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第七十八話〜エルフの里での生活が始まりました〜

お待たせしました!

しばらく毎週水曜と土曜の21時に更新していきます_(:3」∠)_(ついでに踏んでいってください)

 ざっくりとメルキナとの出会いと、事故でこの森に転移魔法で飛ばされてきて森を彷徨っていたことを話すと、二人は気を遣ってくれたのかまずはベッドでゆっくりと休むようにと勧めてきた。

 その言葉に従い、今は用意されたベッドでだらりとしています。


 やぁ、タイシだよ。


 神々が試練と称して襲い掛かってきたので返り討ちにしようとしたけど敢え無くフルボッコにされたタイシだよ。


『プフッ、ださいね!』


 そして良い感じに神の一人を追い詰めていたのに他の神をトレインしてきた戦犯駄神がこちら。しかも人様の頭の中に住み着くというおまけ付きのクソ駄神です。


『酷い!? 寧ろあの子達の手駒の大半を潰して何人かブチ転がして時間を稼いでいたのにこの扱い!? 濡れる!』


 しかも変態なんだ。酷いだろう? こんなのが頭の中で四六時中騒いでるとか悪夢以外の何物でもないよね。しかもこいつ夢の中にまで現れやがるんだぜ? 最悪だ。


『あの時のタイシ……激しかったね』


 なんだ、そんなに顔面パンチが良かったのか? 次は腹パンも追加してやんよ。


『え? 実はそういうのが好きなの? そういう好きな子に暴力ふるって悦に入るのってリョナラーって言うんだよね、確か』


 おいやめろ馬鹿。いい加減黙れ。お前が頭の中で騒いでいると考えがまとまらん。


『ああんもう。仕方ないにゃぁ』


 頭の中でチュッとかいう気持ちの悪い音が聞こえた気がする。背筋が寒くなるわ……まぁいい、やっと黙ったようだ。溜息を吐いて寝返りを打ち、天井を見つめる。


 薄暗い部屋の天井には名も知らぬ花がいくつか咲いていた。月明かりや星明りがほとんど差し込まないこの部屋に灯りを提供している花々である。蛍のような光を放つあの花は蔓植物の一種であるらしく、部屋の片隅のプランターから伸びて壁を這い、天井を伝ってその燐光を放つ花を幾つか垂らしていた。


「ファンタジーな植物だな」


 どういう仕組で光っているのだろうか。蛍みたいな光だし、何らかの化学反応か? いや、魔力を溜め込んでいるとかそういう理由のほうが夢があるな。照明の魔法とかもそういやあんな感じの光だ。

 寝転がったまま人差し指を天井に向け、指先に魔力を集中して照明の魔法を発動する。込めた魔力はほんの些細な量であるため、その光は天井の光る花と同等程度の実にか弱い光だ。生まれ出た光球はふわふわと空中を漂い、光る花の咲く天井付近で停滞する。

 魔力を集中し、発動。

 この世界に来てから幾度となく行なってきたその一連の動作を繰り返す。今の俺は駄神の加護であるスキルシステムのサポートが効いていない状態であるらしい。


『それは正確な表現じゃないね。ボクが与えていたのはスキルポイントシステムで、スキルシステムそのものはこの世界の全ての生物に適用されている基幹システムだよ。君もその例外ではない』


 どういう事――ああ、なるほど。そういや鑑定眼で見たらマール達も普通にスキルは持ってたもんな。

 ああ、マールに会いたい。もう色々と面倒なことを全部投げ捨ててマール達とイチャイチャしながらまったりと暮らしていきたい。結婚式も終わらせて折角その目処も立ったところだったっていうのにあのクソ神どもめ。別に世界征服を目論んでるわけでもなし、放っておいてくれりゃ良いものを。


『そりゃあの子達的には無理じゃないかなぁ。というか、ヴォールトとしてはかな? あの子は超がつくほどの石頭だし』


 あー、なんだっけ? 世界の調和を乱すとかなんとかそんなこと言ってたよな。あれも意味がわからん。人が増えすぎたから間引くとかそんなことも言ってたと思うが。


『んー、まぁ経験からの行動かな? 魔物っていう共通の敵が脅威でなくなったら今度はヒト同士で争うだろうっていうね』


 それはお前、必ずそうなるとは限らんのじゃないか?


