第一話~いつの間にか異世界にいました~
すみません、R-18ではなく通常の小説として再投稿しますorz
「ファッ?」
気がつけば、だだっ広い草原に立っていた。
右見ても草原、左見ても草原、後ろは森、前は丘っぽくなってる。
「えっ? ちょ、えっ?」
辺りを見回す。
状況は変わらない。
足元の草を触ってみる。
うん、草だ。
自分の頬をぺちぺちと叩いてみる。
違和感がある。
つか、腹。
俺の幸せの詰まったメタボ腹がスッキリしてる。
自分の手を見る。
間違いなく自分の手だ。
昔怪我をした時の小さな傷跡とか残ってる、けど腕とか妙にスッキリして逞しい。
「落ち着け、落ち着け俺」
そう言って眼鏡を直そうとする。
眼鏡が無い。
俺は超が付くド近眼だったはずなんだが、今は眼鏡が無くとも普通に見えているようだ。
とりあえず自分のことを確認しよう。
自分の名前は?
三葉 大志、今年で三十路に突入のオッサン、メタボ体型の契約社員。
両親は離婚、母親は五年前に病死、父親は今何やってるか知らん。
今は母方の祖母とペットの犬と暮らしている。
よし、自分のことについて記憶の欠落は無い。
その他にも今までのことをちゃんと思い出せる、大丈夫だ。
「で、ここはどこだ」
見覚えの無い風景だ。
こんなところに来た記憶も無い。
そもそも、俺は日課のパソコン前でのゲームやらネットやらやってベッドに潜り込んだはずだ。
どうなってんだ? わけわからんね。
とりあえず自分の格好を確認してみる。
幸い素っ裸ではない、俺寝るときパンイチだったからね。
丈夫そうなズボンに、シャツ、皮製の靴。
衣服の素材は麻っぽい、ちょっとゴワゴワしてる。少なくとも俺が元から持ってる服じゃない。
他には見事なまでに何もない。
The 手ぶらである。
財布もスマホも愛車も家の鍵も無い。
とりあえず途方にくれていても仕方ないので丘の上まで歩いてみる。
もしかしたら知っている場所かもしれん。
いや、せめて人家でもあればなんとかなるかも。
「oh...」
そんな俺の期待は見事に砕かれた。
「どう見てもファンタジーな城塞都市じゃないですかやだー!」
目の前に広がる草原、そして見るからに頑丈な石で作られた城壁、中世チックな尖塔がちらほら見える。
夢か? 明晰夢ってやつか?
いや、この草の質感とか感じる風とかどう考えても本物だ。
選択肢は?
とりあえずあの城塞都市っぽいのに行くか、後ろの森に進むか。
いやいや、どんな生き物がいるのかもわからんのに森は無い。
だとすると城塞都市か? 治安は大丈夫なのか?
丸腰で文無しだぞ。
クソッ、チュートリアルとか無いのかよ。
『では説明しよう』
「えっ?」
頭の中に声が響く。
え? 何これ怖い。
『薄々気づいているかもしれないが、ここは君の居た世界ではない。所謂異世界、君の言うところのファンタジー世界だ』
くっ、こいつ直接頭の中に…ッ!
しかし展開がベタ過ぎませんかね?
