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第七十九話〜エルフの狩りに同行しました〜

水曜土曜の21時にしていこうと思います_(:3」∠)_

「エルミナさん、なんでそいつがここにいるんです?」

「ん、なんか居候としてタダ飯を食うのは居心地が悪いからって」


 苦い苦い薬を飲んで広場に赴くとエルミナさんの他にも何人かのエルフが集まっていた。そして俺を見るなりそのうちの一人が騒ぎ始める。


『負け犬クンちぃーっす』


 お前それあいつに聞こえないだろうな? 背中から射たれるのはごめんだぞ俺は。

 エルミナさんに食って掛かっているのはメルキナに片思いしていたというアレス君だった。見た目は十五~六歳に見えるが、きっと俺よりずっと年上だろうな。


「足手まといを連れて森に入るなんて自殺行為ですよ」

「その時はその時よ。なんとでもするし、もし死んだらそれはそこまでってことでしょ」


 わお、お義母さんドライ。でも大丈夫だ、多分足手まといにはならないさ。


「はい、発言よろしいでしょうか」


 手を上げてそう言うとエルフ達の視線が一気に集まった。


「装備が根こそぎ壊滅してるんで何かまともな武器貸してくれませんかね。できれば剣か槍がベストなんだけども」


 流石に棒切れ一本で森を駆け回るのはもう勘弁願いたい。結局加工もできてないしな。服と編み上げサンダルを借りて身なりだけは整ったが、得物が何もないのは心許なくて仕方がない。

 しかしエルフ達の反応は芳しくない。どうにも俺を警戒しているというか、不信の目を向けてきているというか、有り体に言うと敵意すら感じる視線である。


「ダメ?」

「人間に武器を渡すエルフがいると思うか? 貴様らがエルフに何をしたか考えてからものを言え」

「えぇ……そんなん俺に言われても」


 大森林のエルフは何百年か前に人間に追いやられた過去があるとは聞いたが、俺は知らん。そもそも俺この世界の人間じゃないし。まぁ人間嫌いのエルフにとってはそんなのは関係ない話なのかね。俺も人間には違いないし。


「どちらにしても初日から何かできるってことも無いでしょうし、今日は見学のつもりでいなさい。皆の邪魔にならないようにね」


 その心配はないでしょうけど、と小さな声でそう言ってエルミナさんはこちらに背を向けた。どうやら議論は終わりということらしい。実際昨日俺とやりあっているエルミナさんは俺の実力をそれなりに評価してくれているようだ。

 エルミナさんが樹上の広場から地上に向かって飛び降り、他のエルフ達は俺を一瞥してからそれに続く。置いていかれる俺。


「わぁ高い」


 エルフの樹上村は巨木の上にある。地上何メートルくらいかな、ここ。二十メートルくらい? もっとあるかな? 皆さん飛び降りたけど多分風魔法併用してますよね。俺ね、風魔法ほんと初心者レベルまでしか使えなくなってるんだよね!

 いや待てよ、地魔法がある。いけるいける。地面を柔らかくすればええねん。最悪叩きつけられても高レベル故のVITで耐えられるはず。よっしゃいくぞ。


「とぅっ」


 魔力を集中し、イメージを固める。地面を柔らかくして、かつ衝撃を吸収するように――!


 ズボッ。


 うん。怪我はしなかったね。でも腰まで埋まったね?

 エルフの皆さんが注目する中、地面から這い出して土を払い、浄化で身奇麗にする。ついでに空いた穴を埋め戻しておく。やめろ、その可哀想なものを見る目で俺を見るのをやめろ。


「……風魔法練習しとくし」

「……なんかごめんね? 気が付かなくって」


 エルミナさんに謝られた。いたたまれない。

 取り敢えず控えめに見てひのきのぼうのようなもの……まぁ所謂棒きれをトレジャーボックスから取り出す。ただの棒きれと侮ることなかれ、この棒きれは神力とやらが濃く宿っているらしく、魔力との相性が非常に良いのだ。いくら魔力で強化しても所詮未加工の木の棒だから全力で叩きつけたら折れそうだけど。


「なんだ、その棒きれは」

「ひのきのぼうのようなものです」

「何?」

「ひのきのぼうのようなものです。普通の棒きれよりも凄く魔力を通すよ」


 そう言って魔闘術の応用で棒きれに魔力を通し、地面を叩いて軽く爆裂させる。聞いてきたエルフは思った以上の威力に納得したのかそれ以上何も言ってこなかった。

 しょうがないじゃない、君達が武器を貸してくれないんだから。ただの棒きれよりは頼りになるから素手よりはマシ……いや、ぶん殴るなら素手のほうが強いか?