『でも実際そういうサイクルを繰り返してはいるんだよね。ヒトが減ると勇者が生まれて団結して、勢力を伸ばす。勢力が伸び切ったらヒトは勇者を魔王として排して成熟に至る。そして勇者を失ったヒトは魔物に滅ぼされて大きくその数を減らす。そしてまた勇者が現れて勇者のもとにヒトが団結する』


 カレンディル王国はその成熟期だったってことか?


『まぁそうかな? もう少し伸び代があったと思うけどヴォールトはここらで刈り取るつもりだったみたいだね』


 それを俺が邪魔をしたと。


『うん。少なくともタイシが生きている間はヒトを大幅に減らすのは無理と思ったみたい。最終的にカレンディル王国とミスクロニア王国は大幅に勢力を伸ばすだろうと』


 それの何が問題なのかまったくわからん。


『最終的に起こる破綻が大きくなるってことだよ。ヒトの勢力がそこそこの間に適切に間引けば今の状態を維持できるけど、あまり伸びすぎると間引くのが難しくなる。間引かなければヒトは際限なく増える。そうして世界を席巻した後にヒト同士が争うと最悪、世界が修復不可能なほどに破壊される恐れがある。だからヒトの大躍進のキーマン足り得るタイシを排除したいと。そういうわけさ』


 うーん? わからんでもない理屈だけどなんかモヤっとするな。なんかこう、何かが引っかかって釈然としない。


『ヒント:イージーモード』


 あ、あー……わかった気がする。つまりヴォールトは管理の楽な現状を維持したいわけだ。うん? じゃあお前の目的は――。


『延々と堅実で『小さい』プレイを見てると飽きるよね。やっぱ伸ばすところは伸ばしていかないとさ』


 わからんでもない。


『折角下地を整えて移譲したのに世界を維持することだけに腐心するのはちょっとねぇ。まぁそんな中でも愉しめるコンテンツはあるけど、些か食傷気味だしここらで一つハードモードに移行してもらおうかと。ついでに楽しい観察対象もできて一石二鳥☆』


 やっぱりお前邪神の類じゃないか……それじゃあ、俺が打つべき手は――。


『あの子達も一枚岩じゃないからね。そこを突いていこうか……おやすみ、良い夢を見せてあげるよ』


 それは断る。


『そんなー』


 ☆★☆


「起きなさい。ほら、起きなさいってば」


 誰かに揺すられている。うーん……この花みたいな匂いはメルキナか。薄っすらと目を開けるとまだ薄暗い。たまにこういう早い時間に俺を起こして森に散歩とか行くんだよな。


「もう朝よ。ほら、起きて身支度を整えなさい。森に入るって昨日言ってたでしょう?」

「んー、眠い。もう少し……」


 肩を揺するメルキナの手を取ってベッドに引きずり込む。こうしてしまえばなんだかんだで一緒に寝てくれる。このまま昼までイチャイチャするのも良い。


「寝ぼけてるの? 仕方ないわね」

「うぼあぁっ!?」


 鳩尾の辺りに凄まじい衝撃が走り、呼吸困難に陥りつつ一気に意識が覚醒するという稀有な経験をする。朝っぱらからあまりにバイオレンスな挨拶だな!


「ごほっ! おぇっ! ちょ、朝からなん――!?」


 俺から身を離してベッドから抜け出したメルキナ――ではないエルフの女性を見上げて思考を停止する。


「おはよう、タイシくん。朝からお義母さんをベッドに引きずり込むなんて悪い子ね?」

「すいませんでしたぁー!」


 全身全霊で土下座した。


 ☆★☆


「何やら騒がしかったようだが?」

「寝ぼけたタイシくんが私をベッドに引きずり込んだのよ」

「命知らずだな」

「大丈夫、幸いどこももげてないわ」


 もげるの? 幸いってことは下手したらどこかもげてたの? お義母さんコワイ!