『君が望んだファンタジー世界だ、喜びたまえ』
「わぁい」
素直に喜んでみた。
開幕二分で既にヤケクソだ。
『そしてこの世界だが、君の居た世界と違って魔法がある。
文化レベルは君の世界で言うところの中世レベルだが、魔法によって発展しているのでまぁ少し劣るくらいだろう。
半面、科学は殆ど発達していない。
所謂『魔物』なども生息しているから食い殺されたりしないよう注意したまえ』
「テンプレ通りのファンタジー世界だな。それで、俺には何か特殊な能力とかあるのかね?」
声の正体については考えない。
考えないったら考えない。
『現時点では一般人とそう変わらない。ただし経験を積めばこの世界の人々では及びも付かないような力を得るだろう。メニューを開いてみたまえ』
「は? メニュー?」
俺がそう呟いた瞬間、視界に様々な情報等が表示された。
現在時間、座標、マップ、持ち物、スキル、オプション等RPGで定番のメニューが展開される。
名前はタイシ ミツバになってるな。
神コール? なんだこれ。
『持ち物の中に当面生活ができるだけの物資を用意してある、有効に活用したまえ。
スキルメニューではスキルポイントを使って各種スキルを獲得することが出来る。
通常であれば数年かけて習得するような技術を即座に身につけることが出来るぞ』
持ち物を開いてみると、ショートソードと冒険者セット、三食分の保存食や水、いくらかの硬貨が入っていた。
冒険者セットの中には様々な冒険に使えそうな道具やなんかが詰まっている。
あれだな、TRPGみたいだな。
どうやら念じるだけでアイテムの出し入れができるようだ。
さすが異世界、なんというファンタジー。
「スキルポイントの取得方法は? スキルのリセットはできるのか?」
『経験を積み、レベルが上がればスキルポイントを取得することが出来る。スキルのリセットはレベル20毎に一度可能としよう』
「わかった…それにしても随分とスキルの数が多いな」
ざっと見ただけでも100以上あるんじゃないだろうか?
剣術や長柄武器、斧術、弓術に投擲武器など細かくカテゴリごとの武器修練。
それに火、水、風、土などの四大属性や光、闇、回復術等の各種魔法。
調理、掃除、裁縫、鍛冶、錬金術、農業、木工、などの生活スキルや製造スキル等もある。
他には身体強化、回避、隠密、窃盗、交渉術、鑑定、心眼とか魔眼とかもあるな。
初期スキルポイントは10、確定せずに色々試してみたところ基本的にはスキルレベル相当のスキルポイントで成長させられるようだ。
ただ、スキルによってはレベル1取得するのにも数ポイント要するものもある。
『各種スキルの最大値は概ね5だ。各種魔眼などの一部スキルはその限りではない。武術で言えば1で経験者、2で有段者、3で師範級、4で第一人者、5で超人級といった具合だ』
「格闘、弓、調理が最初からレベル1だな。交渉術がレベル2か」
『君が元の世界で培った経験は反映してある』
ああ、そういえば小さい頃に少林寺拳法とかやってたな。
あとは少しだけ弓道は齧ったことがある。
料理に関しては自炊していたからだろう。
しかしよくわからん、少林寺拳法とか殆ど覚えてないぞ。
交渉術がレベル2なのは向こうでの職業経験だろう。
「なるほど、後は触りながら覚えるとして…俺は何をすれば?」
『好きにしたまえ。勇者になるもよし、悪党になるもよし。元の世界に戻る方法を探しても良いし、こちらに骨を埋めても良い』
「それはまた自由度の高いことで」
とりあえずはこっちでの生活基盤を整えることが第一だろうか。
『チュートリアルは以上だ。常に君を見ているわけではないが、気が向いたら声をかけよう』
それきり頭に響く声は聞こえなくなった。
今の声の主については深く考えるのはやめておこう、きっと名状し難い何かだ。
兎にも角にもまずは色々と検証だ。
ステータスを開いてみる。
主なステータスはSTR、VIT、AGI、DEX、POWの五つだ。
俺の現在の数値は28、36、24、32、127、POWの値が飛び抜けているな。
恐らくはSTRが筋力、VITが耐久力、AGIが敏捷性、DEXが器用さだろうけれども、POWはなんだろう?