『ああ、間合いを犠牲にするなら素手のほうが回転率と物理的な攻撃力は高いかもね。ちゃんと加工すれば魔力をプールできるだろうから魔力撃に関しては神木のほうが強いだろうけど』


 ああ、この状態だと魔力の通りは良いけどダダ漏れですぐ拡散するもんな。手足の延長としては申し分ないけど。


「取り敢えず見回りから行くわよ。縄張りに魔物がいたら駆逐、一通り見回りをしたら北側で狩りをするわ」

「「「「了解」」」」


 エルミナさんの指揮のもとにエルフ達が二人一組で散っていく。エルミナさんと名も知らぬ浅黒い肌のエルフの娘さんがペアになるようなので、俺もそれに着いていくことにする。


「まぁ適当についてきなさい」


 そう言ってエルミナさんが風魔法を併用して跳ぶように駆けていく。褐色エルフの娘さんは俺に冷たい一瞥をくれてからエルミナさんと同じように跳ぶように駆け出した。俺もその後を追うことにする。

 エルフ達の森の駆け方はなかなかユニークだ。風魔法を纏ってぽーんぽーんと軽やかに跳んで移動するのだ。地面はできるだけ踏まず、木の根や幹、枝を蹴ってほぼ無音で進んでいく。森の妖精とはよく言ったものだ。

 俺もできるだけ足音を立てないように落ち葉や枯れ木の落ちている場所は避けてむき出しの土や岩、木の根を飛び石のように飛び移っていく。どうしようもない場所だけは普通に走るけど。


「あら、弁えてるのね?」

「メルキナにっ、仕込まれたんでねっ」

「そう」


 必死に走る俺を見てエルミナさんは少し楽しげだ。もう一人の褐色エルフの娘さんは依然として冷ややかな視線を向けてきているが、先程までよりは幾分その冷たさも和らいだような気がしないでもない。無様ながらもちゃんと着いてこれているので見直してくれたのかもしれない。


『デレるかな?』


 そういうのはいいです。嫁がたくさん居るんで。


『現地妻♪ 現地妻♪』


 お前は俺に一体何を求めているんだ……妻のある身でそんな節操ない真似はできんよ。


『エルフハーレムとかロマンじゃん?』


 ロマンであることは認めよう。だがそんな真似をしてマール達に失望されたり怒られたりする方が怖い。


『何人でも養えるんだし気にしなくてもいいじゃん』


 神に追われている今の状況でどうこうする気にはなれんね。黙ってろ。


『ちぇ~……ま、そういうのはなるようになるもんだから黙って見守るとしようかな?』


 そう簡単にフラグなんぞ立たんわ。


『あはは、その発言そのものがフラグに聞こえるけどね?』


 二人の後を追いながら頭の中で益体もない話をしていると急に二人が立ち止まった。二人ともが同じ方向に視線を向け、尖った耳をピクピクと動かしている。なにそれ可愛い。


「何か厄介なのが出たみたい。向かうわよ」

「了解」


 俺には何も聞こえなかったが、二人には何か合図のようなものが聞こえたらしい。方向を変えて駆け出した二人を追って気配察知を全力で発動させる。ううむ、範囲がかなり狭くなっていて前方を跳ぶ二人とちょっとした小動物以外には何も察知できないな。

 目に力を入れて鑑定眼や魔力眼も試してみるが、これもまた発動しない。魔眼も当然だめか。でもスキルが失われたことで見えなくなったってことは、何らかの方法で再び開眼することも可能なのかね? 肉体に関連する先天的な要因が必要ならそもそもスキルとして取ることはできないだろうし。でもスキル習得によって肉体が変質して、失ったことで変質した肉体が戻ったとかだと無理か。


『訓練で後天的に取得することはできるよ』


 回答ありがとう。そういえばこういう知識的なことはお前に聞けばいいよな。頭の中に勝手に住み込んでいるんだから最大限使い倒していこう。


『与えた知識量に応じて対価を要求させていただきまーす』


 なんだとこの野郎。


『夢の中でアハハウフフさせてもらうからね☆ この前みたいに顔面パンチとかしたらもう教えてあげないぞ』


 今後一切この手の話題は振らないようにしよう。俺は決意を抱いた。


『知識がもらえて気持ち良い思いもできるのに何が不満なのさ!?』


 精神の均衡を保つのが知識の獲得よりも優先されるだけだ。知識を与える邪神の甘言に惑わされて正気度喪失とかコズミックホラーじゃねぇんだぞ! 俺は御免だ!