「本当にすみませんでした」

「良いのよ。久しぶりに昔を思い出してちょっと楽しかったし。朝ごはんを用意するから座って待っててね」


 そう言ってお義母さん――エルミナさんが笑ってキッチンへと向かう。目の前にはムッツリとした様子で座っているエルフの男性。彼はエルミナお義母さんのお父さんで、メルキナにとっては祖父にあたるデルフィーダさんだ。相当な高齢だと思うのだが、どう見ても三十代前半にしか見えない。

 そもそもエルミナさんが二十歳くらいにしか見えないしな。初見でメルキナのお姉さんだと思ったのも無理はないだろう。二人ともエルフのイメージに違わず美男美女である。

 エルミナさんはメルキナを一回り成長させて少し目つきを鋭くしたような感じだ。女豹って感じだな。


「今日は森に入るという話だったな?」

「ええ。働きもせずに居候するのも心苦しいですし」

「ふむ」


 デルフィーダさんが俺の目をじっと見つめてくる。そういえばたまにメルキナもこうやって俺の目をじっと見ることがあったっけ。


「まぁ、良いだろう。あまり迷惑をかけぬように」

「はい」


 何か納得したのか一つ頷いて彼は編み物を再開することにしたようだ。編み針を使って黙々とレースのようなものを編み上げていく様を見ていると、クスハを思い出す。あいつもよく執務で頭を抱える俺を横目で見ながら器用に糸を編んで色々作ってたな。

 結局神々との戦いで最後に残ったのはクスハが編んでくれた服だけだったな。ボロボロになっちゃったけど。

 今俺が着ているのはエルミナさんが用意してくれたエルフ風の民族衣装だ。デルフィーダさんの着ているものと似ているが、柄とかが微妙に違う。そういえば俺とデルフィーダさんとだと体格が結構違うんだけど、この服は誰のものなんだろうか?

 ふと視線を感じてその方を向くと、料理を載せたお盆を持ったままボーっとしたまま立ち尽くすエルミナさんが居た。なんだろう? と首を傾げると我を取り戻したのか、エルミナさんが首を振って止めていた歩みを再開する。


「それ、食べたら昨日の広場に来てね。私は先に行ってるから」

「え? あ、はい」

「それじゃ。さっさと食べて来るのよ」


 エルミナさんは早口でそう言うと弓と矢筒を抱えてさっさと家を出ていってしまった。俺はその姿を見送り、どういうことなのかとデルフィーダさんの方を向く。さっきまでそんなに怒ってるような感じではなかったが、やっぱり朝の件が響いているのだろうか。


「アレにも色々あってな。まぁ、なるようになるだろうが……ううむ」


 デルフィーダさんはそう言ってむっつりと黙り込んでしまった。結局よくわからんぞ。


『これは面白いものが見れる予感』


 駄神が言うともう嫌な感じしかねぇな。とりあえずこの『焼いて塩振りました』という料理というのも烏滸がましいようなモノをいただくとしようか。もしかしたら食べてみたら実はってこともあるかもしれないし。


「砂糖だこれ!?」


 ステーキのような肉に白い塩がかかっているかと思いきやこれ砂糖だよ! 甘いよ! 違う、手順が番う! ステーキに予め砂糖を少量揉み込むのは実は割とアリな手順だけど焼いてから振ってどうするんだよ! ていうか朝からステーキか! 意外とガッツリ系なのかエルフ。菜食なイメージだけど。


「あいつが厨房に立ったのは十数年ぶりだからな」

「ブランクのスケールがすげぇなエルフ」


 早く食ってこいという話だったのでレアな砂糖振りステーキをさっさと平らげることにした。レアなのね。大丈夫なんだろうね? この肉レアで。


「食後にこれを飲むように」

「ほわい?」


 デルフィーダさんがそっとテーブルの上に置いた小瓶に目を落とす。緑色のドロリとした液体が入った小さなガラスの瓶だ。コルクのようなもので蓋をしてある。


「その肉は生だと腹を壊す」


 今後エルミナさんが料理する時は俺が代わるとしよう。絶対にだ。

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