メニューの片隅にHPとMPが表示されていた。HPが56、MPが147とある。
「魔力、かなぁ」
恐らくそうだろう。
異世界から来た主人公が異常な魔力を持っているとかテンプレだな。
とりあえずそう結論付けて身体を動かしてみる。
軽いストレッチをしてから走る。おお、身体が軽い。さらば、メタボな俺。
よし、スキルポイントを1使って身体強化のスキルを取得してみよう。
STR42、VIT54、AGI36になった、DEXは適用外らしい。上昇値はレベル1で50%向上か、すごいなこれ。
走るスピードが体感できるレベルで上がった。しかも息も切れにくい。
次にショートソードを持ち物から選択してみる。
急に手の中にショートソードが現れた。意外とずっしりとしている。
諸刃なのでまずは慎重に、ゆっくりと剣を振る。
そうしてある程度重さに慣れてから今度は『実戦』を想定して斬りや突きを放ってみる。
結構力いっぱい振らないと刀身が風を切るような音は出ない。
ふむ、これくらいは子供のチャンバラレベルなんだろうな。
次に剣修練をレベル1にして剣を振る。
うん、あからさまにさっきと剣速が違う。
そんなに力まなくても刀身が風を切る音が聞こえる。
更にスキルポイントを2ポイント注ぎこみ、剣修練をレベル2にする。
今度は下半身の安定性というか、体捌きというんだろうか。明らかに動きのキレが良くなった。
とりあえず徒手空拳でもある程度戦えた方が良いだろうということで格闘も2に上げておく。
街中でのトラブルで刃物抜くのも危なそうだし。
ショートソードを腰のベルトに挿して再度ステータスを確認する。
これで使用スキルポイントは6、残りは4か。
あとは魔法を覚えたいところだが、さて。
回復魔法はとりあえず1取るとして、やはりここは攻撃魔法も覚えたい。
魔法も随分色々とある。
暗黒魔法とか空間魔法、純粋魔法とか古代魔法とか非常に心躍るのもあるが、ここは手堅く四大属性魔法のどれかにしよう。
悩んだ末に回復魔法をレベル1、風魔法をレベル2にしておいた。
回復魔法レベル1で使える魔法はヒールのみ。
風魔法レベル1では圧縮空気の球体を相手にぶつける風弾、風魔法レベル2で相手を切り裂く風刃、空気の壁を作り出す風盾を使えるようだ。
試しに何発か風弾や風刃を撃ってみる。
「なるほど、結構自由度があるな」
攻撃魔法はイメージ次第で結構応用が利くようだ。
連射したり、同時に発射したり、軌道を操作したりとかなり自由度が高い。
夢中で魔法の実験をしていたらMPが36になっていた。危なく使い切るところだ。
よし、街に行こう。
前方に見える城塞都市へと歩き始めて数分、イノシシのような動物が現れた。
残念ながら本物のイノシシはこの目でお目にかかったことは無いのだが、こんな感じだったと思う。
いや、こんなに牙ってデカかったっけか?
「あぶねっ!」
イノシシらしき生物の突進を咄嗟に避ける。
何が気に入らないのか奴は方向転換してまた突進してきた。
これはアレだろうか、初バトルか?
あんまり魔物っぽくないし少々倒すのが躊躇われるが、向かってくるなら致し方あるまい。
ショートソードを抜き、突進してくるイノシシ(仮)を引きつけてから先ほどと同じように横に避けて、足を斬り付ける。
悲痛な声を上げて倒れたその首筋にショートソードを突き立て、切り裂く。
どっと血が溢れ出し、すぐにイノシシ(仮)は意識を失ったのか大人しくなった。
「咄嗟に殺ってしまった…」
意外とあっさり殺せてしまうものだ。
元居た世界で殺したことのあるものなんて昆虫かネズミくらいのものだったんだが…なんとなく、まだ現実感が薄いんだろうか。
とりあえず、死体を持ち物に収納してみると『スモールボアの死体』と表示された。
解体コマンドが表示されたので実行してみると、スモールボアの死体が『スモールボアの毛皮』と『スモールボアの肉』に分かれる。
なるほど、中々便利だな。
その後、街に向かっている間に数体のスモールボアとビッグホーネットに襲われたので返り討ちにした。
メニューを見る限りレベルが後もう少しで上がりそうだったが、門に続く街道に出たので剣を納めておく。
途中数人の現地住民と擦れ違ったが、どの人も所謂欧米人のような顔立ちだった。
黒髪黒目のこちらの容姿が珍しいのか、しげしげとこちらの顔を見てくる人も居る。
そうして歩いているうちに街道の両側に畑が広がり、街門が見えてきた。
当然のように門には見張りが居て、出入りする人間をチェックしているようだった。
さて、言葉は通じるだろうか?
