蛇足~タイシの人生で一番長い一日~
新作の存在を知らなかったよ! という声があったのでアドバイスに従って蛇足その2を!
新作を投稿しております!
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気が向いたら是非!_(:3」∠)_
「ご主人様、そんなエサを探しているオーガみたいにウロウロしても何も変わりませんよ」
「そうじゃぞ。主殿は主殿らしくどっしりと構えておれ」
「そうは言うがな」
どうにも落ち着かずにリビングをウロウロしていた俺をフラムとクスハが苦笑交じりに嗜めてくる。何をこんなに狼狽えてるのかって?
「もう一時間は経ったんじゃないか? こんなに時間がかかるものなのか? あぁぁぁぁ……」
「まだ十五分も経っておりませんわよ」
「こんなに狼狽えている旦那様は珍しいですね」
「そりゃ狼狽えるよ! あああ、よりによって三人同時に産気づくなんて」
ネーラが呆れたような視線を俺に向け、ティナはマイペースにニコニコしている。
そう、マールとメルキナとカレンが同時に産気づいたのである。本当なら俺が彼女達の傍についてあらゆる回復魔法を使ってサポートしたいのだが、男子禁制とかで助産師達に部屋から追い出された。
勇魔連邦の長だの大樹海の魔王だのと呼ばれてもそんな肩書きは何の役にも立たない。俺は無力だ。
「回復魔法の達者な助産師も沢山いるし、清潔な布も、大量のお湯も、高価な魔法薬も、エリクサーすら用意してあるわ。何の心配もいらないわよ」
「そうよ。それに、神々の祝福もあるんでしょ? 心配要らないわよ」
「何かあったら俺はこの世界を滅ぼしてしまうかも知れない」
「物騒だねぇ」
デボラが大きくなったお腹を撫でながら苦笑いする。俺を落ち着かせようとしてくれているエルミナさんも、リファナも少しお腹が大きくなっている。
トラベルゲートを手に入れ、ヴォールト達との契約を果たして数ヶ月。俺の嫁達はついに全員が懐妊していた。妊婦が増えて夜の相手が徐々に減った結果、サイクルが早まってトントン拍子に子を授かっていったのだ。することをしていたら授かる。当たり前のことである。
「大丈夫ですよ! 何があってもエリクサーがあれば一発ですから!」
「うん、それにマール姉さまもエルミナお姉ちゃんもカレンも体は丈夫だから。大丈夫」
シータンとシェリーも何かチクチクと裁縫をしながら全く動じていない。この中でオタオタしているのは俺だけである。だって心配なものは心配なんだよ。
「それよりも問題なのは主殿の夜の相手じゃな」
「鬼人賊の里と川の民のエルフから娶るという話は?」
「なんぞ向こうで誰が行くか揉めておるらしい。主殿はモテモテじゃの」
「手っ取り早くステラを宛てがいましょうか。あの子もカレンディル王家縁の娘ですし、ミスクロニア王国とのバランスを考えると最適ですわよ」
「カレンディル王国からはフラムさんも嫁いでいるわけですから、バランスは成り立っていますよ」
三人を心配する俺をよそに嫁達がなんか生々しい話をしている。やめて! 今の俺は心配する夫モードだから!
「ふふふ、なんだかああやって狼狽えているタイシくんは可愛いわね」
「「わかります」」
「まぁ、うん」
「普段は超然としているのにねぇ」
こっちはこっちで俺を見ながらなんかニコニコしてるし。俺の心配を理解してくれる嫁はいないのか。
「主殿も意味もなくウロウロするくらいなら子供の名前でも考えておいたらどうじゃ?」
「それはいいですね。男の子なら勇ましい名前、女の子なら可愛らしい名前が良いです」
「そうですわね。高貴さがにじみ出るような名前が良いですわ」
遠くから元気の良い泣き声が聞こえてきた。俺は全速力で駆け出――。
「ぴゅんっ!?」
「どうどう。そんな勢いで行ったら危ないじゃろ」
「俺の首の方が危ないよ!?」
駆け出そうとしたらいつの間にか首にかけられていたクスハの糸が危険なレベルで絞まってきた。変な声出たわ。
「落ち着いて、ゆっくりじゃ。優しく言葉をかけるんじゃぞ」
「任せておけ」
一人生まれたら次々に生まれたのか、泣き声が四つになった。どうやら無事生まれたらしい。俺はできるだけ急いで、しかし決して走らずマール達がいる部屋へと向かう。
部屋の前に着くと、丁度俺を呼びに来ようとしていたらしい助産師の女性が扉から出てきたところだった。彼女が頷くので、その後に続いて部屋に入る。
三人の母親の元で、四人の赤子は元気よく泣き声を上げていた。小さな体のどこからこんなに大きな声が出るのかと驚く。これが新しい命の強さというものなのだろうか。
「タイシさん……」
「よく頑張ったな。愛してるぞ」
「はい」
疲れ果てた表情のマールの手を握り、頭を撫でる。いかん、涙が出そうだ。
「メルキナとカレンちゃんも……」
「ああ」
マールに促されてメルキナとカレンの元に行く。
「ふふ、頑張ったわよ」
「よくやった。落ち着いたら甘いお菓子をいっぱい食べような」
「そうね、楽しみにしてる」
ステレオで聞こえる双子の赤ん坊の泣き声を聞きながらメルキナの額にキスをして、最後にカレンの元に向かう。
「やったぜ」
「お前はこんな時でも余裕だな」
「頑張ったから。褒めて」
「勿論だ」
両手を伸ばしてくるカレンに身を寄せ、抱きしめてやる。三人の中ではカレンが一番身体が小さい。きっと負担も大きかっただろう。
まだまだ俺達の人生は始まったばかりだ。家族も増えて、これからもっと幸せになっていくだろう。俺の勤めは、そんな幸せをなんとしてでも守っていくことである。
大きな声で泣く四人の赤ん坊と幸せそうに微笑む三人の妻を見ながら俺は再び決意を固めるのであった。
気が向いたらパワフルな子供たちに翻弄されるタイシでも書きたいですね_(:3」∠)_
※8/27追記
眠い時に書くと碌なことにならないね!
メルキナが双子を妊娠しているのを忘れたり、修正が中途半端になったり……あっあっ、メルキナさんゆるしてぇぇぇぇぇ_(:3」∠)_(矢でハリネズミになりながら