 ぶーぶーと文句を言う邪神を無視して暫く進むと、前方から焦げたような匂いが立ち込めてきた。おいおい、森林火災とか洒落にならんぞ。


「マズいわね……」


 エルミナさんが風魔法の出力を上げて一気に加速していく。俺もその後に続いて全力で走った。


「ちょっ、速っ!? わぁっ!?」


 褐色エルフさんを引き離して置いていく形になったのは許して欲しい。スキルを失っても培われた高レベル故のステータスは健在なのだ。まぁ肉体強化のスキルが無くなったから素の脚力結構落ちてるけど。もしかしたらスキルレベル1か2くらいは残ってるのかな? 自分のステータス見れないからよくわかんないんだよね。

 でもまぁ足りない分は魔闘術の応用で補える。地面を蹴る瞬間に足の裏から魔力を炸裂させて加速する。

 後ろで罵声が聞こえる気がするが、緊急事態らしいので許して欲しい。


『Graaaaaaaa!!』


 現場に駆けつけると怪獣が暴れていた。いや、怪獣というか……なんだこれ。ムッキムキにしたライオンの身体に凶悪な牙が生え揃ってる凶悪な面相の牛の顔? 角でけぇ。

 大きさはゾウより二回りくらいはでかい。かなり俊敏に動いて地響きが凄い。巨木や地面が一部焼け焦げてるってことは火でも噴くんだろうか?

 アレス君と他三人のエルフが周りを取り囲んで風魔法を纏わせた矢を射掛けているようだが、さほど効いていないように見える。いや、痛がってはいるみたいだけど。射掛けられるごとに怒りのボルテージは急上昇しているようだ。


「どうすんですかあれ。弓で倒せる相手に見えませんが」

「数を射てばそのうち倒れるわよ。それよりも森が燃やされるのがマズいわね。この辺りの木は普通の火ではそう簡単に燃えたりしないんだけど、あいつの吐く火は魔力の炎でね。普通に燃やしちゃうのよ」


 エルミナさんがぼやきながら弓に矢を番え、魔力を込めて放つ。他のエルフが射る屋よりも格段に威力の高い矢が怪獣の側頭部に突き刺さり、怪獣が悲鳴を上げてよろめいた。


「軽い矢じゃ効果は薄いわ! 一射一射に魔力をしっかり込めて射ちなさい! 矢の威力に自信があるなら頭部を! そうでないなら目を狙って!」


 怪獣がよろめいている間に位置を変えながらエルミナさんが指示を飛ばす。先程まで居た場所が怪獣の吐いた紅蓮の炎で焼き尽くされた。おおう、あれは食らったら熱そうだ。

 そうしているうちに置いてけぼりにしてしまった娘さんや他のエルフ達も合流して怪獣に対する包囲網が厚くなる。エルフ達の連携は洗練されており、怪獣に向かって四方八方から急所を狙った矢が繰り出される。怪獣も炎を噴いて反撃するのだが、炎が噴射される頃にはエルフはその場所から退避済みだ。


『でもこれ、薄氷の上を歩くような戦術だねぇ。火力が足りてないよ』


 そうだな。集中を欠いて風魔法の制御をしくじれば炎に巻かれるし、魔力が尽きてもヤバい。そうなる前に戦線離脱するんだろうけど、そうすると更に火力が下がる。そうなる前に倒しきらないとジリ貧だ……って、早速誰か逃げ遅れそう。


『負け犬くんだね。ここはあの名も知らぬエルフ娘さんかお義母さんが逃げ遅れるところじゃないの?』


 駄神の愚痴を無視しつつ怪獣の火炎放射ゾーンに棒立ちになっているアレス君に突進する。風魔法の制御をしくじりでもしたのか、それとも魔力切れか。間の悪い奴だ。

 火炙りになるのはちょっと熱そうだが、魔力の炎ってんなら多分大丈夫だろう。


「ちょっと、タイシくん!?」


 エルミナさんが俺の動きに気付いて声を上げるが、もう既に地は蹴ってしまっている。間に合うか? 微妙だな。

 前傾姿勢で突っ込む中、耳の中でごうごうと風の流れるような音がする。時間が引き伸ばされるような感覚。


『Voaaaahaaaaa!!』


 怪獣が咆哮とともに灼熱の火炎を吐き出す。あ、これ退避間に合いませんわ。

 仕方がないのでアレス君を力いっぱい突き飛ばす。骨の一本や二本は折れてるかもしれないが、まぁ焼け死ぬよりはマシだろう。

 アレス君が驚愕の視線を俺に向けながら森の奥に吹き飛んでいく。ははは、マヌケな顔だ。全身を守るように魔力で覆いがら迫る炎を見据え、更に魔力を込めた棒きれを盾にして顔を庇い、正対する。

 そして一気に俺の全身を魔力の炎が包み込んだ。

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