「次、身分証を見せろ」
「俺、田舎から出てきたんで持ってないんですよ」
行商人風の男の後ろに並ぶこと十数分、先人達のやりとりを聞いていた俺は平然とした顔でそう言った。
心にも無い事をいけしゃあしゃあと言えるようになるのも社会人のスキルの一つである。
俺の言葉に門番の兵がめんどくさそうな顔をした。
おい、接客がなってないぞコラ。
「身分証が無いならあちらの詰め所に来い。短期滞在用の仮身分証を発行してやる」
そうして彼が指差す先には意外としっかりした造りの小屋のようなものがあった。
どうやら書類の発行は担当した兵がやる決まりになっているらしい。
俺はなってない接客に内心憤慨しながらも大人しく着いて行く。
ヘタに騒いでいきなり司法組織に目をつけられるのはマズいし、怖いからね。
机の上には手垢のついた水晶玉のようなものが置いてあった。
なんだろう、触ったらご利益でもあるんだろうか。
「座れ。まず発行代金は大銅貨5枚だが、持っているんだろうな?」
「ああ、これでいいか?」
俺は指示されたとおりに椅子に座りながら、懐から取り出すフリをして所持品から大きめの銅貨を5枚机の上に置いた。
これで手持ちは金貨が1枚、大銀貨が2枚、銀貨が8枚、大銅貨が13枚、銅貨が20枚。
正直どれが何枚でワンランク上の硬貨になるのかもわからんし、早急にこの辺は理解する必要があるな。
「結構だ、名前は?」
「タイシ・ミツバだ」
「変わった名前だな…出身は」
「チキューっていう所だ。遠い場所にあるし、多分聞いたこと無いだろうと思う」
「チキューね、確かに聞いたことは無いな。殺人や盗みなどの犯罪歴は無いだろうな?」
「ああ、無いよ」
「ふむ、では最後にこの石に手を置いて宣言してくれ」
俺は言われるままにテーブルの上に置いてある水晶玉のようにものに手を置く。
「俺には殺人や盗みなどの犯罪歴が無い」
そうすると水晶玉がぼんやりと緑色に光り、すぐに収まった。
それを見た兵士がキャッシュカードくらいの大きさのカードに何かを書き込む。
あの石は嘘発見器か何かなんだろうか。
「これで手続きは完了だ。そのカードが短期滞在用の身分証明書になる、有効期間は三日間だ。三日経つとその紋章が消える。身分証の提示を求められた時に紋章が消えていた場合、銀貨一枚の罰金が課される。もし罰金を払えない場合は奴隷に落とされるから注意しろよ」
不法滞在者は即奴隷落ちか、厳しいねぇ。
魔物が闊歩するような世界だと食料事情もそんなによろしくなかろうし、治安の悪化は街にとって重要な問題だ。
必要な処置なんだろうと思う。
「正式な身分証はどこで手に入れられるんだ?」
「手っ取り早いのは冒険者ギルドか、商人ギルドに登録することだな。お前は見た限り商人って感じじゃないな、冒険者ギルドに向かった方が良いんじゃないか。冒険者ギルドは街に入ってすぐ左手だ」
そう言うと門番は席を立った。
話は終わりということらしい。
「ありがとう、早速行ってみるよ」
「ああ、ようこそクロスロードへ」
そう言って門番は薄く笑みを浮かべて門へと戻っていった。
「さて、まずは冒険者ギルドか」
めくるめく異世界ライフの始まり。
始まりの街、交叉する場所、それがクロスロード。