納していく。いつ収納限界が来るのかと思いながら収納していったが、結局全部収納できてしまった。


『トレジャーボックスは使用者の魔力量と空間魔法の習熟度に依存して容量が増えるよ。君の魔力量と空間魔法の習熟度から考えるとほぼ限界じゃないかな?』


 なるほど。魔法の練習もしなきゃなぁ……魔法の練習ってどうやるんだ? スキルポイントで覚えたことしかないし、修練方法とかわからんぞ。夜にでもエルミナさんに聞いてみるか。

 捨てる他ない部位を埋め、再び散開して見回りを再開することになった。こんなトラブルがあったとしてもちゃんと見回りをしなければ集落に魔物が入り込みかねないので、怠ることはできないのだそうだ。

 結局その後は特にトラブルもなく見回りを終えて帰還することとなった。本来なら見回りを終えた後は狩りの時間らしいのだが、今日は既に十分な戦果があるので狩りはおやすみということらしい。


「タイシくん、広場に獲物を出して頂戴。まずは皮を広げて、その上にね」

「アイアイマム」


 エルミナさんの指示通りに怪獣の生皮を広げ、その上に肉を出していく。何も無いところから肉がぽんぽんと飛び出してくる光景にエルフの皆さんが驚くやら感心するやらで広場は大騒ぎである。


「すごい! お肉!」

「これはすごい大物だな」

「氷室を整理しなきゃ入らんな。おい、行くぞ」

「しばらくお肉には困らないわねぇ」

「ベヘモスの肝? でかいなぁこれ。中和剤と薬草の在庫足りるかな?」

「角も牙も爪も立派だな。こいつは腕が鳴る」


 こういう時の光景というのは人間も獣人もエルフも変わらないな。子供がはしゃいで大人は驚き、職人達が色めき立つ。

 一歩引いた場所でその光景を眺めているとエルミナさんに手を取られて獲物の直ぐ側に連れ出された。エルフの皆さんの視線が一気に集中する。一体何が始まるんです?


「はい、皆聞いて。今日の殊勲者はこのタイシくんよ。ベヘモスのブレスに巻き込まれそうになった子を庇って、その上でベヘモスを仕留めたの」


 エルミナさんの言葉にエルフの皆さんが静まり返る。人々の表情は様々だ。単純に驚いている人、興味深げな視線を向けてくる人、猜疑の目を向けてくる人……比率は3:4:3といったところだろうか。思ったよりは好意的な視線が多い気がする。


「人間に対して思うところがある人は多いと思うけど、彼が庇わなかったら多分狩人に死人が出ていたわ。彼の内心は私にだってわからないけれど、打算でベヘモスのブレスに突っ込めるような人はそういないと思う」


 エルフ達がざわめく。概ね同意といった意見のようだ。普通、あの怪獣――ベヘモスと呼ばれている――のブレスをまともに食らうと良くて真っ黒焦げ、下手すると骨も残らず消し炭になるらしい。

 俺としては魔力の炎って話だったし俺のPOWならまぁ即死することはないだろうという考えでの行動でもあったのだが。割と危ない橋を渡っていたのだろうか? 今更嫌な汗が出てきそうだ。


「まぁ、受け入れてあげてとまでは言わないけど嫌わないであげて頂戴。私からはそれだけね」


 そう言ってエルミナさんが俺に視線を向ける。これは何か言えということだろうか? 浄化はかけてあるから煤だらけ泥まみれってことはないけど、こんな焼け焦げてボロボロの状態じゃどうにも締まらんなぁ。


「あー、その。こんな格好で失礼。タイシです、どうぞよろしく」


 なんかあれだ、自己紹介って照れくさいよな。

 特に拍手などはなかったが非難の声も無かったので概ね受け容れられたと考えて良さそうだ。俺なんかよりも目の前の獲物の処理に忙しいだけのような気もするけど。


「さて、タイシくんと私の取り分を持っていきましょうか」

「取り分?」

「美味しいところを貰っていくわよー。タイシくんの分は私が取ってきてあげるわね」

「アッハイ、おねがいします」


 エルミナさんが腕まくりをして積み上げられた獲物の肉の山に突入していく。少しすると大きな骨付きの肉塊や血の滴る肉塊がエルミナさんの指示によって運び出されてきた。どちらも骨付き肉の方は多分あばらの辺りと足のあたり。血の滴る肉塊は肝臓だろうか。


「今日のメニューはベヘモスの肝臓ね。肉の方は食べる分と保存用に分けておきましょ」


 肝臓は濃厚な味で大変美味しいらしい。骨付き肉も脂が乗っていて良さそうな感じである。これは早めに食べる分と冷凍保存する分と干し肉にする分とで分けるようだ。


「地下に大きな氷室があってね。そこに保管しておくのよ」

「氷室ですか」


 この大森林は大陸の北側に位置しており、雨が多めで年中暖かく雪が降ることも無い。ここに比べるとクローバーの方が寒い。そんな気候だと生肉はすぐに腐るので地下に氷室を作り、水魔法が得意なエルフが管理人となって巨大な氷室を作っているのだそうだ。

 ローテクなのかハイテクなのかわからんなファンタジー。結局人力だからローテクなのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