閑話~マールが語るタイシとの出会い~
コミカライズ記念SSだよ!_(:3」∠)_
これはタイシがクローバーに戻り、ヴォールトと対峙して穏やかな生活を得た後。まだ子供たちが生まれてくる前の話。話の切っ掛けは大きくなったお腹を撫でていた羊娘のカレンの発言だった。
「マール姉様とタイシの出会いってどんなだったの?」
広々とした領主館のリビングには珍しくタイシの妻達が全員揃っていた。彼女達の夫であるタイシはというと、朝から大樹海に向かって魔物狩りである。彼の考えとしてはとりあえず狩れるだけ狩っておいて、いざという時に働かなくても問題ないようにするつもりであるらしい。
ついでにどの程度狩れば大樹海に棲む魔物が『薄く』なるかの実験も兼ねているとか。精の出ることだね。
「私とタイシさんの出会いですか? そうですねぇ……神に導かれた運命的な出会い、でしたよ」
マールがそう言ってニコリと笑い、こちらに視線を向けてくる。どうしてこっちを見るのかな?
「あの時は大変でしたよ……」
ティナが遠い目をして呟いている。そうだよね、君が一番の被害者だよね。
「その節は本当にご迷惑をおかけいたしました」
「もういいですよ。回り回って姉様と一緒に素敵な旦那様と結ばれましたし」
姉であるマールがティナに深々と頭を下げるのを妹のティナが笑って許す。彼女は彼女でタイシと出会うなり母や兄と共謀してタイシとの既成事実を作りに行ったので、マールがゲッペルス王国の王子との結婚直前に逐電した件に関してはそれで手打ちということなのかもしれない。
「まず、私は当時ゲッペルス王国の陰険王子と婚約関係にあったんですよ」
「タイシにボコボコにされたやつ?」
「そうです。国同士の関係とか生まれた時からの婚約者だったからとか色々な事情がありまして、結婚は避けられない状態だったんですよね。だから、私はお城の宝物庫から色々と拝借して逃げました」
「そして私は見事にスケープゴートにされたわけです」
にっこりとティナが笑う。マールはそれに苦笑を浮かべながら更に口を開いた。
「その中に神様に導いてもらえるって曰く付きの品がありまして。それに従って私はミスクロニア王国からはるばるカレンディル王国の辺境の街、クロスロードまで移動したわけです。いやー、今思うと無謀でしたね。あの頃の私は剣も魔法もロクに扱えない小娘だったので。導きがなければどこかで盗賊かチンピラに拐かされて酷い目に遭っていたと思います」
「非力なアンタとか想像もつかないわね」
大きくなったお腹を撫でながらエルフのメルキナが肩を竦める。それはそうだろう。今のマールは強力な魔法と錬金術、それに二刀流での剣技までも操る強力な魔法剣士なのだから。
「本当ですよ。ゴブリンどことかスモールボアすら倒せなかったので、クロスロードでは街中での仕事ばっかりしてました。そんな駆け出し冒険者としての日々を送りはじめてすぐでしたね。タイシさんと初めて出会ったのは」
マールは懐かしげな表情を浮かべ、微かに笑みを浮かべた。
「あの時は宿を変えようと思ってクロスロードの街中を散策していたんです。街の門の近くには宿も多いですから、まずは宿を出て門に向かったんですね。そうしたら門の方からタイシさんが歩いてきたんです。中に視線を彷徨わせながら歩いていて、危ないな、大丈夫かなと思いながらすれ違っただけだったんですけど」
「そこから何がどうなって今の関係になったの?」
褐色肌エルフのリファナが首を傾げる。そうだよね、その話だけ聞いたらただすれ違った赤の他人だよね。でも、マールには彼を気にかける理由があったんだよ。
「チラッと見ただけだったんですけど……タイシさんの顔が物凄い好みだったんです!」
マールがグッと拳を握りしめて熱弁を始める。
「黒い髪、ちょっと鋭い目、主張が少ないながらも整った顔、それに筋肉の付きすぎていない均整の取れた体つきに高い背! ミスクロニア王国でよく読んだ勇者物語の中から抜け出してきた人みたいに思えました!」
両手を拝むように合わせ、天井に向けたマールの目は完全にハートになっている。うん、そうでしょう。ベースは元のタイシだけど、マールの好みになるように若干パラメーター弄ったからね。
「振り返った私はそのままふらふらとタイシさんを追って冒険者ギルドについていきました」
「マール姉様、不審者」
「性別が逆だと危なさが一気に増す絵よねぇ」
メルキナの母であるエルミナがクスクスと笑う。
「その時はもう夢見心地というかなんというか、冷静さを欠いていたのは確かですね! それで、冒険者登録したタイシさんはそのまま冒険者の適性テストを受けることになったみたいでした」
「適性テストか。要は実力を測る組手のようなものじゃろう? 主殿のことじゃからな……相手は大丈夫だったのか?」
下半身が大蜘蛛のアルケニアであるクスハが首を傾げる。確かに、今のタイシの力を考えると一般冒険者が力試しの相手になるとか自殺行為としか思えないよね。
「大丈夫でしたよ。その時のタイシさんは今に比べるとまだまだ駆け出しでしたからね。お腹が大きくなる前の私とあの頃のタイシさんが戦ったら、恐らく百回やっても私が百勝してたと思います」
「弱いタイシとか想像がつかない」
「たしかにそうだねぇ。あたし達と出会った時にはもう勇者様だったから」
器用に繕い物をしていた熊獣人のデボラがカレンの言葉に頷く。ケモ度高めの熊獣人である彼女は身体が大きくてモフモフだが、手先は非常に器用でタイシの嫁達の中でもその生活能力の高さはトップクラスだ。皆の頼れるお姉さんポジションといったところかな。
「訓練用の木剣を受け取ったタイシさんは軽く素振りをした後、ちょうど近くにいた私に腰に下げていたショートソードを預けたんです。その時ですね、はっきりとタイシさんの顔を見たのは」
「やっぱり一目惚れですかっ?」
今までおとなしくしていた犬獣人のシータンが目を輝かせながら尻尾をフリフリとし始めた。やっぱり女の子としてはこういう話を聞くとワクワクするものらしい。
「いえいえ、完全に私が落ちたのはその後ですね。タイシさんは明らかに熟練の冒険者と模擬戦をすることになったんですけど、その熟練冒険者と互角に戦ったんですよ。正に手に汗を握る接戦でした。木剣で何度も切り結び合って。でも、最後にはタイシさんが体術を含めた攻撃で相手に隙を作って、更に魔法で追い打ちして勝ったんです!」
「主様は当時から剣よりも魔法が得意でしたよね」
タイシとの衝撃的な出会いを思い出しているのか、どこか遠くを見るような穏やかな表情でフラムが呟く。彼女はマールとタイシが出会った後にカレンディル王国から放たれた元暗殺者だ。色々あってタイシの嫁になったけど、ある意味この中で一番タイシの恐ろしさを知っている人物かもしれないね。
「そうですね。まぁ、その後タイシさんは先輩冒険者に寄って集って可愛がられてボコボコにされたんですけどね」
マールはフラムの言葉に頷き、そしてクスリと笑う。あれは確かに見ていて滑稽だったね。最初の冒険者を倒して『次は誰が行く?』ってギルドの職員が言った時のあのタイシの表情ときたら。あれは永久保存版だよ。
「あの人がボコボコにされるなんて想像も付きませんわね」
「そうですね、ネーラ様」
今まで黙ってマールの話に耳を傾けていたカリュネーラがそう言って笑みを浮かべ、その隣に佇んでいた侍女のステラが彼女に同意して頷く。
カリュネーラはタイシに暗殺者を差し向けたカレンディル王国の王女で、ファーストコンタクトに失敗したがために余計な苦労を背負い込んでしまった間の悪い娘だ。
ボクが何も弄らなくてもこのハーレムの一員になるあたり、案外ボクが何もしなかったらタイシは彼女と結ばれていたのかもしれないね。
「私はボコボコにされたタイシさんが最終的に宿に入っていくのを見届けた後、引き払うつもりだった自分の宿に戻って作戦を練りました。一体どうやってタイシさんとお近づきになろうか、と」
「アグレッシブすぎる」
「カレンちゃんが言う台詞かな……?」
羊娘のカレンの発言に狐娘のシェリーが苦笑する。確かに、カレンの性格から鑑みるに同じ立場だったら同じような行動を取りそうな気がするね。この中だとエルミナもそうかな。
「そこで、私は考えつきました」
「どんな手?」
「迷った時は真正面からストレートに、です。次の日、訓練場で訓練を終えたタイミングで『付き合ってください』と大声で言いましたよ。公衆の面前で」
「エゲツない」
「最初は信用されなくて困りましたよ。美人局か何かかと疑われたみたいで」
「タイシくんはあれで結構用心深いというか、疑り深いというか、小心者なところがあるわよね」
いきなりマールみたいな可愛い女の子に声をかけられたらよほど頭がお花畑じゃない限り警戒すると思うけどね、ボクは。タイシも元の世界ではモテモテのイケメンってわけじゃなかったわけだし、あの時点では自己評価も低かったから。まぁ順当じゃないかな?
「しかしそこでめげる私ではありません。訓練場の実技では散々な結果でしたが、なんとかタイシさんとバディを組むことに成功したんです!」
「その後は?」
「タイシさんが泊まっていた宿に押しかけて、宿の給仕さんにこっそりと注文したネクタルを盛りました」
人差し指と中指の間に親指を潜り込ませた拳を突き出し、マールがテヘペロする。まさかの出会って二日、タイシの視点から見れば出会ったその日に一服盛ってベッドインである。この子のアグレッシブさは流石は勇者の血筋って感じだよね。
「そして公私共に相棒の座を得た私はタイシさんと一緒に冒険者としての立身出世を始めたわけです」
「相棒の座を得たというか、強奪したというか……」
「エゲツない」
「ティナも似たようなやり方で旦那様の伴侶になってますよね」
「お母様の手ほどきの賜物ですね」
「ミスクロニア王国の王家の女はここぞというときに思い切りが良すぎるという話は聞きますわね」
「昔からなのね」
マールのやり口に本人とティナ以外の面々が苦笑いを零す。その時、領主館の玄関の方から扉が開いた音がした。
「ただいまー」
玄関から聞こえてきた声にこの場に集っていた女達の表情が輝く。気配察知のスキルを使ったのか、声の主は迷うことなくスタスタと足音を響かせてリビングへと向かってきた。
扉が開かれる。
「ただいま、皆」
「「「おかえりなさい!」」」
今日もクローバーは平和だ。
さぁ、ボクもしれっとタイシを囲む輪に参加するとしよう。
少年エース様でコミカライズが決定しました!
2月26日発売の少年エース4月号より連載開始です!
連載に先駆けて1月26日発売の少年エース3月号の巻末のほうに、告知&プロローグ掲載されております! ぜひ買って見てみてね!
↓コミカライズ担当のオオハマイコ様の情報解禁ツイートへのリンク
https://twitter.com/odcham/status/1086911228348227584
先日投稿を始めた新作すぺーすふぁんたじー
『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい。』
https://ncode.syosetu.com/n3581fh/
お暇があれば是非こちらも読んでいただけると嬉しいです! すぺーすふぁんたじーですよ!_(:3」∠)_




